中村一義CDシングル 『運命/ウソを暴け!』 感想&レビュー | とかげ日記

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2012年2月15日に発売された、約10年振りとなる"中村一義"名義での新曲『運命』と『ウソを暴け!』が収録されたCDシングル。

デビューアルバム『金字塔』制作当時、中村さんはまだ21歳。
このアルバムでほぼ全ての楽器を演奏していた中村さんは、
『太陽』『ERA』とアルバムを発表するごとに、
楽器パートを他のプレーヤーに委ねていく。
仲井戸麗市,曽我部恵一,細野晴臣,岸田繁(くるり)…。
『ロックンロール』という曲ではブルーハーツの真島昌利も参加していた。
そして、その次のアルバムである『100s』では、
ロックバンド100sを結成し、自分はヴォーカルに専念して、
ヴォーカル以外のパートを他者に任せるようになる。

その後、この100s体制で『OZ』,『ALL!!!!!!』,『世界のフラワーロード』の
3枚のアルバムを発表した。
中村さんは100sのバンマスであり、キーボード担当の池田貴史と、
100s名義でアルバムを3枚は作りたいよね、と話していたらしい。
そして、3枚作り終えた今、中村さんはまた一人で活動を始めた。
(アルバム『100s』は中村一義名義でのアルバム。)

『運命/ウソを暴け!』を聴くと、また中村一義が戻ってきたという感触がある。
他者に委ねていた楽器パートをまた中村さんが一人で演奏し、
楽曲の中村濃度が濃縮されている感じだ。密度が濃い。
YouTubeのコメントにもあるように、
ジャンルは中村一義としか言えないサウンドになっている。

雑誌『MUSICA』では、
100sプロジェクトを動かすためのお金がないというようなことも言っていた。
だが、このシングルには、中村一義としてシングルを出す、
お金よりももっと大きな理由があることを感じる。
中村さんの中の大作志向がまた頭をもたげて、
一人きりで超大作を作ってみたくなったに違いないと思うのだが、どうだろう?
他のメンバーの意思が反映されない、自分の意思だけで作られた大作を。

『運命』はAメロからサビに至るまで極めてポップなメロディのアップテンポの楽曲。
ベートーベンのあの有名な旋律(ダダダダーン)が取り入れられている。
ベートーベンの旋律の取り入れ方には、
ベートーベンへの敬意も読みとれなくはないが、
それ以上にベートーベンと音楽で対話しようとする意思を感じる。
旋律のアレンジの仕方が上手く、ベートーベンに中村一義をぶつけてみた感じ。

サビでアッパーに歌われる「思い出せ!出せ!産まれていたことを。」という歌詞は、
僕らに向けて歌われていると同時に、中村さん自身を鼓舞する歌詞のように思う。
『金字塔』や『ERA』の頃の瑞々しい感情を取り戻そうとしているかのようだ。

『ウソを暴け!』は人懐っこいメロディの温かなロックバラード。
聴き手への敬意がある。自分だけに対して訴えかけられているような。
だから、サビの最後で
「お願い、お願い、お願い、
 ねぇ、どうか、君は君を消さないで。」
と歌われると気持ちよく心を揺さぶられるのだろう。

2曲とも、多くの人に聴いてもらいたい楽曲。
最近はロマン欠乏症だった僕にもこれは効きました。
生きがいがないと嘆いていた僕にも、
生きていく甲斐が世界にはまだ存在すると思える。

中村一義の楽曲には、魂がある。
僕が10代だった頃に、突き動かされるような衝撃を彼の楽曲から受けたように、
今の10代にも彼の楽曲が響くと嬉しい。


中村一義 / 「運命」