羊文学『トンネルを抜けたら』感想&レビュー(2017年) | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



女性ギターボーカルの三人組バンドのデビューEP。将来が楽しみな才能を持ったバンドがまた出てきた。メンバーは全員大学生という若さ!

オルタナとシューゲイザーから影響を受けたジャリジャリとした音色のギター。#1「雨」の曲名から連想すれば、雨のように光景を一変させる、世界観のあるギターだ。

女性ボーカルはこの若さで風格さえ感じるほど上手い。繊細でいて力量のあるボーカル。吐息のような言葉の切れ目が雰囲気がある。

ディレイも使う轟音ギターと女性ボーカルという要素からは、きのこ帝国のバイブスを感じる。テンポもミドルテンポ主体だし。

自分達と一緒に踊ろうというバンドの曲が巷を席巻する中、#4「踊らない」の曲名は本作製作時の羊文字のモードを端的に示している。踊るのは「君とだれか」という世間であり、自分ではない。ベースがうねり、ドラムも手堅く叩かれ、アレグロのグルーヴィーな曲なのに、曲名は「踊らない」。このネガティヴでひねくれた姿勢が本作製作時のモードだったのだろう。

「君」が嫌いだということを歌った#2「春」などネガティヴな感情をモチーフにした曲が続いた後、CD最後の曲#6「Step」で気持ちが少しだけ上向いて、「窓を抜ける風」を感じるように風景が開けていく感触は、まさにタイトルの『トンネルを抜けたら』の言葉の感触の通りだ。

「Step」が本作で最後に出来た曲とのことなので、これからは明るめの曲がもっと増えていくのだろう。「明るい」といっても能天気な明るさではなく、「笑ってゆけるようになるだろう」という地に足のついた明るさだ。

これからソングライティングの力が向上して訴求性の高い曲を作れるようになり、「Step」の路線の曲を作る日が楽しみでならない。その時に彼女達は化けるだろう。また、きのこ帝国でいえば「ユーリカ」などの轟音ギターが主体となる路線の曲も個人的には作ってほしいと思っています。