これまで述べて来ましたように「酸化ストレス・炎症体質」を基盤として、「ホメオスターシス(自然治癒力)を構成する三角の歪み」や「姿勢の悪さ」が原因となって、日常的に感じる極く軽度の頭痛を引き起こしてきます。
ここに「脳過敏」「頭痛の慢性化」を引き起こす要因が追加されることによって、頭痛が増悪・進展することになります。
「脳過敏」「頭痛の慢性化」を引き起こす要因は、以下のものがあります。
1.ミトコンドリアの機能低下にマグネシウム不足
2.脳内セロトニンの低下
3.体の歪み(ストレートネック)の長期間の持続
この章では、このことについて述べることにします。そして、これまで述べてきたことと重複する部分がありますが、敢えて繰り返します。
このように重複して記載することによって、これまでのまとめとします。
1.ミトコンドリアの機能低下にマグネシウム不足
「ミトコンドリアの働きの悪さ」に、マグネシウム不足が加わると・・
片頭痛の方は生まれつきミトコンドリアの機能低下が存在します。
ここにマグネシウムが不足すればどのようになるのでしょうか?
マグネシウムイオンは細胞内小器官(ミトコンドリア)の膜構造ならびに細胞膜構造において膜の安定性を保つ役割をしています。
細胞膜にはミネラルイオンが通過できる小さな「穴」があり、これを使って必要なミネラルを自在に出入りさせることで細胞内のミネラルイオン濃度の調整しています。ミトコンドリアには、細胞内のカルシウムイオン濃度を適正に調整する作用があります。
マグネシウムイオンが不足すると細胞内小器官(ミトコンドリア)の”膜構造ならびに細胞膜構造”のイオンポンプの力が弱くなり、細胞内小器官であるミトコンドリア膜の透過性も亢進し、ミトコンドリア内に入り込んだカルシウムイオンは、ミトコンドリア外へ出ていけません。このために、カルシウムはミトコンドリア内に少しずつ蓄積してきます。ミトコンドリア内カルシウムイオンの増加が起こります。このようにして、ミトコンドリア内カルシウムイオン濃度を薄めるために細胞浮腫、つまり水ぶとりの状態になります。
細胞内のカルシウムイオン濃度が異常に高くなり過ぎますと、ミトコンドリアの調整機能は破壊されてしまいます。
その結果、調整機能が壊れたミトコンドリアは死滅してしまいます。
ミトコンドリアのエネルギー産生やミトコンドリア自体の生死には、ミトコンドリア内のカルシウムイオン濃度が強く関係していて、カルシウムイオン濃度は片頭痛の発症にも非常に大きな原因となります。
このようになった細胞に、適量のマグネシウムが供給されると、貯まっていたカルシウムイオンなどが排出され、それに続き、水分も排出されます(これは、片頭痛発作後、尿量が増加する原因になっています)が、この水ぶとり状態も限度がありカルシウムイオンがある量を超えると、その細胞は不必要となり見捨てられます。そして、後にはカルシウムイオンなどで一杯になった固まりだけが残されます。これが石灰化した細胞のことです。
結果的に、この細胞は死滅してしまいます。
細胞内のマグネシウムが著しく不足すると、カルシウムイオンを細胞外に排出するカルシウムポンプの調整機能が働かなくなり、筋肉は収縮状態(緊張した状態)が続くことになります。片頭痛の前兆や、発症の引き金となる脳血管の収縮は、脳血管細胞内のカルシウム濃度の高まりによっても生じます。
それはつまり、マグネシウム不足がもたらす結果でもあるのです。
このようにして、マグネシウムイオンの低下はミトコンドリア内カルシウムイオンとナトリウムイオンの増加およびカリウムの喪失による細胞内でのカリウムイオンの低下を招きます。このようにして、細胞は興奮しやすくなります。 これが「脳過敏」を引き起こしてきます。このようにしてマグネシウムイオンの減少はミトコンドリアの代謝異常をきたして、神経細胞を興奮しやすくすることになります。これが『皮質拡延性抑制』を発生させることになります。
これらは片頭痛の根本的原因として考えられているものです。
片頭痛では、ミトコンドリア機能障害が生まれつき存在するために、ミトコンドリアはマグネシウムイオンの減少による影響をさらに受けやすくなることになります。マグネシウムイオンの低下は片頭痛発作の結果でなく発作の始まる前から存在しているのです。神経細胞の”興奮性の亢進”はマグネシウムイオンの減少の結果あるいはミトコンドリアの機能障害の結果として生じているものです。このようにして、「脳過敏」が形成されることになります。
片頭痛とてんかんは密接な関係にあって,「片頭痛は本質的にてんかんの一種である」ことが強調されていますが、”脳の興奮性の亢進”は、上記のことを示すものです。
そして、マグネシウム不足が持続すれば、ミトコンドリアの働きをさらに悪くさせることに繋がることになり、片頭痛を悪化・慢性化させる”元凶”にもなってきます。
第3章でも述べましたように、私達の生活環境はマグネシウムが不足しやすい状況に置かれていることを忘れてはなりません。一寸した油断で、マグネシウム不足を引き起こしてきますので、長期間このような状況に置かれれば、脳過敏を誘発し、さらにミトコンドリアの働きを悪化させる原因になり、これが片頭痛を慢性化させることになります。
2.脳内セロトニンの低下
片頭痛の方は生まれつきミトコンドリアの機能低下が存在します。
私達が日中活動している際に、常時活動している神経系がセロトニン神経系です。このようにエネルギーを常時たくさん使うセロトニン神経系は、ミトコンドリアの働きが悪くなりますと、ミトコンドリアでエネルギー産生が十分に行われないために、同時にセロトニン神経系の働きまで悪くなってきます。
ここに、”セロトニン神経系”の機能の低下に、生活習慣の不規則・ストレス・生理周期や、“小麦、乳・乳製品、肉食に偏った食事”をとり続け、“運動不足”が重なると「脳内セロトニンの低下」が引き起こされてくることになります。
特に、慢性的にストレスに晒されることによって、「脳内セロトニンの枯渇」を来すことによって、痛みの制御ができなくなって、痛みを感じやすくなります。
脳内セロトニンの低下は、「衝動性、過敏性、こだわり、緊張」が強く現れ、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの五感すべてが過敏になり、わずかな刺激にも敏感に反応してしまい、さまざまな自覚症状を訴えるようになります。
これが、「脳過敏」・慢性化の3大原因のひとつになっています。
アロディニア(異痛症)
「脳内セロトニンの低下」により脳が過敏になり、本来は痛くない刺激を痛みと感じるアロディニア(異痛症)があります。
片頭痛患者が示す症状の中には、顔に風が当たると痛い、メガネやイヤリングが不快、髪を結んでいるのがつらい、くしやブラシが痛くて使えないといったものがありますが、これらは頭部アロディニアと呼ばれています。
さらに脳が過敏になると、頭部だけではなく、手足のしびれや腕時計、ベルトが不快になることもあり、これらは頭蓋外アロディニアに分類されます。
頭頸部にアロディニア症が認められる場合は三叉神経脊髄路核レベルで、上肢などの頭頸部以外の部位でアロディニア症が観察された場合は視床レベルでそれぞれ感作が成立したと考えられています。
このように、アロディニア症は、臨床的には中枢性感作が成立したことを示す徴候として重視されています。
日本では片頭痛の患者さんの60~80%ぐらいが、アロディニアを伴うといわれていますが、発症5年以上経たないと、アロディニアは出てこないことが多いようです。
慢性片頭痛ではアロディニア症の程度が強いといったデータは既に報告されており、アロディニア症が片頭痛慢性化の重要な予知因子と考えられています。
このアロディニア症(異痛症)は、「脳内セロトニンが減少している」ため”痛みを抑制する事が出来ず”に容易に痛みが出現しやすくなるということを意味しています。
このように脳内セロトニンの枯渇状態は、片頭痛の「脳過敏」・「慢性化」に関与しています。
ホメオスターシスの三角を構成する自律神経系の調節には、”セロトニン神経系”が関与しており、自然治癒力の面でも重要な位置を占めています。
こういったことから、片頭痛治療を進めていく際には、常に、「セロトニン神経の活性化」を念頭に置いておかなくてはなりません。
3.体の歪み(ストレートネック)の長期間の持続
脊柱のS状湾曲の形成過程
生後、脊柱はC状のカーブを示しているだけです。それから3、4ヶ月に入り、寝返りや首を持ち上げる動作を始めると、頚部は前方凸のカーブを示してきます。お座りができるころには、腰部にわずかながら前方凸のカーブができ始めます。生後1年後くらいして、立ち上る練習を繰り返しているうちに、腰の前方凸カーブが完成され、S字状の脊柱カーブ、つまり人間特有の背骨(大黒柱)ができあがります。しかし、まだ完成された形ではありません。
立ったり、歩いたり、人間としての動きが繰り返されているうちに、股関節や膝の関節も真っ直ぐになり、筋肉も立位を維持し、活動していけるように強化され、一人前の人間の姿が完成されるのです。つまり、上体を垂直にして立つ人間は、頚部と胸部と腰部に、交互に凹凸のカーブを作り、力学的な負荷を軽減する構造になっているのです。
こうして、二本足で立つ人間の腰には、前方凸のカーブができるべくして出来あがったわけですが、ゴリラや類人猿、あの北京原人でさえ腰のカーブを作り、脊椎起立筋群は歩くことによって強化されていきます。
現代のように歩くことが少なくなると、こうした筋群は弱対化し、あるいは退化してしまいます。文明の発展とは逆に今度は腰や体の弱体化が進んでいくのです。腰痛はこうした必然性のもとにどんどん増え続けるに違いありません。
また、脊柱にかかってくる負荷や背骨の故障は、脊柱が末梢神経を脊髄から分枝しているため、すぐに神経のトラブルにもなるのです。人間は立っていること自体、すでに骨格や筋肉に生理的な緊張を強いています。それに加えて社会環境や労働環境のストレス、老化という身体の退行性があります。
文明の発展とは逆に、今度は腰や体の弱体化が進もうとしています。
現代社会は、日常生活を送る上で、第3章で述べましたように私達の生活環境および生活習慣にはミトコンドリアの機能を悪化させる要因に満ち溢れています。ミトコンドリアの働きが悪くなれば、同時にセロトニン神経系の機能が低下してきます。この両者によって「姿勢の悪さ」を引き起こしやすい状況に置かれています。
私達は、日常生活を送る上で、前屈みの姿勢を強制される生活環境に置かれています。
このような前屈みや俯き姿勢が長期間継続すれば、「体の歪み(ストレートネック)」を最終的に引き起こしてきます。
この「体の歪み(ストレートネック)」を一端形成させてしまいますと、簡単には改善・是正できません。とくに女性で30歳を超えるまで放置されれば、改善させるには並大抵な努力が必要とされることから、作らないことが原則です。
多くの方々は、こうしたことを意識することなく配慮されずに放置され、必然的に「体の歪み(ストレートネック)」が形成されてくることになります。
このように前屈みや俯き姿勢が長期間継続すれば、「体の歪み(ストレートネック)」を引き起こしてきます。このため、後頸部筋肉群にかかった刺激は常時、三叉神経核に送られ続けられることになります。
「体の歪み(ストレートネック)」が持続すれば、頸部の筋肉が絶えず刺激を受けることになり、この刺激は三叉神経核に絶えず送られることによって、さらに「脳過敏」を増強させます。
「ストレートネック」→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓ ↓
↓ 脊髄を介して三叉神経脊髄路核
↓ ↓
↓ 中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
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↓ 脳の過敏性、頭痛の慢性化
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自律神経失調症状 → 交感神経機能低下→頸性神経筋症候群
(慢性頭痛)
そして、いつまでも「体の歪み(ストレートネック)」が改善・是正されなければ、これが慢性頭痛とくに片頭痛の慢性化を引き起こしてくることになります。
4.その他の慢性化を引き起こす要因
ミトコンドリアの機能を低下させる諸々の要因を取り除かない生活を送ることによって、「酸化ストレス・炎症体質」が形成されてきます。
ミトコンドリアの機能が低下すれば、ミトコンドリアが「ホメオスターシスを制御」していることから、「自然治癒力」が低下することになります。
このようにして、「ホメオスターシスの歪み」・「自然治癒力」が低下が引き起こされてきます。
このように、ミトコンドリアの働きを悪く」させる要因を是正・改善しませんと「酸化ストレス・炎症体質」を基盤として、ここに「ホメオスターシスの歪み(自然治癒力の低下)」が引き起こされることによって、この段階から、片頭痛発作が”出没する”ことになります。
「治癒反応」である「頭痛(片頭痛)」を一般の鎮痛薬やトリプタン製剤で「ホメオスターシス(自然治癒力)」を一方的に抑え込むことによって、「治癒反応」が停止・固定され、その結果 片頭痛は慢性化し、悪化してきます。
さらに、ここにホメオスターシスの三角を構成する3つの要素、「自律神経を整えること」、「生理活性物質のバランスをとること」、「腸内環境を整えること」すべてに問題が生じてくれば、「ホメオスターシスの三角」が崩壊し、自然治癒力は破綻してしまうことになり、ここで初めて「病気」としての慢性頭痛(慢性緊張型頭痛・慢性片頭痛)に至り、慢性化することになります。このように進展してきます。
現実に、片頭痛全体の3割の方々は片頭痛を慢性化させ、苦渋を強いられています。この点は、極めて重要なことで、忘れてはならないことです。
ところが、「頭痛専門医は、片頭痛持ちが歴史を動かす!? 卑弥呼・信長と片頭痛(富永 喜代 All About)」でも示されるように、卑弥呼、織田信長を例に挙げて、以下のような見解を示されます。
”片頭痛の方々は、気圧の変動を誰よりも早く察知し、低気圧の到来を予見することができます。片頭痛には低気圧に反応するタイプがあります。特に、これから低気圧が近づいて天候が悪化するタイミングに反応するタイプが多いようです。
片頭痛を持つ人の脳は、片頭痛がない人の脳より興奮性が高く、その働きが良すぎるのです。そのため小さな変化にも脳が反応し、それを神経の痛み信号に変換して頭痛を起こす、と考えられています。”
このように、片頭痛は「神秘的で・不思議な病気」ということのようです。
専門医には、片頭痛とミトコンドリア、セロトニン神経系、「体の歪み(ストレートネック)」の関与を認めようとされないために、脳過敏は先天的に生まれつき備わった片頭痛特有の超能力とされています。