●往時の即効性はないが、それでもポップな"大人"のアルバム
最初に聴いた時、ちっともポップじゃないなと思った。『両成敗』の頃のポップネスが今のゲス極にも欲しいと感じた。
脂の乗り切った頃のポップネスを今は奏でられないというのなら見限るし、あえて売れ線から離れているというのでも見限るよ、と偉そうにそう思った。
もちろん、瞬間瞬間ではポップなところはある。一曲目の「人生の針」は良い曲だと思ったし。
"大人"の洗練を感じさせるアルバムで、ハマる人もいるのも分かる。演奏も粗がない。
ただ、「ロマンスがありあまる」や「私以外私じゃないの」のようなドライブ感や中毒性は無かった。
上記の内容をツイートしたところ、フォロワーの方から「ブルーハーブみたいな本気のヒップホップみたいと思いました。そう言ったら双方のファンから叩かれそうですが」というリプライをいただいた。
ヒップホップアルバムだと思って聴いてみたら、フックがあった。ブラックミュージック味も感じる。シティポップのアルバムとしても聴けるだろう。
キャッチーなポップロックを意図したものではなかったのだ。上述したように、このアルバムは"大人"のアルバム。お子様向け(筆者も精神的にはお子様だろと読者から言われそうだが)の即効性は最初から企図していない。
そして、言っていることが矛盾しているように思われるかもしれないが、そのように思って聴くとポップでキャッチーなのだ。ポップ抜きでガチでヒップホップをやっているアルバムよりもポップだし、ポップを忘れた巷のシティポップよりもずっとポップだ。
"歌心がない"と批判される川谷絵音のボーカルだが、僕は彼の声音に内包されるセンチメンタリズムのファンだ。ナイーブな声音だからこそ、楽曲でこんなにも切なくなれる。
ブラックミュージック味の肝となるグルーヴィなベースも気持ち良いし、ドラムもスネアの音色が心地よいし、カラフルな鍵盤も彩りを添えるホーンセクションやストリングスもハイセンスだし、演奏は言うことなしです。音作りにこだわっただけあって、音も良く感じる。それは初期のEP作品の音と比べると明らかだ。
「キラーボール」を再構築した「キラーボールをもう一度」という曲に表されるように、このアルバムはゲスの極み乙女。を再提示するアルバムになっている。往時のドライブ感や即効性はなくても、ポップな音楽性は変わっていない。"大人"な大衆に届くアルバムになっているだろう。
Score 7.9/10.0
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