老神経内科医のボヤキ その12 客寄せパンダ | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 前回はMRIの功罪について述べました。現在では、裕福な医療機関、それも診療所レベルでもMRIを設置する施設が目立つようになってきました。
 私の地域でも、脳疾患専門の医療機関でもない診療所にMRIが設置されています。
 こうした施設では、患者さんの要望されるがままMRIをされるように見受けられます。


 以前、私が国家公務員等共済組合連合会 呉共済病院に勤務していた当時は、病院長の方針で、各科独立採算制が取られていました。どのようなことかと言いますと、内科・外科・小児科・整形外科・産婦人科・脳神経外科・循環器科・神経内科等々、それぞれの科を構成する医師数・看護職員の数から割り出した、収益率を計算され、いわば各科独立採算制で、すべてが計算されていました。この収益率のよい科には、新しい医療機器が優先して購入されることになっていました。
 こうしたことから、例えば、MRIを病院全体として購入した場合、各科のMRIの利用率まで計算されることになります。
 しかし、疾患の発症率は、大体決まっています。そんなに医師の努力だけでは、患者さん自体は増えることはあり得ません。そうなると、病人だけを対象とする限りは、収益をあげることには限界があります。脳神経外科の場合、余程傑出した手術手技を持っていない限り、病院の存在する診療圏以外からの患者獲得は望めません。そうなれば、手っ取り早くMRIを稼働させるためには、一般の健康人を対象とした「脳ドック」を行うことになります。このようにして、全国各地の病院の脳神経外科では、こぞって「脳ドック」をされることになります。


 こうした背景のもとに高価な医療機器が導入され、導入した以上はこれをペイしなくてはなりません。ということで、なんでもかんでもMRIを撮影することになります。
 脳疾患の場合、あくまでも「神経学的検査法」で病巣診断を行うべきところを、こうした手順を踏まずに、どのような訴えに対してもMRIが撮影されます。
 MRIが判読できようができまいが関係なしに行われることになります。
 例えば、頭痛を訴えてMRIを撮影しても、異常所見が診られる確率は2,3%前後です。何か異常があれば、患者さんの状態をみれば簡単に見分けられるはずです。
 なにもない状態で、MRIを撮影して初めて異常所見が発見されるということは脳疾患の場合は、皆無といってよいくらいです。
 こういったことから、MRIが判読できなくても、神経学的検査法を会得していなくとも、MRIを設置できることになっています。
 このため頭痛を訴えてMRIを撮影してもらい、異常なしと言われても、その後、どのようにすべきかといった指導を求めること自体が無理な相談ということになります。

 こうしたことを認識しておくことも大切になってきます。


 最近では、MRIのような高価な医療機器でなくても、CTもよいのがあります。
MRI1台、1億円もする高額な医療機器です。このため一般診療所では到底設置できるような代物ではありません。ところが、最近では、CTでも、MRIに匹敵するほどの性能をもったものが出てきました。
 例えば、マルチスライスCTスキャナー(東芝Alexion 16列)です。従来のCTでは、横断面しか撮影できませんでしたが、画像を再構成することにより、縦断面の画像とすることが可能であり、3D-CTアンギオによって、3ミリ以上の脳動脈瘤や、脳・頸部動脈狭窄などを診断することが可能です。また、立体的に画像を作ることも可能となりました。それも、全身が撮影できるわけです。
 価格も、当院で開院当初購入した値段で買える時代になったようです。
 このようなCTがあれば、MRIはもう必要はなくなってしまったように思えます。
 まさに、医者いらずの診断機器が世の中にでてきたようです。魅力は値段の安さです。
 本当に、夢のような診断機器のようです。
 ただ、私がもう10年若ければ、喉から手が出る程、欲しいものです。しかし、もう年ですから、残念ながら不可能のようです。これが、最大のボヤキになっています。
 MRIも一つの”客寄せパンダ”ですが、こうしたCTこそ、まさに”客よせパンダ”そのもののように思えてなりません。


 余り、寂しい話になってしまい、スミマセン。まあ、”ボヤキ”ですので・・