七尾旅人『Stray Dogs』感想&レビュー | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



●スローで豊かな歌ゆえに入り込めなかった

アコースティックな曲と電子音楽が違和感なく並ぶ本作。無作法にこちらの胸に飛び込んでくるようなロックミュージックが好きな僕にとって、本作『Stray Dogs』の滋味あふれ、正しいマナーに則って音楽を奏でるやり方は合わなかった。Spotifyで言うと、「EXPLICIT」(露骨な表現が含まれる楽曲)がついているような楽曲が好きなのだ、僕は。「EXPLICIT」がついていない楽曲でも好きな楽曲はたくさんあるけど、曖昧模糊とした柔らかさをたたえた本作は好きになれなかった。

七尾旅人だったら、『billion voices』(2010年)を推す。アルバム通してのストーリーテリング、それぞれに個性の際立った曲、『billion voices』は傑作だ。収録曲「検索少年」の不可思議で抗えないキャッチーさ。その他の曲もエキセントリックな手法を使い、ロック・ソウル・ジャズ・テクノ・民族音楽などジャンルをクロスオーバーしながら各々の世界観を持ちつつ、華がある。それぞれの曲の主人公に没入して聴いてしまう。

だが、本作『Stray Dogs』は『billion voices』に比べると没入感が乏しい。本作で比較的ポップで没入しやすく感じたのは、少年が迷子になった愛犬を探しに行くキュートなポップソング「迷子犬を探して」と、「湘南新宿ライン 闇を切り裂いて 走れよ」という固有名詞が出てくる歌詞が印象的な「スロウ・スロウ・トレイン」、スローな打ち込みとグラムロック感が交差する「DAVID BOWIE ON THE MOON」、アフリカ音楽を大胆に取り入れた「Across Africa」の4曲。本作の収録曲はどれもスローで豊かな楽曲だが、没入して聴くためのフックに欠けていた。

しかし、リード曲「きみはうつくしい」で、ポエトリーリーディング(ラップ?)から徐々にメロディが乗っていく箇所の美しさに、希望がメロディを伴って姿を現したようで、軽い高揚感を覚えた。アコギ弾き語り楽曲「蒼い魚」のアコギの深い響きに、ハッとするような海の蒼をそこに見た。そのアコギの伴奏と共に歌われる「泣かないで」のリフレインは、切実で温かった。このように、瞬間瞬間で切り取ると、良い瞬間がたくさんあった。繊細なメロディを大切に歌う、七尾旅人の歌い人としての力量を感じた一枚だった。



Score 6.4/10.0

※投稿日の22時に本文中に追記、修正。