「こうして医者は嘘をつく」シリーズ 3 医者は「薬を使わない治療法」を信じない | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 原著の「こうして医者は嘘をつく」によれば、以下のように述べられています。


 医者がどうしても薬を処方しようとするのは、それ以外の治療法を知らないからだ。そもそも医者は、薬を使わない治療法があるなどということを信じていない。
 薬物療法をいやがる高血圧症の患者には、ひとまず運動療法で減量させようとするかもしれないが、医者は本気ではない。理由は二つある。まず、運動療法を本気で信じていないこと。次に、栄養とか生活改善について患者に助言をするだけの知識をもち合わせていないことだ。
 きちんとした知識を身につけている医者もいなくはないが、それは50人にI人くらいである。
 患者にしてみれば、薬を使わずに治療してほしいと願うのは当然だ。しかし、医者にとってみれば、それは理不尽な要求である。医者の基準と患者の基準は相容れない。といっても、別に驚くようなことではない。そもそも、医療倫理は世間の常識とは相容れないからだ。
 手術のさなかに患者の腹部から前の手術で取り忘れたガーゼが見つかり、それが原因で患者が死亡した場合を考えてみよう。
 世間の常識では、患者の家族に真っ先に事実を伝えるはずだ。それに対し医療倫理では、外科医は手術に立ち会った全員に口止めを命じる。もし看護師が命令を無視して遺族に真相を伝えれば、その看護師は解雇される。
 医療倫理は世間の常識と相容れないばかりか、伝統的な宗教ともかけ離れている。宗教は対立する宗教の欠陥を指摘して反証する傾向があるが、現代医学教は薬を使わない医者を「投薬の儀式を拒否した異端者」と見なし、反証の機会すら与えずに排除する。
 現代医学教の戒律は非常に厳しく、アメリカ医師会の倫理規定では、医学博士の学位をもつ者は現代医学を信じない者との親交はもとより、言葉を交わしてもいけないことになっている。
 患者に危険な薬を平然と処方している医者とは、こういう人間なのだ。世間の人は自分の身は自分で守る必要があることを肝に銘じるべきである。


 このように記されています。


 まず、頭痛医療に関して述べる前に、平成20年に厚生労働省は「特定健診」という制度を設けました。この健診は皆さんもご存じのようにメタボ健診ともアダナがついていますように、生活習慣病予防を目的とする健康診断です。当時、この健診が施行される前に、医療機関の従事者向けに講習会が頻繁に行われました。私も、この講習会に出席させて戴きました。この講習会では、生活習慣病予防のための生活習慣のあり方、運動療法、食事療法が事細かに教え込まれました。そして、すべての講習が終了して思ったことは、これが日本全国に徹底して行われれば、一般内科の診療所の大半は閉鎖に追い込まれることになるのではないかと恐怖感を覚えました。それは、一般内科の診療所の診療の対象の9割は、高血圧症、糖尿病、高脂血症、痛風などの生活習慣病の方々です。ということは、通院される患者さんの9割の方々が、特定健診が完璧に行われることに至れば、無くなってしまうことを意味し、その結果、一般内科医は食い扶持を失うことになり、干上がってしまい、廃院に追い込まれることは明らかであり、転職を余儀なくされます。
 しかし、どうでしょう、当医院を含めて、特定健診施行以来8年経過しましたが、日本全国の一般内科診療所が廃院に追い込まれたところは殆どないようです。ということは、最も、こうした特定健診が必要とされる40歳代の方々の受診率が低く(企業健診を受けられる方々は、一般健康診断に組み込まれているため別ですが、この場合でも、健診は受けるものの保健指導を受け、これを実践される方が少ないようです)、逆に、70歳以上の方々が受けるだけでしかないようです。こうしたことから、生活習慣病が目に見えて減少してきているかと言えば、相変わらず、同様に発症しているようです。
 さらに、現実に、生活習慣病に移行した方々でさえも、徹底した生活習慣の改善、運動療法、食事療法を行うこともなく、薬物療法に終始される方々が極めて多いようです。
 特に、糖尿病に関していえば、各種の作用機序の異なる糖尿病薬が開発されてきたこともあり、徹底した生活習慣の改善、運動療法、食事療法は二の次にされ、薬物療法だけで治療される方々が多く、患者さんによっては、4,5種類の糖尿病薬を服用される方々が目立つようになっています。
 「こうして医者は嘘をつく」で記載されるようなことが、日本では現実に行われているようです。


 それでは、片頭痛医療ではどうなのでしょうか?

 トリプタン製剤が導入される以前の、エルゴタミン製剤しか片頭痛治療薬が無かった時代には、前兆を伴う片頭痛の場合はエルゴタミン製剤でも十分に対処可能でしたが、問題は前兆のない片頭痛の場合、エルゴタミンの服用のタイミングが極めて困難を極めていたことから、片頭痛の治療の中心は、基本的な考え方として、「規則正しい生活を行って、食事をバランスよく摂り、睡眠を十分にとり、姿勢を正しくし、リラックスするように」と、生活指導がなされ、これが、治療のすべてでした。
 「規則正しい生活」とは、生まれつき体に備わっている生体リズムに沿った生活という意味で、最も自然で健康的な生活と言えます。生活のリズムは恒常性(ホメオスターシス)によって維持されています。
 「食事をバランスよく摂る」ことは、ミトコンドリアがエネルギー産生を行うためと、脳内セロトニン産生を行うために必須の条件になります。
 「睡眠を充分とる」ことは、日中に傷ついたミトコンドリアの修復に不可欠であり、早寝・早起きはセロトニン神経の活性化に大切になります。
 「姿勢を正しくし、背筋を伸ばす」ことはミトコンドリアを活性化させます。
 このことは、体の歪み(ストレートネック)の予防に繋がってきます。
 「リラックスする」ことは、自律神経を調整するために必要で、ストレス耐性の体づくりにはセロトニン活性化が不可欠となってきます。
 
 このように、生活指導の内容はミトコンドリアと脳内セロトニンの関連して、すべて行われてきました。
  そして、忘れてはならないことは、このような生活指導を完璧に行う限り、片頭痛発作は抑制されていたということです。

 

 ところが、日本にトリプタン製剤が導入されて以来、こうした「生活指導」が忘れられてしまい、前回でも述べましたように、片頭痛発作時に毎回トリプタン製剤を服用することが、片頭痛の”最も適切な治療”といった嘘の指導が、一部の専門家から大々的に、ネット上およびマスコミで吹聴されるようになってしまいました。
 そして、最悪なことは、慢性頭痛診療のガイドラインには、このような「規則正しい生活を行って、食事をバランスよく摂り、睡眠を十分にとり、姿勢を正しくし、リラックスするように」といった生活指導すら記載されなくなってしまったことです。
 このため、臨床経験の少ない若い頭痛専門医は、こうした生活指導はされることはないのが現実の頭痛診療のあり方になっています。


 このような生活指導のなかで最も大切なことは、ミトコンドリアと脳内セロトニンの関連したものです。ということは、食事の取り方が中心になっています。
 具体的には、ミトコンドリアの機能を低下させる要因として、マグネシウム不足、鉄不足、必須脂肪酸の摂取のアンバランス、活性酸素、有害物質の摂取、薬剤による影響、寝不足、過食と運動不足等々があります。
  そして、脳内セロトニンを増やすためには、トリプトファンの摂取の仕方が重要になり、このためには細かな注意点が必要とされます。
 このように、片頭痛治療の根幹は「食事療法」にあります。


 しかし、専門家はこうした食事療法の重要性が認識されていません。その理由は、前回にも述べてきたことであり、アメリカ流の西洋医学的な考え方にあります。
 その証拠に、日本で最先端の頭痛医療を担う医療施設(敢えて、名を伏せておきますが)では、ここでは「栄養部門」が存在しないことでも示されています。
 このように、「こうして医者は嘘をつく」で40年前に指摘されていたことが、現実に頭痛医療のなかで、未だに行われているということです。時代遅れも甚だしいというべきです。

 片頭痛患者さんのなかには、確かに、これまで片頭痛発作時の3日間の寝込む程の辛い頭痛がトリプタン製剤によって、緩和・凌ぎやすくなって生活の質QOLが向上したことは確かであり、これで十分に納得されておられる方々がいらっしゃることは事実ですが、一方、患者のなかには、薬を使わずに治療してほしいと願う方々がおられることを忘れてはなりません。
 このような薬を使わずに治療する方法がないのであれば仕方のないことですが、現実にこのような「薬を使わずに治療する方法」が存在する以上は、これを覆い隠すことだけは許されるべきではありません。
 少なくとも、このような方法があることを、「慢性頭痛診療のガイドライン」に記載しておく必要があるはずです。こうすることによって、現実に片頭痛でお悩みの患者さん自身に選択してもらうことが大切ではないでしょうか?
 それとも、「こうして医者は嘘をつく」に示されるように、「専門家がどうしてもトリプタン製剤を処方しようとするのは、それ以外の治療法を知らないためなのでしょうか。そもそも専門家は、薬を使わない治療法があるなどということを信じていないためなのでしょうか。
 しかし、神経内科関連の専門家の方々は「片頭痛のセルフケア」を提唱され、これを完璧に行う限りは、9割の方々が片頭痛は根治すると述べていることは、どのように解釈すればよいのでしょうか。
 となれば、こういった指導を一々、個々の患者さんに説明することになれば、診療効率が悪いとでも申されるのでしようか。
 ということは、「慢性頭痛診療のガイドライン」に記載しておく必要があるはずです。
 いつまでも、記載されないということは何を意味するのでしようか。
 こうしたことは、敢えて私が申し上げることではありません。