【ライブレポ】ふくろうず@Liquidroom | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。

ライブハウスに着くと、『ベイビーインブルー』のジャケットがカラフルに色が変わるスクリーンをバックにしたステージが目に飛び込む。

会場でかかるSEを聴きながら待つ。フレーミングリップスみたいだな、とかドラムスみたいだなとか思って聴いていたが、自分の浅薄な洋楽の知識ではどのアーティストが歌っているのか全然分からなかった。かろうじて分かったのは、ビートルズの「Being For The Benefit Of Mr.Kite!」とClap Your Hands Say Yeahの「In This Home On Ice」。どの曲もふくろうずの音楽的なバックボーンの豊かさを感じられる選曲だった。それらの広範な音楽からの影響を「ただのJ-POP」に落とし込むふくろうず、やはりただ者ではない。(彼女たちは「ただのJ-POPバンド」を自称している。)

ライブが始まる前、僕は激しい後悔に襲われていた。500円と引き換えに渡されたドリンクチケットのピンバッジ、あれはふくろうずのグッズ的なものだったのではないかと。いつも通りホゲっとしていた僕は、いつも通りホゲっとしてピンバッジの表にある模様(文字?)も見ずに、ドリンクコーナーでそのピンバッジをコカ・コーラと引き換えてしまったのだ。もしかしたら、そのピンバッジにはふくろうずのマークや文字が書かれていたのではないかと後で思い起こし、コカ・コーラよりもプライスレスな物を僕は失ってしまったと後悔していたのだ。杞憂であることを祈る。(後日、杞憂であることが分かりました。)

僕の心は最悪なコンディションでふくろうずのライブは始まったのだが、ライブが進むにつれてそんなことは忘れて、ふくろうずのライブに夢中になっている僕がいた。

ライブは同期を用いた「ロストボーイフレンド」でスタート。ライブハウスがふくろうずの作り出す切ないサウンドで満たされていく。バックのスクリーンには歌詞が表示され、「忘れられない」の歌詞がスクリーンに何個も表示される場面で一気にその世界に惹き込まれていく。

その後の曲も素晴らしかった。自然と笑顔になれる曲、聴き手の思いを曲に重ねられて共感を呼ぶ曲、様々な曲の中でふいに訪れる素敵な瞬間に心が明るくなる。

メンバーの演奏も良かった。内田さんはもちろん、他のメンバーもかっこいい演奏を聴かせてくれた。

ベースの安西さんは指弾きもピック弾きもアタックが優しくて気持ち良くて、「フラッシュバック!」で魅せるスラップも心の快いツボを突いてくる。

石井ちゃんのギターもサイケデリックな音色でドープでかっこいい。今日のMCでレッチリでどの曲が一番好きか尋ねられて「Scar Tissue」と答えていた石井ちゃんだけあって、歌心のある陶酔的なギターサウンドだった。

サポートドラマーの張江さんの演奏も真上から強くスティックを叩きつけるようなスネアとシンバルの強打がクセになる。安西さんも張江さんのドラミングにぴったりと息を合わせ、コンビネーションもばっちりだ。

「マイアミ」ではループマシンを使ったり、「ドキドキ」では電飾メガネをかけたり、趣向に富んだステージだった。世間を賑わすSMAPや不倫の話題を優しいユーモアを交えてMCにしたり、いつもながらMCもクスクス笑えて面白い。

新曲も何曲か披露したが、どれも名曲。早くも次の音源が楽しみになる。僕が全く勝手に最高傑作扱いしている『砂漠の流刑地』を超える名盤が産まれるのではないかと楽しみでならない。

バンドをしていると得るものも多いが失うものも多い、バンドをしていると変な人間になってしまう気がするという内田さんのMC(←雑な聞き取り)を挟んで演奏された「クラクションベイビーインブルー」は感情がこもっていた。その後に演奏された「ごめんね」と併せて一つのストーリーを作り出した本編のラストは琴線に触れるものがあった。

本編が終わってメンバーがはけると、ネットでふくろうずがやっている番組「チャレンジ一年生」がスクリーンに映し出される。最終回の今回のシンガーソングマリは、内田さんもメンバーがソウルメイトと語るねごとの「ループ」と見せかけて、ふくろうずの「ループする」を演奏すると言い始める。

すると、内田さんが実際にステージに出てきて、「ループする」をピアノで弾き語り。内田さんのピアノにも歌にも演奏の強度があった。いつものほほんとしている内田さんの譲れない思いがあふれていた。

その後、内田さん以外のメンバーがB-BOYのつなぎ姿で登場。内田さんは着替えていないので、ステージ上で覆いの中で一分以内に早着替えすることになる。早着替えに間に合わなかったのか、内田さんは覆いから舞台袖にぴゅーっと走ってはけて、他の三人だけで「ハートビート」の演奏が始まる。そして、内田さんがつなぎ姿で舞台上に戻ってきてノリノリで歌い始める。

アンコールのラストは、「こんな茶番に付き合ってくれたあなたは……?」の掛け声で始まった「優しい人」。ふくろうずが表現したいのは、笑っている日常の中にある切実な思いや、切実な日常の中にある笑いなのかもしれないなと思った。

帰り際、ビーチボーイズの「Wouldn't It Be Nice」が客出しのSEでかかっていた。ビーチボーイズが洋楽のポップマエストロであるように、ふくろうずこそはJ-POPのポップマエストロ。今後も迷惑でなければ追いかけ続けます!