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●志村さん死後のフジファブリックには魅力を感じない
かつて僕が好きだったバンド「フジファブリック」の新譜が出たとのことで聴いてみた。
結論からいえば、僕には魅力が分からなかった。
人の好みを鍵穴にたとえるとすれば、現在のフジファブリックの音楽は僕の鍵穴に合わない鍵だったのだ。
前ギターボーカルの志村正彦さんが生きている間のフジファブリックは、僕の鍵穴によくフィットする鍵だったから、何度も繰り返し聴けて楽しかった。少しクセのある歌声、品がありつつ変態的なサウンドが僕の鍵穴にスポッとハマった。
特に3rdアルバム『TEENAGER』からの作品が素晴らしかった。 文明開化でもしたかのようにポップになり、志村さんの敬愛するユニコーンの音楽のように自由な音楽を鳴らしていた。志村さんは人見知りだったらしく、その性格が曲に醸すフィーリングが僕にマッチしたのだが、そのうえで扉の外へ飛び出そうとした 『TEENAGER』 のバイブスは僕の視界を広げてくれた。
『TEENAGER』収録の「若者のすべて」は、4分のリズムで刻むイントロのピアノコード弾きからして名曲感が漂う、正真正銘の名曲だ。これまでオルタナティブでマニアックな才能を開花させた曲を作り続けてきたフジファブリックが「いい曲」を作ることに向き合って完成させた佳曲だ。
世間からは評価されている印象は薄いが、4thアルバム『CHRONICLE』も素晴らしい。スウェーデンで録音したスウェーデン趣味の音が優しく丸っこく響く。ステレオタイプのロック的な潔さとは真逆の優柔不断な精神性が曲をドライブさせていて、それがロックとしては珍しい。志村さんの実存が最も感じられる作品だ。
そして、志村さん死後のフジファブリックはしばらく辛くて聴けていなかった。フジファブリックという名前に志村さんをどうしても思い出してしまう。そして、志村さんのいた時のフジファブリックとどうしても比べてしまう。ジョイ・ディヴィジョン後のニューオーダーみたいに、バンド名を変えてくれたら良かったのに…。
2019年、Mステでフジファブリックが「若者のすべて」を演奏して話題になったけど、僕は心を動かされなかった。志村さんの声を今のフジファブリックの演奏にかぶせる演出に、泣かせようとしている魂胆が透けて見えたからだ。素直な人は感動できるんだろうけど、僕はひねくれているのでね…。
そして、今作『I Love You』に志村さんが生きていた頃のような名曲があるかといえば無かった。アニメタイアップ曲という、ポップネスと大衆性を役割上求められるはずの#5「楽園」もそこまでポップかと思うし。小林武史と組んだ最終曲#9「光あれ」は包容力に乏しく、曲を大作化させるいつもの小林節が効いていないように思う。
どの曲も中途半端にシティポップに寄せた中途半端なオシャレさしか感じない。ロックはもっとラディカルであるべきだという僕の持論には反している。JUJU、幾田りら(YOASOBIのikura)、秦基博という実力派シンガーをゲストボーカルに迎えて話題性もあるが、僕としてはポップス畑の人よりもロック畑の人を呼んでほしかった。
このレビューを読んだあなたの鍵穴にはハマるのかな? 僕の心のドアは開かなかった。
Score 5.9/10.0
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