神聖かまってちゃん『夏.インストール』感想&レビュー(ミニアルバム) | とかげ日記

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■CD厨の前口上

神聖かまってちゃんは、ツイキャスやニコ動などのネット配信に重きを置いているバンドだが、僕はネット配信はたまにしか観ない。の子が一人でアップするデモ音源は熱心に聴くが。僕は彼らの作る音楽のファンだからだ。

それって、ファンの在り方としてどうなのか?と考えたりもするけど、僕はシングルもアルバムもフラゲ日に必ず買っているCD厨で、メンバーが夢にまで出てくるほどなのだから、こういう応援の仕方もあるとネット配信のファンには認めてほしい。

■本作の“熱”

狂気と正気の間を猛スピードで突っ走る神聖かまってちゃん。本作もすごいことになっています。

本作のトレーラーを聴いて、神聖かまってちゃんの狂気が失われてしまったと嘆く人たちがいる。だが、それは作品の仕上がりが以前に比べてハイファイでポップになった『8月32日へ』(2011年)から言われていることだ。ポップの中に忍ばせる狂気と憂鬱、独特な違和感は以前から何も変わっていない。

スターリンの遠藤ミチロウはステージ上で戦略的に過激なことをやっていたと週刊文春(2015年7月30日号 p.107)で語っているが、ライブだけでなく音源製作も含めての子の表現も同じく戦略的。だが、の子の表現は本当の魂の叫びも入り混じっていて、いわば半ガチなのだ。『夏.インストール』は熱い魂の叫びと、その叫びを俯瞰しつつマス(大衆)への訴求を狙った戦略性が併存するバランスの取れたアルバムになっている。そして、どの曲も曲の持つエネルギーが自由奔放に奔流している。

90年代イギリスを代表するバンドOasisがバンドの勢いは維持するものの、後半は曲の勢いが失速したのは、曲のアイデア不足に陥ったのみならず、初期衝動が失われてしまったためだと僕は思う。熱いコーヒーがいつか冷めてしまうように、熱は必ずといっていいほど失われてしまう。熱を持って生きることを歌うバンドの曲の勢いが失速するのは、大抵が初期衝動が失われてしまったからだと僕は見ている。神聖かまってちゃんは熱を持って生きることと死ぬことを歌っているのに、衝動が失われていない。中心人物のの子は自作MVやCD製作の他にも、自身のニコニコチャンネルで創作物を発表するなどその創作の意欲は少しも衰えることがない。

おそらく、その理由はの子の人並み外れたバイタリティと飢餓感にあるのだろう。鬱病を患っているのにも関わらず、の子の上昇意欲はとどまることを知らない。ラッパーのGOMESSに向かって「俺みたいな俗物になるな」とラップしていたのが印象的だったが、俗物としての上昇意欲と聖なる可憐さが共存しているのがの子なのだと僕は思う。

■おすすめ曲

本作の曲は原型となる曲が出来た時期が初期から最近までバラバラだが、本作に収録されている曲はそのどれもが神聖かまってちゃんの現在進行形として鳴り響いている。

簡単に全曲をレビューしよう。

オープナーは#1「きっと良くなるさ」。インターネットポップロックバンドを自称するだけあってポップでキャッチーなロックソング。明るい曲調と前を向く歌詞に小さく救われる人は僕だけではないはず。
#2ライトオンCMソング「僕ブレード」。本作で「drugs, ねー子」と並んで尖った曲。ギターとノイズの轟音がオルタナ好きの僕に直球で突き刺さる。
#3「そよぐ風の中で」。過去曲でいうと「雨宮せつな」とかああいった穏やかな雰囲気を持った曲。
#4「リッケンバンカー」。セカオワの深瀬さんに「の子は夏の歌を作るのが上手い」と褒められた曲。曲を作りながら通り過ぎていく青春と夏の景色を爽やかに描いている。
#5「たんぽぽ」。バイオリンの音色が美しい、神聖かまってちゃんらしい麗しさが表現された曲。の子の親父さんが好きな曲らしい。
#6は、ジャンクな電子音とボイスチェンジャーを用いたの子の声が聴き手の脳みそをほどよく混乱させる「drugs, ねー子」。
#7「ロマンス」。 歌詞を含めた表現は生々しくもあるが、それを典雅に包み込むピアノの音と珠玉のメロディーが極上の一曲。
ラストは#8「天文学的なその数から」。神聖かまってちゃんが全力で「ロマンチック」をやったらこうなる。感動的なこの曲が本作のフィナーレである訳だが、本作を聴いていると時間が短く感じ、その中で様々な景色を見せてくれることに驚かされる。
タワレコで本作を買うと特典でついてくる「僕の一等賞なんですっ!」は、躁的なシンセ音とボイスチェンジャーで変えたの子の歌声が特徴的な一曲。

■熱は伝播する

「ミネーシス」という言葉があるように、本物の熱は人に伝わり、模倣の表現を産む。本作の熱が導火線となって世の中に火をつけてほしい。の子は「革命」という言葉を使っているがまさにそれだ。多数派に溶け込めない少数派が反旗を翻す時がまさに来たのだ。

前作までの姿勢と違うのは、の子も含めたメンバーの売れようとする姿勢がより前面に押し出されるようになったことだ。本気で革命を起こす気なら、売れるために汗をかかなければいけない。僕も頑張っている彼らを心の底から応援したい。頑張れ、の子、みさこ、ちばぎん、mono!

少数派は多数派にくじかれる。だが、多数派も様々な側面で見れば各々が少数派なのだ。神聖かまってちゃんは、「みんな」の味方であると同時に少数派の味方でもある。見えない波に削り取られて負けそうな時は僕らは何度でも唱える。「きっと良くなるさ!」。


きっと良くなるさ