【温かくシンプルな王道歌もの】 Mr.Children『SOUNDTRACKS』感想&レビュー | とかげ日記

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●ストリングスの入ったロックソングの王道

昨日2/14にサブスク解禁されたMr.Childrenのニューアルバム『SOUNDTRACKS』。20枚目のオリジナルアルバムだ。僕のツイッターのTL上では評価が低かったのだけど、自分で聴いてみたら殊の外良くてレビューを書くことにします。こういうことは音楽リスナーあるあるだよね。

本作の経緯として、メンバーであるギターの田原健一さんから「サム・スミスのような温かくてシンプルな音像を作れるエンジニアと一緒にやってみたい」と提案があったようだ。そこで、エンジニアにスティーヴ・フィッツモーリス氏を迎え、ロンドン、ロサンゼルスのスタジオでレコーディングし、意欲作に仕上げた。しかも、全10曲のうち、6曲がタイアップ曲であり、マス(僕ら大衆)に向けてのアピールにも余念がない。

素晴らしいサウンドプロダクションであり、細部の音フェチの僕にはたまらない音だった。アルバム『深海』のようなディープな音をよりクリアカットにオープナーの#1「DANCING SHOES」から聴かせてくれる。#5「losstime」の繊細なアコギの音の深さが醸し出す慈悲深さも聴きどころだ。

小林武史プロデュース作品と比べても、ストリングスとブラスの美しさは際立っている。#2「Brand new planet」の後半部のストリングスは、日常の中での新しいサムシングを確かに鳴らしていた。



感覚的な自論になるが、メロディーの既聴感と初聴感の比率が2:8くらいの音楽は即効性が高い。たとえば、完全に聴いたことがあるメロディーならパクリ感を覚えるし、真新しすぎるメロディーならノることができず気持ち良くなれない。その中間をいかに突いてくるかが僕にとってのメロディーメイクの肝なのだ。

それでいうと、#6「Documentary film」#7「Birthday」は 既聴感と初聴感の比率が3:7くらいで理想に近く、オマージュレベルであってパクリとはならず、みずみずしく聴こえるメロディを紡ぎだしている。この二曲はひときわ名曲感があってオススメします。渋谷系バンドと目されることもあった彼らの初期の空気感に近い#3「turn over?」もグッドメロディだ。



ところで、ミスチルの歌詞に自己啓発の要素があるとツイートしていた方がいるけど、僕はそれは感じたことは無かったなー。ミスチルは自己啓発というよりも、悩める自画像を歌っているという印象を受けます。その上で人間の在り方を描いている。(本作だと、#9「The song of praise」に顕著。)キャリアポルノの自分磨きに終始する自己啓発とは違うのです。

ミスチルを自己啓発として受容した人もいると思います。その方にとっては自己啓発な訳で。ただ、僕はそのようには受容していないです。自己啓発よりも人間の在り方の深層まで迫る表現だと思います。

ミスチルは大衆にウケた大衆音楽だから、大衆嫌いのスノッブさんから言われのない批判を受けるのかもしれませんね。『君の名は。』で大衆に見つかったRADへの批判もそうですね。

僕は問いかけがある表現が好きなのですが、ミスチルの歌詞には問いかけがありますよね。その問いかけの中で"あるがままの心"で生きたいという葛藤が表現の核になっている。感情の主張があり、"表現"になっていると感じます。

タメの効いたスネアの音が心地よい#8「others」は不倫の歌と解釈できる。僕は決して不倫はしないけど、こういった不倫の情景をさらりと自然に歌うミスチルは大人に思える。誰にも言えないことってあるよね…。そして、誰にでも言えないことを歌うのがロックなのではと思う。うみのて率いる笹口騒音さんも太平洋不知火楽団で「不謹慎だけが歌なんだよう」と歌っていますしね。建前では不倫はいけないと分かっているものの、本能で繋がりを求めることは、まさに「あるがままの心」で生きたいと願うことだと思う。

本作『SOUNDTRACKS』は、年輪を重ねたことにより、上記したような葛藤は少し薄くなっているものの、物語を紡ぐように曲ごとに景色が穏やかに入れ変わっていく魅力がある。そして、小夜曲のように響く#10「memories」が親密なエンドロールに思えたり。声を高音で張り上げたりしない、微温で感情が伝わってくる生活のサウンドトラックとして、多くのリスナーの心を温め続けるのだろう。

Score 8.1/10.0

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