片頭痛治療上、なぜ「生活指導」が行われなくなったか
これまで述べて参りましたように、片頭痛の発症要因は、日常の生活習慣そのものの中にあります。具体的には、日常生活を送る際の”生活習慣”そのものです。生き方、生活信条、ポリシイにあります。仕事を行う上で、完璧に行わんがために、寝食を忘れてされる方もおられます。
また、食生活面では、人それぞれ好みがあります。欧米型の食事を””進んだ食生活”と思われる方々も当然いらっしゃいます。
そして、片頭痛でお悩みの方々を診せて頂くたびに思うことですが、医師の立場からみて、片頭痛を改善させるための”正しい生活習慣”とはほど遠い方々が多いようです。
以前にも記事にさせて頂きましたが、ある中学生が片頭痛で来院された際に、まだ発症間もない方でしたので、頭痛が起きる以前と現在を比較して、生活習慣に何か変化がなかったかどうかとお聞きしますと、真っ先に「睡眠時間が少なくなった」ということでした。 具体的には、発症前は7時間以上の睡眠時間をとっていたが、頭痛が発症する半年前から、将来有名な高校に入学するための準備のため、睡眠時間が3,4時間前後になったとのことでした。この方に、睡眠時間の重要性を説明し、少なくとも6時間は寝るように指導しました。この指導に対して、この中学生は、まさに心外といった顔つきで、「そんなことを言っているから、先生は、このような片田舎で医者をしているのだ」と素気なくあしらわれました。
また、ある患者会の方には、夜型の生活をされておられたため、朝型の生活に改めるようにお勧めしたところ、「どこの馬の骨かわからない”あんた”に何がわかるのか、私は日本の頭痛学会を代表する先生には、このような指導をされたことはない」 と一蹴されました。このように、生活信条として、夜型の生活をされる方には、変更は無理のようです。
以前、総合病院で診察をしていた時代は、片頭痛患者さんへの「生活指導」は、以上のような方々が、どのように言われようとも「片頭痛を改善するためには、最低限”睡眠の確保”が必要」と説得し、これが守られない限り、片頭痛は改善できないと宣告していました。
ところが、時代は変わり、現代では、どこの医療機関でも患者さんをお呼びする際に、昔は”〇〇さん”でしたが、今は”〇〇さま”になっています。
ということは、患者様は”お客様”になってしまいました。このようなお客様の「生活習慣」がどのように”不適切”であろうとも、決して「これを直しなさい」とは指導されなくなってしまいました。患者様は医師よりは優位の立場となってしまったからです。
こういったことから、生活指導を具体的に行うことなく、ただ一言「生活習慣を見直しましょう」ということで、すべてがお茶を濁されるようになっているようです。
こうした時代的な背景下においては、「片頭痛の生活指導」ということそのものが、患者様の尊厳を損なわないようにする配慮から、なされなくなったのかもしれません。
エルゴタミン時代の生活指導
前回も申し上げましたように、現在片頭痛医療の世界ではただ一言「生活習慣を見直しましょう」と助言されることが殆どですが、現在のようにトリプタン製剤のなかった、エルゴタミン製剤が主流の時代には、前兆のある片頭痛の方々には確かに効いていましたが、前兆のない方々では、その服用のタイミングが難しく、大半の場合苦労を強いられました。 このため、片頭痛治療の主体は「生活指導」でした。このため「薬物療法」は二の次で、現在の片頭痛治療の方式とは逆の関係にありました。
(現在は、トリプタン製剤を中心とした「薬物療法」が第一義的であり、「生活指導として、生活習慣を見直しましょう」と言われるにすぎないのが実情ではないでしょうか?)
このような時代に片頭痛医療に携わってこられた神経内科関係の重鎮とされる先生方は、あくまでも経験的に、以下のように指導されて来られました。
1.片頭痛を引き起こす誘因を生活から取り除くようにしましょう
片頭痛の治療の第一歩は片頭痛を引き起こす誘因をできるだけ生活から取り除くことです。片頭痛の誘因は人それぞれによって異なりますから、まず自分の頭痛発作がどのような原因で誘発されやすいかを把握することが大切です。誘因を突き止めてそれを改善・排除することで発作の頻度や程度をかなり軽減することができます。片頭痛の誘因には、過度のストレス、不規則な生活習慣、気候の変化や刺激の強い環境、アルコールや特定の食べ物、などがあります。
2.不規則な生活習慣
生活習慣で最も片頭痛に影響を及ぼしやすいのが睡眠で、睡眠が不足したり、逆に眠りすぎても片頭痛が引き起こされます。特に、平日の働きすぎの反動で休日に眠りすぎると片頭痛が起きやすいことが知られていますから、なるべく適度な睡眠を心掛けるようにしなければなりません。また、少食や不規則な食事による過度の空腹が片頭痛を引き起こすことがあるほか、運動不足または運動のしすぎも誘因となることがあります。ときに入浴によって血管の拡張を招くために片頭痛が引き起こされることもあるので注意が必要です。
3.気候の変化や刺激の強い環境
暑さや寒さ、あるいは気圧の変化が片頭痛の誘因となることがわかっています。気候の移り変わりの時期には体調に配慮するようにして、片頭痛の兆しに注意する必要があります。また、強い光や騒音、強い臭いなどの物理的刺激に加え、人込みや換気の悪い部屋などが片頭痛を引き起こすことがありますから、なるべくそのような刺激や環境を避けるようにします。
4.アルコール飲料や特定の食べ物
特定の食べ物が片頭痛を引き起こすことが知られていますが、個人差があるため自分の片頭痛がどのような食べ物によって起こりやすいかを把握しておくことが大切です。特に、アルコール飲料は血管拡張作用に加えて、アルコール飲料に含まれるヒスタミンが片頭痛を引き起こしやすいため、注意する必要があります。また、片頭痛を誘発しやすい物質にグルタミン酸ナトリウムがありますが、これは人工調味料としてインスタント食品やスナック菓子に添加されていますからなるべく避けた方がよいでしょう。その他に、チーズやチョコレートなどの食べ物が誘因となることが知られています。
5.過度のストレス
片頭痛を引き起こす誘因として最も大きなものが心身のストレスです。片頭痛は過度のストレスがかかって誘発される以外に、ストレスから解放されて心身の緊張状態が和らいだときにも引き起こされることもわかっています。仕事はあまり無理をして頑張りすぎないように注意して、適度な気分転換やリラクゼーションを日常生活に取り入れることが大切です。
結局のところ、以下のように要約されます。
「生活習慣を見直す」とは、頭痛は不規則な生活リズムや食生活、ストレスが原因となって発生している可能性があります。このため、以下のようなことに注意していきましょうとされてきました。
•毎日充分な睡眠を取る
•食事は1日3食きちんと取る
•喫煙は控える
•暴飲暴食をしないようにする
生活のリズムを確立して、健康的な生活を送ることが重要であると指導されて参りました。
こうした注意点は、古色蒼然としたものと批判の誹りを免れることはできないかもしれませんが、トリプタン製剤が片頭痛治療の第一義的なものとされている現代においても無視してはならない「注意事項」であるはずです。
現代の片頭痛治療上の生活指導とは
前回「生活習慣を見直す」とは、「頭痛は不規則な生活リズムや食生活、ストレスが原因となって発生している可能性があります」このように記載致しました。
これは、古い時代からの考え方であり、これがなぜ現代においても重要なのでしょうか この点について、今回は述べていくことにします。
片頭痛とは、全身的なミトコンドリアの機能障害によって起きてくる頭痛です。
片頭痛のひとつの要因として、新陳代謝やエネルギー代謝など代謝の低下があげられます。この代謝の低下を引き起こし、また、片頭痛を悪化させるひとつの要因と考えられているのが、エネルギー産生能力の低下です。
私たちの体は、およそ60 兆個にものぼる細胞から成り立っています。これらの細胞は、私達が日々生活を送るために必要なエネルギーをつくり出しています。
各細胞内では、食物から摂取した栄養素を酸素が燃焼させてエネルギーを生み出しています。栄養素をきちんと補給してそれを燃焼させるというサイクルをしっかり回さなければ、細胞はエネルギーを生み出せなくなり、人は生きていくことができません。また、私たちの体のほとんどの部分では、常に新しい細胞が生まれ、古い細胞と入れ替わっていますが、こうした細胞の入れ替わりのサイクルも、生命維持には欠かせない仕組みです。
細胞はひとつの生命体です。細胞自体がいつも元気に活動することでエネルギーが生まれ、新しい細胞もつくられていきます。
エネルギーは、細胞内に存在するミトコンドリアという小器官の中で、栄養素が酸素で燃焼されることによって生み出されます。ひとつの細胞に含まれるミトコンドリアは50から200 ほどです。
ミトコンドリアによるエネルギー産出量は、私たちが必要とする全エネルギーの95%にものぼるため、ミトコンドリアは「生命のエネルギー工場」と呼ばれています。骨格筋や心臓、肝臓、腎臓、脳などエネルギー代謝の盛んな臓器・器官の細胞ほどミトコンドリアの数は多く、それだけたくさんのエネルギーをつくり出すことで、筋肉を動かしたり、心臓を働かせているわけです。
そのためエネルギーをつくり出す能力が低下すると、さまざまな形で人の活動は支障を来します。
片頭痛は、こうしたミトコンドリアの働きが悪くなって起きてくる頭痛です。
このため、ミトコンドリアがエネルギーを作りだすためには、栄養素をきちんと補給してそれを燃焼させるというサイクルをしっかり回さなければ、細胞はエネルギーを生み出せなくなり、人は生きていくことができません。
こういった理由から「食生活」が重要な位置を占めていることになり、ここが最も重要な点です。エネルギー産生のために必要な「栄養素・ビタミン・ミネラル」をバランスよく摂取することが最低限必要になってきます。
また、ミトコンドリアを元気にする絶対必要条件として”十分な睡眠”が大切になります。十分な睡眠が確保できなければ、ミトコンドリアの機能は維持出来ません。
ミトコンドリアの働きの悪さは、さらに「セロトニン神経系」の働きにも影響が及んできます。
共存症としてうつ病、パニック障害、不眠症、冷え性、睡眠時無呼吸症候群、肥満、等々が挙げられますが、これらはいずれもセロトニンに関連したものです。
「脳内セロトニンの低下」により脳が過敏になり、本来は痛くない刺激を痛みと感じるアロディニア(異痛症)が、片頭痛発症後5年くらい経過して出現することがあります。
このようなさまざまな共存症を併発してきます。
また、脳内セロトニンを産生するためには、必要な「栄養素・ビタミン・ミネラル」をバランスよく摂取することが最低限必要になってきます。
こうしたことから、「必要な「栄養素・ビタミン・ミネラル」をバランスよく摂取することと睡眠が重要となってきます。これが従来の「生活指導」に取り入れられていました。
また、ストレスの多い生活を送っていますと必然的に「脳内セロトニン」が低下し、マグネシウムの枯渇が引き起こされてきます。そのため、結果的に”片頭痛を悪化させる”ことに繋がってくることになります。
さらに、ミトコンドリアの働きの悪さは脊柱起立筋の「筋肉性要因」として、セロトニンは脊柱起立筋の「神経性要因」として関与することによって、「体の歪み(ストレートネック)」を併発してくることになります。
これら3つが、片頭痛の発症要因となってきます。
このように、従来の「生活指導」の内容には、これらのことが含まれていました。
これが、基本的な事項となっていることを忘れてはなりません。
実際の生活指導内容・・
前回は、片頭痛治療上の「生活指導」の基本的事項について述べてまいりました。
それでは、これまでどのような「指導」が提唱されてきたのでしょうか。
まず、この点から明らかにしておきましよう。
片頭痛の生活指導の原則は、単純に言えば、「規則正しい生活を行って、食事をバランスよく摂り、睡眠を十分にとり、適当に体を動かし、姿勢を正しくし、リラックスする」ことです。 これだけのことです。
規則正しい生活とは、生まれつき体に備わっている生体リズムに沿った生活という意味で、最も自然で健康的な生活と言えます。
生活のリズムは恒常性(ホメオスターシス)によって維持されています。
「食事をバランスよく摂る」ことは、ミトコンドリアがエネルギー産生を行うためと、脳内セロトニン産生を行うために必須の条件になります。
「睡眠を充分とる」ことは、日中に傷ついたミトコンドリアの修復に不可欠であり、早寝・早起きはセロトニン神経の活性化に大切になります。
「姿勢を正しくし、背筋を伸ばす」ことはミトコンドリアを活性化させます。
このことは、体の歪み(ストレートネック)の予防に繋がってきます。
「リラックスする」ことは、自律神経を調整するために必要で、ストレス耐性の体づくりにはセロトニン活性化が不可欠となってきます。
しかし、これだけでは、皆さんの片頭痛そのものにすべてあてはまるものなのかという疑問が当然生まれてくるはずです。これらをすべて完璧に行うためには、頭がこんがらかって、困惑してしまうことが目に見えてきます。
そこで、従来から言われる「生活習慣」を見直すための基本があります。その原点に振り返って見直すことが極めて重要になってきます。
片頭痛の発症要因は、これまでの皆さんの生活習慣・・食生活・睡眠の取り方・生き方そのもの・・の中にあります。こうした要因の関与はひとそれぞれです。すべての人にあてはまるものは何一つとしてないはずです。頭痛持ちが100人おれば、100通りの要因があるはずです。
しかし、大雑把に分類すれば、3つの要因しかありません。それは
1.ミトコンドリア
2.セロトニン
3.体の歪み(ストレートネック)
この3つです。これらの要因3つはお互い密接に関与しあっております。このスペクトラムのうち、どの要因の関与が関係しているのかは、個人・個人異なります。これは、ひとそれぞれ生まれ育った生活環境が異なるからです。
こうした点を念頭に置いて、片頭痛が「慢性頭痛」のなかで、どのように発症してくるのかという「発症過程」を知ることが極めて重要となってきます。
まず、冷静に皆さんの「頭痛の起こってきた過程」を分析することが重要になってきます。
これまで片頭痛の方々を診せて頂いて思うことですが、診察の場面では、得てして誘導尋問のようになりかねないということです。決して、医師の言うことが正しいとは言えないことが多々存在します。明らかなことは、自分の頭痛は皆さんしか知り得ないということです。このため、冷静に、自分の頭痛の経過を振り返って分析する以外にありません。
このようにすることによって、自分の頭痛の問題点を炙り出すことが重要です。
医師の立場からは、どのような点が、これまで述べた3つの要因に悪影響を及ぼすのかといった知識を提供することしか出来ないことを認識しなくてはなりません。
「慢性頭痛」とくに片頭痛を改善させるためには、医師が治してくれるのではなく、自分で治すものであるとの認識を持つことが極めて重要になってきます。
多くの片頭痛患者さんで改善が得られない理由は、カリスマ医師とされる有名な「頭痛外来」を受診されれば「治してもらえる」と期待されるようですが、まず他人任せでは治すことは到底不可能です。ここが、片頭痛改善のための鉄則です。
少なくとも、医師にできることは「トリプタン製剤」を処方し、発作頻度が多ければ「予防薬」を処方するだけのことです。これと同時に「生活指導」として何が重要であり、どこに問題があるのかを片頭痛でお悩みのあなた方とともに「問題点」を炙り出していく作業に協力してくれる「医師」でなければ、まず無理です。医師の役割には、こうした「相談相手」のようなものなのかもしれません。気楽に相談できる、的確に回答してもらえる医師を見つけることも大切なのかもしれません。
しかし、このような問題点が仮にみつかったとしても、改善してくれるのは「医師」でなく、あなた自身であることを忘れないことです。
片頭痛改善のための”特効薬”はありません。
とくに片頭痛の場合は、食生活が重要な位置を占めています。この食生活の問題点は、医師には推測することはできても、改善させるのは「あなた自身」なのです。
あなたの場合、どこに問題がありそうか、ということから把握することがまず出発点になります。
このような意味から「片頭痛治療上、生活習慣の改善」の指導書が必要不可欠となってきます。
片頭痛治療上の生活指導とは・・
これまで「片頭痛治療上での生活習慣改善」の指導の重要性を述べて参りました。
従来から、トリプタン製剤が片頭痛治療に導入される以前から、神経内科の重鎮と称される先生方から「セルフケアー自己管理」の重要性が指摘され、これを完璧に行いさえすれば9割の方々の片頭痛は改善に導かれるとされて参りました。
この「セルフケアー自己管理」とは「生活指導」そのものです。
これとは別に、下村登規夫先生は鳥取大学・神経内科の時代にMBT療法という食生活を改善することによって、片頭痛の改善策を提唱されてこられました。
そして、平成25年には分子化学療法研究所の後藤日出夫先生から、医師の立場でなく工学博士として分子化学の立場から食生活の重要性を指摘されて来られました。
この下村・後藤先生に共通した点は、「ミトコンドリア」「脳内セロトニン」の2つの観点を根拠(エビデンス)とされていることです。
従来から、片頭痛はミトコンドリアの働きの悪さからくる頭痛とされてきました。
こうした観点から片頭痛治療は、行われるべきと考えており、このためには「生活習慣の改善」が必要不可欠であることを提唱されてきました。
こうしたことから、最近、後藤日出夫先生・監修のもとに「片頭痛って治るの!?」と称する冊子を作成致しました。興味ある方はご覧下さい。
これをもとに、あなた自身の食生活を見直すことが極めて重要と思っております。
富永病院・頭痛センターの竹島多賀夫先生によれば、反復性の片頭痛は、約3割が自然に治癒し、約4割が症状は変わらず、残りの3割が慢性化して増悪するとされます。
Lyngbergらの報告では、成人片頭痛患者さんを12年間追跡し、完全・部分寛解:42 %、不変:38 %でした。一方、20 %は変容性片頭痛つまり片頭痛が慢性化しました。
このように、大半の片頭痛は改善されるという事実は忘れてはなりません。
こうしたことから「片頭痛治療に際して、薬物療法と同時に”生活習慣の改善”が必要不可欠なもので、謂わば「車の両輪」とされるほど重要となってくるということです。
片頭痛と生活指導
片頭痛の治療は、トリプタン製剤が出現する以前から、基本的な考え方として、規則正しい生活を行って、食事をバランスよく摂り、睡眠を十分にとり、リラックスするようにと、生活指導がなされて参りました。これはエルゴタミン製剤の時代からずっとです。
(このように至極、当然のような生活様式でありながら、片頭痛の方は、このような一般常識である「生活様式」からかなりかけ離れている方が多いように見受けられます。)
しかし、当時は、このような生活様式のあり方が「セロトニン不足」と関連づけた考えではなく、あくまでも、経験的に考えられていました。
日本頭痛学会・日本神経学会の作成した「片頭痛診療ガイドライン」には、このような生活指導に関しては、全く触れられておりません。
平成 20年、第36回日本頭痛学会において、東邦大学生理学教室の有田秀穂教授によって「血中セロトニンは脳内セロトニンの変動を反映するか?」という招待講演が行われて以来、「セロトニン神経をいかにして活性化するか」について検討が重ねられ、巷では「セロトニン生活」といった「言葉」まで作られ、また、医療関係者でない一般人から、この方式で、「片頭痛を克服した」と主張されるまでに至っています。
従来行われて来た生活指導の「規則的生活・十分な睡眠・バランスのよい食事摂取・リラックス」が、「セロトニン生活」で行えることが、医学的に証明されたと言えます。
「セロトニン生活」を、日常生活に具体的に取り入れる方法を示したのは、山崎有為さんで、自ら、この方式を実践して「片頭痛を克服」したと「頭痛解体新書」の中で述べています。
山崎とは別に、禅、太極拳、ヨガの方式も、これと同様の考え方と思われます。
ところが、トリプタン製剤が出現後は、このような基本的な生活指導をせずに、薬だけを服用すればよいといった風潮が優勢となり、これが「片頭痛は治らない」という考えや批判につながり、現在でもなお、片頭痛は不治の病とされています。
最近では、エビデンス医療を重要視する余り、このような「基本的な生活習慣」による「片頭痛治療効果」のエビデンスがないために軽視されているのか、または当然のこととして触れていないのでしょうか?(言うまでもないこととして)。
恐らくは、厳重な「セロトニン生活」を徹底して行っていけば、いつの日かは、片頭痛は起こらなくなるものと期待され、これを試みる方々が多くなったようですが・・
ただ、誰も、生きている以上「聖人君子」のように「セロトニン生活」の全てを行うことが可能であるとは限らず、この点は、妥協しながら、片頭痛と「お付き合い」しなくては、いけない場合も当然あります。このような場合が多いことは否定しません。
このよう状況であるからこそ、頭痛外来も、トリプタン製剤メーカーも、「お互いが潤う」ことによって、丸く収まっているのかも知れません。
しかし、片頭痛患者さんにとっては、たまったものではありません。
あくまでも、理想的な形の「生活様式(ライフスタイル)」にすれば、発作は「必ず、起きなくなる」といった、夢を「医師たる者は示すべき」ではないでしょうか。
それとも、片頭痛患者さんがいなくなれば、頭痛外来は干上がり、トリプタン系製剤メーカーの収益が激減してしまうため、以上のような点を無視されているのでしょうか?
現代社会における問題点
慢性頭痛治療を行う上での生活習慣改善の基本は「規則正しい生活を行って、食事をバランスよく摂り、睡眠を十分にとり、姿勢を正しくし、適当に運動し、リラックスすること」です。このような極めて単純なことです。もう一度、繰り返します。
規則正しい生活とは、生まれつき体に備わっている生体リズムに沿った生活という意味で、最も自然で健康的な生活と言えます。
食事をバランスよく摂ることは、ミトコンドリアがエネルギー産生を行うためと、脳内セロトニン産生を行うために必須の条件になります。
睡眠を十分にとることは、日中に傷ついたミトコンドリアの修復に不可欠であり、早寝・早起きはセロトニン神経の活性化に大切になります。
姿勢を正しくすることは、背筋を伸ばすことでミトコンドリアを活性化させます。
リラックスすることは、自律神経を調整するために必要で、ストレス耐性の体づくりにはセロトニン活性化が不可欠となってきます。
運動はミトコンドリアを増やし、セロトニン神経系を活性化させます。
このように、これらの生活習慣改善の内容そのものは、ミトコンドリアの働きをよくさせ、脳内セロトニンを増やすための方法だったはずのものです。
しかし、現代社会では、このような単純なことすらできない生活環境にあります。
規則正しい生活が、毎日行える方は極めて少なく、極めて稀ではないでしょうか。
睡眠が十分にとれる人も極めて少ないのではないでしょうか。
現代は交通機関が極めて発達し、車社会です。このため、歩くことが少なく運動不足は日常的になっています。
現代社会は、極めてストレスが多いのが特徴で、リラックス可能な状況にはありません。
また、IT万能の世界です。パソコンの操作は日常業務に組み込まれ、仕事が終わればスマホとにらめっこをされる方々が増え、日常的に前屈みの姿勢を強制され、姿勢を悪くさせる生活環境に満ち溢れています。
また、私達が口にする食品の成分は以前とはまったく変化しています。
食品添加物の問題、食品の精製・加工過程の問題もあります。
また、マグネシウムが不足しやすい生活環境に置かれています。
このように「食事をバランスよく摂る」ことが如何に難しくなっているかが想像されるはずです。
このように、こうした「規則正しい生活を行って、食事をバランスよく摂り、睡眠を十分にとり、姿勢を正しくし、適当に運動し、リラックスすること」といった口で言えば極めて単純なことが簡単には行えないような時代です。
このような困難な時代であるが故に、これを如何にして行っていくのかが問われており、工夫、というよりは、並々ならぬ”努力・覚悟”が必要になっています。
こうしたことが現実に存在するが故に、西洋医学では、このようなことには一切触れることなく、鎮痛のみを医療の主目的に置いている最大の理由なのかも知れません。極めて、残念なことですが・・
しかし、その前に、机上の空論と揶揄されるかも知れませんが・・
慢性頭痛を根治させるための原則は、規則正しい生活を心がけることです。
このための大事なことは、睡眠、運動、食事の3つのです。
すなわち、睡眠を十分にとり、適度に運動し、食事をバランスよく摂取することです。 このなかの1つでも欠けますと、慢性頭痛は改善できないことになります。
ということは、片頭痛が中々改善できないと悩まれる場合は、最低限度、睡眠を十分にとり、適度に運動し、食事をバランスよく摂取できているのかを振り返ってみることです。
なかには、睡眠も十分とれており、適度に運動もしているはずなのに、いつまでも片頭痛がよくならない場合には、食事に問題があると考えなくてはなりません。
自分では、食事をバランスよく摂取できていると思われていても、バランスよく摂取できていないものと思われます。先程も述べましたように、現代社会は、食事がバランスよく摂れない状況にあります。とくに、マグネシウムが不足しやすい生活環境にあります。
マグネシウム不足は、モロにミトコンドリアの機能に影響を及ぼします。
また、必須脂肪酸のオメガ3とオメガ6の摂取バランスがうまくいっていないことが関係しているのかもしれません。
あるいは、抗酸化食品である野菜・果物の摂取不足があるのかもしれません。
また、知らず知らずのうちに、有害物質を口にしているのかもしれません。こうした場合、日頃からデトックスを心がけているかどうかを反省しなくてはなりません。
このように、食事に関しては、点検項目が多く一番苦労させられる部分になります。
ということは、食事の問題点は、ミトコンドリアの機能に直接影響を及ぼすことが理解されるはずです。
こういったこととは、まったく別に、以下のようなことも最初に念頭に置く必要があります。
先程述べましたように、睡眠を十分にとり、適度に運動し、食事をバランスよく摂取しながら、片頭痛が一向に改善されないこともあります。
これは、自分では、この3つがクリア出来ていると思っていても、現代社会では、こうしたことが十分に行えていない可能性も当然のこととしてあります。
こうした際には、何から手をつけてよいのか困惑させられます。余りにも点検項目が多すぎて、根治を目指す気力も失せてしまいかねる場合も当然のこととしてあります。
こうした場合、これまでも述べたことなのですが、自分の”片頭痛”の発症要因が何なのかを考えてみることです。そのためには、自分の頭痛が、どのような経過を辿って、現在に至っているのかを冷静に思い起こす必要があります。これが明確になれば、発症要因は簡単に想定できますが、なかなか簡単にいかないのが現実です。そこで・・
私は、片頭痛を発症させる要因は、大雑把に分けて、3つあるものと考えています。それは・・
1.ミトコンドリアの問題
2.脳内セロトニンの問題
3.「体の歪み(ストレートネック)」の問題
この3つです。これらは、本来なら3つとも連携して、すべて繋がっているはずのものです。
しかし、片頭痛個々の患者さんを診てみますと、個々の患者さんの片頭痛の発症要因は、この3つのなかのどれかが主要因となっているように思っています。
多くの患者さんは、ミトコンドリアの問題が主要因になっているように思っています。
先述のように食事摂取の問題から引き起こされてくることが原因となったり、生まれつき母親から引き継がれたミトコンドリアの活性低下が原因かもしれません。
大半の女性の片頭痛はこのようなタイプと思われます。
それは、生理時には必ず片頭痛が出現するといった場合です。
「生理痛」と「月経時片頭痛」の異同
https://ameblo.jp/yoyamono/entry-11945913540.html
次は、脳内セロトニンの低下が主要因になっている場合です。
女性では当然のことですが、とくに、男性の片頭痛の場合に考えなくてはなりません。
男性の場合、片頭痛発症のキッカケとなるものはストレスが重要な位置を占めています。
ストレスによって交感神経の緊張が持続すると、血管が収縮して低体温になり、高血糖になって、解糖系のエネルギ―が主体となってきます。低体温、低酸素、高血糖の状態です。このようにして、ミトコンドリアが機能しなくなります。
また、ストレスはマグネシウムを枯渇させ、活性酸素が過剰に産生され、これも影響してきます。
さらに、ストレスは脳内セロトニンを枯渇させることになります。男性ではこれらの関与が大きいのです。この両者によって、片頭痛を発症させることになります。
そして、最後は、「体の歪み(ストレートネック)」が主要因となるもので、その典型例は、小橋雄太さんのイミグラン錠副作用なしで片頭痛を治しちゃえ」で示されます。
ブログ「イミグラン錠・副作用なしで偏頭痛を治しちゃえ」のブログの開設者の小橋雄太さんは、10年以上、閃輝暗点を伴う片頭痛に悩まされ、おまけに”トリプタン製剤”が全く効かない「トリプタン・ノンレスポンダー」でした。このため、頭痛発作時の前日と当日の発作時の状況を詳細に記録を繰り返していくことによって「体の歪み」に頭痛発作の引き金があることに気付いて、当初は整体師さんの指導を受け、この指導を毎日忠実に守り・実行することによって片頭痛を改善されたようです。
以上のように、片頭痛の発症要因には、3つが主要因としてあるように思われます。
これを見分ける方法として、片頭痛発作時の予兆や前兆を確認することです。
片頭痛発作時には、前兆のかなり前に予兆と呼ばれる症状があります。
例えば、あくびが出るとか,異常にお腹がすくとか,イライラするとか,眠くなるなどの症状です。発作が鎮まった後も気分の変調があったりします。これらは、すべて脳内セロトニンの低下による症状です。
とくに、脳内セロトニンの低下が主要因になっている場合に出現してくることが多いようです。
そして、ミトコンドリアの問題が主要因となっている場合は、前兆として閃輝暗点を伴ったり、上記のような予兆がみられることもあります。
ところが、「体の歪み(ストレートネック)」が主要因になっている場合は、前兆として閃輝暗点が出現することはありますが、多くの場合、予兆はみられず、当初、肩が異様にこった感じがし、はじめは緊張型頭痛のような症状が次第の増強し、いつのまにか片頭痛へと進展することが多いように思われます。
そして、片頭痛発作が、天気に左右され、遙か彼方に発生した低気圧によって発作が誘発されたり、平生から、めまい、ふらつき、肩こりが酷かったり、腰痛を伴っている場合も多いようです。
また、片頭痛が増悪してくる際に、先述のムチウチや頭部外傷などを契機とした場合は、この「体の歪み(ストレートネック)」が主要因になっていることが多いようです。
さらに、脳内セロトニンの低下が主要因となる場合は、片頭痛が増悪するまでの数年間の間に過剰なストレスが加わって起きてくる場合は、これがヒントになります。
また、ミトコンドリアが主要因となる場合は、頭痛発作時に頻回に市販の鎮痛薬を繰り返して服用しているうちにいつの間にか片頭痛へと移行してくるパターンが多いようです。
このように、発作時の予兆・前兆の有無、さらに片頭痛が増悪してきたきっかけとなる生活習慣の問題点やムチウチ・頭部外傷などの有無が、こうした片頭痛発症の主要因を探る手がかりになってきます。
こういったことから、自分で冷静にこれまでの自分の頭痛発作がどのような経過を辿って現在に至ってきたのかを内省することが極めて重要になってきます。このようなことは、あなたでしか分からないことであり、医師はこのようなことは把握できません。
ということは、片頭痛発症の主要因を探ることができるのはあなたしかいないことになります。
さらに、先述のような予兆・前兆の有無を確認しながら総合的に判断していく必要があります。
その上で、まず、優先して行うべきことを決めていくことが重要になってきます。
ミトコンドリアが主要因と思われる場合は、まず、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生の提唱される「3つの約束」をまず、行うべきです。
脳内セロトニンの低下が主要因と思われる場合は、まず、「セロトニン生活」を励行することです。男性の場合はまずこれを行うべきです。
「体の歪み(ストレートネック)」が主要因と思われる場合は、まず、「体の歪み(ストレートネック)」の是正を行っていくべきです。
このようにして、あなたの片頭痛発症の主要因が
1.ミトコンドリアの問題
2.脳内セロトニンの問題
3.「体の歪み(ストレートネック)」の問題
なのかを判断し、改善・是正していくことになります。
このようにして、最優先課題をもとにして、効率よく問題解決を行っていく必要があります。これらを行うにしても、最低でも効果が現れるまでには3カ月は必要とされますので、効率よく行うべきです。
このようにしながら、今後に残された行うべきことを、「治療指針」で把握することによって、その段階の生活習慣と照らし合わせてみて、欠けている部分を模索しながら改善すべきことを絞っていくことが大切になってきます。
最初から、すべてのことを行おうとすれば、全てが中途半端になってしまい、元の木阿弥になりかねませんので注意が必要です。
ここでコマーシャルです。
頭痛が気になったら・・
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