神聖かまってちゃん『幼さを入院させて』感想&レビュー(2017) | とかげ日記

とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



去年の9月にリリースされたアルバム。僕は去年の7月から入院していて長らく聴けていなかった(『幼さを入院させて』というタイトルがタイムリー)。退院した今、感激しながら聴いている。神聖かまってちゃんはポップロックバンドとしての進化を止めないバンドなのだと。

神聖かまってちゃんはホーリーで退廃的なアルバムを作りたかったとインタビューで答えているが、僕はその点よりも、ポップソングとしての完成度の高さの点を感じる。ポピュラーな歌ものとしての完成度がこれまでのアルバムの比じゃないのだ。どのアルバムよりも歌の照準と焦点が合っていると思う。ホーリーな音楽の響きがありつつ、ポップソングとして優れているこのアルバムは、まさに無二のアルバムだ。

ポピュラー音楽のフォーマットを踏襲していて、ポピュラー音楽としての個性と中毒性があるし、時々使われるファルセットが気持ちいい。既発表曲の#11「光の言葉」におけるポピュラーな歌ものとしてのナイスメロディとナイスアレンジが他の曲にも貫かれている。

ポピュラー音楽の大衆性を獲得しているが、シングル曲#1「夕暮れの鳥」に見られるような音楽的挑戦には果てがない。そして、しっかりと神聖かまってちゃんらしさと作品性を残している。

神聖かまってちゃんらしさとは何か。よく言われる「メンヘラ」的音楽という言葉だけでは、その「らしさ」を取りこぼしている。ジャケットや歌詞や曲のコンセプトには、メンヘラ的要素が散りばめられているのだけど、そしてメンヘラ的要素とポピュラー音楽の奇跡的な結合が神聖かまってちゃんの音楽なのだけど、かまってちゃんはそれだけではない。

それは第一に、生きることと死ぬことを描いた音楽であるということ。人生に絶望しつつも、生きることへの渇望を表現した音楽なのだ。鬱状態の時に死にたいと強く思う気持ちとその気持ちの裏返しの生きたいと思う感情の振り幅がシャウトや歌詞やエネルギッシュな演奏で表現されている。

#3「陸上部の夏」に、僕は生への渇望を感じ取る。青春そのものなのだ。夏、陸上部、自転車、炭酸ジュースなど、青春を感じさせるキーワードを歌詞に詰め込んで、爽やかなメロディで青春を描くその力量に感嘆する。

#6「まいちゃん全部ゆめ」は、まさに死への欲望を描いた曲だろう。デモの時よりもアレンジによって風通しが良くなっているが、それでも鬱々としている。デビューから一つのディケイドが過ぎ去りようとしていて、ある程度売れてきてもいるが、の子は死にたいという感情から逃れられていない。だから、必然的に彼らの作る音楽は生きることと死ぬことがテーマの背景に構えることになる。

第二に、違和感を表現した音楽であるということ。の子の生き方が環境との間に起こす軋轢から生じる生活の違和感を、やや不協和音的な音階を用いた音楽で表現している。不協和音的な音階を用いつつポップに魅せることができるのは、神聖かまってちゃんの音楽的な才能だろう。かまってちゃんの特徴的なあの定番のコーラスも不協和音的だ。

ボコーダーを使うのも単に面白いからというだけではなく、違和感を表現するためだと僕は思う。#2「イマドキの子」のボコーダーの使い方に僕は最初に聴いた時はついていけなかった。普通に地声で歌ってほしかった。地声の方がナマな感情が伝わるから。だけど、「イマドキの子」を何度も聴いていたら、ボコーダーを使った声で恐ろしくキャッチーなメロディを歌われるのがクセになってきて、中毒性が高い曲だと思うようになった。「普通」には生きられないから、「普通」ではないボコーダーの声を使う。その思考回路に共感する。

第三に、可愛くてファニーな音楽であるということ。メンヘラ寄りな可愛さの表現をオーバーグラウンドのシーンでやっているのは珍しいだろう。また、の子には類い稀なユーモアのセンスがある。絶望した後にふいに訪れるくすりとした笑いの光景を切り取ることに成功している。ポップロックの要素と可愛くてファニーな要素が上手く結びついているのも特徴だ。

メンバーの演奏にもファニーさを感じる瞬間がある。#7「雲が流れる」のイントロの手グセとも言える神聖かまってちゃんらしいドラムパターンの出だしには、ドラムのみさこの笑顔が透けて見える。

第四に、詩的な歌詞であるということ。僕も詩を書くが、の子の書く詩のような詩は一生かかっても書けないだろう。着眼点も表現力も素晴らしい。「ああ、きっと君はこんなメロディのような人間なんですね」(#8「緑の長靴」)。の子の書く歌詞も流麗なメロディのようだ。ロマンチックでリアリスティックで、アンビバレントなその歌詞に僕の琴線は引き裂かれて感動の鳴き声を上げる。

他にも色々あるが、とりあえず上記の四点を挙げた。神聖かまってちゃんらしさは、彼らが作るどの作品にも刻印されている。僕は神聖かまってちゃんのかまってちゃんらしさに共鳴しているのだ。

#12「日々カルチュア」に、「殺菌された音楽が流れてく」という歌詞があるが、神聖かまってちゃんの音楽は殺菌されていない。ばい菌でうようよしていて、それでもホーリーな空気感であって、僕は彼らの音楽の面白さの虜なのだ。僕の世界の中で神聖かまってちゃんは底なしの闇のような奥深さを見せてくれるし、眩しいほどの光り輝く存在感を発揮している。


神聖かまってちゃん「イマドキの子」


神聖かまってちゃん「夕暮れの鳥」

ツイッター 今野よーよー@yoyo0616