緊張型頭痛、片頭痛は、一連の連続したもの
東京脳神経センターの松井孝嘉先生は、以下のように指摘されます。
緊張型頭痛では、デスクワーク、特にパソコンを使って仕事をすることにより、うつむき姿勢を長時間とると、首の後ろ側の頭半棘筋が緊張し、その筋肉を貫くように走っている「大後頭神経」が圧迫され頭痛が起こり、緊張型頭痛は明らかに首疲労からもたらされる病気で、”首疲労”を治療することによって、痛みがきれいに消えてしまいます。
ところが、明らかに片頭痛と考えられる予兆や前兆を持っていて、片頭痛に有効なイミグランなどのトリプタン製剤を飲んだら、頭痛がぴたりと止まることから、典型的な片頭痛と他院で診断された患者さんに対して、”頸筋の異常を治療”したら、片頭痛が起きなくなるものが、片頭痛の一部に存在します。 こうなると、片頭痛と緊張型頭痛という分類自体が怪しくなってきます。
頭半棘筋にこりが出ると、それが大後頭神経を刺激し、その刺激が三叉神経に伝わります。大後頭神経は、頭痛をもたらす神経です。大後頭神経と三叉神経は脳のなかで繋がっていますので、大後頭神経の刺激は、三叉神経にも伝わります。
大後頭神経と三叉神経が同時に痛くなる現象は、よく知られています。
「体の歪み(ストレートネック)」が長期間、放置されて引き起こされる病態が東京脳神経センターの松井孝嘉先生の提唱される「頸性神経筋症候群」です。
”頭痛の専門家”で重鎮とされる神経内科学の岩田誠先生は、さらに以下のように指摘されます。
”頸性神経筋症候群”(ストレートネックが長期間持続したために生じる病態です)という病態が片頭痛患者に生じますと、片頭痛発作の頻度の増加や程度の悪化、トリプタンの効果減弱につながると思っております。従って、明らかに片頭痛患者であると思われる方で、”頸性神経筋症候群”がある場合には、片頭痛への治療と同時に”頸性神経筋症候群”に対する積極的な治療を行うようにしています。これにより発作頻度の減少、発作時の症状の軽減、トリプタンの効果の改善が認められる患者が少なくありません。
この説明では、片頭痛に”頸性神経筋症候群”を合併した場合とされていますが、果たして、これをどのように考えるべきでしょうか?
逆に、”頸性神経筋症候群”の延長線上に片頭痛が存在するとは考えられないでしょうか。
これまでの当医院の調査では、体の歪み(ストレートネック)の確認率は、男性で52%、女性では68%と圧倒的に多く、緊張型頭痛では84%、片頭痛では95%に、群発頭痛では全例に、ストレートネックが確認されています。
このように、緊張型頭痛でも片頭痛にも共通して「体の歪み(ストレートネック)」を認め、片頭痛では緊張型頭痛以上の頻度でみられるということは、緊張型頭痛と片頭痛は連続したものと考えるのが妥当のように思われます。すなわち、緊張型頭痛に片頭痛が重なってきていると考えるべきです。このために片頭痛での頻度が高いと考えるべきです。
さらに、次のような興味あるデータがあります。
片頭痛の”緊張型頭痛”はsmall migraine
片頭痛
big(true)migraine
連続体
緊張型頭痛 緊張型頭痛
small migraine (脳内セロトニンの関与)
ということは、片頭痛での緊張型頭痛はsmall migraine で、本格的な片頭痛はbig(true ) migraine で、これが連続しているということです。
緊張型頭痛はこれとは別に、独立して、存在するということです。
この差異は、「片頭痛素因」の有無で決まるとされています。
片頭痛患者さんは片頭痛、片頭痛様、緊張型頭痛を経験します。各頭痛に対するスマトリプタンの効果を249 患者に対して1,576 回の中~高度頭痛について分析した結果、投与後4時間目に、すべてのタイプの頭痛においてトリプタンはプラセボに勝りました。つまり、片頭痛の前の緊張型頭痛(仮面片頭痛)にもトリプタンが有効ということになります。症候的には緊張型頭痛でも、本態的には片頭痛small migraine ということです。
このような結果からは、起こり始めの緊張型頭痛の段階でもトリプタン製剤が有効ということです。
このことは、本来、「緊張型頭痛も片頭痛も一連のものである」ということを明らかにしているものと思われます。
緊張型頭痛と片頭痛の基本的な相違点は、「ミトコンドリアの働きの悪さ」という”遺伝素因”を持っているかどうかだけの差でしかありません。
緊張型頭痛も片頭痛も共通して、体の歪み(ストレートネック)を高頻度に認めるわけですので、臨床症状には、重複するものが多いということです。
そして、体の歪み(ストレートネック)を緊張型頭痛・片頭痛ともに基本骨格としており、緊張型頭痛では84%に、片頭痛では95%の高頻度で、体の歪み(ストレートネック)が認められることになっています。
以上のように、日常的に感じる極く軽度の頭痛は、緊張型頭痛へ、さらに片頭痛へ、さらに慢性片頭痛へと繋がっており、群発頭痛へと派生していくことになります。このように慢性頭痛全体として考えるべきものです。
そして、その根底にはミトコンドリアが関与しています。
こういったことから、脳のなかに異常のない「慢性頭痛」とは「健康的な生活」を送ることを阻害する生活習慣の問題点に根本的な原因があると考えなくてはなりません。
片頭痛の患者さんでは、緊張型頭痛の場合と異なって、遺伝素因としてミトコンドリアの活性低下が存在することから、ミトコンドリアの働きを悪くし、セロトニン神経を弱らせる要因の影響を、とくに受けやすいことになります。 このため、こうした要因が加わることによって、頭痛の程度も遺伝素因の有無によって、差異が見られることになり、”極く軽度の頭痛(緊張型頭痛)”から片頭痛へと進展していくことになります。
ところが片頭痛のように遺伝素因としてミトコンドリアの活性低下が存在しなくても、生活習慣の問題によってミトコンドリアの働きが極端に悪くなり、さらに脳内セロトニンが枯渇してくれば、片頭痛と同様の難治性の頭痛を引き起こしてくることになります。
以上のように、日常的に感じる極く軽度の頭痛が、すべての慢性頭痛の起点となっていることが理解されたと思います。このように極めて重要なもので、これに対してどのように対処するかが、今後の鍵を握っているということです。
ところが、日常的に感じる極く軽度の頭痛から緊張型頭痛へ、さらに片頭痛へと移行していくことは、詳細に綿密に病歴聴取すれば明らかでありながら、専門家は日常診療において「問診表」を使われ、受診時の最も困っている頭痛しか問題にされないことから、慢性頭痛発症の起点ともなるはずの「日常的に感じる極く軽度の頭痛」をまったく無視されることになっています。
このように、臨床神経学の「問診に始まり、問診に終わる」という基本原則をまったく無視した病歴聴取(問診表による手抜き診断)が現実に罷り通り、病気のオンセット(起始)が全く無視されています。
このようにして、最も大切とされる”片頭痛を見落とすことなく”診断することしか念頭にありません。
そして、このようなことは、常套句のように”科学的根拠(エビデンス)なしと”お高くとまって”論外とされ、どなたもこのような”真実”に気が付かれるひとはおられません。
繰り返しになりますが、頭痛研究を行う場面では、脳のなかに異常のない一次性頭痛(慢性頭痛)は、上記のように「4つ」が大きく大別されていますが、これまで専門家は、このように4つに大別された頭痛群をさらに、個々の頭痛を別個に独立させて研究すべきとされてきました。
このように、片頭痛と緊張型頭痛はまったく別個に、切り離して考えてきました。
専門家は、慢性頭痛のなかの片頭痛だけが最も大切なものであり、片頭痛以外の緊張型頭痛は問題にされることはなく、脳のなかに異常のない”慢性頭痛とは一体何なのか”といった”俯瞰的な”論点から考え、このなかで、個々の4つのグループの頭痛がどのような位置関係にあるのかという観点から考えることはありません。
本来は、このような一次性頭痛は一連の連続した”未病”の段階にあるはずのものを、まったく別個のものとして切り離して考えています。
しかし、片頭痛だけをみても、緊張型頭痛と片頭痛、の境界領域にあるものが存在し、この2つが明確に区別できません。
そして、現実に、”同一の”一次性頭痛(慢性頭痛)の患者さんを詳しくみてみますと、緊張型頭痛の要素、片頭痛の要素を混在しています。
このような現実から眼を背け、片頭痛と緊張型頭痛をまったく別の範疇のものと考えています。
このような考え方は「国際頭痛分類 第3版β版」を頭痛研究の絶対的な基準としたことに基づくものです。ここに原因があります。