先日は、びっくり仰天しました。といいますのは、高血圧症で通院中の方のご主人が車椅子に乗せられて来院されました。このご主人は、これまで大きな病気もなく、時に風邪で来院される程度で元気一杯の方でした。事情をお聞きしますと、右手のしびれを訴えて某整形外科を受診されたそうです。そこでMRIを撮影され、将来、ダルマさんのように手足が動かなくなってしまうと宣告され、手術を勧められたそうです。手術前にいつ診たかカルテで点検しますと、3カ月前にやはり風邪で受診され、この時には何も手のしびれの訴えはありませんでした。そんなに急激に進行したのかと不思議でした。
頸椎症として手術され、術後、”将来、ダルマさんのように手足が動かなくなってしまうと宣告され”たようになったようでした。本当にお気の毒のようで、なんと言葉をかけてよいか分かりませんでした。
この方とは別の方ですが、長距離ドライバーで、高血圧で通院中の方です。この方は、右手のしびれのため、この某整形外科を受診され、同様に手術を勧められたようです。この方は、私が田辺へ来て以来20年近く診ている方でしたので、手術すべきかどうか、私が念のため点検させてもらいました。右手のしびれも時々、長距離の運転を10時間前後ぶっ通してした際に出現するとのことで、常時しびれがあるわけではないようでした。
そこで型通り「頸椎X線検査」を行ってみました。ところが、ストレートネックの所見だけで、他には何も取り上げるべき所見は何もないのです。これを、どう手術するのかと疑問を持ちました。そして、このような状態で手術そのもの必要はないのではと言いました。そして、ストレートネックを改善させれば、手のしびれはとれてしまうと説明し、ストレートネックの改善方法を説明しました。この方は、私の指示通りにされ、現在では、手のしびれはなくなっています。
それにしても、この某整形外科は、なんでも切りたがる先生のようです。こうでもしないと儲からないのでしょう。すごい時代になったようです。
このように”手のしびれ”を訴えて、当医院にも多くの方々が受診されますが、大半の方々は脳梗塞になったのではと心配され受診されるようです。
しかし、”手のしびれ”の範囲を確認さえすれば、どこに病巣があるのかは推定されるはずです。手根管症候群なのか、胸郭出口症候群なのか、頸椎症なのか、それとも脳梗塞なのか。少なくとも、脳梗塞の可能性は基礎疾患がない限り、少ないはずです。
最初のような患者さんにさせないためにも、基礎疾患があれば念のため頭部CTを撮影(あくまでも、希望があればです)した上で、手根管症候群なのか、胸郭出口症候群なのか、頸椎症なのかをはっきりさせるようにしています。
手根管症候群であれば、診察だけで診断できるはずです。これでなければ、必ず「頸椎X線検査」を行った上で、診断するようにしています。
問題は、こうした方々は、すべてストレートネックを認めます。
まず、胸郭出口症候群の場合では、どのようにストレートネックと関係があるのでしょうか?
この疾患は、「胸郭出口」と呼ばれる、神経と血管の通り道での圧迫により、様々な症状が出てきます。
まず、首の付け根の方で前斜角筋と中斜角筋、そして鎖骨の3つで囲まれたところを神経と血管が通ります。
もう一箇所、鎖骨に近いところで、神経と血管が筋肉と骨の間通り抜けるところがあって、小胸筋が圧迫の原因になります。
この部分が、ある種の動作を行うときに狭くなって、腕や肩がだるくなったりすることがあります。これが胸郭出口症候群の病態です。
胸郭出口症候群の患者さんの首のレントゲンと、正常な人の首のレントゲンを比べてみると、違いがはっきりわかります。
胸郭出口症候群の患者さんの首が長く見えていることがわかります。
頚椎は7つでこれは変わりはありません。でも、胸郭出口症候群の患者さんは腕が下がっているので、胸椎まで写っています。
正面からレントゲンを撮ってみると、鎖骨が水平になっているのがわかります。
普通は鎖骨はややV字型に写って見えるものなのですが、肩が下がっているために鎖骨が引っ張られて、鎖骨が平行になってしまいます。
症状は、首や肩の凝り感の他に、腕のだるさやしびれ感が生じます。
肘を上げてさらに腕を上げると、手の血流が途絶えて血行障害が生じて、掌が白くなります。このように、腕を上げている動作が長く続くと、症状がはっきりと出てきます。
首の形状がストレートネックになっていると、背中は同時に猫背になりやすいので、発症しやすくなります。レントゲンで撮ると、鎖骨が下に下がっている分、首が長く見えます。撫で肩、筋緊張、ストレートネック、不良姿勢は全て猫背(肩の前方への巻き込み)に起因しています。このため、これを改善させ、神経と血管の通り道を確保してやる必要があります。
それでは、ストレートネックと頸椎症との関係はどうなっているのでしょうか?
頚椎は年齢とともに変化します。椎間板が弾力を失ってクッションとしての役割が果たせなくなり、椎骨と椎骨がこすれ合って変形したり、骨の並び方が変わったりします。このように、「頚椎に年齢的な変化が起こること」を頚椎症、正確には変形性頚椎症と言います。これは誰にでも起こることであって、このこと自体は病気ではありません。
この変形性頚椎症が起こったために、脊髄や神経根が圧迫されて、そのための痛みやしびれや麻痺が出てくる場合を、頚椎症性脊髄症あるいは頚椎症性神経根症という名で呼びます。これは病気の状態です。
例えば、頚椎の年齢的な変化が中年以降急激に起こってきたり、その変化が強かったり、あるいは、頚椎の中を通る脊髄や神経根の通り道が生まれつき狭かったりすることがあります。それにより脊髄や神経根が圧迫されて、”手のしびれ”や”足のしびれ”、”あるいは手足が動かしにくい”などの症状が出てき た状態を言います。
ストレートネックの状態が長く続くと,頭を支えている頚椎にも負担がかかってきます.骨よりも可動部である椎間板が悲鳴を上げて,弾力が失われていきます(30代後半から).
ストレートネックがある状態で、前屈みの姿勢を持続させることによって、頭の重量5Kgが、3倍にもなって、頸椎に負荷がかかることになります。このため椎間板が次第の後方へと押しやられ突出し、脊髄を圧迫することになり、頚椎症性脊髄症を起こします。
また、ストレートネックがあれば、左右どちらかへ捻れていて、片方に圧迫が加わることによって側方の椎間孔へ椎間板が突出することにより、頚椎症性神経根症を起こします。
このように、これらの起こり方として、
長時間の同じ姿勢(ストレートネック)→首こり・肩こり→頸椎症→頸椎椎間板ヘルニア
へと移行していきます。
このように、ストレートネックを放置することによって、このような経過を辿っていくことになります。
そして、現在、どの段階にあり、どうすべきかを指導すべきと考えています。
このように、ストレートネックは、いろいろな病態のスタートになっているはずです。
どうして、このような大切な所見でありながら、日常茶飯事にみられる所見として無視されるのでしょうか???
現代医学は、ガイドラインに基づいた診断基準に従って、症状が完成した段階で診断するといった、”いわばパズル診断”でしかなく、診断基準に合致しないものは放置され、”未病”といった考え方(概念)は存在しないようです。
ストレートネックは、あくまでも日常茶飯事に見られる所見ではあるものの、将来、いろいろな問題を引き起こすことから、こうした問題点が出現する前に対処すべきはずです。
頭痛診療の世界でも全く同じことが行われているようです。
ここでも、”ボヤキ”しかないようです。