視床下部を冒涜するな!!その1 食欲について | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 先日、専門家は視床下部が”片頭痛が起こる原因のひとつになっている”と述べていました。


 そこで、視床下部とはどのような役割を果たしているのかを、まず、食欲を例にして、アトランダムに述べてみたいと思います。


食欲の調節について


 私達はお昼時になるとお腹が空き、食事がしたくなります。このような食欲はどのように調節されているのでしょうか。


 まず、私達の食事について考えてみましょう。エネルギーや栄養を得るために食事をします。しかも、食べていない時間もエネルギーを使えるように貯蔵できる形に変換し、筋肉、肝臓、脂肪細胞など に貯蔵しています。空腹時はこれらの貯蔵されたエネルギーが使われます。


 さて、食欲はどこで調節されているのでしょうか。食欲の調節には脳が関与しています。 脳の視床下部には2つの中枢があり、「お腹が空いたな」とか「お腹がいっぱいだな」などの信号をキャッチします。すなわち、視床下部に摂食中枢と満腹中枢があり、胃が空っぽになり、胃がキューっと収縮し、お腹がグーと鳴ったら、摂食中枢が働いて食欲がわきます。逆に、胃が食べ物で満たされ拡張したり、食べ物が消化して血液中のブドウ糖濃度が最も高くなる時は満腹中枢に働きかけ、摂食を抑えます。
 一方で、脂肪細胞に脂肪が蓄積すると、「レプチン」というホルモンが分泌され、視床下部にある受容体に働きかけ、食欲を抑えます。それと同時に交感神経に作用して、エネルギー消費を促します。このようにして、動物は食べる量を抑え、エネルギーの過剰な蓄積を防ぐことができるのです。


 このメカニズム以外にも動物の食欲は様々な調節が行われていて、ストレスが関係する調節もあり、まだ全ては明らかになっていません。将来は、食欲を調節する薬ができるかもしれません。


食欲をコントロールする仕組み


 脳の摂食中枢は視床下部にあり、その腹内側核(満腹中枢VMH: 摂食を抑制する)と外側野(摂食中枢LHA: 摂食を促進する)によってコントロールされています。


 ブドウ糖、カテコラミン、モルフィン、TRH などは摂食中枢を抑制し、満腹中枢を促進して食欲を抑えます。またインスリン、遊離脂肪酸などは摂食中枢を促進し、満腹中枢を抑制するため食欲は亢進します。


 また、胃の収縮伸展情報や肝臓の化学受容器からの情報は迷走神経を介して延髄に送られ、さらに視床下部へと伝えられます。また視床下部からは、前頭前野や辺縁系(とくに扁桃体)へ情報が伝えられ、ここで視覚、味覚、嗅覚、聴覚などの感覚情報も統合され、空腹感や満腹感として認識されます。


 このように、視床下部や大脳辺縁系は摂食行動の制御において重要な役割をすると同時に、情動行動の発現や制御に重要な役割を果たしています。このため、情動ストレスや情動障害においても色々なレベルの食思不振や食行動の異常が生じることになります。


 一方、ストレスや抑うつ状態では、視床下部室傍核でのセロトニン(5-HT)の代謝回転が増加し、食欲抑制物質であるCRF (corticotropin releasing factor)の分泌増加につながり、食欲の低下がもたらされると考えられています。

 

食欲とは何か? 脳との情報伝達が織りなす情動


レプチン、グレリン・・・ホルモンが食欲を司る


 食欲の中枢に影響を与えているのは、消化器の状態と血糖値の他にないのでしようか。 実は、食欲制御に大いに影響を与える新たな要因が、1994年に発見されたのです。それは、脂肪細胞から分泌される「レプチン」というホルモンです。


 ホルモンとは、体液(主に血液)を介してそのホルモンの受容体がある細胞に情報を伝え、その細胞を変化させる分子のことです。ホルモンは言ってみれば特定の住所に手紙を届ける伝令役、そう、まさにマーキュリーのような特徴を持った分子なのです。神経のみならずホルモンをも駆使するとは、有能な伝令使マーキュリーの面目躍如です。


 レプチンの受容体は、先の摂食・満腹中枢のすぐ下の「弓状核」という場所にあり、そこにレプチンが作用すると摂食が抑制されます。レプチンの発見によって、食欲制御の本当の中心はこの弓状核にあり、弓状核の変化が従来の摂食・満腹中枢とされていた部位へ伝わり、最終的に食欲が形成される、というふうに考えられるようになりました。


 他に、十二指腸や小腸・大腸から分泌されるホルモンのいくつか、例えばコレシストキニン、グルカゴン様ペプチド-1、ペプチドYYなどにもレプチンと同じように食欲抑制の作用があることが分かっています。これらのホルモンは、消化管での食物の消化や吸収によって分泌が刺激され、レプチンと連携しながら食欲を抑制させる方向へ働きます。
 一方、食欲を増進させるホルモンもあります。その名は「グレリン」です。マーキュリーは、状況に応じたさまざまな手紙を配達するのです。グレリンは、空腹時の胃から分泌されるホルモンで、食欲の中枢である弓状核に作用して、レプチンとは逆に摂食を促すように作用します。


 脂肪組織で産出される摂食抑制ホルモンであるレプチンは、弓状核のPOMCニューロンを活性化することで食欲の抑制を行い、胃で産出される摂食亢進ホルモンであるグレリンは弓状核のNPY/AgRPニューロンを活性化することで食欲を亢進させる作用があります。

 

 食欲と食欲不振のメカニズム


 食欲は脳の視床下部に存在する満腹中枢と摂食中枢によりコントロールされています。

 視床下部は交感神経・副交感神経の機能および内分泌機能を総合的に調節しています。 これらの具体的な働きとしては摂食行動や飲水行動、睡眠などの本能行動、また怒りや不安などの情動行動に関与していることです。
  空腹になると体内の脂肪が分解されて脂肪酸が遊離します。その脂肪酸が摂食中枢を刺激し、“お腹がすいた”と実感し、食欲がわいてきます。次に、食事から摂取した栄養素が分解され、血液中にグルコースが増えます。そのグルコースは満腹中枢を刺激することで“お腹がいっぱい”と感じさせ、食欲が抑えられます。このように、食欲は自律神経系によって調節されています。したがって、なんらかの原因で自律神経系のバランスが乱れると、食欲不振に陥ってしまいます。


食欲のしくみ


 食欲は、一般に空腹感によって引き起こされることが多いのですが、必ずしも食欲=空腹感になるとは限りません。
 例えば何らかの病気が原因で食欲過剰をきたした場合には、十分な満腹感があっても食欲は衰えない、その反対に食欲不振に陥ると、空腹感があるにもかかわらず食欲が起きないことがあります。
 通常、人間のからだは血液中の栄養素の増減や体温の変化、抹消血管でのブドウ糖の利用状態などの情報が脳の視床下部にある摂食中枢(外側視床下部)と満腹中枢(腹内側核)に伝えられ、食事が必要になるかどうかを判断します。
 たとえばブドウ糖の利用度が高い(血糖値が高い)場合には満腹中枢が刺激されて摂食中枢の働きを抑制し、逆の場合には摂食中枢が活発になり、食欲が高まるのです。
 ところが精神的ストレスや外傷、病気などにより視床下部に異常が生じると、こうした情報伝達が円滑に出来なくなり、生理的な状態を無視した前述のような食欲異常が起きることになるのです。
 尚、視床下部から出される信号は、さらに大脳辺縁系と呼ばれる部位に伝えられ、そこで視覚や味覚、嗅覚、触覚、聴覚など感覚器からの様々な情報の影響を受けながら、具体的な食欲となって表れるのです。
 近年、ブドウ糖以外にも、インスリンなどのホルモンや脂肪酸も食欲を左右する情報源となっていることが分かってきています。


早食いの弊害

 
 食欲は血糖値やホルモン、脂肪酸など様々な情報によって視床下部がコントロールしているわけですが、それらの情報が実際に満腹感となって認識されるまでには、食べ始めてから20~30分かかります。
 これは一般的な食事時間とほぼ同じで、言い換えれば、この程度の時間で食べ終わるくらいの食事が適量ということになります。
 ただ、ここで問題になるのが、食べる速さです。
 十分に食べ物を咀嚼し、落ち着いて食べればよいのですが、5分や10分で飲み込むように食べてしまうと、満腹感を感じる前に食事が終わってしまうことになります。もし満腹感を味わおうとすれば、人よりも多く食べなければならず、当然、肥満になりやすく、胃腸にかかる負担も大きくなります。
 反対にゆっくり食べれば、少ない量でも満腹感は得られるわけで、太りすぎが気になる人は、時間をかけて食事をとるように心がけるといいでしょう。


食欲のしくみ


 食欲は、脳の視床下部というところにある摂食中枢と満腹中枢によってコントロールされています。また、よく言う「別腹」も脳がつくりだしていると言われています。

 

●生理的に起こる食欲


 「血糖値」とは血液中のブドウ糖濃度のことで、食後は上昇しますが、だんだん低下し、やがて空腹時血糖値(70?110mg/dl)になります。この血糖値に、脳の視床下部にある摂食中枢が反応すると空腹感が生まれ、食欲がわいてきます。逆に、血糖値が空腹時血糖値の約2倍になると視床下部の満腹中枢が反応して満腹感が生まれ、食欲がなくなります。
 また、胃に食べ物が入ると胃壁がのびます。すると、その変化に副交感神経が反応して満腹中枢を刺激し、満腹感を起こします。逆に、胃の内容物が腸に送られると胃壁が縮みます。それには、交感神経が反応して摂食中枢を刺激し、空腹感を起こすので食欲がわいてきます。


●感覚的に起こる食欲


 食べ物やその周囲の情報は、口や目、鼻、耳などから神経を介して大脳皮質のそれぞれの感覚野に送られ、味、色、香りなどの情報が統合されます。
 その結果と食体験の記憶・知識などが脳の扁桃体という部分で統合され、おいしい・まずいなどの判断がなされます。こうした情報は視床下部に送られ、おいしいという判断は摂食中枢に伝わるので食欲がわき、まずいという判断は満腹中枢に伝わるので食欲が起こりません。
 実は、「別腹」もケーキがおいしかった記憶などが脳の扁桃体で統合されることにより、脳内にドーパミンという快感物質が増え摂食中枢を刺激するからなのです。その刺激が、生理的な満腹感にまさると、あたかも別腹があるかのようにケーキを食べてしまうのです。
 ということは、「おいしい?!」という記憶が多ければ多いほど、別腹の数も増えるということになるのでしょうか・・・


食欲をあやつる『ホルモン』のお話


 おなかはいっぱいなのにデザートは別腹だったり、少量しか食べていないのにやけに満腹感を感じたり。その時々によって、食欲に波があるように感じることはありませんか?その原因の1つは「ホルモン」の働きにあるとされています。


食べ過ぎの一因とされる3つのホルモン


 食欲は、脳の視床下部にある摂食中枢と満腹中枢によってコントロールされています。 私たちは、空腹感や満腹感をこの2つの中枢からのシグナルを受け取って感じているのです。
 食欲は人が生きていくために必要不可欠ないわば「本能」。健康の証とも言えます。問題なのは、「本能が必要とする以上の食欲」。過剰な食欲とどう付き合っていけばいいのかを知るためにも、過食の一因と考えられている代表的な3つのホルモンとその働きについて学んでいきましょう。


食欲を抑える「レプチン」


 レプチンとは、脂肪細胞が発する満腹を知らせるホルモン。摂食や成長ホルモン分泌調整の中枢である視床下部に働きかけ、食欲を調整・抑制する働きがあることから、ダイエットや体重管理に大きな影響を与えると考えられています。
 脂肪細胞が満腹のシグナルを発信するのですから、太っている人(多くの脂肪細胞を蓄えている人)の方がレプチンの影響を受けやすいのでは?と思うかもしれませんが、体脂肪が多い人はレプチンが発するシグナルを受け取る受容体の反応が鈍くなっている(レプチン抵抗性)ため、シグナルに気付きにくく食べ過ぎがちになります。その結果、脂肪細胞がさらに増えて一層シグナルを受け取りにくくなるという負のスパイラルに陥りやすいのです。このレプチン抵抗性は、ダイエットなどで体重(脂肪細胞)が減れば改善されますが、きちんと改善するまでには多少のタイムラグがあり、これがリバウンドの一因とされています。このタイムラグを暴飲暴食することなく乗り切ることが、ダイエット後の体重を維持する大きなカギといえそうです。

 

精神的安定や幸福感に関わる「セロトニン」


 セロトニンは、精神的安定や意欲、満腹感などを伝える神経伝達物質です。喜びや快楽を伝えるドーパミン、怒りや恐怖などを伝えるノルアドレナリンなどの暴走を防ぎ、食欲を抑制する働きもあります。
 セロトニンの9割以上は、消化管や血液中に存在していますが、食欲と深く関係するのは、体内にあるセロトニンのうち2%に満たない「脳内セロトニン」だとされています。 セロトニンは、精神安定作用と食欲を調整する働きを併せ持つため、不足してしまうと、精神不安定と食欲昂進が連動しやすい傾向にあるとのことです。たとえば、イライラしている時に無性にスイーツが食べたくなったり、生理前になると焼肉やステーキを食べたい欲求に駆られた経験はありませんか? あれは、甘いモノや肉を食べるとセロトニン分泌が増えるからだそうです。また、生理前は黄体ホルモンや卵胞ホルモンの関与でセロトニンの働きが低下するため、イラついたり、甘いモノや肉類への欲求が高まりやすいとされています。とはいえ、肉や甘いモノを食べてセロトニンの分泌が増えるのは一時的なこと。セロトニンの分泌を増やして食欲を適正に保つためには、
①日光を浴びる
網膜から入る太陽光がセロトニン神経の活動を活性化させる
②リズミカルな運動をする
 ウォーキングや深呼吸、咀嚼などを行うとセロトニン神経の活性化につながる
③グルーミングを心がける
家族との食事や友達との何気ない会話など、人と近い距離で触れあうことがストレス緩和につながる
 ことが良いとされています。


食欲を増進する「グレリン」


 グレリンは、食欲を増進させる働きを持つホルモンです。主に胃で産生され、グレリン値が増えると視床下部に空腹のシグナルを送ります。
 前出の食欲を抑制するレプチンとは、拮抗しながらバランスを保ち合う関係にあり、レプチンが増えるとグレリンの作用は抑えられ、レプチンが減るとグレリンの作用で食欲が増すメカニズムになっています。レプチンとグレリンによる食欲の抑制と増進のバランスを安定させるには、体脂肪を増やし過ぎないことや規則的な生活習慣を心がけることが重要だとされています。


ここまでの話をまとめると…

①レプチンの食欲抑制作用を機能させるには、体脂肪を増やし過ぎないことが重要
②セロトニンの精神安定&食欲調整作用を機能させるには、規則正しい生活習慣が大切
③グレリンによる食欲増進作用は、食欲抑制作用のあるレプチンとの均衡維持がマスト

 ということになります。
 つまるところ、規則正しい生活習慣が各ホルモンの分泌調整や均衡を保つ後押しをすることで、食欲のコントロールも適正に行われるということです。


 つい食べ過ぎてしまった時、「どうして我慢できなかったんだろう」と自分を責める人は少なくないはず。ですが、食べ過ぎのメカニズムは、我慢や根性で片づけられるほど単純ではなく、今回お話ししたようなホルモンの働きなどさまざまな要素が関係しています。 食欲をあやつるホルモンの作用を引き出すよう努力しつつ、時には、ストレス社会で日々がんばっている自分を甘やかしながら、自分にとってベストな生活リズムを身に着けていきたいです。


 視床下部は食欲の源


 西洋の哲学者や知識人は、食欲や味覚については学問的に追究する価値のないものととらえる傾向にありました。例えば、18世紀のドイツ(プロイセン)の思想家であるカントは、味覚と嗅覚は客観的なものではないので、追究する意味がないと述べたことで知られています。他の感覚と比べると、味やにおいの感じ方は個人によってかなり違うため、とらえようがなかったのかもしれません。あるいは、食欲は欲望の一種であることから、「卑しいもの」と考えていたと推測できます。


 しかし、19世紀の後半になると、自然科学の進歩とともに医学や生物学が大きく発展し、食欲が生じる仕組みについても解析が進み出すようになります。そして、事故や腫瘍などによって脳の一部を損傷した人の症状を調べたり、実験動物の脳の一部を破壊した時の食べる行動(摂食行動)を調べたりすることで、食欲が生じるのに「視床下部」と呼ばれる領域が重要であることが次第に分かってきました。


 視床下部は、脳のほぼ真ん中あたりにあり、親指の先くらいの大きさをしています。
 そして現在では、視床下部は摂食行動だけでなく、体温や血圧、心拍数の調節、ホルモンの分泌、飲水行動、睡眠、性行動、体内時計をつかさどることで、動物が生存を続けるために体内の環境を一定に保つ役割を果たしていることが分かっています。


ノーベル賞?


 さて、私たち人間は、お腹が空く生き物です。朝食に昼食、夜食に間食……。おやつにお酒……。ついつい、食べ過ぎ・飲み過ぎてしまうのが常です。しかし、食べ過ぎると、当然、脂肪が増えるので肥満することになります。
 

 脂肪細胞から分泌されるホルモンに、「レプチン」と呼ばれるものがあります。これは、食欲を抑制し、エネルギー代謝を活性化させる機能を持っています。レプチンは、脂肪が増えるにしたがって放出量が増えます。したがって、レプチンは適正な体重の維持に働いていると考えられています。しかし、肥満状態の人の摂食は、必ずしも抑制されていないのが現状です。


どうしてでしょうか


 それは、レプチンが効きにくくなる、「レプチン抵抗性」と呼ばれる現象が起こるためです。そのメカニズムはよく分かっておらず、また、治療法も見つかっていません。


 しかし、『一度太るとなぜ痩せにくい?』(光文社新書)を上梓した基礎生物学研究所の新谷隆史准教授のグループは、PTPRJという酵素分子がレプチンの受容体の活性化を抑制していることを発見しました。肥満にともなって摂食中枢でPTPRJの発現が増えることによってレプチンが効きにくくなり、これが、レプチン抵抗性の要因となっていることを明らかにしたのです。その研究成果はScientific Reportsにオンライン掲載され、世界で大きな反響を呼びました。この研究成果をベースにまとめたのが前述の一冊です。


 現在、世界中でレプチン抵抗性の研究が進められているようですが、新谷准教授によると、レプチンの発見者は数年以内にノーベル生理学・医学賞を受賞するかもしれないと語っています。


生殖にも重要なレプチン


 レプチンはまた、脳の視床下部に働いて、性ホルモンの分泌を促進することによって、性成熟や生殖活動に重要な役割を果たしていることが明らかになっています。
 以前から、第二次性徴(思春期)が始まるには脂肪の蓄積が必要であるといわれていました。しかし現在では、蓄積された体脂肪から放出されるレプチンが視床下部を刺激することで性ホルモンの分泌が高まり、第二次性徴が始まると考えられているそうです。


 第二次大戦後、日本人の栄養状態は年々向上し、子供の体格も格段に向上しました。それにともなって初潮の年齢も徐々に低くなりましたが、これには体脂肪率の増加、すなわちレプチンの増加が関係していると考えられているのです。


 一方、食べ物の不足などにより脂肪量が少ない状態の場合、妊娠しにくくなることが知られています。そして、これにもレプチンが関与していると考えられています。すなわち、体脂肪量が少なくレプチンが足りないと、女性ホルモンの分泌量が下がるため排卵が起こりにくくなるというわけです。
 例えば、女性アスリートが過度な減量を行うと、月経異常を起こすことがあります。また、最近若い女性に増えている拒食症(神経性無食欲症)でも、無月経が問題になっています。これらの原因は、体脂肪量の低下によるレプチンの減少であると考えられています。


 レプチンが十分にないと性成熟が起こらなかったり生殖機能が低下したりするのは、動物個体の生存と種族の維持を両立させるという意味で理にかなった仕組みと考えられます。 すなわち、低栄養状態のやせた動物が妊娠すると、親子が共倒れになってしまう危険性があるからです。冬ごもりの時期に体脂肪率が上がらないとメスグマが流産してしまう現象にも、レプチンが関わっていると推察されています。


 このように、視床下部は、脂肪細胞から放出されるレプチンを、「栄養シグナル」として利用することで、摂食行動とともに生殖行動も制御しているのです。

 
睡眠不足とグレリン・レプチンの関係


 睡眠不足が続くと、グレリンの分泌量は増え、レプチンの分泌量が減るため、食事の量が増えていきます。加えて、レプチンにはカロリーを消費する「代謝」を促す働きがあるのですが、分泌量が減っているため、代謝の量も減ってしまいます。
 更に睡眠不足に陥るとグレリン・レプチン以外のホルモンにも影響が。。。それはセロトニンと呼ばれる神経伝達物質です。
 セロトニンが不足すると、その影響で向上心が低下すると症状もみられます。そうなると活動量も減り、睡眠不足が起因する負のスパイラルに陥ってしまっているかもしれません。
 そうなる前に、毎日の睡眠はなるべく計画的。少し疲れが溜まった時などは、無理をせずに早めに就寝するなど、身体の状態に合わせて睡眠とうまく向き合うようにしてください。

 

脳「エネルギー足りてる?」体「No!」→食欲発生


食欲は大きく分けて以下の3つの要因で決まります。


 (1)糖の量
 (2)脂肪の量
 (3)胃の空っぽ具合


 食べ物を食べる行為は、おいしさで幸せな気持ちを補給する効果もありますが、もともとは生命維持に必要なエネルギー源を食べ物から摂取する目的があります。私たちの脳の「視床下部」という部位は、体にあるエネルギー源の量を常にモニタリングしています。 視床下部が、エネルギー源となる物質が足りないと判断すると、食欲が生み出されるのです。


 エネルギー源となる物質とは、具体的には糖と脂肪です。筋肉などのタンパク質も分解すればエネルギーにはできますが、食欲をコントロールしているのは、主に糖と脂肪です。


 糖は、視床下部にある神経細胞が、血液中の「グルコース」という糖を直接感知します。

 脂肪は、脂肪細胞から分泌される「レプチン」という物質が血液を介して視床下部まで届くことで、間接的に感知されます。


 つまり、体内の糖や脂肪の量が多ければ食欲がおさまり、少なければ食欲が増すのです。


 また、胃が空腹であるときに分泌される「グレリン」という物質があります。グレリンは空腹感を生み出す物質で、胃に食べ物が入ってくると分泌が弱まり、空腹感が弱まります。胃に食べ物が入っていないという物理的な刺激によっても、食欲が増すのです。


 食欲は、このような3つの状態によってコントロールされています。これを踏まえた上で、寒くなるとお腹が空く理由ついて考えてみましょう。


 寒いと食欲が増す仮説(1)交感神経がグレリンを分泌させる?

 

 私たちの体は、多少の前後はあれど、常に一定の体温になるように保たれています。気温が低くなると熱が奪われていくので、皮膚の表面から冷たくなっていきます。体は、寒さに対抗しながら、なんとか体温を一定に保たなければなりません。


 寒い時、体は主に2つの戦略で体温を上げます。


 1つ目は、震えることです。体内で熱を生み出しているのはほぼ筋肉です。筋肉を動かして震えを起こすことで、追加で熱を生み出すことができます。
 2つ目は、血流をおさえることです。血液は体の外に熱を逃がすはたらきもあるので、血液の流れをおさえることで熱を逃しにくくしているのです。


 この2つは、自分の体を使ってできることです。しかし、他にもチートがあります。それは「食べ物を食べる」ことです。みなさんも食事をしていると体が熱くなってきた経験があるのではないでしょうか。食べ物を食べると、体温を0.5度ほど上昇させることができるのです。


 わたしたちの体は寒い時、多く使ったエネルギーの補給というよりは、発熱の手段として食べ物を食べたくなるようにできているのかもしれません。このしくみは、まだ研究途上でありデータが不足していますが、次のような仮説があります。


 震えや血流の低下は、寒さの刺激によって活発になる「交感神経」によって引き起こされます。マウスを使ったある実験では、交感神経が活発になるとグレリンの分泌が増えることが分かりました。つまり、体温を上げるためにはたらく交感神経によって、空腹感をもたらす物質の量が増える可能性があるのです。


 仮説(1)の食欲は本物?錯覚?


 食欲は本来、エネルギーを補給するために生じるものだと言いました。しかし、この仮説において、食べ物はエネルギー源ではなく、熱源です。つまり、エネルギーが不足しているから食べる、というわけではない可能性が高いので、本来の空腹感とは別物と言えるでしょう。つまり”錯覚空腹感”の一種です。


 この空腹感にしたがって食べすぎてしまうと、発熱に必要な分以上のエネルギーを摂取してしまい、エネルギー過多になる可能性があると思います。厚着をしたり、部屋を暖かくしたり、こたつに入ったりして、なるべく体を冷やさないように心がけることは、冬を快適に過ごすことだけでなく、錯覚空腹感に騙されて食べ過ぎないことにもつながるでしょう。


寒いと食欲が増す仮説(2)セロトニン不足が暴食につながる?


 もう一つは、実は寒さではなく、日照時間の短さが食欲に関係している可能性があります。

 1年を通じて晴れの日がない国の人はうつ症状の人が多い、という話を聞いたことはあるでしょうか。本来、うつ病は、脳の中で「セロトニン」という物質の量が減ることが原因でおこると言われています。セロトニンを作るためには目からの光の刺激が重要であるため、晴れの日が少ないと、セロトニン不足につながり、うつと似たような症状が引き起こるのです。


 晴れの日の回数が少ないわけではない日本でも、冬場は、夏場と比べて日照時間が短く、光の刺激が減りがちです。たとえば、冬至(12月)は、夏至(6月)と比べて、5時間ほど日照時間が短いです。こうした日照時間の短さも、セロトニン不足を招きます。冬特有のうつ症状である「冬季うつ」の原因は、日照時間の短さにあると考えられています。

 実は、このセロトニン不足は、食欲に関係があります。憂鬱な気分になると、つい食べすぎてしまうという経験がある方もいるでしょう。

 視床下部でエネルギー源の過不足を感知されて食欲が発生したあと、わたしたちが「食べる」という行動に至るまで、脳の中でいくつかの神経伝達が行われます。そのうちの一つに「MCHニューロン」という神経があり、この神経が活発だと、食欲をおさえ、食べる行動を控えさせるはたらきがあります。


 ある研究で、セロトニンがMCHニューロンを活発にすることに関わっていることが明らかになりました。つまり、セロトニンが食べる行動をおさえることにつながっていると分かったのです。日照時間が減ると、MCHニューロンを活発にするセロトニンの量が減るので、食べる行動を取りやすくなる可能性があるのです。

 

仮説(2)の食欲は本物?錯覚?


 MCHニューロンは、糖や脂肪を感知する神経細胞から「エネルギーが足りないよ!or足りてるよ!」という情報を受け取ってから活発になったり不活発になったりします。しかし、この仮説では、そうしたエネルギーに関する情報ではなく、セロトニンという別の要素によってMCHニューロンが不活発になり、食欲が増加しています。これも、”錯覚空腹感”と言えるかもしれません。


 冬のあいだは、なるべく明るい場所で過ごし、目に光を入れるように心がけることで、不当な空腹感の発生を予防することができるのではないでしょうか。ただし、夜の睡眠には差し支えないよう気をつけてください。


「おいしい=快感」となる脳の仕組みは?~私たちの命を守る「おいしさ」のセンサー


 五感によって受け取った、味や香り、色、形などの外観、温度、歯ごたえなどの食べ物の情報は、大脳皮質のそれぞれの感覚野(かんかくや:「感覚領」とも言う)に伝えられます。大脳皮質とは大脳の表面に広がる薄い神経細胞の層で、知覚や思考などの中枢になっています。感覚野は大脳皮質のうち、感覚に関与している部分です。情報は感覚野に伝えられた後、大脳皮質連合野という部分に集まり、食べ物が安全かどうか、求める栄養素を含むかなどを判断します。


 味覚などの五感から得た食べ物の情報と血糖値など生理的な状態の情報は、さらに扁桃体(へんとうたい)へと伝わります。偏桃体とは、大脳の内側にある大脳辺縁系の一部で、いい気持ちになったり、不愉快になったりする、「快・不快」の本能的な感情を生み出しているところです。ここでは、記憶や体験など過去の情報と照合し、食べ慣れていて安心して食べられるなどの手がかりをもとに、好ましいかどうかを判断します。

 扁桃体の情報は、さらに視床下部(ししょうかぶ)へと伝わります。視床下部は、偏桃体の近くにある食欲をコントロールする部分で、食べるように促す摂食中枢と、食べるのをストップさせる満腹中枢に分かれています。好ましい食べ物の場合は摂食中枢を刺激します。すると食欲が増し、おいしく味わって食べることができます。好ましくない場合は、食べることをやめます。

 このように脳に集まったさまざまな情報が次々に伝達されることで、おいしさを感じ、私たちの食行動を決めているのです。


おいしさは生命維持のために備わった快感


 一言でいえば、おいしさは食べ物を食べたときの「快感」です。快感は大脳皮質で理知的に判断されるのではなく、偏桃体で本能的に感じるものなのです。先に述べたように、偏桃体で感じる「快・不快」の感情(情動という)は、動物の行動を理解するために使われます。動物は「快」をもたらす刺激には接近し、「不快」をもたらす刺激は遠ざけます。

 そこで、食べることに「快」をもたらすことで、食欲という生命維持に欠かせない欲望を生み出しているのです。「食べたい」と思うのはどの動物でも共通なので、人類以外の動物にもおいしいという感覚はあるのでしょう。

 私たちは食べ続けなければ生きてゆけません。それなのに食べることが苦痛だったら、あっという間に、人類は滅びていたことでしょう。そこで、生体は食べることに心地よさや喜びを感じさせるようになっているのです。おいしいという快感が、「もっと食べたい」という感覚を生じさせることで、私たちは生命を維持できるのです。

 毎日おいしく食べられるのは、生きていることの証です。

 

 次へ、続きます。