その他の一次性頭痛 10  性行為に伴う一次性頭痛 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

性行為に伴う一次性頭痛


 性行為に伴う頭痛で来院される患者さんは少ないのですが、1年間に数名の患者さんが受診されます。性行為中の脳卒中は決して稀ではありません。くも膜下出血や椎骨動脈解離、脳出血、脳梗塞、可逆性脳血管攣縮症候群などによる二次性頭痛を除外することが大切です。初めて経験する激しい頭痛や今までと異なる頭痛の場合には特に注意が必要です。CTやMRIなどで、異常が認められない場合には、性行為に伴う一次性頭痛を考える必要があります。


【性行為に伴う一次性頭痛】の「国際頭痛分類 第3版 β版」での診断基準を示します。


「国際頭痛分類 第2版」では、オルガスム前頭痛とオルガスム時頭痛のサブフォームがありましたが、今回の改定によってなくなりました。


A.B-Dを満たす頭部または頚部(あるいはその両方)の痛みが2回以上ある
B.性行為中にのみ誘発されて起こる
C.以下の1項目以上を認める
1.性的興奮の増強に伴い、痛みの強さが増大
2.オルガスム直前か、あるいはオルガスムに伴い突発性で爆発性の強い痛み
D.重度の痛みが1分-24時間持続、または軽度の痛みが72時間まで持続(あるいはその両方)
E.ほかに最適な「国際頭痛分類 第3版 β版」の診断がない


 性行為に伴う一次性頭痛で受診することはあまり多くありません。頭痛全体の約1%で、男性に多いとする報告もありますが、実態は明らかではありません。発症年齢は20歳代と40歳前後の2つのピークがあります。オルガスム時の頭痛の方が多いと報告されています。オルガスム時の頭痛は爆発的な痛みで、通常は両側性で後頭部に多いとされています。尚、性行為に伴う一次性頭痛がどうして生じるかは不明です。また、可逆性脳血管攣縮症候群の有無について十分に考慮すべきです。
 治療としては、β遮断薬による予防療法が有効とされています。短期的には、性行為の前のインドメタシンの有効と考えられています。


 ここで、性行為に伴う頭痛について、概説します。


性行為に伴う頭痛Headache associated with sexual activity


はじめに


 Headache associated with sexual activity は、性交や自慰に伴って出現する頭痛です。この頭痛はbenign orgasmic cephalgia,orgasm headache,benign coitalcephalalgia,coital headache,benign masturbatorycephalgia,benign sexual headache など、さまざまな名称で報告されてきました。


 性行為に関連して出現する頭痛はほとんどが良性のものでありますが、くも膜下出血など生命を脅かす可能性のある疾患との鑑別は確実に行わなくてはなりません。
 また、性行為という特殊な状況下の症状のため、患者は羞恥心と原因疾患に対する恐怖感で医療機関に受診するころにはかなり強い精神的ストレスを受けていることが多いようです。


歴史的背景


 性行為が頭痛の原因となることは古くから知られており、ヒポクラテスの記載にもあります。その後近年に至るまで、性交によって生じる頭痛はくも膜下出血のような生命にかかわる疾患の徴候として一般に認識されていました。しかし、チェコスロバキアのクリッツによって、性行為に伴って出現する「良性の」頭痛が初めて記載されて以来、同様の報告が相次ぎ、現在の概念の基礎が作られました。


疫学


 性行為中に生じるという特殊な事情のため、患者が医療機関を受診することをためらうのは当然であり、この種の頭痛の頻度を正確に知ることは困難であります。頭痛患者3,800 例中12 例(0.21 %)という報告や460 例の神経疾患の患者中6 例(1.3 %)とする報告がありますが、これらの値はやや過小評価気味であるとも言われています。
 最近コペンハーゲンで行われた横断的研究によりますと、25 ~ 64 歳までの一般住民における頻度は1%でありました。この研究では、前兆を伴う片頭痛は9%、前兆を伴わない片頭痛は6%であり、咳による頭痛や労作性頭痛はそれぞれ1%でした。
 わが国の場合、正確な頻度は不明でありますが、羞恥心が強い人が多いため外国に比べ頭痛専門外来でもこの頭痛の患者は少ないと言われています。
 年齢は30 ~ 60 歳代で、平均は35 ~ 40 歳程度です。性別は男性に多い(3~5対1)これは性行為における身体活動の程度の差によるものではないかと推定されています。しかし、単に女性の方が羞恥心が強く受診しにくいだけかもしれません。


病型と推定される機序


 国際頭痛学会の分類では、推定される病態機序から次の3つのタイプに分けられています。


1.鈍痛型、筋収縮型


 性行為の比較的初期から始まり、興奮が高まるにつれて強くなります。オーガスムの時に最も強くなりますが、タイプ2の血管性頭痛よりは軽度です。後頭部または頭部全体と頚部に締め付けられたような鈍痛が出現します。性行為中の頭頚部の筋肉の不随意な緊張が原因とされ、緊張型頭痛と同等のものと考ええられています。数時間から数日続きます。性行為に伴う頭痛のうち約25 %を占めています。


2.血管型、爆発型explosive type


 オーガスムの時かまたはその直前に突然出現する激しい拍動性の頭痛です。
通常、両側後頭部または前頭部ですが、頭部全体、眼窩後部、側頭部にも起こります。片側性であることも少なくありません。数分から数時間続きますが、ほとんどは1時間以内に治まります。患者さんが受診する場合、このような頭痛は初めてではなく幾度となく経験していることが多いようです。また、片頭痛の既往歴や家族歴をもっている人が少なくありません。
このタイプの頭痛は最も多く全体の約70%を占めていますが、頭痛の機序ははっきりしません。性行為に伴う生理学的現象について初めて詳細に説明を加えたマスターズらの記載によりますと、性行為中は一定して心拍数や血圧は上昇し、オーガスム時に最高に達します。また、不規則な呼吸によって突発的な胸腔内圧の上昇を生じます。このオーガスムに伴う血行動態やcompartmental pressure の変化がこの頭痛の出現に関与していると考えられています。しかし、これらの変化は他の労作に伴う変化と本質的な相違はなく、性行為に伴う頭痛だけを説明できるものではありません。


3.低髄液圧型、起立性低血圧型


 稀なタイプで全体の7%程度です。このタイプの頭痛はポールソンらが初めて記載しました。腰椎穿刺後の髄液圧性頭痛に似たもので、頭痛は直立姿勢時のみに生じ、臥位になると消失します。しかし、再び直立位をとりますと数分以内に頭痛が出現します。この状態は2~3週間続き、その後自然に消失します。片頭痛の既往は認められないことが多いようです。髄液検査で髄液圧の低下が証明されています。性行為中に硬膜の裂傷が生じ、髄液が漏出して起こると考えられています。


労作性頭痛との関係


 性行為も労作の一つと考え、性行為に伴う頭痛を労作性頭痛の一種とする考えがあります。
 初期には、benign sexual headache とbenign exertional headache の両方を経験するものは稀であり、また、両方の頭痛を経験した患者がいても頭痛の性状はかなり異なるため、性行為に伴う頭痛ではphysical exertion はあまり関係ないと考えられていました。また性行為に伴う頭痛では、頭痛の出現が性行為中に限定されることが多く、ほかの労作では必ずしも出現しないこと、受動的な性行為でも生じること、労作性頭痛に比べ周期性に欠け同じ労作(性行為)でも再現性に乏しいこと、などが労作性頭痛との相違点としてあげられていました。
 しかしシルバートらは、血管型の性行為頭痛と労作性頭痛を両方有するサブグループの存在を示し、両者の間に明らかな関連があるとしました。彼らの報告では、45 例の性行為頭痛のうち40% は労作性頭痛を経験しており、追跡調査を行った30 例のうち9 例は性行為頭痛と労作性頭痛を72 時間以内に続けて経験しました。多くの患者にとって性行為は日常でもっとも主要な肉体的労作であることを認識すべきであり、このことは不健康で肥満体の患者と性行為に伴う頭痛との関連をみても明らかであると主張している。その後のパスクールらの報告もこれを支持する結論でした。性行為に伴う頭痛のうち31 % が労作性頭痛を経験しており、男性に多いことや、頭痛の性状、治療に対する反応性も似ていました。唯一の相違点は、発症年齢は41 でした。しかし、この差は本質的なものではなく、若年層では性行為以外のexertional activity の機会が多く、中年層ではsexual activity が多いためとしています。したがって、この両者は同一の機序(労作や性行為によって惹起される血管な過剰反応)によって生じるものと推定しています。


片頭痛との関連


 性行為に伴う頭痛全体では片頭痛の頻度は必ずしも高くはありません。たとえば、ジョーンズの報告によりますと、片頭痛の既往は23 % 、家族歴は11 % 、そのうちどちらかを有するものは23 でした。しかしascular type に限りますと、片頭痛の既往を認めるものは47 % 、家族歴は30 % とかなり高くなります。このタイプは、臨床症状、β遮断薬の有効性、家族内発生など片頭痛と共通する点が多いため、片頭痛の亜型であると考える研究者が多くようです。
 一方、片頭痛は労作後に誘発されることが多く、性行為後に典型的な片頭痛発作が出現することはよく知られています。ロビンスによると、約5%の片頭痛が性行為によって誘発されています。このような頭痛は性行為に伴う頭痛とは区別すべきと思われます。


鑑別診断(区別すべき疾患)


 この頭痛の診断を下す場合には器質的病変を確実に除外しておく必要があります。なかでもくも膜下出血との鑑別が最も重要であります。その他の脳血管障害でも起こりえますが、臨床症状や経過から鑑別に迷うことはないと思われます。硬膜下出血や珍しいところでは腹部大動脈閉塞の報告もあります。
 パスクールらによりますと、性行為によって引き起こされた頭痛のうち7%が症候性でした。この症例もくも膜下出血が原因でした。症候性のものは比較的高齢で、頭痛は長く続き、髄膜刺激症状や脳圧亢進症状を伴っていました。
 一方、くも膜下出血が性行為中に起こる頻度は3.8 ~ 12 % 程度です。ルンドバーグらのシリーズでは、性行為中に発症したくも膜下出血患者6例全例が性行為中の頭痛は初めてであった。また、すべての例で頭痛は24 時間以上続き、髄膜刺激症状を認めました。2例に意識障害を認め、5例に嘔吐を認めました。
以上のように性行為に関連して頭痛が出現した場合、意識障害や髄膜刺激症状など神経学的な異常がある場合はもちろんですが、それが初めての経験であったり頭痛の持続時間が少し長い場合(24 時間以上)は、CTなどの画像診断や髄液検査を行ったほうがよいと考えられます。


自然経過


 自然経過については報告は少ないですが、ランスは繰り返し発作が起こることを報告しました。2~7年間に21 例中4 例に再発作が認められました。
 シルバートらの症例では41 % の患者に再発を認めました。またオスターガードの報告によりますと、約6年間に半数が再発を認めたそうです。


治療


 性行為に伴う頭痛の治療は、もっとも痛みの程度が強い血管型が主な対象となります。しかし、これまでのところきちんと対照をおいて行われた研究はありません。それはまとまった症例数が集まらないだけでなく、頭痛の出現がかなり不定期であるため治療効果の判定が困難であることも一因となっています。
 これまですすめられてきた治療方法は、クリッツのように禁欲を勧めるものから、薬理学的なアプローチまで様々です。シルバートは性行為に伴って頭痛が出現したら、経験的に4日間くらい性行為を控え過度の運動も避けた方がよいとしています。また、高血圧、肥満、心理的ストレスが再発に関与しているとも言われていますのでこれらの管理も必要でしょう。
 薬剤では、レビスの検討ではフェノバルビタール、フェニトイン、アスピリン、ジアゼパム、ベレルガル、フィオリナールはすべて無効でした。ポールソンらはベレルガルとプロプラノロールが一部の症例に効果があったことを報告しています。ポーターらは初めてまとまったプロプラノロールの検討を行いました。8例の患者に投与され、プロプラノロール40 ~ 200 mg/day で全例に予防効果が認められました。このほかにもプロプラノロールが有効であったという報告があります。プロプラノロールの効果は、性行為やオーガスム時のhyperdynamic circulatory state を改善させるか、片頭痛の予防効果と同様の機序が推定されています。インドメタシンなどの消炎鎮痛剤もよく用いられます。
 性行為の30 分から2時間前に服用します。しかし、薬物の効果はまちまちであり、改善がみられないことも少なくありません。
 良性であるという診断が確定すれば、患者に生命の危険のない疾患であることや予防の方法がいくつかあることを納得すべきと思われます。そのことによって精神的なストレスが減り、頭痛の再発予防につながることが期待されます。

 
 結局、性行為に伴う一次性頭痛も、一次性運動性頭痛と同様に考えるべきです。

 性行為に伴う一次性頭痛の場合は、これに、「脳内セロトニン」のグルーミング、オキシトシンという神経伝達物質の関与が推測されます。


 さらに詳しくは以下をご覧下さい。


http://taku1902.jp/sub079.pdf