RADWIMPS『人間開花』感想&レビュー(アルバム) | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。




●開放的なムードで鳴らされる喜びの音楽

『絶体絶命』、『×と○と罪と』で鳴らされた密室のヘヴィな愛憎から一転、開放的に音楽が紡がれている。

『音楽と人』のインタビューや配布されているフリーペーパーを読むと、ドラムの山口智史の休養はラッドにとって致命傷になりかねない大きな出来事だったようだ。

インタビューでは、バンドが開けたムードになった理由として、今年を代表するヒットになったアニメ映画『君の名は。』の音楽制作において外部の第三者と関わったことや、スピッツなどのバンドと対バンツアーをしたことが挙げられている。他に考えられるのが、サポートドラムをバンドに迎え入れなければならなかったことだろう。想像するに、今まで変わらずに四人で鳴らしていた音楽から一人欠け、サポートドラムという異物を受け入れざるを得なかったことは、バンドをこれまでになく外に開かせる一因になったのではないか。

ムードは開放的になったが、売れ線狙いのバブルガムポップスとしては消費されない切実さがある。『君の名は。』に使われ、i-tunesチャートで上位を独占した#5「前前前世」と#12「スパークル」のoriginal ver.にしても、前者は後ろを振り向かない一途さ、後者は姿勢を正して聴きたくなる清冽さがある。

●マジョリティーでありつつマイノリティー
#2「光」では、「正しい街に 正しい歌に やけに一人取り残されて」と歌詞にある。ソングライターの野田洋次郎は、心を開いた後でも社会から疎外されていると感じる自分を歌詞に描いていて、#9「棒人間」では、「僕は人間じゃないんです」とまで歌っている。映画『君の名は。』の大ヒットでメインストリームに浮上しても、マイノリティー(少数派)としての自分を描いていることが歌詞の重みを増している。かと思えば、メインストリームの代名詞と言ってもよい漫画雑誌の少年ジャンプをモチーフにして、スローテンポで夢を描く#8「週刊少年ジャンプ」という曲もある。僕は思うのだ。誰もがある一面ではマジョリティー(多数派)であり、他の一面ではマイノリティーなのだと。

●音楽的な冒険
過去曲でいえば「G行為」を思わせるような#3「AADAAKOODAA」のようなネジが外れたような珍妙な実験性のある曲もある。一曲を通してボーカルに深めのリバーブをかけてミステリアスな空気を醸し出し、序盤はリズム楽器なしで、中盤はバスドラが速めのテンポで打ち込まれるが主旋律はゆったりとしたリズムで進行し、終盤に向かうにつれ、曲調がガラリと変わる#7「アメノヒニキク」のような直球で実験的な曲もある。曲単位でなくても、リズムや音の重ね方など、アルバムを通して曲の中の要素のレベルで大衆性と音楽的な挑戦のバランスが取れていてずっと聴いていたくなる。

ボーカルの譜割りが過去曲の「Tummy」を思い起こさせる#6「'I' Novel」。しかし、同じ暖かな雰囲気でも、バックトラックは「Tummy」とは全く違っていて、焼き直しはしない姿勢にRADWIMPSの音楽的なアイデアの豊富さを感じる。

このように様々な側面で音楽的な冒険心にあふれ、刺激に満ち満ちている本作は必聴の作品です!


人間開花 ダイジェスト