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●傑作!
ドラムが脱退してから初めての作品。
ロックンロール、パンク、ニューウェーブ、インディロック、ポストロックを通過した、鍵盤もあるカラフルなJ-POP。今の時代の音だが、どこかしら80年代の香りもする。「テレフォン No.1」ではベイ・シティ・ローラーズの「Saturday Night」を引用し、「S・O・S・O・S」でヴァン・マッコイの「The Hustle」を引用するなど、新旧の音楽のエッセンスを取り入れている。これまでのふくろうずを聴いて感じたような新しさと懐かしさは今作でも健在だ。
内田万里のボーカルがいい。内田さん自身は自分の声を気に入っていないようだが、見事に曲の世界観にハマっている。伸びやかで表現力のある歌声は、かつてミュージックマガジンでレビューされていたようなJUDY AND MARY時代のYUKIの二番煎じとは決して思えない。
歌心を忍ばせてルート弾きを繰り返し、時折動く太いベース。的確にサポートするドラム。コケティッシュでキャッチーなキーボード。ベースのように周りと調和し、ときどき聴き手の気持ちをなぞるように高ぶるギター。リズム隊もウワモノも内田さんの歌を引き立てている。
過去のインタビューで内田さんは次のように語っている。
「『ループする』は円の中から抜け出せていなくてぐるぐる回っているような曲で、『ごめんね』はそこから「ありがとう」って言って抜け出した感はあるけど「ごめんね」っていう言葉で締められていて。もうそれもいいだろうと。だから『もんしろ』でも「このままでいい」とか言ってウダウダはしているんだけど、最終的には生きることに肯定的な歌詞を書こうと思って。」
「ループする」で歌われた、ぜんぜんダメだって分かっているのに、こんなことばっかり続けている日々を愛しちゃっているモラトリアム。「ごめんね」で歌われた、何度も「ごめんね」と歌った後に「ありがとう」と叫んでしまう、モラトリアムからの脱皮の瞬間。「もんしろ」で歌われた、モラトリアムから身半分抜け出して走り出す生の躍動感。そして、今回のアルバムでは更に先を行き、モラトリアムからは遠く離れた開かれた地点で音楽が鳴らされている。最後の曲「見つめてほしい」では、「絶望も希望もループするのもうやめた」と歌っている。モラトリアムの無限ループから抜け出したふくろうずがそこにいる。
『MUSICA』での宇野維正氏のレビューのように、ふくろうずはモラトリアムの音楽だったはずなのにと思う人もいるだろう。
だが、ふくろうずのもう一つの本質は、「成長」だ。内田さんの好きなマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくるスタンド「エコーズ」のように、一作ごとに成長して脱皮していくふくろうずが見られる。
ふくろうずの音楽は、「普遍」と「日常」を目指す。内田さんの好きなTHE BEATLESのように、いつ聴いてもスタンダードだ。「テレフォン No.1」でも歌っているように、ありふれてる幸せが好きなのだ。音楽ライターの津田真さんがインタビューした中で、震災を経ても曲作りの姿勢が変わらなかった唯一のアーティストであるそうだ。田舎の中学生にも聴いてほしいとインタビューで語っていたが、誰でも聴ける普遍的な曲を目指す姿勢は、震災の前後で変わらない。そして、今作では、曲の中に含まれる自意識が今までよりも少なめだ。僕みたいなひねくれ者じゃない人にも、今作の曲は届くだろうし、届いてほしい。
モラトリアムを抜け出して突き抜けた傑作ミニアルバム。良い音楽と素敵な歌を探している方におすすめです。
(この記事は発売当時に書いた原稿を再録したものです。「過去記事再録シリーズ」では、病気が悪化した時に削除してしまった記事を復元していきます。)