海馬とは
人間の脳には、目や耳にとらえた情報の中から、関心のある物を一時的に保管しておく場所があり、この場所は「海馬」というところで、ここは「記憶の引き出し」で、人は、この「引き出し」に入れておいた情報を、必要なときに随時取り出します。ところが、年を取り老化すると「引き出し」の容量が小さくなり、出しにくくなってくるために、「物忘れ」が起きると説明されています。
ところが、「認知症」では、この「引き出し」の容量が少なくなった段階を通り越して、「引き出しが無くなってしまった状態」を意味しています。
要するに、「物忘れ」と「認知症」の違いは、この「引き出し」の”容量の程度の差”に過ぎないものです。
この「引き出し」の容量が減少してくる原因にはさまざまなものがありますが、その多くは生活習慣の問題から引き起こされてきます。
このように、物忘れは「生理的現象」のほとんどの場合、心配することはないと、一般的には従来から問題にされることはなく、「物忘れ」と「認知症」とは厳然と区別されるとされてきましたが、「単なる物忘れ(良性健忘)」と「認知症」との区別は明確ではなく、”連続したもの”と考えなくてはなりません。
新しい記憶は海馬に、古い記憶は大脳皮質に
アルツハイマー型認知症になると、最初にダメージを受ける場所、それが海馬です。「海馬」は「記憶の引き出し」となる場所です。
では、なぜ海馬が損傷すると記憶障害を起こしてしまうのでしょうか?
大脳辺縁系の一部である海馬はタツノオトシゴのような形をしています。海馬は人間の脳のなかでも非常に重要なところです。
人間が人間としての生活を送るために、生物が生きていくために必要な器官で、形、匂い、音などに関連した様々な情報を取りまとめて、物事を記憶する仕組みに重要な役割を果たしています。
日常的な出来事や勉強などを通して覚えた情報は、海馬で一度ファイルされて整理整頓されます。
その後、必要なものや印象的なものだけが残り、大脳皮質に溜められていきます。
つまり、私たちの脳の中で新しい記憶は海馬に、古い記憶は大脳皮質にファイルされているのです。
ですから、海馬が正しく働かなくなると、私たちは新しいことをうまく覚えられなくなってしまいます。
つまり、昔のことは覚えていても、新しいことはすぐに忘れてしまうのです。
アルツハイマー型認知症の方が、ついさっきのことを忘れてしまうのはこのためです。
睡眠と記憶
眠っているときに記憶は固定される
海馬の神経細胞が活性化すれば、当然、記憶力や暗記力が高くなるということになります。しかし、それはとりあえず、短期的な記憶です。
それを覚えておくためには、短期記憶が長期記憶にきちんと移行されて収められなくてはなりません。
海馬の中の一時記憶は、時間の経過とともに大脳皮質全体のいろいろなところに移し換えられていくのです。
ですから、海馬の大切な役割はとりあえず短期の記憶を蓄えて、その記憶を長期記憶に移していくことです。
短期記憶の記憶が長期記憶に移行され固定されるのは、睡眠中と考えられています。
眠ることによって、昼間の必要のない記憶を消して、大事な記憶だけを残すのだろうというのです。
睡眠時間が極端に多い人や少ない人、不規則な睡眠時間の人は、高齢になった時に記憶障害が生じやすいことが分かっています。
また、若いうちに質の良い睡眠を十分に確保し、海馬を発達させているかどうかが、アルツハイマー型認知症になった時の記憶障害の進行スピードにも影響すると考えられています。
不規則な生活・・睡眠不足
前回は「ミトコンドリアの機能の低下」に対する対策として、生活習慣では、「規則正しい生活」を心掛け、睡眠を十分にとり、運動不足にならないことと述べました。
規則正しい生活がなぜよいのかは、睡眠の質がアップすることにあります。不規則な生活をしていると体内時計が狂ってしまい、夜きちんと眠くならなかったり、寝ても疲れが取れなかったりということが起こります。
睡眠時間が十分とれなかったり、睡眠の質が下がってしまったりすると、体にさまざまな不調が起こる可能性があります。
逆に言えば睡眠の質がアップすることで不調が改善され、さまざまなよいことがある!ということになります。
また、認知症の人は、睡眠や排泄などの生活リズムが乱れると、身体の不調が原因で症状が悪化することがあります。
良質な睡眠がとれるように、日中は適度に身体を動かすことを心掛け生活のリズムを整えることが大切です。
それでは、なぜ十分な睡眠が必要なのでしょうか?
それは、活性酸素等で傷ついたミトコンドリアの修復は寝ている間に行われるため、その修復には睡眠が不可欠です。
もしその傷が大きければそれだけ長い睡眠が必要になります。
そうなのです、必要とされる睡眠時間は状況によって大きく変わるのです。例えば1日中テレビを見たり本を読んで過ごした日は6 時間の睡眠でいいかもしれませんが、殴り合いのケンカで死にそうになった日は15 時間でも足りないかもしれません。
起きている間の活動で細胞が傷つき、寝ている間にそれを修復します。しかし前述したように完全には修復できないため徐々に傷が蓄積し、それが致命的な状態にまで達したときお迎えが来るわけです。つまり起きている間にできる傷が大きいほど睡眠時間は長くなって寿命は縮むのです。
生活習慣に問題があるとか、ストレスをためているために、活性酸素等で傷ついたミトコンドリアを修復させるために、自然と睡眠時間が長くなりますが、過大なストレスにさらされている状態が持続していれば、傷ついたミトコンドリアは、長時間睡眠をとったにも関わらず、完全には修復されません。
こうしたことから、日頃から「生活習慣の問題点を是正」し、「ストレスを貯めないための対策」が必要となってきます。
このため寝不足は”論外”ということになります。
嫌なこと、辛いことを眠って忘れると言うように睡眠中には心の修復、記憶(情報)の整理までもが行われています。
記憶が整理され、定着するのは、深い睡眠中です。このため、睡眠が十分でないと、記憶の効率が悪く、学習機能は向上することはありません。このことは、物忘れを自覚した段階で念頭に置くべきことです。認知症まで進展した場合でも同様に言えることです。
睡眠中に分泌されるホルモンの役割
夜、眠りについてから朝起きて活動を始めるまでに、体の中ではさまざまなホルモンが分泌され、大切な働きをしています。
ノンレム睡眠中には、新陳代謝を活発にする成長ホルモンや免疫細胞同士の情報伝達の役割をするサイトカインなどが活発に分泌され、病原菌に対する抵抗力が強化されたりします。
成長ホルモンは22時頃から活発になり2~3時頃にピークを迎えます。「寝る子は育つというように」、睡眠の深い子ども程たくさん分泌され、子どもの成長に重要なホルモンですが、大人にとっても体の修復に欠かせません。たんぱく質や骨などを合成する働きの促進、疲労回復、リンパ球の働きを活発にさせて傷の修復、お酒を飲んで代謝に使われた肝臓細胞の再生など、細胞を活性化させ、体全体のダメージを回復するホルモンです。
女性にとってもこの4時間は、お肌のゴールデンタイムといわれ、肌の生まれ変わりが最も活発になり、熟睡によって皮膚の新陳代謝が促進され、肌がみずみずしく、つやつやしていきます。
それでは、睡眠時間に関して最近一番よく聞くのが、6時間半~7時間半くらい、つまり平均して7時間くらいが良いということです。従って11時頃就寝し、6時頃起床するのが理想的と言われています。この点に関しては、本人にとって適正な時間であれば十分であり、それよりは起床時間と就寝時間を一定にさせることが最も大事な点です。
適切な睡眠時間は、各人によって異なっていることを理解され、睡眠時間を適正に確保し、起床・就寝時間を一定にすべきです。これが最低限必要とされています。
とくに、仕事の関係で十分な睡眠時間が確保できない状況においては、最低限、朝の起床時間を一定にする必要があります。
以上、睡眠は、健康的な生活を送る上、さらに認知症を予防する上で、極めて大切であるかが理解して頂けたかと思います。
とても興味深い発表がロチェスター大学の研究チームでなされています。それによると睡眠不足が認知症を招く原因の1つと発表しています。脳にたまった老廃物は睡眠で有毒な物質を掃除しているというのです。
研究チームは、特殊な染料をネズミの脳の周りを流れる脳脊髄液に注入し、覚醒時と睡眠時で染料の移動スピードがどう違うかを調べた。すると睡眠中、脳の活動自体は減少しているのに、脳脊髄液の中における染料の移動は覚醒時よりも多くなったというのです。
実際には、人間の脳の周囲を流れているのは染料ではありません。ベータアミロイドというタンパク質の一種です。ベータアミロイドは長い年月の間に蓄積され、アルツハイマー病の原因となると考えられています。
これが脳から除去されないと、だんだんと経路が詰まってニューロンの伝達システムが崩壊してしまいます。そしてベータアミロイドの蓄積を防ぐ唯一の有効な手段が睡眠だ、というのが専門家の見方です。
つまり睡眠不足は大きな認知症リスクだということです。
「睡眠時間が短いと肥満になりやすい」ということが報告されています。
確かに起きている時間が長くなると、ついつい食事や夜食の回数が増えてしまいがちです。
ただ、その「つい食べてしまう」行動自体が睡眠不足によるものってご存知でしたか?
睡眠不足が食欲増進につながるということを示したこんなデータがあります。健康成人男性1,024名を対象に、睡眠時間と食欲に関するホルモンの関連を調べた報告によれば、睡眠時間が短くなると、レプチン(食欲抑制ホルモン)の分泌が低下して、グレリン(食欲増進ホルモン)の分泌が増えることが示されています。
つまり、睡眠時間が短いと食欲に関するホルモンのバランスが乱れて食欲が増進してしまい、肥満につながりやすいと考えられます。
また、別の研究では、健康な20代男性12名を対象に、4時間睡眠で2晩過ごした後と10時間睡眠で2晩過ごした後で、食欲に関するホルモンの変化と食べ物の嗜好について調べています。
その結果、4時間睡眠で2晩過ごした後は、10時間睡眠の後に比べ、レプチン(食欲抑制ホルモン)が低下して、グレリン(食欲増進ホルモン)が増えており、実際に空腹感や食欲も増えていました。
さらに興味深いことに、4時間しか睡眠がとれなかった後は、10時間睡眠の後に比べ、ケーキやクッキー、アイスクリームなどのスイーツや、ポテトチップスやナッツなどの塩気の強いもの、パンやパスタなどの炭水化物が食べたくなるという傾向がみられました。
睡眠不足で食欲増進、さらにスイーツや炭水化物が食べたくなる…睡眠不足は肥満の大敵といえそうです。
グレリンとは
グレリンとは胃から分泌されるペプチドホルモンで、その働きは二つあります。
1 食欲を増進させる
2 成長ホルモンの分泌を促進する
グレリンが分泌されるのは、お腹が空いたときです。
お腹が減ると胃からグレリンが大量に分泌され、脳に「お腹が空いたから何か食べなさい」と指令を出します。
同時に成長ホルモンの分泌も促すので、グレリンが分泌されている時は成長ホルモンの分泌も活発になっているのです。
「たくさん食べると大きくなるよ」と言われているのは、グレリンが作用し食欲が増進することで、成長ホルモンの分泌が活発になることが関係しているためで、実に理にかなったことなのです。
グレリンが老化防止のカギを握るというのは、食欲増進作用の方ではなく、成長ホルモンの分泌促進作用の方にあるのです。
では、なぜ成長ホルモンが若返りや老化防止のカギとなるのでしょうか。
若返り・老化防止と成長ホルモン
若返りや老化防止に成長ホルモンがなぜ重要でしょうか。
成長ホルモンは文字通り、成長に関するホルモンで骨や筋肉の発達に関わっているホルモンです。
しかし成長ホルモンにはもう一つ、とても重要な働きがあるのです。それは「代謝」と呼ばれる、人間の体にある物質をエネルギーに変える働きです。
代謝は、食べ物をエネルギーに変えて体を動かしたリ、古くなった細胞を排出して新しい細胞を作り出したリ、人間が生きていくうえで必要なすべての活動のことです。
成長期の子供に成長ホルモンが必要なのはもちろんですが、このように代謝をつかさどるホルモンなので成人した大人にも必要不可欠なものなのです。
・成長ホルモンが出なくなるとどうなる?
成長ホルモンが出なくなると、人はどうなってしまうのでしょうか。成長ホルモンは代謝にかかわるホルモンであり、代謝は人間のあらゆる健康にかかわっています。
成長ホルモンが十分に分泌されていないと、次のような症状になって現れてきます。
コレステロール値の上昇
心疾患(心筋梗塞や狭心症)
動脈硬化
糖尿病
成長ホルモンは、脂肪の分解をしたり、血中コレステロールを下げたりする働きがあります。
このような健康被害は、成長ホルモンが十分に分泌されていないことでリスクが高まる可能性があるとされているものです。
病気もそうですが、成長ホルモン不足は見た目の老化にも影響します。
肥満
筋骨量の低下
肌荒れ
体脂肪、とくに内臓脂肪が増えるためお腹周りが大きくなります。
俗にいう、メタボリックシンドロームです。
また、骨は一度できたら一生モノではなく、日々代謝で生まれ変わっています。
成長ホルモンが足りないと、骨が弱くなり、骨粗鬆症や骨折しやすくなったり、また背が縮んでしまったりします。
筋肉が衰えてくると、運動能力が低下して動きが鈍くなったり、姿勢が悪くなったりしていきます。
さらに、肌荒れや肌老化にも成長ホルモンが大きくかかわっているのです。
皮膚の汗腺というところに成長ホルモンの受け皿があるのですが、成長ホルモンが少ないと汗腺までたどり着けず、発汗量が減ることによって皮膚がカサカサに乾燥してしまいます。
それに、皮膚はターンオーバーといって約28日サイクルで生まれ変わっていますが、ターンオーバーも成長ホルモンなくしてはできません。
成長ホルモンが少ないとターンオーバーの周期が長くなり、古くなった角質がいつまでも残ってしまうので見た目にはシワやくすみとなって現れ、「老けている」印象を与えてしまうのです。
成長ホルモンが不足すると、病気になりやすく、見た目的にも老化してしまうことがわかりました。
ですから成長ホルモンの分泌を促すグレリンを増やすことが、老化防止のカギになるのです。
・グレリンが細胞の老化をストップ! 記憶力UPにも
また、グレリンは記憶力の向上にも効果があります。
今から約10年ほど前、アメリカ・イエール大学ホーバス博士の研究で、グレリンが記憶力の向上に効果的と発表されました。
マウスを使った実験で、グレリンが脳の記憶をつかさどる「海馬」に作用して記憶力を高めることがわかったのです。
実験では、グレリンの投与で海馬のシナプス(神経細胞)が30%増大し、活動が活発になったということです。
このように、グレリンには食欲増進や成長ホルモン分泌促進だけでなく、いろいろな健康作用があることかわかります。
グレリンをたくさん分泌させる方法
ここまで、グレリンの老化防止効果について説明してきましたが、最後にグレリンをたくさん分泌させる方法を述べます。
・お腹を空かせる
グレリンは、空腹時に分泌されるホルモンです。
お腹がグゥ~っと鳴ったらグレリンが分泌されているサインです。お腹が鳴ったからといってすぐに何か食べるのではなく、しばらくガマンしてグレリンをたくさん分泌させましょう。
また、肥満の人はグレリンの分泌が少ないと言われているので、老化防止のためにも適正体重を心掛けるようにしましょう。
もう一つ、空腹になることによって細胞が若返るしくみを説明します。
私たちの体は約60兆個もの細胞が集まってできていますが、その細胞一つ一つにミトコンドリアというものが存在しています。
ミトコンドリアは細胞の中でエネルギーを作り出し、若さや元気の源になるもの。
ミトコンドリアは、エネルギーが不足している時や、もっとエネルギーが必要な時に活性化して増殖します。
ですから空腹時というのは、ミトコンドリアが増殖するうえ、グレリン分泌も活発になるため、細胞から若返るのには最適な環境といえるわけです。
老化防止ホルモン「グレリン」
グレリンの主な働きは食欲促進作用であるため、一見すると老化防止とは真逆のようですが、実はたくさんの老化防止・健康促進作用があることがわかりましたね!
グレリンをたくさん分泌させる方法も、「お腹が空いた状態を維持する」だけなので簡単です。
今日からグレリン分泌を意識して、認知症防止、アンチエイジングを心がけましょう!
このように認知症を予防するには、生活習慣では、「規則正しい生活」を心掛け、睡眠を十分にとることが極めて重要になっています。
生活習慣の乱れ → 体内時計の乱れ
↓
肥満
↓
生活習慣病 → 認知症へ
体内時計とは
体内時計とは、私たち自身のからだ、臓器や器官がそれぞれもっている時計で、地球の自転(24時間)とは1時間ずれ、体内時計は1日25時間といわれています。この時間を調整し、地球の自転とあわせてくれているのが”朝陽”なのです。ですから、放っておくとリズムが崩れ、生活リズムが乱れていきます。そのリズムをもとに戻してくれるのが「朝陽」なのです。また、太陽の光は、脳の中にある視交叉上核から松果体を刺激し、セロトニンやメラトニンというホルモンをつくってくれます。
このふたつのホルモンは、ミトコンドリアの天敵「活性酸素」を除去する働きがあります。メラトニンは睡眠ホルモンとして、セロトニンは心を鍛え、バランスを整えるホルモンとして、有名ですが、この二つとも、ミトコンドリアにとって天敵の活性酸素を除去する働きがあります。
活性酸素は、細胞を傷つけたり壊したりする働きがありますので、ミトコンドリアだけでなくからだにとっても天敵です。朝陽を浴びることは、この活性酸素を減らすホルモンをだす効果もあるのです。
セロトニンは、太陽の出ている日中に分泌されやすく、睡眠中は日が沈んでからは分泌が少なくなります。これはメラトニンの働きと関係していますが、人間が本来持っている生活リズムは『日中に活動し夜は寝る』と言うもので、この原則を守ることがセロトニン神経の活性化に効果的だと言われています。
このため、早寝早起きの規則的な生活を心がけることが大切になってきます。
セロトニンは、睡眠ホルモンであるメラトニンと相対する性質があります。
セロトニンは脳の覚醒を促し、メラトニンは睡眠に作用します。
メラトニンが分泌している間はセロトニンの分泌は少なく、逆にセロトニンが多く分泌されている間はメラトニンの分泌は少なくなります。
太陽の光(のような非常に強い光・明かり)を浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌がストップし、代わりに脳の覚醒を促すセロトニンの分泌が活発化されるのです。
昼夜逆転の生活をしていたり、日中部屋の中にばかりいると、セロトニンとメラトニンの分泌のバランスが崩れ、不眠症になったり、認知症を悪化しやすくしてしまうのです。
毎朝日光を浴びる行為は、セロトニンを鍛えるだけで無く、生活リズムを整えることにもつながります。
できれば、紫外線が強くなる前の時間帯、日の出から8時までの間が良いでしょう。
時間は5分~15分ほどで構いません。両手を広げ、全身で朝陽を浴びてみましょう。
外に出るのが苦手な方は、カーテンを開け、部屋の中でも構いません。
全身に光を浴びることを意識し、できれば「気持ちいい~」と言葉に出してみましょう。
そもそも地球上のほとんどの生物は太陽のエネルギーなくては生きていけません。
この自然の恵みを全身に浴びることで、ミトコンドリアの遺伝子(DNA)のスイッチがオンになると同時に、脳の中では、視交叉上核というところが反応し、体内時計がリセットされます。
このように早起きをし、朝日を浴びる習慣を身につけましょう。
運動すると、なぜ認知症予防になるのでしょうか?
今まで、認知症の原因として一番有力視されていたのが「老人斑」。
これは、アミロイドβというタンパク質の一種で、脳の中にできるシミのようなものです。
ところが、原因はそれだけではないことがアメリカ・ミネソタ大学の研究で分かってきました。
認知症の人と、そうでない人の脳を死後解剖して観察したところ、脳に老人斑がかなりできていても、生前、認知症を発症していなかった人が3人に1人いたそうです。
脳の働きをよくするのに重要なホルモンは、いくつか知られていますが、その中でも一番重要といわれるのが、BDNF(脳由来神経栄養因子)です。
このタンパク質の一種「BDNF」が脳内に多いと、海馬が大きくなり、老人斑があっても、認知症を発症しなかったというのです。
通常は、加齢とともに、BDNFレベルは下がっていきます。
アルツハイマー病の脳の海馬は、このBDNFレベルが非常に下がってるのが特徴です。
BDNFレベルが下がると海馬は萎縮していきます。これが、アルツハイマー病の引き金となります。
反対に、脳内にBDNFが増えると、神経細胞の破壊が止まり、海馬が大きくなっていき、記憶の減退やアルツハイマー病の発症を防ぎます。
これほど素晴らしい作用をもつBDNFですが、ナント!運動によってBDNFが増えることが分かったのです。
米国カリフォルニア大学のカール・コットマン教授は、ネズミのカゴに車輪を入れて、1週間ネズミを毎晩走らせました。走ったネズミは、走らなかったネズミに比べて記憶力テストで頭が良いことが分かりました。
しかもネズミの海馬を比較すると、運動したネズミはBDNFレベルが上がっていたのです。ネズミは、走る時間が長くなるほど、BDNFレベルも上昇していました。
このネズミの実験で、運動によってBDNFが増えることが分かり、その後、人での研究も進み、次のことが分かってきました。
★人間の脳内のBDNFを増やす方法
1.適度の運動(有酸素運動)
2.頭を使うこと
上記の2つを組み合わせて行なう運動が、たとえば暗算(100から3を引き算)しながらの早歩きや、音楽に合わせての軽い運動になります。
日常生活で身体を動かすことが認知症予防
ウォーキング(早歩き)、ジョギング、サイクリングなどの定期的な運動は、認知症予防に効果的ですが、日常生活でのこまごまとした動作も、それぞれの小さな動きが積み重ねられることで、認知機能が高まります。
米国の80歳代の健常な高齢者500人に、腕に特別な装置を10日間つけてもらい、1日の活動量と認知機能テストとの関連性を調べました。
すると、1日の総活動量が高いほど、認知機能テストのスコアが高かったのです。これは年齢、性別、体重などに関係なく同じ結果でした。
この結果から日常生活での小さな動きであっても、それが積み重なれば、運動と同じ効果を脳にもたらすということが分かります。
有酸素運動で認知症予防
認知症を予防する方法として、有酸素運動が有効視されています。
ここでは、年齢に関係なく適度な負荷で手軽にできる有酸素運動と認知症と関係について説明します。
有酸素運動とは
有酸素運動とは、読んで字のごとく呼吸により酸素を利用して行う運動のことを言います。運動の強度自体は強くありませんが、継続して筋肉を動かし、そのエネルギーを生み出す材料として酸素が使われるのです。つまり酸素を取り入れた運動、強度が弱い持続的運動が有酸素運動だということです。
一般的に知られている有酸素運動の効果は、体脂肪燃焼によるダイエット効果ですが、それだけではありません。血流を促進することによって、脳の機能向上、目の健康維持、心疾患予防、うつ病予防にも効果を発揮することが分かっています。具体的な有酸素運動とは以下の通りです。
・ウォーキング
・ジョギング
・水中ウォーキング
・水泳
・ヨガ
・踏み台昇降運動
・エアロバイク
有酸素運動が与える認知症への効果
有酸素運動は、認知症の予防にも効果を発揮します。
米イリノイ大学の研究チームのデータによりますと、有酸素運動は脳機能の低下を防ぎ、脳を若く保つ働きがあることが明らかにされています。
有酸素運動を行う事で持続的に酸素を体内に取り入れる事こそが、認知症予防に有効とされる理由です。酸素は血液によって運ばれ、その血流増加は脳にも派生し、脳の血管に新鮮な酸素を含んだ血液が送り込まれます。
脳内の血液が豊富になる事によって、脳の神経細胞であるニューロンが新しく作られます。そして、神経細胞同士を結び付ける働きを持つシナプスは脳機能に非常に重要であり、酸素が多く脳に送られると事で活発に働き、記憶力を増強させるのです。
また、脳内の血流増加により、傷ついて機能しなくなった毛細血管の代わりに新しい毛細血管も作られていきます。
そうすることで、脳の記憶を司る海馬の脳内ネットワークがうまく機能しなくなることで起こる認知症を予防することが出来るのです。
有酸素運動の取り入れ方
認知症予防に行う有酸素運動は、まずは1日10分程度の時間で気分転換になりそうな軽いものから始めましょう。
例えば、ウォーキングなどを行うのもたった1人で行うのではなく、出来ればご家族や友達と会話をしながら歩くことが有効です、会話をすると、その分負荷がかかり酸素を多く身体に取り入れる事が出来るからです。
また、外に出て歩くことで、周りの景色が変化し、それに合わせて目から入ってくる情報を脳が判断する為に働くという効果も見込めます。
慣れてくれば、毎日ではなく週に2~3日1回約30分の有酸素運動を取り入れて行きましょう。
筋トレで認知症予防
筋肉を動かすことは、脳の神経伝達をスムーズにし、かつ海馬の神経細胞を新しく作ることが出来ます。ここでは筋トレについて説明します。
筋トレと脳の関係
筋トレを行う事は身体を健康に保つだけではなく、脳をトレーニングすることにも繋がります。これは脳と筋肉との関係を知れば分かります。
私たちが身体を動かす時に筋肉に指令を出しているのが脳なのです。また、運動をした後に感じる筋肉痛は、逆に筋肉からの電気信号が脳に神経回路を通じて送られているのです。
つまり、筋肉を動かしてやる事で、脳内の神経細胞であるニューロンからの情報伝達機能が繰り返し使われることとなり、脳のトレーニングへと繋がるのです。
また、記憶を司る海馬は65歳を超えると1年で約1%萎縮し、その機能が減少してしまうと言われています。
しかし、筋トレを行う事で血流が促進され、海馬内の神経細胞が新しく作られ、かつ海馬が大きくなったというデータもあります。
筋トレによって脳の伝達機能をトレーニングし、海馬内の神経細胞を常に鍛える事で認知症予防につなげる事が出来ます。
筋トレの効果
筋トレというと、若い子がするものというイメージを持たれがちですが、いくつになっても筋肉は鍛える事が出来ます。
まずは筋トレが持つ様々な効果について見て行きましょう。
・体幹バランスを保つ
年齢ともに失われがちな身体を支える中心部の筋肉をいつまでも元気に保つことが出来ます。また体幹バランスが崩れると、背中が曲がる圧迫骨折も起こりやすくなってしまうのです。
・骨粗鬆症予防
骨は適度な振動が加わることで強くなり、骨密度が上がります。カルシウムといった骨の材料の成分を取ることはもちろん、筋トレで骨に負荷を与える事で骨粗鬆症も予防できます。
・冷え症改善
筋肉が落ちてくると、顕著に表れてくるのが手足や身体の冷えです。冷えを感じるとますます動くことが億劫になる為、万病のもとと言われる冷え症を進行させてしまうのです。
簡単筋トレメニュー
・大腿四頭筋トレーニング
背もたれがある椅子に腰かけ、片足ずつゆっくりと膝を伸ばし、ゆっくりと元に戻します。これを1セット=10回連続して、まずは3セットを片足ずつ行いましょう。
これで鍛えられるのは太ももの前側の筋肉です。スクワットで鍛える方法もありますが、体重が膝にかかる分、膝への負担が大きくなりますので、この方法が優しく確実に鍛えられます。
少し負荷をかけるには、鍛える側の足の裏を床から浮かし、出来るだけゆっくりと曲げ伸ばしをしましょう。また、より効果を出す為には、鍛えている筋肉を意識することと呼吸を止めない事です。
どこの筋肉を動かしているかという事に集中することでより、脳からの神経伝達がスムーズになります。また、呼吸をしながら鍛える事で脳にも筋肉にも酸素を送ることができ、より効果が高まります。
下半身には全身の筋肉の約3分の2が集中していますので、この方法を用いて無理なく脳トレへと繋げましょう。
運動の認知症予防効果
適度な運動は、脳の老化を食い止め認知症を予防します。
・運動は、軽い運動(有酸素運動)でOK!
・少し息があがるぐらいの早歩きのウォーキングなどを1日30分程
・週3~4回するのが理想的。
・簡単な暗算をしながらの早歩きなど、2つのことを同時にやりながらの運動が効果的。
・音楽に合わせて身体を動かすのも効果的。
・その他にも日常生活の中で、こまめに身体を動かすことも大切。
認知症予防に運動はどのくらい効果があるでしょうか?
認知症予防における運動の効果は、人を対象にした実験データによると、かなりの効果がすでに実証されています。
高齢者の方々に1年間軽い運動を行なってもらったところ、80%の人達に認知機能の改善が見られました。
また運動に音楽を組み合わせた音楽体操を1年間高齢者の方々に行なってもらったところ、運動のみの場合よりも、より高い認知機能の改善が見られました。
音楽に合わせて運動をすることは、音楽のリズムやテンポを理解し、自分の身体を音楽に合わせて動かし、さらに音楽に身体の動きが合ってるかどうかを即時に判断しなければいけないので、複雑な脳の働きを必要とします。
このように運動だけでなく、運動と同時に他の思考回路も使うほうがより高い認知機能を得られるといいます。
また運動の種類と時間については、10分間ほどの軽いウォーキング(有酸素運動)でも脳の認知機能が高まることが分かっています。
ウォーキングの場合、息が少し上がる程度の速さで、しっかりと心拍数が上がることが大切です。