うみのて『UNKNOWN FUTURES(&FIREWORKS)』感想&レビュー(ミニアルバム) | とかげ日記

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2015年にすでに解散しているバンドだが、思い出深い音源なのでレビューを書きたい。

うみのては2013年、1stアルバムである『IN RAINBOW TOKYO』(3月20日発売)とミニアルバム『UNKNOWN FUTURES(&FIREWORKS)』(11月13日発売)をリリースした。『IN RAINBOW TOKYO』は「ネットの音楽オタクが選んだ2013年の日本のアルバム」においても54位にランクインされるなど反響があった。しかし、『UNKNOWN FUTURES(&FIREWORKS)』はノミネートすらされていない寂しい状況。『IN RAINBOW TOKYO』の方が全体的な完成度は高いかもしれないが、『UNKNOWN FUTURES(&FIREWORKS)』に収録された楽曲もそれぞれに無視できない個性を放っている。今回のエントリーでは、そんな過小評価されているうみのてのミニアルバム『UNKNOWN FUTURES(&FIREWORKS)』について感想を書いてみたい。

『UNKNOWN FUTURES(&FIREWORKS)』は、聴く者に忘れられない爪痕を残すうみのての1stミニアルバム。レコーディングエンジニアに、道下慎介(LSD MARCH:vo&g/オシリペンペンズ:PA)を迎え、1stフルアルバムから約8か月のスパンで届けられた音源だ。

これほどメッセージ性にあふれた曲を作っているのに、作詞作曲を手掛けるフロントマンの笹口騒音ハーモニカは、インタビューにおいて、伝えたいことはないと言っている。うみのての音楽はそこにあって熱を帯びているが、どこかで傍観している、冷めているのはナンバーガールにも通じるところ。

ただ、ナンバーガールの冷たい耳触りの音と違い、うみのての音は地獄の風呂よりも温かい。僕なんかはそれを優しいと感じてしまう。笹口さんの湯気が立つようなボーカルの横で、高野P介のギターも円庭鈴子の鍵盤、鉄琴も早瀬雅之のベースもキクイマホのドラムも歌を邪魔せずに歌の気温と湿度を上げていく。

エフェクトを重ねるギターとファルセットに裏返る笹口さんのボーカルは、どこか幽玄の音世界を作り出し、レディオヘッドの音世界から影響を受けていることが分かる。

ただ、レディオヘッドの音よりもうみのての音はむき出しだ。魂も狂気も空腹にうずくまる愛も、うみのての音楽はさらけ出す。

一曲目の「UNKNOWN IDIOT」は2ちゃんねるのことを歌った曲だという。笹口さんが2ちゃんのうみのてスレにいらついて作った曲だ。キーボードを叩く音と断頭台のようなリズムから始まり、虚無を埋める闇夜のようなギターが繰り出され、笹口さんのエミネムを真似たようなボーカルが温度を上げていく。

「匿名の名のもとにしかなーんにもいえない弱ーい弱い名無しのお前
でも大丈夫だよ 安心しろよ
俺が死ぬまで見ててやる
お前がお前に気づくまで お前がお前を殺すまで」
(歌詞の一部)

優しさや馴れ合いもあるが、否定と憎しみの渦にまみれた2ちゃんの世界にうみのては愛を持ち込む。メンバーの5人の顔を合成した今回のアルバムジャケットのような匿名の名無しのお前を吊し上げ、腐りきった心と顔を白日の下にさらす。半端なく濃密な2分半だ。


うみのて「UNKNOWN IDIOT」

2曲目の「NEW(NU) CLEAR.NEW(NO) FUTURE」は原発のことを歌った歌。2ちゃんや原発といった曲のネタに振り回されず、そこにうみのて自身の思想を投げかけてエンターテインメントにしているのがうみのてのすごいところ。ツイッターで曲を紹介する際に、「1曲目 2ちゃん(笑)、2曲目 原発(笑)」と「(笑)」を笹口さんはつけていたが、そういった皮肉的なねじれた冷めた視線がうみのての思想に一般性と客観性をもたらしているのかもしれない。(笹口さんのソロの曲には「ロックンロール(笑)」という曲さえある。)

個人的にこの曲が今作のハイライトだと思う。うみのての曲の中でも一、二を争うぐらい好きだ。ベースの早瀬さんもうみのての曲の中で一番好きな曲だと言っていた。

不穏なエフェクトの音とジャグバンド風のリズムから、感情的で叙情的なギターの音が流れる。そこに乗る笹口さんのどこかしら達観したボーカル。最初に聴いた時は終わり方が唐突な感じがして残念に思っていた。曲の終わりでうみのて流のNEW FUTUREを丹念に描き込んでほしかった。だが、数度聴くうちに、音がバグっていくようなこの終わり方は、NO FUTUREを描いていると同時に、NEW FUTUREやUNKNOWN FUTUREも描いているのではないかと思った。近未来では記号は破壊され、愛だけがさまようのだ。

最後のボーカルの「細胞を壊されても 魂を愛で満たせ」という部分で不覚にも泣いてしまった。「魂を愛で満たせ」という歌詞はレディオヘッドの「STREET SPIRIT(FADE OUT)」の「immerse your soul in love」から来ているのだろう。「STREET SPIRIT」が収録されているアルバム『The Bends』に劣らない叙情性がうみのてのこの曲にはある。

気づけば一曲目と二曲目を終わりなくリピートしている僕がいる。体温や血の匂いにも似た温かさは、僕の寂しさの空洞を埋めてくれる。笹口さんも笹口さんの中にある空洞を埋めたくて歌っているのではないか。


うみのて【NEW(NU)CLEAR, NEW(NO)FUTURE】2013/5/10 東高円寺二万電圧

3曲目「下から見上げる花火、上から見下ろす火花」は、笹口さんが大林宣彦監督の映画『この空の花-長岡花火物語-』からインスパイアされてできた曲。花火大会の風景と戦争の空襲の風景がクロスし、爽やかな風と殺戮の風が交錯する。美しさと鮮やかさと明るさ、残酷さと不穏さと隠れた血なまぐささが広がる、うみのてでしか描けない音光景になっている。

4曲目「上から見下ろす火花、下から見上げる花火」はアップテンポのアッパーなチューン。ライブで陽気に踊れそう。お祭り的なワッショイワッショイの曲で、これぞ和風ダンスナンバー? 流行りのEDMやテクノのダンスナンバーとは違った踊り方になりそう。日本のお祭りの狂騒と祝祭感が、うみのての狂気に祭り上げられる楽しい曲だ。

ボーナストラックの2曲も佳作だ。「僕の家(海の家ver.)」は、ピアニカとギターの物悲しい旋律がかき立てる、笹口さんの空洞の周縁にある疎外感に共感する美しい曲だ。「UNKNOWN IDIOT(idiot mix)」は、あらかじめ決められた恋人たちへの池永正二による、こってりとしていて踊れるダブリミックス。低音がクセになる。ううむ、この曲を機にダブステップの世界に目覚めてしまいそうだ。

過去から未来を見渡す透徹した視線の一方で、うみのてに感じるのは花火や火花にも似た温かさだ。発売当時、冬の冷たいコンクリートの壁の中で、うみのてで暖を取っていた。そして、同時に物事を一歩引いて見ているようなとてもクールな音楽でもある。今年の暑い夏は、うみのての音楽を聴いてはやる心をクールダウンさせた。うみのての音楽は、欠けた脳の破片のラストピースのように、僕の空洞も埋めてくれる。