その8 睡眠の役割 | 頭痛 あれこれ

頭痛 あれこれ

 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

エネルギーの産生には休息が必要です


 私たちが食物からとった、炭水化物(糖)や脂肪は代謝されて、ミトコンドリアの中でTCAサイクルに放り込まれて酸素を消費しながら、活動していくのに必要なエネルギーに変えられています。
 糖にはTCAサイクル以外に、酸素を使わずミトコンドリア以外の場所でエネルギーを生産するシステム(解糖系)もあります。
 この場合は乳酸ができますので、激しい運動(無酸素運動)をした時などは、筋肉内に大量の乳酸がたまることになります。
 しかし、このエネルギーの作り方では効率が良くないので、解糖系で分解した糖も、酸素が十分にある場合は、途中からミトコンドリアの中でTCAサイクルに渡されて、エネルギーに変えられることになります。
 つまり、ミトコンドリアは体温や生体が活動するエネルギーを生産するにはなくてはならない場所なわけです。
 そして、ミトコンドリアは生体がちゃんと休息をとらないと働けなくなってしまうのです。ですから、ちゃんと睡眠時間を確保することが大切になります。
 地球の重力に逆らって動物が立ったり、座ったり、動いたりするには、相当なエネルギーの消耗があり、眠らなくても重力に逆らわないように横になっているだけでも休息をとっていることになります。
 直立2足歩行は人間に大変な重労働を課しています。
 生物が水の中で暮らしていた頃は水の浮力によって1/6Gの重力しかなかったのが陸にあがって1Gに変わり、なおかつ5キログラムもある頭を150~180センチの高さに保つには相当なエネルギーが必要です。
 血圧を例にとると、4足歩行の45キロ位の大型犬で血圧は90ミリHgほどです。人間は120mmHgなければ160センチの位置にある頭の活動を生き生きと保つことが出来ません。しかし、横になればイヌと同じ血圧90mmHgでも細胞レベルの呼吸は十分維持できます。
 体重を支える骨には大きな負荷がかかります。骨が体重を支えているときはただ柱のようにさせているのではなく、酸素を消費し、骨の中のリン酸を消費しエネルギー使って支えています。ここで重要なのは骨は体を支えるだけではなく造血もしているということです。立っているときは体重を支えることでエネルギーが消費されてしまい、エネルギーが不足して造血したくても出来ません。ですから新陳代謝は睡眠中に行われます。1晩で1兆個の細胞がリモデリング(新陳代謝)しています。つまり、睡眠をとらないと新陳代謝というプロセスが行われないということです。


睡眠は脳の疲労を回復する栄養剤


 太古から人類は、日の出とともに狩猟や農耕に精を出し、日が沈むとともに体を休め眠りにつく一日を過ごしていました。睡眠とは、重力に逆らい二本足で昼間活動していた人類が、疲れを取るために横になって眠る時間です。重力の影響は大きいので、横になって体を休め、その影響を解除しないと骨髄の造血機能が働きません。骨休めという言葉の意味でもあります。
 眠っている間は副交感神経が優位になり、成長ホルモンが最も多く分泌され、細胞の成長や修復を行ったり、脂肪を分解させたり、病気をもたらすウィルスなどの体内への侵入防ぐ免疫力も高めたりします。


  また、睡眠は体ばかりでなく、何よりも脳の疲労を回復させてくれます、長い時間運動を続けていると、筋肉に疲労物質がたまって、充分な力が発揮できなくなるように、脳でも同様のことが起こります。脳は働く時間と量に比例して、睡眠促進物質プロスタグランディンやサイトカイン、神経ペプチドなどが貯まってしまいます。
 睡眠促進物質が増えすぎると脳が壊れてしまいますので、睡眠促進物質の生産を止め、これを分解するために、脳の働きを止めて眠る必要があるのです。 そのため大脳が疲れてくると自然に眠くなり、眠ることによって脳の疲労を回復して定期的なメンテナンスを行っています。
 嫌なこと、辛いことを眠って忘れると言うように睡眠中には心の修復、記憶(情報)の整理までもが行われています。


睡眠中に分泌されるホルモンの役割


 夜、眠りについてから朝起きて活動を始めるまでに、体の中ではさまざまなホルモンが分泌され、大切な働きをしています。


  ノンレム睡眠中には、新陳代謝を活発にする成長ホルモンや免疫細胞同士の情報伝達の役割をするサイトカインなどが活発に分泌され、病原菌に対する抵抗力が強化されたりします。
 成長ホルモンは22時頃から活発になり2〜3時頃にピークを迎えます。寝る子は育つというように、睡眠の深い子供程たくさん分泌され、子供の成長に重要なホルモンですが、大人にとっても体の修復に欠かせません。たんぱく質や骨などを合成する働きの促進、疲労回復、リンパ球の働きを活発にさせて傷の修復、お酒を飲んで代謝に使われた肝臓細胞の再生など、細胞を活性化させ、体全体のダメージを回復するホルモンです。
 女性にとってはこの4時間は、お肌のゴールデンタイムといわれ、肌の生まれ変わりが最も活発になり、熟睡によって皮膚の新陳代謝が促進され、肌がみずみずしく、つやつやしていきます。
 レム睡眠中には、生命維持に不可欠なホルモン、コルチゾールが分泌され、睡眠中のエネルギー供給のために脂肪を燃やしたり、肝臓にあるグリコーゲンをブドウ糖に分解して血糖値を高めてすぐに活動できるようにします。
 不規則な就寝時間や浅い睡眠は、ホルモンの分泌時間や量を乱し働きを低下させた体温調節ができなくなります。ホルモンや免疫から考えると、遅くても午前0時には入眠するのが望ましいでしょう。


”規則正しい生活”がなぜよいのでしょうか 


 「規則正しい生活」は健康のためにいい、とよく言いますが、実際どんなメリットがあるのでしょうか?


睡眠の質がアップ!します


 規則正しい生活がなぜよいのかといいますと、睡眠の質がアップすることにあります。不規則な生活をしていると体内時計が狂ってしまい、夜きちんと眠くならなかったり、寝ても疲れが取れなかったりということが起こります。
 睡眠時間が十分とれなかったり、睡眠の質が下がってしまったりすると、体にさまざまな不調が起こる可能性があります。逆に言えば睡眠の質がアップすることで不調が改善され、さまざまなよいことがある!ということになります。


1.痩せる


 睡眠時間が短いと「グレリン」という成分が過剰分泌されてしまうといわれています。グレリンの働きは何と、”脂肪を増やすこと”なのです。
 寝てないで起きて動いていれば痩せるような気がしてしまいますが、実は正反対なのです。
 また質の良い睡眠をとると「成長ホルモン」がしっかり分泌されます。成長ホルモンは成長期にだけ必要なものではなく、代謝の促進にも関わっています。 つまり、質の良い睡眠を取ると痩せやすい体になるということなのです。


2.肌がきれいになる


 成長ホルモンは、肌の修復にも関係しています。傷ついた細胞を修復したり、肌の生まれ変わり、ターンオーバーのサイクルを正常化したりする働きがありますので美肌効果があるのです。
 寝不足は肌に悪い、というのはなんとなく知っている人が多いと思いますが・・


3.冷え性が改善


 冷え性の原因は、血行不良のほかに、自律神経の乱れやストレスなども影響しています。規則正しい生活を送ることで自然と自律神経の乱れも正常に戻っていきます。
 また、不規則な生活をしていると、心では感じていなくても体はストレスを感じてしまいます。規則正しい生活を送るとストレスも自然に緩和されて冷え性の改善やさまざまな不調の改善にもつながっていきます。


4.心配事が解消


 規則正しい生活のメリットは、体に関することだけではありません。規則正しい生活を続けていくと心配事も解消すると言われているのです。
 心が不安定な人は生活リズムが乱れていることが多いようです。いつも自分なりの一定のペースで生活を送ることで、不安はあまり感じなくなるようです。 うつ病や、心配事が原因で起こると言われている胃潰瘍の治療にも、規則正しい生活は不可欠なのです。当然、片頭痛治療では必須です。


それでは、なぜ十分な睡眠が必要なのでしょうか?


 それは、活性酸素等で傷ついたミトコンドリアの修復は寝ている間に行われるため、その修復には睡眠が不可欠です。もしその傷が大きければそれだけ長い睡眠が必要になります。
 そうなのです、必要とされる睡眠時間は状況によって大きく変わるのです。 例えば1 日中テレビを見たり本を読んで過ごした日は6 時間の睡眠でいいかもしれませんが、殴り合いのケンカで死にそうになった日は15 時間でも足りないかもしれません。
 起きている間の活動で細胞が傷つき、寝ている間にそれを修復します。しかし前述したように完全には修復できないため徐々に傷が蓄積し、それが致命的な状態にまで達したとき”お迎え”が来るわけです。つまり起きている間にできる傷が大きいほど睡眠時間は長くなって寿命は縮むのです。
 それでは傷をつける原因は何でしょうか。それは生活習慣に問題があったり過大なストレスにさらされていることが考えられます。睡眠時間が長いと感じる人は生活習慣に問題がないか、ストレスをためていないか、よく考えてみてください。それらを改善することで睡眠時間は縮むかもしれません。
 スポーツをやっている人も多くの酸素を消費するため睡眠時間が長い傾向にあります。
 スポーツマンに早死にする人が多いのもこれと関係があるようです。
 このように、生活習慣に問題があるとか、ストレスをためているために、結果的に、睡眠時間が長くなって、早死にするということのようです。


 嫌なこと、辛いことを眠って忘れると言うように睡眠中には心の修復、記憶(情報)の整理までもが行われています。
 記憶が整理され、定着するのは、深い睡眠中です。このため、睡眠時間を削ってまで、勉強をすることは極めて効率が悪く、学習機能は向上することはありません。寝る子の方が成績のよいことは、海外の最新の睡眠研究で明らかにされています。そして、睡眠不足は片頭痛を悪化させます。


 それでは、睡眠時間に関して最近一番よく聞くのが、6時間半~7時間半くらい、つまり平均して7時間くらいが良いということです。従って11時頃就寝し、6時頃起床するのが理想的と言われています。この点に関しては、本人にとって適正な時間であれば十分であり、それよりは起床時間と就寝時間を一定にさせることが最も大事な点です。

 適切な睡眠時間は、各人によって異なっていることを理解され、睡眠時間を適正に確保し、起床・就寝時間を一定にすべきです。これが最低限必要とされています。
 とくに、仕事の関係で十分な睡眠時間が確保できない状況においては、最低限、朝の起床時間を一定にする必要があります。
 しかし、問題は職業柄夜勤だけの場合です。ガードマン、夜警などの方々は、このような考え方では睡眠がとれません。このため、このような方々の慢性頭痛のコントロールには難渋していることは事実です。こうしたことは、睡眠が十分に確保できないとどのようになるかを証明していると言えます。


 経験的に、睡眠時間の問題が解決しなければ、いかなる手段を用いようとも、慢性頭痛を改善させることは不可能といえる程、重要な位置を占めております。


「体内時計」

 

 「生体リズム」とは、脳の視交叉上核にある「体内時計」によって刻まれ、睡眠と覚醒のリズム、体温のリズム、行動のリズム、ホルモン分泌のリズムなどです。
 そして、「体内時計」は、ミトコンドリアとセロトニンによって制御・コントロールされています。


体内時計とは


 体内時計とは、私たち自身のからだ、臓器や器官がそれぞれもっている時計で、地球の自転(24時間)とは1時間ずれ、体内時計は1日25時間といわれています。この時間を調整し、地球の自転とあわせてくれているのが”朝陽”なのです。ですから、放っておくとリズムが崩れ、生活リズムが乱れていきます。そのリズムをもとに戻してくれるのが「朝陽」なのです。また、太陽の光は、脳の中にある視交叉上核から松果体を刺激し、セロトニンやメラトニンというホルモンをつくってくれます。


 このふたつのホルモンは、ミトコンドリアの天敵「活性酸素」を除去する働きがあります。メラトニンは睡眠ホルモンとして、セロトニンは心を鍛え、バランスを整えるホルモンとして、有名ですが、この二つとも、ミトコンドリアにとって天敵の活性酸素を除去する働きがあります。
 活性酸素は、細胞を傷つけたり壊したりする働きがありますので、ミトコンドリアだけでなくからだにとっても天敵で、片頭痛の原因でもあるのです。朝陽を浴びることは、この活性酸素を減らすホルモンをだす効果もあるのです。

 セロトニンは、太陽の出ている日中に分泌されやすく、睡眠中は日が沈んでからは分泌が少なくなります。これはメラトニンの働きと関係していますが、人間が本来持っている生活リズムは『日中に活動し夜は寝る』と言うもので、この原則を守ることがセロトニン神経の活性化に効果的だと言われています。
  このため、早寝早起きの規則的な生活を心がけることが大切になってきます。

 
 セロトニンは、睡眠ホルモンであるメラトニンと相対する性質があります。
 セロトニンは脳の覚醒を促し、メラトニンは睡眠に作用します。
 メラトニンが分泌している間はセロトニンの分泌は少なく、逆にセロトニンが多く分泌されている間はメラトニンの分泌は少なくなります。
 太陽の光(のような非常に強い光・明かり)を浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌がストップし、代わりに脳の覚醒を促すセロトニンの分泌が活発化されるのです。
 昼夜逆転の生活をしていたり、日中部屋の中にばかりいると、セロトニンとメラトニンの分泌のバランスが崩れ、不眠症になったり、片頭痛が起きやすくしてしまうのです。
 毎朝日光を浴びる行為は、セロトニンを鍛えるだけで無く、生活リズムを整えることにもつながります。
 できれば、紫外線が強くなる前の時間帯、日の出から8時までの間が良いでしょう。
時間は5分~15分ほどで構いません。両手を広げ、全身で朝陽を浴びてみましょう。
 外に出るのが苦手な方は、カーテンを開け、部屋の中でも構いません。
 全身に光を浴びることを意識し、できれば「気持ちいい~」と言葉に出してみましょう。
 そもそも地球上のほとんどの生物は太陽のエネルギーなくては生きていけません。
 この自然の恵みを全身に浴びることで、ミトコンドリアの遺伝子(DNA)のスイッチがオンになると同時に、脳の中では、視交叉上核というところが反応し、体内時計がリセットされます。 このように早起きをし、朝日を浴びる習慣を身につけましょう。


 しかし、現代の生活環境は、健康的な生活を崩す要因が多く、24時間営業の飲食店や夜通しの娯楽、コンビニやテレビ・パソコンなどの普及により急激に変化しています。このような変化により、体の生体リズムにも悪影響が及んでいます。
 生体リズムを無視した不規則な生活を送ると、様々な不調を感じるようになります。生体リズム、自律神経、ホルモンはすべて連帯しているため、生体リズムが乱れると自律神経やホルモンバランスにも悪影響が及んでホメオスターシス機能を乱すのです。