老神経内科医のボヤキ その6 ”ふらつき” | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

高齢者のめまい


 近年の高齢化社会に伴い、高齢者のめまい患者さんを以前よりたくさんみるようになりました。高齢のめまい患者で多くみられる病気は、内耳(耳の奥にあるバランスに関係する器官)の病気ではメニエール病、良性発作性頭位性めまい症、脳の病気では脳循環障害によるめまい(椎骨脳底動脈不全症)、全身的な病気では起立性調節障害があげられます。まず、最初に、これらの高齢者の代表的なめまいを紹介します。


 まず、第一にメニエール病です。この病気は内耳にリンパ液がたまった状態(内リンパ水腫)ができ、このために難聴や耳鳴りやめまいが起こると考えられているものです。めまいのがおこると動けないくらいに程度が強いことが多く、片耳の難聴や耳鳴がめまいの前後に悪くなることが特徴です。そして、その症状は繰り返します。
 発病の引き金として、精神的や肉体的な疲労や睡眠不足が関係していると言われています。元来、30歳から40歳代に始めて症状がでてくる人が多いのですが、近年高齢になってから発病する方が目立ちます。これは、ストレスを持つ高齢者が増加しているのが一因と考えられます。
 めまいの発作がおこったら、静かに安楽な姿勢をとり、刺激を与えないことが第一です。めまいを起こしている耳がわかっている場合は、その側を上にして仰臥すると楽な事が多いです。しばらく心身の安静を保つようにします。めまいを繰り返すうちに、難聴が強くなったり、耳鳴が残ったりしますので、めまいの反復を減らすことが治療の目的の1つとなりますので、耳鼻咽喉科専門医を受診して下さい。また内リンパ水腫を減らすように、塩分や水分のとりすぎに注意することを心がけることが重要です。 


 先日の「良性発作性頭位性めまい症」は、頭を急に動かしたり、寝たり起きあがったり、寝返るときにめまいが数秒から数十秒間続くのが特徴です。頭の外傷後に多い病気ですが、高齢者でも多くみられ、高齢者では過去に外傷がないことが多いです。内耳の前庭という場所にある耳石(頭を傾けることで耳石が動き、頭の位置がわかる装置)が、本来ある前庭から離れて、内耳の半規管(頭の回転がわかる装置)に着いたり、耳石が半規管の中を動くことでおこると言われています。多くの人は1か月以内でめまいはなくなります。
 近年は、半規管に浮遊する耳石をもとの位置にもどすという運動療法が良く効くことが知られるようになり、めまい専門医ではこの療法をまず行っています。この療法を1回おこなうことにより、8割以上の方が翌日にはめまいがなくなります。


 高齢者、なかでも特に血圧の異常があったり、動脈硬化がある人では、一度めまいが治ってもまた繰り返すことが多いです。また、高齢者でめまいが数カ月以上続く人が時にあります。これは脳の血液循環障害による類似のめまいのことがありますので要注意です。


 次いで椎骨脳底動脈不全症です。脳、特にめまいに関係する小脳や脳幹を栄養する動脈を椎骨動脈と脳底動脈といいます。この動脈の血流が悪くなることによりめまいを起こす病気です。めまいだけでなく、意識の障害や眼の症状(物が二重に見える、眼がかすむ)、顔面や手足のしびれなどが起こることがあります。頸を回したり、伸ばすことによりめまいが起こることが多いのが特徴です。脳梗塞の前兆のこともありますので、病院での精査が必要です。


 最後に起立性調節障害をあげます。いわゆる立ちくらみで、急に立ち上がったときや、長い時間立っていると眼の前が暗くなってきます。小学生高学年に多いのですが、高齢者にも多くみられます。
 元来高血圧があって、血圧降下剤を投与されている高齢者で目立ちます。高血圧のある人の脳の血流は血圧が下がると低下する傾向があり、薬で血圧を下げすぎてしまうことから、脳血流が低下してめまいがおこしやすくなります。普段の血圧をできるだけ測定し、病院で相談することが必要です。


 高齢者のめまい患者では、若い人と比べバランス機能を補う脳の働きが弱いために、めまいの治りが悪かったり、十分にバランス機能が回復しきらないことがあります。このことが生活の質を低下させることになり、問題となります。そのため、耳鼻咽喉科専門医の診察を受け、機能の低下の評価を受け、回復のための療法(リハビリテーション)の指導を受けることが必要なことがあります。


 また、高齢者では血圧の異常や心臓の病気を持つ人が多く、動脈硬化に関係する血液中のコレステロールや中性脂肪の値も若い人より高いことが高率にみられます。これらの異常は血液の循環の障害に関わり、内耳または脳への血液の流れを悪くします。内耳または脳の機能の障害を引き起こし、先に述べたような色々なタイプのめまいを引き起こしてきますので、内科的治療が重要です。
 一方、めまいの引き金としてストレスは軽視できません。ストレスは働き盛りの年齢には多いとされていますが、様々な社会的事情から高齢者の方々にも、強いストレスがかかってきていることも、高齢者のめまいの増加に関わっていると考えられます。ストレス回避も重要です。


浮動性めまい


 急に人に呼び止められて、ふっと横を向いたときなどに、フワッツと一瞬、長くてもせいぜい2~3秒くらいで消えてしまうめまいがでることがあります。このようなめまいを「浮動性めまい(頸性めまい)」と呼ぶことがあります。このめまいは、私たちが外来診察をしていて最も多く経験する種類のめまいです。
 ところが耳鼻科の教科書や一般向けの医学書では、良性発作性頭位眩暈が一番多いとされています。これは耳鼻科の専門医は、概してこのような一瞬の症状を「めまい」としてはとらえないこと、耳鼻科では「浮動性めまい(頸性めまい)」という診断名をあまり用いないためでもあるのでしょうが、実際の診療現場では、いちばん多いめまいなのです。


「めまい」は空間における体の位置関係の認識が障害された状態で生じます。体の平衡感覚には前庭神経系、視覚系、固有感覚系(筋肉・関節の深部知覚)の三つの系が関与し、これらに関係する器官から中枢神経系に送られた情報を基に、中枢神経から平衡を維持するための指令が運動系に出されてバランスが保たれる仕組みとなっています。この神経機構の調整に異常が生じたときに「めまい」という症状となって自覚されます。


 前庭神経系以外の原因で起こる「めまい」には視覚系の異常としての眼球運動障害や屈折異常、調節障害によるもの、固有感覚系(深部知覚)が障害されたときに運動失調という状態になるため、歩行などに際してふらつきを生じてそれを「めまい」として感じるもの、あるいは、神経症などで生じる心因性のものなどがあります。


 緊張型頭痛には、「肩がこる」「頚筋がこる」という随伴症状が非常に多くみられます。肩こりの随伴症状が頭痛であるともいえますが、頚や頭の回りを覆っている、幾重にも重なった筋肉が収縮して硬くなった結果、頭がグッと締めつけられる症状が出るのです。そのほかに、「目が疲れやすい、体がだるい、何もしないのに疲れる」などの症状も現れます。
 また、特徴的な随伴症状として、「フワフワしためまい」があります。これは、頚や頭を支えている筋肉がストレスによって緊張し、頭の位置の情報を、正確に脳に伝える機能がうまく働かなくなるために起こります。



治療が難しい慢性フラフラ感


 フラフラ感に悩むお年寄りは極めて多く、米国の調査によると65歳以上の人の30%がフラフラ感を訴えるそうです。
 こうしたお年寄りにいろいろな検査をしても、大きな異常が見つかることはまれです。何度病院に出かけても「気のせいですよ」とか「心配いりませんよ」と真剣に取り合ってもらえないことが多いのです。

 フラフラ感を訴えるお年寄りを診察すると、足の力が弱いわけでなく、歩く姿もふらついているようには見えない場合が大半です。脳のCTやMRIを撮影しても、多くは年齢相応の変化が見られるにすぎません。それでも、ふらつくという自覚症状があるのが、この病気の特徴で、本人は「怖くて歩けない。なんとかしてほしい」と訴えることが少なくありません。厄介なことに、フラフラ感は放置すると何年も続いたり、やがて寝たきりになったり、ぼけたりするケースもあります。


 お年寄りのフラフラ感ほど仕組みがわからない病気はないと言えるほどで、診断・治療は困難です。このように原因がまったく不明とされてきました。

 しかし、一部の患者さんは首の筋肉の緊張異常、血圧の下がりすぎ、うつ状態が原因となっていることがあり、それらを治療すれば、フラフラ感が軽くなるか消失する可能性があります。極めて少数の場合です。

 最近、国立循環器病センターの先生方は「脳磁図」という特殊な検査機器を使って研究し、フラフラ感の一部は、”てんかんのような脳の異常興奮”によって起こることを突き止め、現在、治療法を検討中です。研究がさらに進めば、お年寄りのフラフラ感の診断・治療法が大きく前進するのではないかと期待されています。


 ところが、以前、私は「頭痛とストレートネック」について調査した際に、この「ふらふら感」とストレートネックについても調査しました。
 この「ふらふら感」を訴える方々には極めて高率にストレートネックを認めました。
 この「ふらふら感」を訴える方々は、神経学的所見にはなにも異常はなく、平衡機能検査でもまったく異常のみられない方々です。
 このストレートネックは、緊張型頭痛でも高率にストレートネックを認めます。
 こうしたストレートネックがあれば、当然、頸部の筋肉群が過剰に緊張を強いられることになります。その上、左右いずれかの方向に傾いておれば、片側だけに負担がかかることになります。そうなれば、頭を支える際に、左右差があることから、均等に頭が支えられなくなり、バランスがとれない状態になっており、そのため平衡感覚に狂いを生じて、ふらつきを感じるようになります。そして、”ふわふわする”ような浮動性めまいを感じるようになってきます。
 若い筋肉の発達した方々では、問題はないようですが、女性で首の細くきゃしゃな人は首の筋肉の発達がよくなく、また年とともに筋力低下に伴って、以上のようなことから
浮動性めまいが起こってくることになります。
ストレートネックが長期間持続すれば、首の筋肉のこりの刺激が、大後頭神経から三叉神経に絶えず刺激が送られ続けます。常時、脳の過敏性が高まった状態が継続していきます。これは、先程の「てんかんのような脳の異常興奮」と符号すことになります。

 こうした単純に考えても、ストレートネックの関与が示唆されるはずです。


 どうして、こうした観点から考えないのかが不思議でなりません。


 ただ、高齢者になってから、ストレートネックを改善させようとしても並大抵のことではありません。こうしたことから、若い頃から、ストレートネックを起こさない配慮が必要とされるはずでありながら、現在の頭痛専門医のように ストレートネックは日常茶飯事に見られるものとして、まったく無視する姿勢そのものを問題にしなくては、何も解決されないはずです。こうしたストレートネックは放置してはならないはずです。

 これまでも再三述べていますように、ストレートネックは緊張型頭痛の原因にもなってきます。