片頭痛と冷え性
ある頭痛専門医の「片頭痛と冷え性」についての見解です。
片頭痛の患者さんの多くが、冷え性です。しかも、重症であることが多いようです。
これは、片頭痛が10代~20代の若い時代に発症することにあります。
そして、月に何度も、頭痛という痛みに体が打撃を受け続けるからです。
吐いて寝込むほどの痛みであるストレスに毎月襲われていると、交感神経という、血管を収縮される神経が常に緊張状態となってしまいます。
元々片頭痛患者さんは温度変化にも過敏ですから、少しの寒さにも血管が反応し、過剰収縮を恒常化させます。すると、本来の血管は柔らかくて低血圧であるにもかかわらず、緊張状態の結果、慢性的な冷え性、それも、極度の冷え性になってしまうのです。
もちろん、この反応は、血管にだけ起こるのではありません。
交感神経は、全身に影響をあたえます。
筋肉も緊張し続けるため、慢性的なひどい肩こりも患っています。
他にも、眼精疲労や、やる気が起こらない、めまい、立ちくらみ、耳鳴りが起こってきて、ついには、うつ病を発症することもあります。
こんな症状に心当たりのある頭痛患者さんは、お近くの頭痛外来を受診しましょう。
冷えているから、温めるだけの対症療法では、根本的に冷え性は治りません。
緊張しすぎている交感神経の興奮を抑制し、血管をリラックスさせることが大切です。
それには、片頭痛を痛みどめで紛らせるのではなく、根本的治療を行うべきです。
片頭痛の発作回数と重症度を下げてくることで、多くの患者さんの冷え性も改善しています。
気軽に頭痛外来を受診してみましょう。
このように述べ、片頭痛をトリプタン製剤によって根本的治療すれば、冷え性が改善されるとされます。果たして、本当なのでしょうか???
エネルギー代謝と体温の関係・・ミトコンドリアはエネルギー産生工場
片頭痛はミトコンドリアの機能障害による頭痛です。
生体のエネルギー通貨はATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれ、細胞内小器官であるミトコンドリア(エネルギー産生工場)で、赤血球によって運ばれてきた酸素と食事によって得られたグルコースから作られます。ミトコンドリアは、エネルギー消費の大きい筋肉や肝臓、心臓、脳などの細胞に数多く存在します。酸素を使ってミトコンドリアで行われるこのようなエネルギー代謝は好気性代謝と呼ばれ、時間はかかりますが、1つのグルコース分子から最大36分子のATPを作ることができる大変効率のよいエネルギー代謝で、体内では好気性代謝が細く長く行われています。
一方、私たちの細胞は酸素が十分ない時でもエネルギーを作る手段を備えています。これは嫌気性代謝と呼ばれ、産生スピードは速いですが、1つのグルコース分子からたった2分子のATPしか作ることができない効率の悪い代謝です。嫌気性代謝は必要に応じて一過性に行われます。
私たちの体温は、こうして作られたATPの7割以上を利用することで維持されています。
ですから、血流が悪くなって酸素の運搬が滞り、効率的なエネルギー代謝が下がって日常的にATPが不足すると、低体温を招くことになります。
もともと、片頭痛の方は、ミトコンドリアの働きが生まれつき悪い状態にあります。
加齢や運動不足で低体温、低酸素になると、環境の変化に対し生き残るためにエネルギー産生を低酸素下で有効な解糖系にスイッチし、ミトコンドリアを減少させます。
解糖系でエネルギーを作ると、代謝産物として乳酸が蓄積します。
乳酸は呼吸によって分解されますが、一時的に体を酸性にするため、低体温と相まってリンパ球の活性を低下させます。
また、加齢や食生活の乱れ、過度の酸化ストレス等から、エネルギー産生に必須の補酵素であるコエンザイムQ10や、ミトコンドリアへ栄養を運ぶのに必要なビタミンB群が不足しても、エネルギー産生回路はうまく回らなくなります。
さらに、ミトコンドリアで使われた酸素の数%は活性酸素になるといわれますが、活性酸素を消去する酵素(SOD:スーパーオキサイド・ディスムターゼなど)の不足によりミトコンドリアの劣化が進むと、同様にエネルギー産生は低下し、低体温を招くようになります。
低酸素や低体温等、ミトコンドリアにとって働きにくい環境下では、ミトコンドリア同士融合して数を減らし、エネルギー産生能はますます低下していきます。
このように、片頭痛では冷え性を引き起こしてくることになります。
さらに、現代人に低体温が広がっているのは、他にも運動不足や喫煙、湯船に浸からずにシャワーだけですます入浴習慣などが関係しているようです。
体温が下がると、心臓や脳など核心部の体温を維持しようとして、末梢の血管は熱を逃がさないように収縮してしまうため、手足の冷えを強く意識するようになります。血流はいっそう滞り、こうしてエネルギー代謝不全の悪循環に陥っていくのです。
血流を支配する自律神経・・ストレスが低体温を招くカラクリ
片頭痛の場合、ミトコンドリアの働きが悪ければ、同時にセロトニン神経系の働きも悪化することになります。「脳内セロトニン」は自律神経を調整する働きがあります。
脳内セロトニンは自律神経を調節する
セロトニン神経は、自律神経を調節する役割を担っています。
自律神経は心臓機能、血圧、代謝、呼吸などを司っており、交感神経と副交感神経という2つの神経によって成り立っています。
交感神経は起きて活動しているときの神経で、副交感神経は眠っているときの神経です。
朝起きると自律神経のバランスが変わり、副交感神経から交感神経にシフトします。
シフトしたら、片方の神経の活動が全くゼロになるわけではありません。
交感神経と副交感神経は、互いにシーソーのようにバランスを保ちながら、強くなったり弱くなったりを繰り返しています。
セロトニン神経は自律神経に対し、このシフトがうまくいくよう働きかけています。
朝起きると、交感神経の方が優位にならなければなりません
そこで、セロトニン神経は交感神経を適度に緊張させ、体をスタンバイ状態にします。
しかし、この働きがうまくいかなくなると、体温調節がうまくいかなくなります。
血液の流れは、自律神経の2系統(交感神経と副交感神経)によって血管を収縮させたり拡張させたりすることで調節されています。自律神経がどちらかにかたよったままだと、血液の流れは不順になり、結果として低体温を招いてしまいます。
では、なぜ自律神経にかたよりが生じるのでしょう?
最大の原因は“ストレス”といわれます。セロトニン神経はストレスの影響を受けやすいのです。先述のように、もともとセロトニン神経系の働きも悪化しています。
ストレスには、暑さ、寒さなどの物理的ストレス、騒音などの環境的ストレス、ウイルスや花粉等の生物的ストレスといった身体的ストレスに加え、社会的環境下でのいじめや心理的な恐怖体験等の精神的ストレスがあり、社会生活を送る上で、ストレスをまったく受けずに生きることは不可能です。
ストレスを受けると自律神経のうちの交感神経が刺激されます。
自律神経は、アクティブモードの交感神経とリラックスモードの副交感神経の2系統が交互に切り替わることで体内調節を行っています。交感神経は、怒りや恐怖、心配、緊張等の場面でスイッチが入る神経で、交感神経優位な状態が長時間続くと、アドレナリンの分泌により血管収縮が持続して血液の流れが悪くなります。すると、組織へ十分な酸素を運搬することができなくなり、ミトコンドリアでのエネルギー産生が低下して、体温は下がります。
また、交感神経優位は夜の眠りを浅くし、白血球の中でも炎症に関わるとされる顆粒球を増やして、がんやウイルス感染にかかわるとされるリンパ球の数を相対的に減らしてしまいます。
一方、副交感神経が刺激されると、アセチルコリンが分泌されて血管を拡張させます。リンパ球は副交感神経の支配を受けるため、今度はリンパ球数が増えます。
では、副交感神経がずっと優位ならば病気にならないかというと、決してそういうわけではありません。昼も夜も副交感神経優位な状態が続くと、いずれ血液の流れは滞り、やはり低体温を招くことになるのです。
ですから、自律神経がどちらかに傾きっぱなし、というのが病気のはじまりと考えられます。日中は多少怒ったり泣いたりしても、夜になったら少なくとも3時間くらい熟睡できる、という切り換えが、何より大切なのかもしれません。
そしてもう一つ注目すべきは、同じようにストレスを受けても、それが原因で病気になる人もいればそうでない人もいるということです。ですから、“ストレス”が直接の原因というよりは、“ストレス処理能力”の差が大きいようです。
これは「セロトニン神経の活性化の程度」によって差が見られるということです。
低体温症は「脳内セロトニン(神経伝達物質)」が原因?
低体温症にも、神経伝達物質である脳内セロトニン不足が関係しています。
一般的に朝起きると筋肉や神経の働きを高めるために体温は高くなり、夜に向けて体温は上昇し、就寝前にもっとも高くなって就寝後に体温は低下を始めます。このような1日のリズムがあります。この変化は、セロトニンの分泌量変化とほぼ一致しています。つまり、セロトニンが少なければこのリズムが崩れ、体温の調整がうまくいかす、昼間になっても体温が上がらす低体温のままに……。
縫線核はセロトニンの産生とともに、血液の温度センサーとしての働きがあります。脳内セロトニンは、血液の温度を感知して体温の調整を行なう「温熱中枢」に指令を送るのです。セロトニンが少ないと血液の温度を感知しても体温を調整する温熱中枢に充分な刺激を与えられず、温熱中枢を活性化できなくなります。そのため、脳内セロトニンが少ない人は1日中体温が低いままで冷え性になりやすく、体の機能をいつまでも活性化できないことになります。
低体温は万病のもと
体が冷えることによって大切な血液がうまく流れなくなり、全身に行き届かない状態に陥ると、生きる力が衰え、様々な敵と戦う術を失ってしまうことになりかねません。
『低体温は万病の元』といわれるのも、こんなところに理由があるのです。
免疫破綻から起こるがんやアレルギー、エネルギー産生の低下が招く臓器の機能低下、メタボリックシンドロームをはじめとする代謝性の疾患、統合失調症やうつ病などの精神疾患、不妊症等、あらゆる病気は「低体温」、すなわち病的な「冷え」から起こるといわれています。
低体温の原因と対策
以上のように、片頭痛の方はミトコンドリアの問題から脳内セロトニンが関与して冷え性を引き起こしてきますが、さらに以下のような「生活習慣」が追い打ちをかけることになります。
低体温の原因は生活習慣にあると考えられます。特に、食生活の乱れが低体温の主な原因です。
私たちは、食べ物(糖質・脂質・たんぱく質)からエネルギーや熱を作り、体温を保っています。このため、偏食、ダイエットのしすぎが問題になってきます。
体内で糖質をエネルギーに変える時に必要なのが、亜鉛・マグネシウム・鉄・セレンなどのミネラルとビタミンです。
しかし、ミネラル・ビタミンが不足してしまうと、食べ物からエネルギーや熱を作ることができず、体温が上がらなくなり、低体温になってしまうのです。
最近は、加工精製食品の取りすぎの傾向により、脂肪・糖分の過剰摂取の反面、ミネラル・ビタミンは不足傾向にあります。また無理なダイエットをすると、更にミネラル・ビタミンは不足してしまいます。
この食生活の乱れや無理なダイエットによるミネラル(とくに、マグネシウム・鉄・亜鉛)・ビタミンの不足が、低体温、生理不順、貧血などを引き起こす重要な原因になっています。
これらの食生活の乱れは、いずれもミトコンドリアの働きを悪くさせ、脳内セロトニンの低下の原因にもなってきます。
この他にも、低体温になるよくない生活習慣をあげてみます。
低体温の原因となる生活習慣の例
●冷たい食べ物や甘い食べ物の食べ過ぎ
冷たい食べ物や甘い食べ物は身体を冷やしてしまい、低体温の原因となります。
●季節はずれの野菜や果物の摂取
冬に夏の野菜や果物を食べると身体を冷やしてしまいます。夏の野菜は水分が多く、身体を冷やすからです。
●ダイエット
食べない系ダイエットをすることで、ミネラル・ビタミンのバランスが崩れています。
●冷暖房などが整っている住環境
体の体温を調節する機能が鈍くなることが低体温の原因だと考えられます。
●運動不足
運動不足になると、血液を送る筋力を刺激しない状態が続き、筋力が低下し、低体温の原因となります。
細胞の中にあるミトコンドリアが熱を発生させているのですが、筋肉量が多ければ、ミトコンドリアの数も多くなり、それにともなって体温が上昇すると考えられます。
●過度のストレスによる血行不良・自律神経の乱れ
最近では、過度のストレスがかかることで血行不良が起こることがあり、これも低体温の原因としてあげられます。
●自律神経の乱れ
ホルモンバランスが乱れることで、自律神経が乱れてしまい、体温をコントロールすることができなくなり、低体温になることもあります。特に女性は妊娠・出産、更年期、過度のストレスなどによって、ホルモンバランスが崩れることがあるので、気をつけてください。
●便秘
便秘になるということは、腸内環境が悪化しており、腸内で蠕動運動が行なわれていないということであり、基礎代謝も低くなります。
基礎代謝が低くなることが、冷え性や低体温の原因とも考えられます。腸内の働きを良くし、腸内環境を改善させることにより便秘を改善することが低体温改善にもつながると考えられます。
このように、片頭痛の人の大半の方々が低体温症です。ミトコンドリアの機能低下、脳内セロトニン不足の影響が大きいと思われます。これに生活習慣の問題が追い打ちをかけることになります。
こういったことから、専門医の申されるように”トリプタン製剤を服用して根本的治療”を行ったからといって、低体温(冷え性)は改善されることは、絶対にあり得ないことです。その理由は、トリプタン製剤による治療は、あくまでも鎮痛を目的とした対症療法に過ぎず根本的治療ではないからです。
片頭痛の根本的治療とは、ミトコンドリアの機能の改善と脳内セロトニンを増やすことです。これによって初めて片頭痛と冷え性が同時に改善されるということです。トリプタン製剤を飲み過ぎれば、血管収縮薬ですので、かえって冷え性を増悪しかねないことになり、本末転倒になってしまいます。こうしたことすら専門家は認識されていないようです。