リーガルリリー『bedtime story』(1stアルバム)感想&レビュー【優しい祈りの音楽】 | とかげ日記

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●残酷な世界における優しい祈りの音楽

リーガルリリーの1stフルアルバム。

サウンドプロダクションは前作までよりも格別に良くなっている。音が立体的だし、どの音もよく聴こえ、なおかつグルーヴィーだ。

リーガルリリーの世界観の中核をなす"たかはしほのか"さんの紡ぐ歌詞は、凛として強固でありつつ、優しく柔らかだ。彼女のボーカルもギターも感情の注がれ方をダイレクトに反映し、とてもエモーショナルで可憐に響く。轟音を立てて全てを飲み込んでしまうようなギターが彼女の命を輝かせる。

普通、ベースの音の形容に「カラフルな」という言葉を僕は使わないが、"海"さんの弾くベースの音色はカラフルだと思った。曲の景色を広げるベースの音を出してくれる。

"ゆきやま"さんのドラミングも気持ち良いところでスネアの強打がきて、ツボを得ていて素晴らしい。

#1「ベッドタウン」。可愛らしく三拍子のリズムで始まるこの曲は、その後サウンドスケープを爆発させ、広々とした音世界の中で「ねぇ神様 どうか笑顔のままでいて」とボーカルが祈る。ベッドのシーツから友達へ、友達から神様へ、視点の移り変わりの仕方にリーガルリリーの問題意識が垣間見れる。

#2「GOLD TRAIN」。リバービーなギターとTRAINのように疾走するリズムに心が弾む。未来と思い出を走馬灯のように見せるGOLD TRAINに乗っていると、思い出したくない過去や、本当にしてみたい過去の出来事や未来が頭に浮かんでくる。時空列車の名前はGOLD TRAIN。「時は金なり」という言葉を連想した。

#3「1997」。時空列車はたかはしほのかの生まれ年である1997年へ。そこから誕生するまでは片道切符なのだ! 一生は一回きりだということ。歪んだベース始まりがかっこいい。

#4「林檎の花束」は空を見上げるような開けたサウンドスケープが気持ち良い一曲。

#5「キツネの嫁入り」は曲中の鉄琴が可愛らしい一曲。お互いの母親から反対されても結婚を目論んでいる主人公たち。これは駆け落ちの場面だろうか?

#6「そらめカナ」#7「ハナヒカリ」は反戦の薫りが色濃い曲だ。基地の街で生まれ育った彼女たちにとって、戦争とは日常のすぐ隣にある。

「そらめカナ」では爆発によって友達と自分の足をなくしたことが描かれていて、その残酷さが平熱のテンションの演奏で描かれていて戦慄する。そして、ここでも何が美しいかが問われているのだ。戦争は美しさと逆行するものというリーガルリリーの強い意思が伺える。

「ハナヒカリ」でも「飛び交ったF-16/光る君はあれに乗らないで」と身近な「君」が戦争の犠牲になることを危惧している。「空は君よりも綺麗だった/月は君よりも綺麗だった/それらにあなたが包まれているから/まわりに照らされた君が1番、綺麗だった」という冒頭の歌詞の一節が優しい。

反戦の意思を落とし込んだ曲を作るのもリーガルリリーの特徴だろう。とてもクレバーに反戦を歌っているのは、手垢のついていない歌詞だし、モダンなオルタナティブロックの音楽性だからだろう。

#8「猫のギター」。ギターが泣いているところなんて想像もしたことがなかった。たかはしほのかさんの想像は様々なところに飛んでいくし、とても克明でとても優しい。そんな想像力に感心する曲。

#9「まわるよ」。「チクタクチクタク まやくのように」というサビの歌詞が印象的な一曲。"まやく"ってやっぱり麻薬のことだよねぇ。若い女性が歌っているとドキっとするが、表現にはどんなタブーもないのだ。

#10「子守唄のセットリスト」。「あなた」への想いを曲にする一方で、「点滅した壊れた街灯 直す人の顔を知らない」と歌い、街灯を直す人にまで思いをめぐらす、その想像力が優しく感じられる。

#11「ハンシー」。「もしかしたら これが最後の歌かもしれなくて」と歌い、自分にも来るだらう不幸や死やバンド活動の終わりをたかはしほのかさんは想像している。終わりなき日常の憂鬱をなくすには、恋や幸せに終わりがあることや、自分や他人の命に終わりがあることを想像してみることが必要なのだと僕は思う。そうすれば、無意識にやってくる幸せを意識する(聞き取る)ことができる。

#12「bedtime story」。癒しのベッドルームミュージック。打ち捨てられた思い出を見守っている神様がいた。「蛍狩り」を思わせるポエトリーリーディングが良い。途中には、ジョン・ケージの無音の曲"4分33秒"に倣って4分33秒の無音の時間が流される。通勤電車で聴いていた僕は電車のガタンゴトンと揺れる音と車掌のアナウンスを聞いていた。その後、また小曲が始まる。暗闇に吸い込まれていくようなアコギ弾き語りがストーリーの終わりを告げる。

聴いている間、リーガルリリーの紡いだ世界の内側に招き寄せられているようで楽しかった。それほど、世界観が確立した歌詞と演奏だ。そして、どの曲にも祈りがある。反戦の祈り、幸せの祈り…。祈っている彼女たちを見守る神様の視線は温かい。僕には神様が本当にいるのかなんて分からないけど、リーガルリリーの描き出す神様はとても温かで優しくて、残酷さと隣り合わせの世界でも、僕らを見守ってくれている。そんな寓話が、ネオリベ思想が席巻してギスギスした世界への何よりのカウンターになるのだろう。

Score 8.1/10.0

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