現在、片頭痛の診断は「国際頭痛分類 第3β版」に基づいて行われています。ということは、問診と神経学的検査法を駆使して行われているということです。(画像検査で何もないことが前提ではありますが・・)
私は、現在、片頭痛患者さんを診ていて感じることです。それは、以前、私が、医師になった昭和43年から、脳卒中医療に携わって参りましたが、この当時と何かしら、共通した部分を感じるからです。私は、昭和43年から、平成 1年までは、急性期脳卒中医療に全精力をつぎ込んで参りました。
私が、医師になりたての頃の昭和 43年当時は、脳卒中の診断は、「文部省研究班の診断基準」に従って行われていました。(当時は、現在のようにはCTとかMRIのような画像診断は何もなく、行うことはできませんでした)
この基準は、問診と神経学的所見に基づいたもので、片頭痛の診断と全く同じ手法で(「国際頭痛分類 第3β版」に基づいて)行われていました。
この診断基準には、理学的診断を困難にするいくつかの因子が存在しており、当時すでに成書に記された種々の診断学的知識を駆使しても、厳密な鑑別診断率は 70 % 前後とされていました。
このため、当時、日本では、秋田県立脳血管研究センター、美原記念病院、阪和病院脳卒中診療部の3カ所が中心になって、脳血管撮影を導入して診断しておりました。
私も、研修医の当時から、将来の脳卒中専門医を志して、内科医でありながら、広島市民病院 脳神経外科の三宅新太郎先生に脳血管撮影の手ほどきを受け、脳血管撮影の手技を身につけました。
しかし、当時の「神経学」の教科書には「脳梗塞急性期には脳血管撮影は行ってはならない」と記載されておりました。このため、脳梗塞患者への脳血管撮影は、発症後1カ月たってから、細々と脳神経外科領域で行われていたに過ぎませんでした。
しかし、私は、この禁忌とされていた時代から、上記3病院の先生方の方式を見習って、勇猛果敢に、発症当初から、脳血管撮影を行って参りました。そして、昭和50年になって、日本に初めて、CTが導入され、これと同時に、秋田県立脳血管研究センターに研修に行かせてもらい、CTの読影と脳梗塞診療全般について、教えを乞いました。
そして、秋田から呉に帰ると同時に、内科医長の岡田啓成先生を説得し、呉共済病院にもホールボデイ・タイプのCTを導入してもらいました。
この時点から、脳卒中患者が救急搬送された場合、直ちに頭部CTの撮影を行い、何も所見がなければ、引き続き脳血管撮影を行うという検査方式を確立しました。
このような検査方式で診断する限り、「文部省研究班の診断基準」で脳梗塞と診断されるものの中には、小出血、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍が多く混在していました。
脳血管撮影上、閉塞所見が見られた場合は、発症後1週間目に、脳血管撮影を再度行い、閉塞所見の再開通の有無を、必ず確認しておりました。また、その間に、健側3本の血管撮影を追加して、側副血行の状態を検索しておりました。
これらの方式により、脳血管撮影の閉塞所見の有無により、脳梗塞を分類し、閉塞所見が無ければ、翌日から、リハビリテーシヨンを開始し、早期離床に努めてまいりました。さらに、閉塞所見が見られるものは、「脳血栓症か脳塞栓かを」厳密に鑑別を行い、「血行再開療法」の適応の有無を判断していました。脳塞栓の場合は、そのまま放置していても、自然に開通してしまうからです。
脳血栓症の場合、当時、販売されていた「ウロキナーゼ」を使っても、殆ど効き目はありませんでした。
脳塞栓の場合「再開通の時期」によって、急激に悪化する症例と劇的に回復するものの2通りがあることに着目しました。そしてこの境界が、発症3,4時間目にあることが判明致しました。
また、両側の内頸動脈、椎骨動脈を行った脳梗塞例は、必ず、ウイリス輪の発達が先天的に悪いということも判明し、発症前に、ウイリス輪の発達の善し悪しを検索すれば、将来、脳梗塞へ移行するかどうかも、予測可能となりました。
このような所見をもとに、その後の 10 年後には、rt-PA (アルテプラーゼ)が開発され、血行再開療法が現実のものになっていったのです。
以上の成績は、第34回共済学会総会の宿題報告で「脳梗塞の臨床」として発表させて頂きました。1986 年 10 月のことでした。
以上のことで、私が申し上げたかったことは、脳梗塞の診断は、従来の問診と神経学的検査法を基にした「文部省研究班」の診断基準では、確診には至らず、さらに、脳血管撮影とCT検査の2つを追加することによって、脳梗塞の細かな分類と病態まで解明することが可能となり、治療方針が、自ずと明らかになったことです。
従って、片頭痛の診断も、「国際頭痛分類 第3β版」に基づいた問診と神経学的検査法からの診断基準で診断する限りは、種々の原因で「片頭痛」と同様の症状を来すものが、混在しかねないということです。
「国際頭痛分類 第3β版」の片頭痛の診断基準は「トリプタン製剤」の適応を決めるための基準であるとさえ極論される先生もおられるほどです。
現実に、ネット上では、「医療機関で治らなかった片頭痛」が、自分自身で治したという「体験談」が散見されるようになりました。
さらに、有料の「片頭痛克服マニュアル」が多く販売され、これらを利用された方々の「喜びの体験談」が多数、掲載されています。これらが、どこまで信用に値するかは定かではありませんが・・・。
この中で「歯のかみ合わせの悪さ」を矯正すれば、片頭痛が改善されるというマニュアルは説得力があるように思われました。
また、「体の歪み」を矯正して、片頭痛を改善させた「体験談」も多く掲載され、ネットでは、多くの「整体院」「カイロプタクター」が宣伝しています。現在、推奨ランクはCとして、殆ど問題にされていませんが、アメリカでは、カイロプラクターが、大々的に治療されているのが YOU TUBE から伺い知ることができます。
また、日本では、保険診療で認可されていない「ボツリヌス毒素」による治療が、日本ではごく限られた施設でしかされていませんが、これもアメリカでは広く行われております。
さらに、ヨガ、太極拳などで治療される方もおられ、これらは「セロトニン活性化」を目的とした方法であろうかと思います。この「セロトニン活性化」の方法をダイレクトに取り入れた方式まで出現してきています。
また、 脳内セロトニンの不足が色々な病気の原因の一つとして知られています、不眠症、睡眠障害、冷え性、片頭痛、うつ病、産後うつ、更年期障害、月経前症候群などの様々な病気が誘発されていると考えられています。
Diksicらによれば、健常男性は女性より約52%脳内セロトニンを産生する能力が高く、またセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏すると、女性では脳内セロトニン合成が男性の4倍減少する。(Diksic M. et al.,94: 5308-5313, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1997)
そして、季節的に、春は、脳内のセロトニンの変動が大きく、ほぼすべての片頭痛の方々が一番苦手とする季節であるという事実です。
さらに、昨年には、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は、片頭痛の根本原因は「ミトコンドリアの働きの悪さ」にあるとされ、自ら考案された「万能健康ジュース」「ラブレクラウト」を用いることで、多くの方々の片頭痛を改善に導かれました。
このように概観してみますと、片頭痛には、各種の原因が関与していることは、間違いない事実です。現段階では、大雑把に分類して、「ミトコンドリア」「脳内セロトニン」「体の歪み(ストレートネック)」「免疫学的要因」といった原因が想定されます。
以上のような理由から、片頭痛の診断には、問診および神経学的検査法だけで行う「国際頭痛分類 第3β版」だけで行われている現状が、何となく納得できません。
今後、血中セロトニン値と脳内セロトニン値が臨床的に簡単に測定可能となれば、もっと新たな展開が期待できるのではないでしょうか?
以上のような観点から、少なくとも「歯のかみ合わせの悪さ、体の歪みの有無」を検討する意味合いで、頸椎レントゲン検査を行うしかないのでしょうか。
さらに、てんかん源性の片頭痛の診断を行うには、脳波検査が必須の検査項目であることは言うまでもありません。
こうして考えてみますと、脳内セロトニンの測定が、現段階では臨床的に”簡便に”行えないことを考慮すれば、「頸椎レントゲン検査」「脳波検査」と、および「画像検査」しかありません。この3つを組み合わせて行うことによって、片頭痛の病因・病態の探索に努め、改善の可能性のある片頭痛を見落とさないことが重要と考えます。