ふくろうず『だって、あたしたちエバーグリーン』感想&レビュー | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。
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■テーマは“夜の遊園地”

本作のテーマは「夜の遊園地」。夜の遊園地の楽しい孤独も悲しいユーモアも鳴り響いている。テーマを「遊園地」にすれば、SEKAI NO OWARIのアルバムのような今をときめくアルバムになるのだが、「夜の」をつけるあたりが一筋縄でいかないふくろうず流。

■原点に立ち返る

本作は前作までの明るく開放的なムードから打って変わって、初期のような内向的な暗さのあるアルバムになっているが、内田万里は「狙ってこけちゃうよりは、素直にやって受け入れられなかったほうが気持ちいいし。だから今回そういうアルバムになってると思います。」とナタリーのインタビューで語っている。ふくろうずの音楽に切実さを求める僕としては、今回の路線の方がより好きだ。

■プロデューサーが加わる

前作までの制作姿勢と大きく異なるのは、プロデューサー(篠原太郎)が加わったこと。そのプロデューサーはふくろうずのメンバーの知人友人などではなく、メンバーと全く面識のなかった人だ。人見知りなふくろうずがかなり冒険しているが、移籍後のレーベルからアルバムを出す条件は、レーベルが紹介したプロデューサーを付けることだったという。客観的な意見が加わり、アレンジも大きく変わることもあったようだ。具体的には「メリーゴーランド」が曲の途中で3拍子になったり、「ダイナソー」がギターはじまりではなく鍵盤の弾き語りではじめたりすることなどにプロデューサーの意見が取り入れられている。

『砂漠の流刑地』(2011年)においてもプロデューサー(大半の曲が益子樹)の意見が大きく取り入れられていたが、プロデューサーが深く関わっているアルバムの方が僕は好きなのかもしれない。『砂漠の流刑地』はふくろうずのキャリアの中でも一、二を争う名盤だと思っているし、本作『だって、あたしたちエバーグリーン』も素晴らしいアルバムだと思う。篠原太郎さんは現在53歳のはずだが、二回り以上歳の離れたプロデューサーの客観的なジャッジが本作に良い影響をもたらしていることは間違いない。

■全曲レビュー(おすすめ曲も紹介)

やや不穏にもユーモラスにも聴こえるストリングスとピアノの音で始まる#1「白いシャトー」で本作は幕を開ける。「会いたいよ」というリフレインが切実な一曲だ。もともとは貴族などの居城の意味を持つ「シャトー」という言葉が放つクラシカルな響きに合った曲になっている。この曲はおすすめだ。

#2「メリーゴーランド」。別れが迫っている二人に訪れるステキなストーリーが夢見がちなサウンドで描かれる。途中で三拍子になる箇所がメリーゴーランドが本当に回っている心地がする。

リード曲の#3「うららのLa」。良曲が多いふくろうずの曲の中でもこれは屈指の名曲。スネアを強打する力強いドラムと適度に動くベースの織りなす気持ちの良いグルーヴの上で、切なくやり切れない歌が歌われる。大サビの「アイラビュー アイニージュー/ちゃんと 抱きしめよう」と歌われるボーカルとその直後のギターソロの高ぶりに心をキャッチーに揺さぶられる。おすすめ!

#4「マイノリティ」。曲名はグリーンデイの同名の曲からきている。ふくろうずが自由奔放なセッション的に演奏している。ふくろうずの持つ毒気を感じる人が多そうだが、僕は優しさを感じる。アイツ変だよと歌いつつも、その人を「でもなんかやけに魅力的だ」と肯定するのだ。

#5「ラジオガール」。イントロの暗い音色のシンセの次に現れる軽妙なスキャットがこの曲全体を象徴している。アンニュイな空気に埋もれた中にある、好きな人を想う気持ちに心打たれる一曲だ。

最近のライブではよく歌われていた#6「ダイナソー」。前半のピアノのしっとりした弾き語りもいいが、後半でギターが入ってくると最高。ギターにディストーションをかけているのは、ダイナソーJr.へのリスペクトの表れだろうか。初期のような濃縮されたふくろうずのエッセンスを感じ取れる曲。おすすめです。

#7「ファンタジック/ドラマチック/ララバイ」。歌詞とサウンドに遊園地の狂気を感じた。遊園地は一種の躁的な狂気をはらんでいるものなのかもしれない。普通に聴くと、サビの2拍目と4拍目の強打が気持ちよく、明るいサウンドで行進していくような楽しい曲。

サビのメロディーとサイケデリックなギターが心地よい#8「春の王国」。「夜汽車に揺られて」という歌詞に風情がある。

#9「夏のまぼろし」。爽やかに吹き抜ける風のようなこの曲は、例えるならば一服の清涼剤。背後で鳴り響くサイケデリックなギターが心地よい。

一曲目の「白いシャトー」を逆再生した#10「思い出か走馬灯」。ラスト曲「エバーグリーン」の前奏のような役割を果たす。

#11「エバーグリーン」。たゆたうみずみずしいサウンドは、まさにエバーグリーン!

■いつまでもエバーグリーンで

自称「気難しい系女子」の内田万里さんをフロントウーマンとするふくろうずは自己プロデュース(自分たちをどのように見せるか)が難しそうだ。自己プロデュースができていないから、実力があるのにこの位置に甘んじているともいえる。しかし、アイドル全盛になり、自己プロデュースがあふれる世の中で、自分をどのようにも見せず自然体でいるふくろうずの姿勢は貴重ともいえる。そんな彼女たちだからこそ、ハッピーエンドにもバッドエンドにもならない人生の曖昧さや複雑さを歌えるのではないか。

ふくろうずの過去の曲を僕はよく聴くが、ふくろうずの曲は全く色あせない。それは、ふくろうずが今の流行りではなく、普遍的なテーマである人生についていつも歌っているからだ。だからこそエバーグリーンな輝きを放つふくろうずの楽曲に、僕も自分の心を落ち着かせるのだ。


うららのla