笹口騒音ハーモニカ『うるう年に生まれて』 『おんがくのじかん』【過去記事再録】 | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



●現代の吟遊詩人

2011年に発売された、うみのてのフロントマン笹口騒音ハーモニカのソロ作品のベストアルバム。7thアルバム『おんがくのじかん』も同梱されていてお買い得だ。

笹口さんの弾き語り音源を元にうみのての音源が作られている。神聖かまってちゃんにおいて、の子のデモを原作とするならば、うみのての原作は笹口さんの弾き語り音源だ。うみのてを聴いて笹口さんのソロも気になって買ってみたのだが、素晴らしく良かった。

自由に絵を描くように、アンプラグドな近い距離感で歌われる楽曲群は、ギターとハーモニカの弾き語りでこんなにたくさんのことを表現できるんだと教えてくれる。堰を切ってあふれだしたような才気の奔流。脳みその見知らぬどこかが開かれていくような感覚を味わえる。

歌詞も演奏も詩的。吟遊詩人という形容がぴったりだ。笹口さんは自分はからっぽで思想がないとインタビューで発言しているが、ただ吟遊詩人のまなざしだけがそこにある。時にこの世の何よりも残酷で乾いていて、時に涙が飛び出るほど優しいまなざしだけがそこにある。そして、そのまなざしは、物事の本質を透徹した面持ちで捉えている。

笹口さんの心はからっぽだということが本当なら、このアルバムの歌で笹口さんが言っていることは嘘か本当か分からない。ライブでもMCで嘘とも本当ともつかぬ言動をする。でも、嘘も本当も超えて、そのまなざしには切実な温度がある。

うみのてのギター・高野さんがうみのてよりも笹口さんのソロの方が良いと言っていたのも分かる気がする。うみのての演奏のダイナミズムも好きなのだが、笹口さんのソロには直接人の心に触れる詩性があるのだ。

アンダーグラウンドの最先端を行くようにエッジが利いていて、かつ、人の心を打つ歌と人を引き寄せる茶目っ気があって普遍性もある不思議な音楽だ。世界を違った目で見る笹口さんだからだろう、笹口さんにしか作れない世界を構築している。

うみのての音源になっていない曲でオススメは、「恋をするならば」「言葉狩りの詩」「数の娘」。心の塀をいとも簡単に飛び越えてくる表現の強度がある。うみのてで音源を作ってほしいなぁ。

うみのてが好きな方、良い弾き語りを探している方にオススメのアルバムです。

評価★★★★



(この記事は、発売当時に書いて削除してしまった記事を復元したものです。)