現在の片頭痛治療方針では、発作急性期には各種のトリプタン製剤を使い分け、発作間歇期には各種の予防薬を”適切に”選択すべきとされ、これで片頭痛の治療体系は確立されたとされています。
一方、緊張型頭痛では、原因不明とされることから、筋弛緩薬、抗不安薬、血流改善薬の3種類の薬剤が処方されるのが一般的です。
このように「薬物療法」がすべてであり、慢性頭痛という辛い痛みだけを軽減・緩和させることに主眼が置かれ、このようにしておれば、片頭痛では、いずれ3割前後の方々は治癒していくとされています。
このようになるようにしかならないといった、”ケセラセラ”ということを意味しています。片頭痛が治ろうが、治るまいが関係なし、というのが本音です。
ですから、片頭痛の特効薬とされるトリプタン製剤を、いくら片頭痛発作時に毎回服用しても、一般的には全体の3割の方々は、片頭痛は悪化し、慢性化してきます。
なぜ、このような結末に至るのかは、これまでも述べてきました。
忘れた方は、後戻りして、読み直して下さい。3割の方々は悪化の道を辿ります。
このように、これまで”慢性頭痛”治療の世界では、各種の諸々の薬剤によって、ただ単に”頭痛という痛み”さえとれば、これで”一件落着”(万事が解決した)と安易に考えられてきました。
すなわち、従来から、頭痛があれば、まず市販の鎮痛薬を、これでダメなら病院での鎮痛薬NSAIDs、これで効かなければエルゴタミン製剤を、これでも効かなければトリプタン製剤が勧められてきました。このように段階的に、”鎮痛薬”の服用が推奨されてきました。そして、最後の”砦”とされるトリプタン製剤は、片頭痛の”特効薬”とされてきました。
ここに現代の片頭痛患者さんの悲劇の根源があることを認識しておかなくてはなりません。
西洋医学では、片頭痛を”治す気は全くない”というのが本音です。
実際、トリプタン製剤は確かに鎮痛効果は優れています。しかし、これをいくら飲まれたからといって、片頭痛そのものが根本的に治ってしまうことはありません。
大半の方々は、一生、トリプタン製剤のお世話にならなくなっているのが実情で、結局、頭痛を起こす原因に対処していないためこのような結果になっているということです。
現在、使われているトリプタン製剤や予防薬はあくまでも”補助的手段”でしかなく、”対症療法”でしかありません。
この点が最も大切なことであり、”くすり”さえ飲んでおれば、片頭痛が治ってしまうことはなく、トリプタン製剤は片頭痛の”特効薬”でも何でもないことを、まず認識しておくことが重要です。
最も大切なことは、片頭痛が”生活習慣病”であるということです。このことは、これまで述べてきたことです。このため、あなたの片頭痛がどのような生活習慣の問題点から起きてきたものかを確認し、これを是正・改善しなくてはならないということです。
頭痛が起きてしまえば、当然のこととして、たちまちは鎮痛薬を飲みを緩和させる必要があります。しかし、毎回、このように痛みだけを緩和させて、治まればこれで全てが解決し、”一件落着した”と決して思わないことです。
最初に述べましたように、”日常的に感じる極く軽度の頭痛”が最初に起きた時点から、頭痛が起きた原因が存在します。
これに対して根本的な・抜本的な対処をしておきませんと、その後の生活習慣の問題点が次々に追加されることによって、頭痛そのものが複雑なものになってき、一筋縄ではいかなくなってきます。このことは、これまで述べました。
このような生活習慣の問題点を是正しながら”適宜”服用するのが原則です。
これを是正しながら、日常生活を送ることになりますが、まだ頭痛が再発するようであれば、なお是正しきれていない生活習慣の問題点が残っていることを意味しています。
こうしたことから、さらに残された生活習慣の問題点を是正していく必要があります。
そして、どの鎮痛薬であれ、服用する際の原則は、痛みが出現すれば直ちに服用することです。我慢して、服用が遅れれば、その効果が得られなくなってしまいます。服用する以上は、頭痛の起こり始めの早期に服用しなくてはなりません。
そして、このような鎮痛薬の服用は”月10回以内”になるように努力・工夫しなくてはなりません。これ以上を何ヶ月も継続されますと、薬剤乱用頭痛を併発してくることになり、いくら服用されても鎮痛薬の効果が得られなくなり、極めて厄介な状況を作ってくることになりかねません。
これまで述べたような対処を徹底されれば、まず、鎮痛薬は必要はなくなるはずです。 このような日常的に感じる極く軽度の頭痛の段階であれば、その要因はそれ程複雑なものではないはずです。このように初期の段階で、慢性頭痛の”芽”を摘み取ってしまうことが極めて重要になってきます。
慢性頭痛治療で、このことが最も大切で・重要なことです。
このように、生活習慣の問題点を是正させることとの謂わば”競争”のようなものです。
頭痛治療は、こうした薬剤乱用頭痛との戦いともいえるものです。
そうしませんと、市販の鎮痛薬→病院の鎮痛薬→エルゴタミン製剤→トリプタン製剤へと次第に強い鎮痛薬に変更せざるを得なくなり、最後のトリプタン製剤にまで行き着くことになり、最後のトリプタン製剤によって薬剤乱用頭痛に陥れば、もう服用する鎮痛薬はないことになり、一生、頭痛地獄の辛酸を舐めることになってしまいます。
このようになるまでの間に、生活習慣の問題点を是正しなくてはなりません。このような競争をしなくてはならないということです。これが、お薬を服用する際の原則です。
このことは、次で述べる”予防薬”を服用する際にも当てはまり、まったく同じ考え方で服用する必要があります。
最近、市販の鎮痛薬も各種のものが新たに工夫が施されたものが多数開発されてきましたが、こうした新薬ほど、これまでになかったものであることから、私達の体にとっては、これらの薬剤は、つい最近まで人類の体内に入ることはなかった物質(異物)なので、体は”異物・毒”と理解してしまうのです。
そして、異物を解毒しようと、ある酵素を出します。この酵素が働く過程でも、活性酸素が発生してしまいます。
このようにして、ミトコンドリアを弱らせる結果となり、頭痛を増強させてくることになります。結果的に、薬剤乱用頭痛を併発させることになります。
トリプタン製剤
トリプタン製剤は、片頭痛を持つ”多くの”(すべてではありません)患者さんに対して、非常に効果があります。
トリプタン製剤を治療で使う場合、口から飲む経口薬(頓服)、シュッと鼻から吸収する鼻吸入タイプ、皮下注射という3つの方法があります。注射が最も効き目が早く、打って 10 分もすると頭痛が治まってきます。次に早いのが鼻吸入タイプで 15分ほど、頓服の場合は1時間ほどで効き目が現れます。
注射器タイプのトリプタンをいつも持っていて、痛くなったら自分で注射する患者さんもおられます。
片頭痛ではほとんどの場合、痛くなったときにすぐに飲むことができるよう、経口タイプの頓服を処方します。激しい頭痛で吐き気があり、口から飲むことが難しい場合などは、鼻吸入タイプのものを使うこともあります。
頓服は水で飲みますが、水がなくても口にいれると溶けるタイプのものもあります。
トリプタンという薬は現在、4つの製薬メーカーから5種類発売されており、レルパックス、アマージ、イミグラン、マクサルト、ゾーミッグが現在日本では使えます。
この5種類のトリプタンは、どれも片頭痛に効果がありますが、飲んで素早く効果の出るもの、効きめが長く持続するものなど、それぞれ少しずつ異なります。
そして、個々の患者さんとの相性や好みがあります。このなかで1種類だけ服用されて効かない場合、トリプタン製剤は効かないと即断せずに、別の種類を試してみて、自分に最もよく効くトリプタン製剤を見つけておくことは大切なことです。そうされませんと、いつ激しい頭痛に襲われるのかという不安をもつことになり、生きた心地がしません。
それと、同時に行うべき、「生活習慣の改善」に落ち着いて取り組めないことになります。
トリプタン製剤は、これは明らかに片頭痛である、という頭痛が起きたときに飲みます。
風邪をひいたときの頭痛に飲んでも効果はありません。必ず、片頭痛のときに服用します。またトリプタンも有効率 100%ではありませんので、体調などさまざまな状況によって、効かないときもあります。一度飲んで、2時間経ってもまだ痛みがあるか、酷くなっている場合には、もう一度飲むことができます。1日に飲んでも良いと言われている個数はトリプタンの種類によって異なり、2つまでのものと4つまでのものがあります。
ただし、頭痛が起きるかもしれない、と思って予防がてら毎日1錠ずつ何日か続けて飲む、というのは避けなければいけません。他の薬と同様、薬物乱用頭痛を起こすことになります。1カ月に6回以上激しい頭痛が起きてトリプタン製剤を飲むようであれば、主治医と相談して次に述べる”予防薬”を飲むべきでしょう。予防薬と併用することで頭痛の頻度が減り、トリプタン製剤の効き目も良くなります。しかし、片頭痛そのものが治ることはありません。
またトリプタン製剤にも副作用があります。服用してしばらくすると、胸の辺りが少しキュッと締め付けられるようになることがあります。これはトリプタン製剤の副作用で、患者さんの心電図などをすべて確認しても異常がないことがわかっており、全く安全なので心配ありません。5分か 10 分すると症状は消えます。
もう一つ注意が必要なのは、先述のように、トリプタン製剤服用のタイミングです。
服用のタイミングを間違えると、本来なら効く頭痛にも効かず、長い時間苦しむことになりかねません。
トリプタン製剤は、明らかに片頭痛だと思われる頭痛が始まったらすぐに服用するのが最も効果的です。日本人の場合、痛みにできるだけ耐えることを美徳とする傾向があり、痛みが始まってもなかなか鎮痛剤を飲まない患者さんも多いのですが、頭痛が酷くなってからでは、さすがのトリプタン製剤も効果が出ない場合があります。
トリプタン製剤は、「明らかな片頭痛の痛みが始まったら即座に」という最も効果的な正しい服用のタイミングを理解して戴き、患者さんは、我慢せずに、痛みが始まったらすぐに飲むこと。これが、患者さんの苦しみを減らし、決して安くないトリプタンという薬を有効に活用するためには、大切なことなのです。1錠、1,000円もする高価なおくすりですから・・・。
トリプタン製剤の作用機序
トリプタン製剤が片頭痛に効果があるのは、頭痛が起きる仕組みの根幹部分に作用しているためです。片頭痛にはセロトニンという物質が大きく関わっています。セロトニンは神経伝達物質のひとつで、感情のバランスを安定させる役割を持ち、血管を収縮させます。”ストレスなど何らかの理由”でセロトニンが分泌され、収縮した血管は、役割を果たして減少するにつれて今度は拡張します。
血管が拡張することによって血管に絡みついた三叉神経が刺激され、頭痛が起きる、というのが一つ。
さらに、三叉神経が刺激されると、サブスタンスPやCGRPなど炎症を起こす物質が分泌され、血管を刺激して痛みが出てくる、というのが一つ。
この二つが片頭痛が起きるメカニズムです。
このように血管の収縮と拡張に大きく影響しているセロトニンですが、トリプタンという薬は、セロトニンと同じような作用を持っています。そのためセロトニンの代わりに血管を収縮させ、拡張によって三叉神経が刺激されるのを防ぎます。
さらにセロトニンは三叉神経に取りついて、痛み物質のサブスタンスPなどが分泌されるのを抑制する役割がありますが、ここでもセロトニンの代わりにトリプタンが三叉神経に取りつき、サブスタンスPなどの分泌を抑制して痛みが出るのを防ぎます。
このようにトリプタンは脳の中でセロトニンとして働き、血管を収縮させ、サブスタンスPなどの分泌を抑制する、という2つの役割を果たすことにより、片頭痛の起きる原因そのものを排除します。つまりトリプタンは、片頭痛という病気のより本質に近いところに作用して痛みを取るため、効果が高いというわけです。
このように、頭痛が起きる仕組みの根幹部分に作用していることから、トリプタン製剤が片頭痛の”特効薬”とされてきました。
基本的に、片頭痛発作時には、セロトニンと呼ばれる神経伝達物質が減少あるいは機能が低下しており、片頭痛発作の時に、脳内セロトニン様作用をもつトリプタンを投与することによって、機能低下状態に陥っているセロトニンをバックアップしています。
ところが、肝心要の「(脳内)セロトニン」が片頭痛の場合どうして低下してくるのかが現在では、専門家の間では、全く不明とされてきました。
しかし、片頭痛はミトコンドリアの機能が低下するために起きる頭痛です。
ミトコンドリアの機能が低下すれば、同時にセロトニン神経系の機能は低下し、生活習慣の不規則・ストレス・生理周期や、“小麦、乳・乳製品、肉食に偏った食事”をとり続け、“運動不足”が重なると「脳内セロトニンの低下」が引き起こされてくることによって発作が起きます。
片頭痛はミトコンドリアの機能が低下するために、片頭痛発症の根幹には「酸化ストレス・炎症体質」というものが存在し、このために、活性酸素や遊離脂肪酸が過剰に産生されやすく、このため血小板凝集が引き起こされ、これが引き金となって血小板から”生理活性物質”であるセロトニンが放出されることによって、片頭痛発作に繋がっていきます。
「トリプタン製剤による薬剤乱用頭痛」
苦しい頭痛という痛みだけをトリプタン製剤で取り除いても、ミトコンドリアの働きの悪さは厳然として存在しており、その根底にある病態(「酸化ストレス・炎症体質」)は次第に増悪してくることになります。このことはこれまで述べたことです。
このため、自然と服用回数が増えてくることは避けることができません。このため、必然的に服用回数が増加して最終的には「トリプタン製剤による”薬剤乱用頭痛”」に至ります。このように片頭痛は悪化してきます。
現在のトリプタン製剤ですが、片頭痛の場合、効くひとには麻薬なみの絶大な効果を発揮するため、つい飲み過ぎに繋がってきます。トリプタン製剤は、大半は有効時間が短いため、片頭痛発作の持続時間が長いと、1回の服用で頭痛を抑制できずに、服用回数が増えざるを得ないという宿命にある薬剤で、市販の鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、エルゴタミン製剤より以上に ”薬剤乱用頭痛を引き起こしやすい薬剤”とされていますので注意が必要です。
さらに、多くの片頭痛では、緊張型頭痛に重なった形にあるため、トリプタン製剤では、上層にある片頭痛は改善されても、下層にある緊張型頭痛の軽い頭痛までは完全に無くすことはできません。このため、ひたすら”完全に”痛みをとろうと考えることから、服用回数が増えてくることになります。このため薬剤乱用頭痛を作ることになります。
このため、片頭痛診療の重鎮とされる名古屋の寺本純先生は、このような薬剤乱用頭痛の治療の難しさをこれまで訴えてこられ、特に”トリプタン製剤による薬剤乱用頭痛”を改善させる難しさを強調され、”従来の予防薬”(後で述べます)では全く効かないとされ、最近ではボトックス治療による方法を提唱されます。そして、先生は、トリプタン製剤による薬剤乱用頭痛からの脱却にはボトックス療法しか現状ではないとされます。
しかし、その有効率は、1年以内で80%であり、残りの20%は脱却できないとされています。このように、一旦、トリプタン製剤による薬剤乱用頭痛に陥れば、運が悪ければ、一生、頭痛で苦しむことを余儀なくされてしまうことを意味します。
まさに、頭痛地獄の絵図そのものということです。
参考までに、寺本先生の提唱される「ボトックス治療」は現在、保険適応はなく、トリプタン製剤による薬剤乱用頭痛から脱却する唯一の方法でありながら、簡単に・身近な医療機関では受けることは出来ないのが現在の日本の状況です。
ですから、一旦、トリプタンによる薬剤乱用頭痛に至れば、治すことは至難の業です。 こういったことから、生活習慣の問題点を改善・是正することなくトリプタン製剤を漫然と服用してはなりません。このことを肝に銘じておく必要があります。
エルゴタミン製剤
トリプタン製剤が出る前は、片頭痛にはエルゴタミン製剤という平滑筋を収縮させる薬(血管収縮薬)が主に使われていました。片頭痛は脳血管が拡張して起きることから、血管の平滑筋を収縮させて血管の拡張を抑えようとしたものです。
実際、この種類の薬剤には、カフェルゴット、クリアミン、ジヒデルゴット等があり、片頭痛に効果を持ち、長い間使われてきました。トリプタンが発売されるまでは、エルゴタミンは片頭痛治療の中心的な薬剤でした。
エルゴタミンは麦角アルカロイドの一種です。血管を収縮させる作用があり、片頭痛には広く用いられていました。しかし少量では若干効果が弱いので、同じように血管を収縮させる作用のあるカフェインと合剤にして、製剤として発売されています。
1921年にサンド製薬から販売され、100年近く愛用されました。
片頭痛の治療を受けたことがある年配の人なら聞き覚えがあるでしょうが、エルゴタミン製剤は、以前は「カフェルゴット」という商品名で売られていました。この薬は外国ではもちろんいまでも販売されていますが、トリプタンの発売によって儲からなくなったということで、日本では2008年に発売中止になってしまいました。
現在は、クリアミンAとクリアミンSという商品名の薬があります。
古くから片頭痛の特異的治療薬として使用されてきましたが、トリプタン製剤の登場で特異的治療としての役割は限定的なものとなってきています。
現在はトリプタンで頻回に頭痛再燃がみられる場合に、使用されています。(トリプタン製剤による薬剤乱用性頭痛に対して用いられ、現在でもなくてはならない薬剤です)。
子宮収縮作用、血管収縮作用がありますので、妊娠中は使用してはいけません。
現在、使用可能なのは、クリアミンA(酒石酸エルゴタミン1 mg、無水カフェイン50mg、イソプロピルアンチピリン300 mg )、クリアミンS(A錠の半量)の2タイプです。
エルゴタミン製剤は前兆のある片頭痛の場合、制吐剤をうまく併用することによって抜群の効果を発揮していましたが、問題は前兆のない片頭痛の場合、服用のタイミングが極めて難しく、患者さんは、痛くなってから飲んだのでは効かないので、痛くなる前に飲まなければなりません。患者さんは痛くなると大変だからと、頻繁に飲むようになります。 また、ある程度痛くなってから飲むと、頭痛が治まらないばかりか悪心嘔吐を起こします。このために、つい”先手””先手”で服用せざるを得なくなって、知らぬ間に過剰服用となって薬剤乱用頭痛を引き起こしていました。
現在では、エルゴタミン製剤はクリアミンとして残っておりますが、クリアミンの効能書きには、”頭痛治療薬”と銘打たれ、緊張型頭痛にも片頭痛にも保険適応となっていることから、一般開業医は頭痛診断がどうであれ(頭痛があれば)、安易に処方され、極端な場合は1日3回毎食後、延々と処方され、薬剤乱用頭痛を量産させていることも忘れてはなりません。緊張型頭痛の場合、筋肉への血行を悪くさせ、頭痛を増悪させます。
エルゴタミン製剤の使い方のポイント
エルゴタミン製剤(カフェルゴット、クリアミン)は血管収縮剤です。これを頭痛の初期に使います。
1錠で効果がなければ、30 分後にもう1錠追加します。添付文書には1日6錠までと書いてありますが、私は1日4錠にして下さいと大体お願いしています。エルゴタミン製剤は頭痛がひどくなったらあまり効果がありません。頭痛の初期に使う必要があります。
そして、連用、乱用で薬剤性頭痛を起こしますので、1日最高4錠、1週間に最高10 錠にして下さいとお話しています。
また、高齢の方や心臓の悪い方にはあまり使わないほうがよいと言われています。
最初に前兆があって頭痛がする方が、エルゴタミン製剤を服用する場合、頭痛が酷くなってから服用しても、効きません。前兆が出現した段階で服用し、1錠で効かなかったら、諦めずにもう1錠使う、そうすると1錠で駄目でも非常に効く場合があります。
発作のごく初期、特に目がチカチカするタイプの前兆を伴う片頭痛の患者さんは、なるべくこの目がチカチカしているときに飲まないとほとんど効果がないのです。
それから、これは脳の中のドーパミン系という所にも作用するお薬ですから、吐き気が出てしまうのです。飲んでも吐いてしまう患者さん、それでも我慢しながら飲んでいる患者さんはいらっしゃいます。
それから、飲み過ぎで、依存性が出やすいのです。1週間に 10 錠以上、人によっては12 錠という先生もいらっしゃいますけれども、1週間に 10 錠から 12 錠以上毎日連用していると、だんだん依存性を来して、手放せなくなってくるのです。
しかも、このエルゴタミン製剤は、脳の血管だけではなく全身の動脈に作用します。
したがって、気をつけて使わないと、だんだん手足の先端から冷たくなってくる。いわゆるレイノー症候群と言いますけれども、だんだん冷たくなってきて、それを無視して飲み続けると、だんだん指が腐ってくるというようなことを起こす患者さんも実際にいらっしゃるのです。
それから、これらのエルゴタミンというお薬の代謝系の問題で、ある種の抗生物質、最近よく使うマクロライド系の抗生物質、あるいは胃薬の中でタガメット、このようなお薬と慢性的に併用することによって、だんだんエルゴタミンの血中濃度が上昇して、動脈の収縮が強くなって、手足が冷たくなる症状が進行する場合があります。
したがって、このエルゴタミンをお使いになるときには、日常普通に使うような抗生物質でも、よくお医者さんに選んでもらって使わないといけないという注意が必要になってきます。
予防薬について
例えば1カ月に3回も4回も頭痛が起き、トリプタンを飲まなければならないというような頭痛頻度が高い患者さんには、トリプタンへの依存を防ぐためにも患者さんに適した予防薬を処方し、頭痛が起きるのを防いだり頻度を少なくする必要があります。
予防薬を飲んでおくと、たとえ頭痛が起きても軽くてすみ、またトリプタンの効果も上がるというメリットがあります。予防薬を飲むこと、そして頭痛が起きてしまったときにはトリプタンを飲むことで、実際かなりの頭痛を解消することができます。
予防薬にはいくつかの種類がありますが、患者さんの症状や効き方の違いに応じて最も適したものを処方します。
トリプタンは新しい薬ですが、予防薬として使用されているのは昔からある薬です。ただ、片頭痛の予防薬として効果があるということが見直されたのは比較的最近のことです。
このように、たいていの片頭痛患者さんは抑制治療だけで済むのですが、人によって、頭痛の回数が多い、抑制薬を使い過ぎる、抑制薬が効かない、頭痛の回数を減らしたいという患者さんに対しては、予防薬を併用します。また、緊張型頭痛での難治の場合にも予防薬を使います。
ここで注意しなくてはならないことは、”予防薬”という表現です。いかにも片頭痛が予防できるような錯覚を覚えますが、決して片頭痛そのものが”予防”できるものではなく、片頭痛の発作回数を減らし、発作時服用するお薬の効き目をよくする程度の働きしかありません。決して、この言葉に騙されないようにして下さい。
この予防薬としては、ベータ遮断薬、カルシウム拮抗薬、カルデサルタン、抗うつ薬、抗てんかん薬、ビタミン類、ボツリヌス毒素などがあります。
このような予防薬は、始めから予防薬として開発されたものはカルシウム拮抗薬のミグシス、テラナスだけで、これ以外のものは片頭痛の方々が、例えば同時に高血圧を合併しておられ、ベータ遮断薬やカルデサルタンを同時に服用されていた際に、偶然、片頭痛発作回数が減ったことから”予防効果”があるとされたものです。
しわのある部位にボトックスを注射すると筋肉が弛緩してしわができにくくなるために、美容目的の治療でボツリヌス毒素製剤を使った患者さんで片頭痛が改善したことから、このボツリヌス毒素製剤が予防薬として使われています。
片頭痛とてんかんは密接な関係にあって,「片頭痛は本質的にてんかんの一種である」ことが強調されており、”脳の興奮性の亢進”を抑制させる目的で抗てんかん薬が予防薬として使われていますが、このなかのデパケンはミトコンドリア毒性があるため、服用上注意が必要で、とくに子供の片頭痛に使うには問題があります。
ミトコンドリア病を持つ人々にミトコンドリアの機能をよくするビタミンB2を摂取させると、片頭痛が改善されることが分かっており、逆に、片頭痛もちの人たちもビタミンB2を摂取することで、7割近くの人の頭痛が改善することから、ビタミン剤のビタミンB2が予防薬として使われていますが、予防薬というより根本的な治療薬と考えられるべきものです。
このようにミグシス、ビタミンB2以外の薬剤は、片頭痛に使っていて偶然、片頭痛の発作回数が減少したことから”予防効果”があるとされたものばかりです。このため薬効の不確かなものばかりで、どうして効くのかは、あとで付け足しで考えられたものです。
日本で初めて、片頭痛の予防薬として保険適用されたのは、塩酸ロメリジンという薬で、最近、各種の薬剤が保険適応になって参りました。
2011年に、抗てんかん薬のバルプロ酸、2012年にベータ遮断薬のプロプラノロール、抗うつ薬のアミトリプチリンが次々の保険で使えるようになって参りました。
このように現段階では、4種類が保険で認められていますが、これをどのように使って行くのかは明確にされておりません。あくまでも経験論から使われています。
カルシウム拮抗薬・・ミグシス、テラナス
このカルシウム拮抗薬は高血圧症で最も多く使われる降圧薬です。
高血圧とは、端的に言えば、血管の壁が収縮して(縮んで)血圧が高くなる病気です。
もちろん根本原因は色々ありますが、この血管の壁が収縮する直接の原因は、細胞内にカルシウム(Ca)イオンが流れ込むことが引き金になっています。
という事は、このカルシウムイオンが細胞内に流れこまないようにしてあげればいいわけです。このカルシウムイオンが血管壁の細胞内に流れこまないようにしてくれるのが、この「カルシウム拮抗薬」の働きというわけです。
そして、この作用を片頭痛に応用したのが、塩酸ロメリジンなのです。
こういったことから、Ca2+チャネル遮断作用を主作用とする片頭痛基礎治療剤とされます。この塩酸ロメリジンの特徴としては、その他の高血圧の薬と違って”脳の血管に選択的に作用する”という点です。
つまり、他の全身の血管にはほとんど作用しないということなので、高血圧の薬としてではなく、あくまでも片頭痛の予防薬として使われています。
このように、塩酸ロメリジンの作用はいくつか上げられますが、主なものは血管収縮を抑える、つまり拡張させることによって、脳血管に対してのみ血流量の低下を抑えることにより、片頭痛を発生しにくくさせます。
よって、全身的な血圧を下げることにならないので、片頭痛の方に処方されることが多いのです。
脳血管の収縮が起こり、その反動によって拡張する、という”片頭痛の発生機序”が言われていますので、その第一段階の収縮をこの塩酸ロメリジンで抑えようというわけです。 ですので、拡張した場合には無効、ということになります。
最大の矛盾点としては、頭痛の予防作用があるにも関わらず、副作用に頭痛があるということです。これは血管拡張作用によるものです。
塩酸ロメリジンの副作用は比較的少ないほうですが、まれに眠気、めまい、ふらつき、吐き気、ほてり感などのような症状が現れる場合があります。
塩酸ロメリジンの作用として、血管拡張作用のほか、血管の炎症抑制、拡延性抑制の改善、セロトニン放出のきっかけとなる血小板凝集抑制効果など多面的に片頭痛を抑制します。
以上、塩酸ロメリジンという血管拡張薬が片頭痛予防に有効なのは、片頭痛の第一段階である「脳血管収縮」を抑制するからです。
片頭痛は血管収縮に対する反動として、血管が拡張することによって起る頭痛なのです。
塩酸ロメリジンは血管を広げる作用があるために「頭痛が酷くなる場合も無きにしも非ず」ということです。
こういったことから、ひとによっては、ミグシスは片頭痛の予防薬でなく、”片頭痛誘発薬”になることがあるということで、現実にもこのような方はおられます。このため、これで悪化するひとには使えません。
予防薬の有効率
しかし、これらの予防薬の薬剤が、すべての患者さんに効くというわけではありません。予防治療の有効率は決して高いものではありません。
ほとんどの薬剤が、有効率は30~40%、すなわち10人中3~4人しか効きません。
しかし、個人差が激しいので、薬によって有効率は異なります。効かなかった場合には、他の薬に変えてまた、2~3カ月様子をみる、という気長な対応が必要です。
また、効果を確認できるまでの期間も短くないのです。
予防治療に使われるどの薬剤も、効果を発揮するまでには4週間くらいはかかります。
はじめの2週間くらいはまったく効かないのが普通です。3~4週めになっていくらか頭痛の回数が減っていると感じたら、効果があったと考えてよいでしょう。なかには、2カ月めになってやっと効果がはっきりしてくることもあります。
こういった理由から、多くの患者さんは、予防薬の効果が現れるまでの期間が長く、極めて緩やかな効き方しかしません。
確かに、数年間にわたって、1種類ずつ処方されておられる場合もあるようですが、このような方式は、あくまでも偉い先生方がされた場合のことで、じっと我慢して服用されておられる方々は少ないのではないでしょうか?
大半の方々は途中で治療を諦め、ひいては頭痛患者さんが医療機関を敬遠される元凶になっているものと思われます。
このような効き目しかないため、鹿児島の田村正年先生は予防薬の多剤併用療法を提唱され、最初から3,4種類の予防薬を同時に併用すべきとされます。
私は、予防薬がこのような効果しか得られない理由として、片頭痛の発症要因として
何が考えられるのかを、まず想定すべきであり、この要因を中心として是正すべきと思っております。こういったことから、治療当初から「生活習慣の是正」が必要と考えています。
これまで、予防薬の効果が思わしくなかった理由として、治療当初からの「生活習慣の是正」が徹底して行われてこなかったことにあると思っております。
治療当初から「生活習慣の是正」が行われる限り、もっと予防薬の有効性を引き出すことが可能と考えております。
「片頭痛の発症要因として何が考えられるのかを、まず想定すべきであり、この要因を中心として是正すべきである」ということは章を変えて述べることにします
ここでコマーシャルです
頭痛が気になったら・・
https://ameblo.jp/yoyamono/entry-12644567389.html