「死にたい」 | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。
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(孤独! 僕を締め付けるのはどこまでも広がる孤独だ!
 親は離婚し、毎日酒びたりの母から逃げるように僕は一人暮らし。
 人づきあいと言えば、アルバイトで他のバイトと通り一遍の挨拶を交わすだけ。
 誰からも飲みや遊びに誘われないし、こちらから誘う気力もない。
 一人きりでこれからも生きていかなきゃいけないのか。

 それに、世の中には面白いことなど何もない。
 僕を熱中させるものなど何一つない。
 音楽にも文学にも飽きてしまった。
 音楽を聴いても小説を読んでも、広がるのは灰色の世界。
 味気ない。僕は味覚を失ってしまったのではなかろうか?)

彼は「死にたい」とmixi日記に書いた。
4年前に入ったきり、ずっとほったらかしだったmixiの日記。
すると、翌日に彼の高校の先輩であるIさんからメールが来た。

「命短し恋せよ乙女だぜ。(美人かどうかは知らないが)彼女もいることだし、(それは実に素晴らしいことじゃないか)誰からも誘われない日は、(おれはむしろラッキーだと思ってるけど)一人でバルザックでもスタンダールでも(どちらもほんきで読んだことはないが)コーヒーを飲みながら読めば、25歳の男としては上等すぎるほど上等だと(うん、俺が勝手に思ってるだけかもしれないけれども、いや、世間的にみてもだと思うなやっぱり)思うぞ。ただ、芸術家を少しでも志すならば、(高杉晋作のように、)面白くなきこの世をおもしろく(するのが芸術の役割ではなかったか)ぐらいのことを言っても、いいのではないか?あまりにストレートすぎる(コーヒーに砂糖を入れるという行為をしないという意味のストレートではないが、あくまで)のは、レトリックが効いてないという点で、(本当にすぐれた詩人は、率直な表現がすでにもうアンビバレントであり、コンプレックスであり、レトリックなものではなかったか?)いけてないと思うぞ。心の微妙な振動がそのまま言葉になるように、(これはいいことを言い過ぎているのだろうか?いや、これぐらい言っても、罰はあたるまい)、そうなるように、詩人は(それは人間一般に当てはまることなのだろうが、ここはレトリックを考えて、あくまで詩人を主語にしておこう)生きていかねばなるまいぞ。」

(僕には、僕より年下の彼女がいる。
 その彼女はまあ彼女なんだけど、表面的な付き合いだよ。
 世間で恋人がするようなたわいもないおしゃべりをして、
 セックスをして、ただそれだけ。
 心の深い部分での結び付きなんてないんだ。

 「面白くなきこの世をおもしろく」?
 そういう心の持ちようみたいなのは嫌いだ。
 世界はこちらがどう思おうと、淡々と進行していくものなんだよ。)

彼は週末に恋人と会った。
彼は言った。

「俺、もうそろそろ死のうかと思っている。
 一応、君には言っておこうかと思って。」

恋人は言った。

「死んじゃだめ。私が悲しむ。」

彼女はそう言ってぽろぽろと涙をこぼして泣き始めた。
彼はひどくびっくりした。
自分がここまで彼女に思われているとは知らなかったからだ。

「分かった。死なないよ。」

彼はそれからも生と死の境目で何となく生きていた。
生きる意味も見出せず、孤独なままで。

それでも、世界は更新されていく。
彼にも何か楽しいことが見つかるのかもしれないよ?
世界が更新されるたび、
どこかの誰かの喜怒哀楽も更新される。

彼が死ぬ時、傍らには誰もいなかった。
自分の人生は良いものでも悪いものでもなかったが、
生きた、と彼は思った。