第5回 頭痛講座
最近、睡眠の重要性が認識されたせいか、テレビのコマーシャルで館ひろしさんが、ダンデイな笑顔を振りまいて、グリナの宣伝が多くなされるようになり、皆さんもきっとグリナを試されたものと思います。ケチをつけるわけではありませんが、3,4回は効いているようですが、以後、イマイチと思われ、ベンゾ系睡眠薬に後戻りされ、睡眠薬地獄に陥らんとも限らないひとも多いのではないでしょうか。
今回は、こうしたひとも含めて、「睡眠」について基本的なことを述べることにします。
といいますのは、睡眠が十分にとれませんと、私が述べていることを、いかに実践されようともまったく効果が得られないからです。これ程まで重要なものです。
このため、今回は基本的なことだけにし、引き続き、別の回に分けて述べていきます。
それ程、睡眠は重要な位置を占めております。
前回の「セロトニン神経系」との関連から、今回のテーマとしました。
太陽の光とセロトニン神経系
私たちの脳の奥深く、中脳や脳幹と呼ばれる部分に存在する背側縫線核という神経細胞の集まりがあります。この神経細胞群では、神経伝達物質“セロトニン”が合成されています。このセロトニンは、私たちのこころとからだの安定に非常に重要な働きを持っていることがわかっています。特に、脳内のセロトニンが欠乏することで、不安障がいやうつ病、ストレス関連疾患にかかりやすくなることがわかっています。また、睡眠や痛みの抑制、姿勢の制御などにも深くかかわることがわかっており、ストレス社会と呼ばれて久しい現代において、その働きに注目が集まる物質であるといえるでしょう。
実はこのセロトニン神経と太陽の光が関連することがわかっています。セロトニン神経の働きは、主に昼間の時間帯に起こります。むしろ、私たちが目を覚まして活動をしている状態はセロトニンがきちんと働いているからであるということができます。このセロトニンによる目を覚ますような働きは、アドレナリンなどの興奮を伴う覚醒ではなく、爽やかでクールな覚醒状態であると言われています。この朝の目覚め、クールな覚醒状態はしっかりと太陽の光を浴びることによってセロトニン神経にスイッチが入ることで制御されていることがわかっています。光をまったく浴びない状態で飼育された実験動物においては、睡眠と覚醒のサイクルがおかしくなることが報告されております。これは、覚醒を促すセロトニンが夜になるとメラトニンという物質に置き換わることで睡眠が導入されるというリズムがあるためです。つまり、昼間にセロトニンが充分に作られることで、安眠のホルモンであるメラトニンが作られるという一連の流れがあり、セロトニンが作られない状態では、眠りのホルモンも作られないということができます。睡眠は私たちの生命を維持するために必須な活動です。身体の疲れを癒すこと、傷ついた細胞を守ること、記憶を固めることなど、さまざまな活動が睡眠中に行われています。朝の太陽の光が重要であることの最も大きな理由はこの点にあるといっても良いかと思います。太陽の光は私たちの健康のスイッチであると言えるでしょう。
メラトニン(めらとにん)
メラトニンは、脳内の松果体において生合成されるホルモンです。
網膜から入った外界の光刺激は、体内時計(生物時計・視交叉上核)を経て松果体に達します。明るい光によってメラトニンの分泌は抑制されるため、日中にはメラトニン分泌が低く、夜間に分泌量が十数倍に増加する明瞭な日内変動が生じます。
ただし昼夜の区別のない環境(窓のない密室内など)でも、体内時計からの神経出力によって昼高夜低の日内変動は続きます。逆に強い照明(1000ルクス、コンビニの店内など)を浴びれば、夜間であってもメラトニン分泌量は低下します。すなわちメラトニンは体内時計と環境光の両方から調節を受けています。
多くの生物でメラトニンは生体リズム調節に重要な役割を果たしています。鳥類での渡りのタイミングや季節性繁殖(メラトニンには性腺萎縮作用があります)などの季節のリズム、睡眠・覚醒リズムやホルモン分泌リズムなどの概日リズム(サーカディアンリズム)の調整作用があります。
メラトニンには催眠作用があるため、欧米では睡眠薬としてドラッグストアなどで販売されており、日本でもインターネットで並行輸入が可能です。しかし、一般的にメラトニンの催眠作用は弱く、寝る前に服用しても寝つきは若干良くなるものの、不眠症の改善効果は乏しいことが分かっています。
非24時間睡眠覚醒リズム・睡眠相後退症候群・交代勤務睡眠障害・時差症候群などの概日リズム睡眠障害(睡眠・覚醒リズム障害)に対してはメラトニンが有効ですが、メラトニンのリズム調整作用を十分に引き出すには特殊な時間帯での服用が必要です(寝る前ではありません。時間帯を決めるには睡眠検査が必要です)。
眠りのメカニズム
私たちは毎日ほぼ同じ時刻に眠り、同じ時刻に目が覚めます。このような規則正しい睡眠リズムは疲労による「睡眠欲求」と体内時計に指示された「覚醒力」のバランスで形作られます。健やかな睡眠を維持するために、夜間にも自律神経やホルモンなどさまざまな生体機能が総動員されます。睡眠にはサイクルがあります。夢を見る「レム睡眠」と大脳を休める「ノンレム睡眠」が約90分周期で変動し、朝の覚醒に向けて徐々に始動準備を整えます。
睡眠と覚醒のリズム
私たちは毎日ほぼ同じ時刻に眠りに入り、7-8時間ほどで自然に目覚めます。また徹夜をしていても徐々眠気が強まり、明け方になると耐え難い眠気を感じますが、午後には眠気がいったん軽くなります。このように決まった時刻に眠気が出現し、また醒めてゆく睡眠(眠気)のリズムはどのように形作られるのでしょうか。
睡眠をかたちづくるふたつのメカニズム
ヒトの睡眠(眠気)は大きくふたつのシステムで形作られています。
第一のシステムは覚醒中の疲労蓄積による睡眠欲求です。睡眠欲求は目覚めている時間が長いほど強くなります。徹夜などで長時間覚醒していると、普段寝つきにくい人でもすぐに入眠し、深い眠りが出現することが知られています。いったん眠りに入ると睡眠欲求は急速に減少し、その人にとって十分な時間だけたっぷりと眠ると睡眠欲求は消失して私たちは覚醒します。
第二のメカニズムは覚醒力です。覚醒力は体内時計から発信され、一日の決まった時刻に増大し、睡眠欲求に打ち勝ってヒトを目覚めさせます。普段の就床時刻の数時間前に最も覚醒力が強くなり、その後メラトニンが分泌される頃(就床時刻の1-2時間前)に急速に覚醒力が低下します。このため、私たちは夕食後に団欒するなどすっきり目覚めていても、就床時刻あたりで急に眠気を感じるようになります。仮に覚醒力がなければ、徐々に強まる睡眠欲求のため日中の後半は眠気との戦いで質の高い社会生活は営めなくなるでしょう。
睡眠を維持するために生体機能を総動員
睡眠と覚醒を調節するために体内時計は生体機能を総動員します。
例えば、活動する日中には脳の温度を高く保ち、夜間は体から熱を逃がして脳を冷やします(熱放散)。
そのため就床前の眠気が強くなる時間帯は、脳が急速に冷える時間と一致しています。 寝入る前に赤ちゃんの手足がぽっかりしているのは熱放散をしているためです。また同じ頃、体内時計ホルモンであるメラトニンが分泌を始め入眠を促します。これら以外にもさまざまな生体機能が協調しあいながらハーモニーを奏でるように質の高い眠りのために作用します。
朝方になると覚醒作用を持つ副腎皮質ホルモンの分泌が始まります。また脳の温度が自然に高くなります。このような準備状態が整って私たちは健やかな目覚めを迎えます。
メラトニンは睡眠を促進する作用を持ちますが、明るい光の下では分泌が停止します。静臥して熱放散を促し、メラトニン分泌を妨げないように消灯をした暗い部屋で休むことは、睡眠をサポートする生理機能の力を最大限に引き出す上でも大事なことなのです。
消費カロリーと睡眠の関係
睡眠はすべての動物でみられますが、睡眠の長さはさまざまです。一般的にコウモリやネズミなど運動量が多く、体重当たりの消費カロリー数が大きい動物ほど睡眠時間が長い傾向があります。
すなわち睡眠は覚醒中に蓄積した疲労を回復すると同時に、エネルギーを節約するための最も効率の良い休養のあり方であるといえます。ヒトも成長とともに体重当たりの消費カロリーが減少します。睡眠時間、特に深い睡眠が年齢とともに減るのは理に適ったことであるともいえます。
睡眠もダイナミックに変化する
睡眠は決して「脳全体が一様に休んでいる状態」ではありません。眠っている間にも脳活動はさまざまに変化します。ヒトの睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠(REM sleep)という質的に異なるふたつの睡眠状態で構成されています。レム睡眠は、眠っているときに眼球が素早く動く(英語でRapid Eye Movement)ことから名づけられました。ノンレム睡眠では脳波活動が低下し、睡眠の深さにしたがってさらに4段階に分けられます。
睡眠は深いノンレム睡眠(段階3と4)から始まり、睡眠欲求が低下する朝方に向けて徐々に浅いノンレム睡眠(段階1と2)が増えてゆきます。その間に約90分周期でレム睡眠が繰り返し出現し、睡眠後半に向けて徐々に一回ごとのレム睡眠時間が増加してゆきます。
夜間睡眠パターン
深いノンレム睡眠は大脳皮質の発達した高等生物で多く出現します。昼間に酷使した大脳皮質を睡眠前半で集中的に冷却し休養を取らせます。レム睡眠では全身の筋肉が弛緩し、エネルギーを節約して身体を休める睡眠といえます。レム睡眠時の脳波活動は比較的活発で夢をよく見るほか血圧や脈拍が変動することから、心身ともに覚醒への準備状態にある睡眠ともいえます。
快眠と生活習慣
快眠のための生活習慣にはふたつの役割があります。ひとつは直接的な役割で、「運動」や「入浴」のように習慣そのものが直接的に快眠をもたらす場合です。もうひとつは間接的な役割で、良い習慣で体内時計を24時間にきっちりと調節すれば、規則正しい睡眠習慣が身に付いて快眠が得られます。そのための習慣として「光浴」があります。そしてこれらの習慣はそれを行うタイミングが重要なことも分かっています。
快眠はまずは規則正しい生活から
様々な生活習慣がありますが、睡眠も生活習慣そのものです。そして快眠は規則正しい睡眠習慣から生まれることを忘れてはいけません。どんなに健康的に運動をしても、バランスの良い食事を心がけても、布団に入る時刻が毎日ばらばらであれば、快眠は得られません。
なぜ規則正しいことが必要なのでしょうか。体の中には体内時計があり、睡眠のタイミングを決めるだけではなく、前もってホルモンの分泌や生理的な活動を調節し、睡眠に備えてくれます。これらの準備は自分の意志ではコントロールできません。規則正しい生活こそが、体内時計を整えそこにプログラミングされている睡眠を円滑に行う秘訣なのです。
運動と快眠 習慣が大事
国内外の疫学研究(数千人を対象とした質問紙調査)において、運動習慣がある人には不眠が少ないことがわかっています。とくに睡眠の維持に習慣的な運動の効果があるようです。運動の内容も睡眠に影響します。1回の運動だけでは効果が弱く、習慣的に続けることが重要です。その効果として、寝付きがよくなるのと深い睡眠が得られるようになります。特に高齢者など普段から不眠がちな人に効果が大きいようです。激しい運動は逆に睡眠を妨げますので、負担が少なく長続きするような有酸素運動(早足の散歩や軽いランニングなど)が良いでしょう。
運動のタイミングに注意を払えば、さらによい睡眠が確保できるでしょう。効果的なのは夕方から夜(就寝の3時間くらい前)の運動だと言われています。就寝の数時間前に運動によって脳の温度を一過性に上げてやることがポイントです。そうすると床にはいるときの脳温の低下量が運動をしないときに比べて大きくなります。睡眠は脳の温度が低下するときに出現しやすくなるので、結果として快眠が得られやすくなる訳です。ただし就寝直前の運動は体を興奮させてしまうので禁物です。
入浴と快眠 入浴の時間がポイント
入浴の睡眠への効果は加温効果にあります。これは運動の場合と同じで就寝前に体温を一時的に上げてあげることがポイントです。
当然ながらタイミングも重要になります。午前あるいは午後の早い時間の入浴は効果がなく、夕方あるいは夜の入浴が効果的です。深い睡眠をとるには就寝直前の入浴が良いとされていますが、寝付きを悪くしてしまう心配があります。寝付きを優先させると、就寝の2~3時間前の入浴が理想です。
深い睡眠を得るには熱めの湯温で体温を2度ほど上げると効果が大きいという報告がありますが、身体への負担が大きくなるのであまり勧められません。体温の上昇が0.5度くらいでも、寝付きへの効果は認められています(38度のぬるめのお湯で25-30分、42度の熱めのお湯なら5分程度)。
また半身浴(腹部までを湯船につけ、約40度のお湯で30分ほど汗をかく程度に入浴する)でも寝付きの効果が認められています。自分の体調や好みにあった入浴を選択すれば良いでしょう。
光浴と快眠 光で体内時計と整える
光の効果は体内時計を24時間に調節することにあります。ヒトの体内時計の周期は24時間より長めにできているため、長めの体内時計を毎日早めてあげないと、ずるずると生活が後ろにずれてしまいます。朝の光には後ろにずれる時計を早める作用があります。起床直後の光が最も効果的なので、起きたらまずカーテンを開けて自然の光を部屋の中に取り込むことが必要でしょう。
禁物なのは夜の光です。朝の光と反対で夜の光は体内時計を遅らせる力があり、夜が更けるほどその力は強くなります。家庭の照明でも(照度100~200ルクス)、長時間浴びると体内時計が遅れます。また日本でよく用いられている白っぽい昼白色の蛍光灯は体内時計を遅らせる作用があるため、赤っぽい暖色系の蛍光灯が理想と言えます。
睡眠相後退症候群と呼ばれる病気があります。いつも明け方まで眠ることができず、お昼にならないと起きられない病気です。この病気になると朝の光を効率よく浴びることができず、夜の光を沢山浴びてしまいます。治療の一つに高照度光療法といって明るい蛍光灯の光を朝に数時間浴びて、生体リズムを前に戻す方法があります。
昼間の光はどうでしょうか。昼と夜のメリハリを付けるのに効果があるようです。昼間に明るい光を浴びることによって、夜に分泌されるメラトニンというホルモンが増えることが知られています。
その他の習慣と睡眠
食事について、朝食は簡単なものでもよいので、脳のエネルギー源として糖分を補給することが望ましいでしょう。エネルギー不足で日中の活動が低下すれば、夜の睡眠に影響しかねません。就寝に近い時間の夕食や夜食は、消化活動が睡眠を妨げるので出来るだけ控えましょう。体内時計を整えるためにも規則正しい食事が望まれます。マウスを使った最近の研究では、普段眠っている時間に食事を一週間とりつづけると、食事の時間にあわせて大脳皮質や肝臓の末梢時計がずれてしまうことが分かっています。
コーヒー・緑茶・チョコレートなどカフェインが含まれる飲食物は覚醒作用があります。敏感な人は就寝の5~6時間前から控えた方よいでしょう。就寝前の喫煙もニコチンが刺激剤として作用するので好ましくありません。睡眠薬がわりに飲用されることの多いアルコールも決して勧められません。アルコールは寝付きをよくしますが、明け方の睡眠を妨げるからです。
昼寝は午後の眠気を解消し活力を与えてくれます。15分程度の長さで十分です。高齢者では30分程度の昼寝を上手に利用することで、夕方のうたた寝が減少し、夜によく眠れるようになることもあります。
最後に生活習慣病が不眠の原因になることが分かっています。生活習慣病を防ぐためにも快眠を得るためにも、良い生活習慣を身につけましょう。
睡眠と生活習慣病との深い関係
質の悪い睡眠は生活習慣病の罹患リスクを高め、かつ症状を悪化させることが分かっています。睡眠問題は「睡眠習慣」と「睡眠障害」の問題に分けられます。睡眠習慣については睡眠不足やシフトワークなどによる体内時計の問題、睡眠障害については睡眠時無呼吸と不眠症の問題を取り上げ、それぞれ生活習慣病との関係を明らかにします。
睡眠習慣と生活習慣病
日本人、特に子供たちや就労者の睡眠時間は世界で最も短いと言われています。とりわけ女性は家事や育児の負担が大きいため男性よりもさらに睡眠時間が短く、平日・週末を問わず慢性的な寝不足状態にあると言えます。
慢性的な睡眠不足は日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こすだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られています。一例を挙げれば、健康な人でも一日10時間たっぷりと眠った日に比較して、寝不足(4時間睡眠)をたった二日間続けただけで食欲を抑えるホルモンであるレプチン分泌は減少し、逆に食欲を高めるホルモンであるグレリン分泌が亢進するため、食欲が増大することが分かっています。ごくわずかの寝不足によって私たちの食行動までも影響を受けるのです。実際に慢性的な寝不足状態にある人は糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病に罹りやすいことが明らかになっています。
また日本人の約2割は交代勤務に従事しています。夜勤に入ることによって、体内時計と生活時間との間にずれが生じやすくなります。体内時計にとって不適切な時間帯に食事を取ることでも生活習慣病の原因のひとつになると推測されています。夜間には体内時計を調節する時計遺伝子の一つであるBMAL1遺伝子とその蛋白質が活性化しますが、この蛋白質は脂肪を蓄積し分解を抑える作用を持っています。すなわち「夜食べると太る」という我々の経験は科学的にも正しかったわけです。夜勤中についつい間食をしている方にとっては耳の痛い話ではないでしょうか。
睡眠障害と生活習慣病
睡眠障害もまた生活習慣病の発症に関わっています。以前から生活習慣病患者さんでは睡眠時無呼吸症候群や不眠症の方が多いことが知られていました。その後の多くの研究によって、睡眠障害が生活習慣病の罹患リスクを高め症状を悪化させることや、その発症メカニズムが明らかになりつつあります。
例えば睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、夜間の頻回の呼吸停止によって「低酸素血症と交感神経の緊張(血管収縮)」「酸化ストレスや炎症」「代謝異常(レフチン抵抗性・インスリン抵抗性)」などの生活習慣病の準備状態が進み、その結果として5~10年後には高血圧・心不全・虚血性心疾患・脳血管障害などに罹りやすくなります。
また慢性不眠症の患者さんもまた、「交感神経の緊張」「糖質コルチコイド(血糖を上昇させる)の過剰分泌」「睡眠時間の短縮」「うつ状態による活動性の低下」など多くの生活習慣病リスクを抱えています。入眠困難や中途覚醒・早朝覚醒など不眠症状のある人では良眠している人に比較して糖尿病になるリスクが1.5~2倍になることが知られています。
睡眠障害もまた生活習慣病のひとつ
21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)では「栄養・食生活の管理」「身体活動・運動」「禁煙・節酒」などと並んで「十分な睡眠の確保」に取り組んできました。不規則な食事・運動不足・ニコチン・アルコール過飲によって睡眠状態は悪化しますので、これら生活習慣を改善することは良質な睡眠を保つことにもつながります。逆に言えば睡眠障害もまた生活習慣病のひとつと考えるべきでしょう。
日々の生活の中で睡眠時間はともすれば犠牲になりがちです。ただし今回ご紹介したように長期にわたり睡眠不足を続けたり、睡眠障害を放置したりするとは私たちの健康を大きく害します。睡眠問題は静かにしかし着実に心身の健康を蝕みます。睡眠習慣の問題や睡眠障害を放置せず、ご自分の睡眠状態に疑問を感じたら、かかりつけ医もしくは睡眠専門医に相談をしてみましょう。
セロトニンとメラトニンのアンバランス
現代社会では、睡眠障害や不眠が世代を超えて深刻な問題となっています。中でも24時間型の社会となって昼夜を問わず働く社会環境や、ゲームや携帯電話による夜更かし型の生活習慣が広く蔓延し、生体リズムが乱れることによる「概日リズム睡眠障害」と言われる症状が多く見られます。
現代では夜中まで電気を煌煌と灯すことが出来ますし、テレビテレビやパソコンパソコンなどの光も目から取り入れています。
この夜も光を浴びつつける生活により、「メラトニン」がキチンと分泌されないと体内リズムが狂うだけでなく、「エストロゲン」の産生が過剰になります。
その結果として、セロトニンが不足し、アンバランスとなってきます。
セロトニンは、睡眠ホルモンであるメラトニンと相対する性質があります。
セロトニンは脳の覚醒を促し、メラトニンは睡眠に作用します。
メラトニンが分泌している間はセロトニンの分泌は少なく、逆にセロトニンが多く分泌されている間はメラトニンの分泌は少なくなります。
太陽の光(のような非常に強い光・明かり)を浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌がストップし、代わりに脳の覚醒を促すセロトニンの分泌が活発化されるのです。
昼夜逆転の生活をしていたり、日中部屋の中にばかりいると、セロトニンとメラトニンの分泌のバランスが崩れ、不眠症になったり、片頭痛が起きやすくしてしまうのです。
ヒトの生体リズムは約25時間
ヒトの生体リズムはおよそ25時間で刻まれており、地球の周期24時間に合わせるには朝の光が必要です。ですから、明るさの変化がない場所で寝起きしていると、生体リズムと地球の周期とはだんだんずれてしまいます。朝、脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)というところで光を感じることで、25時間の生体リズムは24時間にリセットされ、地球の時間に合わせて生活することができるのです。逆に夜に浴びる光には、このズレを大きくしてしまうという困った働きがあることも知っておいてください。
セロトニンとは、体内に存在する物質の一つです。ヒトの脳では無数の神経がネットワークを作っていますが、その中で、セロトニンは「神経伝達物質」として神経細胞の広い範囲に伸びて(セロトニン神経系と呼びます)、脳のうちの生命に最低限必要な機能を担う部分と、思考や記憶、言語など人間特有の高度な活動を司る部分をつなげる、いわば「人間らしさ」を担う大事な神経系です。
また、食欲や睡眠、呼吸など基本的な生活に関係する神経と、安心・不安、情動と呼ばれる快感や不快感、不安、衝動を支配する神経の両方をコントロールする重要な役割もあります。特に、不安や恐怖などの情動を制御したり衝動性を自制心で抑えたりするすることに関係するので、心を穏やかに保つ働きがあるとも言われます。 セロトニン神経は、生後約5年間にいろいろな刺激により作られますが、特に「朝は明るく夜は暗く」という規則正しい刺激が大切です。
メラトニンは細胞を守る、規則的に眠気をもたらす、性的成熟を必要な時期まで抑える、という作用がある大切なホルモンです。一生のうち、1~5歳くらいまでに最も多く分泌されるので、この時期「メラトニンシャワー」を浴びる、と表現されます。
メラトニンは、朝起きてから14~16時間して、夜、暗くなると出てくるので、夜更かしをして夜に光を浴びる時間が増えるとメラトニンの分泌が抑えられ、メラトニンシャワーを浴び損ねることが危惧されます。
次に、セロトニン神経が弱ってしまう要因は、ストレスです。
私たちの体は、どうしても解決できないものごとが続いた場合、ストレス中枢が興奮するようになっています。それは、今日、視床下部・下垂体・副腎軸というストレスシステムとして知られています。これをもっと詳しく説明すると、視床下部のストレス中枢が興奮すると、副腎皮質からストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールという物質が分泌されるしくみです。興奮したストレス中枢は、脳幹にあるセロトニン神経を直接抑制することによって、脳内のセロトニン分泌を落としてしまいます。
やがてセロトニン神経が弱っていくと、5つの脳機能
1.大脳皮質を覚醒させ、意識のレベルを調節する
2.自律神経調節する
3.筋肉へ働きかける
4.痛みの感覚を抑制する
5.心のバランスを保つ
が十分に活動しなくなり、セロトニン欠乏脳という状態に陥ります。セロトニン欠乏脳とは、脳の中にセロトニンが十分に存在していない状態です。セロトニン欠乏脳になると、慢性的に寝覚めが悪い、心のバランスが不安定、自律神経失調症、あちこちに慢性的に痛みを感じる、姿勢のゆがみなど多岐にわたった症状が現れます。
脳内セロトニンを低下させる要因はこれまで、以下の記事で詳細に述べました。
ページ数の関係で省略しますが、忘れた方はご覧下さい。
「脳内セロトニンの低下」の原因は???
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-12291290189.html
男性の場合、片頭痛発症のキッカケとなるものは、生体リズムを乱す、夜更かし・ストレスが重要な位置を占めています。
ストレスによって交感神経の緊張が持続すると、血管が収縮して低体温になり、高血糖になって、解糖系のエネルギ―が主体となってきます。低体温、低酸素、高血糖の状態です。このようにして、ミトコンドリアが機能しなくなります。
また、ストレスはマグネシウムを枯渇させ、活性酸素が過剰に産生され、これも影響してきます。
さらに、ストレスは脳内セロトニンを枯渇させることになります。
男性ではこれらの関与が大きいのです。この両者によって、片頭痛を発症させることになります。
このため、大学を卒業し、社会人になって不規則な生活を強いられ、睡眠不足やストレスが重なることによって、20歳前後に片頭痛を発症することが多くなってきます。
参考までに・・
片頭痛に睡眠障害が随伴する場合,どのように対処すべきでしょうか?
https://zutsu-atoz.net/gtddm6os/
その他の一次性頭痛 2 睡眠時頭痛
https://ameblo.jp/yoyamono/entry-11975409572.html
ここでコマーシャルです
頭痛が気になったら・・
https://ameblo.jp/yoyamono/entry-12644567389.html