地下室TIMESとトランプ大統領は似ている | とかげ日記

とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。

●差別したい気持ち

僕がこれから書く記事には、元ネタとなった記事があるので、最初にその記事のリンクを貼っておく。僕が運営している音楽ブログ更新情報bot上でもお世話になっているnovel2016さんのブログだ。

「ホンネ世代の正義感~トランプ・ドゥテルテ・キュウソネコカミ~」novel2016のブログ http://ameblo.jp/takatohe/entry-12217817749.html

下層カーストの本音がインターネットにより世の中に行きわたり、上層カーストの「ホンネ」に成り代わり、そのホンネ世代の価値観により、キュウソネコカミやヤバイTシャツ屋さんなどのバンドがシーンに浮上しているというのが内容の一端だ。

新書大賞2016で一位になった『京都ぎらい』(井上章一)という本がある。同じ京都の中でも、洛中の人は洛外の人を見下しているという内容は、京都をあまり知らない僕にとっては新鮮だった。障害差別や身分差別などと違って差別の罪が軽いために今まで温存されてきた洛外差別は、「ハゲ」や「デブ」を蔑むのと同じ構図であるという。

人には人を差別したいという暗く黒い情熱が昔からある。人気音楽サイト『地下室TIMES』(現BASEMENT-TIMES)はその情熱をまき散らすことをためらわない。例えば、この記事「邦楽が洋楽に劣っている部分」http://basement-times.com/differencefrom/では「差別は必要だ」と言い切って邦楽をディスっている。

特にライターの石左さんの書く記事では、自分の嫌う音楽を徹底的に見下している。最近の記事では、この記事がひどかった。

「作り物で押し固めた音楽、Goose Houseをボロクソに批判したい。」http://basement-times.com/goose-house/

一般的に言って、批判と差別は違うものだろう。正当な批判と差別を同じものにしてはいけない。「対等な立場にたって批判する」のと、「見下すために罵詈雑言を言う」のは違う。だが、地下室TIMESのやっていることは正当な批判もあるが、差別的な感情に駆られている記事も多い。

地下室TIMESの差別の主な対象はライターの嫌う音楽だが、トランプ次期大統領がヒスパニック系移民やイスラム教徒に対して差別的言動をするのと「差別する」という点では変わらない。そして、その差別的姿勢はホンネの時代に受け入れられ、人気は拡大する一方なのだ。

●インターネットの中と外で乖離していく建前と本音

僕たちは建前では、どんな差別も許さないと学校で教えられてきたし、社会のルールも一応そういうことになっている。右寄りとされる安倍政権下でも、特定の民族を蔑んだ言動をする"ヘイトスピーチ"の解消を目指すヘイトスピーチ対策法案が可決されている。

紙媒体や大手音楽サイトなど、既存の音楽メディアにしても、例外はあるにせよ、特定のバンドやアーティストをディスらないというのは、暗黙の了解だった。

だが、インターネットの中を見れば、差別的な物言いであふれている。特定の民族も宗教信仰者も見下され、普通の人としての扱いを受けていない。特定の音楽だって、匿名掲示板では、けちょんけちょんにけなされている。

インターネットの中と外で乖離していくこの建前と本音。インターネットにどっぷり浸かった人たちは、社会の建前は窮屈に感じられる。建前を退け、本音をまき散らす文章があれば、人気を得るのも道理だろう。人々の中にある、特定の音楽を見下したい気持ちをすくい取るガス抜きのように地下室TIMESは機能する。

●「地下室TIMESは嫌い」という人

地下室TIMESは嫌いだという人も一定数いる。石左さんは地下室TIMESをディスったツイートなどを取り上げて反論している。僕もMOROHAが韻を踏んでいるか踏んでいないかで石左さんとツイッター上で殴りあったことがある。

もし、地下室TIMES側が、アーティストを好きか嫌いかなんて人それぞれの主観なのだからアーティストを嫌いだと言ってもよいだろうと、地下室TIMESに批判的な人を批判するのならば、その批判はブーメランのように地下室TIMESに返ってくるだろう。だって、地下室TIMESが嫌いな人も人それぞれの主観で地下室TIMESが嫌いだと言っているだけなのだから。

●それでも僕が地下室TIMESを推す理由

僕は自分の運営する音楽ブログ更新情報bot https://twitter.com/music_blog_jpに『地下室TIMES』の記事更新を反映させている。

ここまで書いておいて、なぜ僕が地下室TIMESの宣伝の一翼(このbotはそれほど影響力のあるものではないが…)を担うのか不思議に思われる読者の方もいるだろう。

理由は至極単純で圧倒的に面白いからだ。僕の中にも差別的な感情はくすぶっているのだろう。僕が『とかげ日記』に書けない本音を代弁してくれるサイトとして重宝しているのかもしれない(『とかげ日記』には本音しか書いていないけれど)。あと、影響力を無視できないほど大きなサイトだからというのも、botに追加している理由の一つだ。(2017年現在、地下室TIMES管理者の要望により、bot反映を取り止めている。)

地下室TIMESはライターが嫌いなアーティストだけではなく、好きなアーティストについても強烈に主張してくる。現在のインターネットにおいて、音楽についてこれほど強度のある主張をぶちまけてくるのは地下室TIMESの他には数えるほどしかないのではないか。

好きや嫌いの主張の中に人間性が現れて、僕にはそれがすごく面白い。読み終えた後味を考慮して、ユーモアたっぷりにアーティストへのラブとヘイトを描くサービス精神も嫌いではない。

地下室TIMESが嫌いだったら、それぞれのやり方で対抗すればよいと思う。僕も地下室TIMESは好きなサイトだが、やり方には全面的には賛同できない。一人一人の人が自分の理想とする音楽ブログや音楽メディアを持ち寄って、そうやって切磋琢磨しあう音楽ブログや音楽メディアのシーンを築けていければ、とても健全だと思う。