先程のテーマの「片頭痛と緊張型頭痛は同じ疾患である」について、内容がよく理解できないとの批判をメールで多くの一般読者から寄せられましたため、敢えて、先程の「片頭痛と緊張型頭痛は同じ疾患である」の”是”の立場をとられる先生の見解を提示します。
私は、この先生の考え方をとっております。
サマリー
国際頭痛分類では,片頭痛と緊張型頭痛は別の疾患として診断基準が定められていますが,1人の患者が両方の特徴を持った頭痛を経験することはまれではありません.片頭痛の痛みには,三叉神経血管系や脳幹の下行性疼痛抑制系が関与していると思われ,慢性緊張型頭痛でも,疼痛閾値の低下や三叉神経の感作が確認されており,2つの疾患の病態が一部共通している可能性が考えられます.慢性頭痛患者の症候・因子の解析からも,2つの疾患が境界不明瞭で連続したものと考えられます.1回ごとの頭痛発作の違いを説明できる一次性頭痛(機能性頭痛)一元論や,頭痛持ち人生の中で時期による頭痛の変化に注目した変容性片頭痛という概念を知ると,片頭痛と緊張型頭痛は同じ疾患であると考えるのが自然です
.
はじめに
「頭痛のことをよく知らなかった頃には,片頭痛はそれほど多くなく緊張型頭痛がほとんどだと思っていましたが,いろいろ勉強してみたら,実は片頭痛が多くてみんなトリプタンがよく効く」と感じたことはないでしょうか.この原因は勉強不足や,トリプタンメーカーに乗せられているだけなのでしょうか.確かに緊張型頭痛は,片頭痛と比較して病態が解明されていない点も多く,「肩こり・ストレス=筋緊張性頭痛」という間違った認識が浸透し過ぎていたことも一因と思われます.また,勉強して専門家を名乗ると,より困っている患者が集まる傾向になるため,日常生活に支障を来しやすい片頭痛患者の割合が増えることも想像できます.
しかし,片頭痛と緊張型頭痛が実は同じ疾患だとしたら……日常診療の疑問が解けるかもしれません.
繰り返される頭痛がある患者の中には,頭痛の性状・程度・随伴症状・増悪寛解因子などが毎回同じパターンで繰り返されると感じる者もいますが,時期や状況により頭痛のパターンがいくつかあると感じる者も少なくありません.国際頭痛分類第3版β版では,片頭痛と緊張型頭痛はともに一次性頭痛に分類され,別々の疾患として定義されています.片頭痛を定義し,緊張型頭痛は結果として「片頭痛が否定された慢性頭痛」の形となっているため,頭痛発作が繰り返し起こる患者のうち、片頭痛の診断基準には当てはまらない頭痛発作があると,緊張型頭痛が併存していると診断されることが多いようです.現在は別々に定義されている片頭痛と緊張型頭痛ですが,中心となる病態生理か同一もしくは共通した部分が多く,程度の差はあれ連続したものと考えるなら,「同じ疾患である」ともいえます.
中心となる病態は同じか
片頭痛の機序については,血管説,神経説,三叉神経血管説が順次提唱されてきました.最近では,片頭痛の前兆が皮質拡延性抑制(cortical spreading depression ;CSD)により起こるという考えはコンセンサスが得られていると思われますが,痛みの起源については,脳血管や三叉神経終末に由来する末梢起源説と,脳幹に由来する中枢起源説があり,いまだ結論は出ていません.いずれにしても,三叉神経血管系(脳底部の主幹動脈から大脳皮質表面の軟膜動脈および硬膜血管において三叉神経節由来の無髄神経線維が分布している領域),脳幹の下行性疼痛抑制系(視床下部一中脳PAG一延髄・縫線核)および各種神経ペプチド(一酸化窒素,ヒスタミン,セロトニン,グルタミン酸,ドパミン,CGRPなど)と多くの因子が関与していると考えられます.
一方,緊張型頭痛の病態や発症機序はいまだ不明な点が多く、末梢性要素と中枢性要素が考えられており,古くは末梢性要素に注目した筋収縮性頭痛という用語なども使用されましたが,最近では特に慢性緊張型頭痛患者における中枢性要素が注目されています.慢性緊張型頭痛患者では,疼痛闘値の低下,一酸化窒素に関連する三叉神経の感作が確認されており,病態に関与していると考えられています.
つまり,下行性疼痛抑制系の機能低下,三叉神経の感作という点て,片頭痛と慢性緊張型頭痛には共通する病態が存在する可能性があります.
連続した疾患であるか
1962年に発表された米国神経学会の頭痛分類特別委員会の分類では,頭痛が15に大別され,「1.片頭痛型血管性頭痛」に現在の片頭痛と群発頭痛が含まれ,「2.筋収縮性頭痛」が現在の緊張型頭痛に相当し,片頭痛と緊張型頭痛の特徴を併せ持つ「3.混合性頭痛」というカテゴリーが並列に分類されていました.その後,1988年に発表された国際頭痛分類では,現在のように片頭痛,緊張型頭痛が独立した項目となり,混合型頭痛の項目が削除され,もしそれぞれの特徴を持ちそれぞれの診断基準を満たす2種類の頭痛がある場合は,混合型頭痛とするのでなく片頭痛・緊張型頭痛と2つの診断名をつけることとなりました.これは,片頭痛と緊張型頭痛は別の病態を持つ疾患であるという考えに基づいています.しかし慢性頭痛患者の症候・因子を調査した複数の研究では,片頭痛と診断された患者と緊張型頭痛と診断された患者の頭痛は,性状・質的の差ではなく,頻度・程度の差であり,その病態は連続した「境界不明瞭な」「連続体」であると結論付けられています。
片頭痛患者は,頭痛発作が始まったが,それほどひどくならずに済んだという経験をすることがあります.ひどくならない発作は,片頭痛の診断基準を満たさないことが多く,緊張型頭痛と診断せざるを得ないが,これを上手に説明したのが一次性頭痛(機能陛頭痛)一元論です.1回1回の片頭痛発作に注目し,スタートは同しでも、軽く済めば緊張型頭痛,エスカレートしてひどくなれば片頭痛発作になるという仮説です.
片頭痛患者の多くは,10~20代という人生の早い時期に頭痛発作が起こるようになり,その後数年から数十年にわたり頭痛発作が繰り返されますが,この「頭痛持ち人生」の間に頭痛発作の頻度や程度は変化します.
片頭痛患者では,若い時期は発作頻度が少ないが重篤な発作が起こり,年齢が上がるとともに頭痛発作の頻度は増えるが程度は軽くなるというパターンをとることが多いようです.加齢とともに片頭痛らしさが減り,緊張型頭痛のような頭痛発作が多くなってくる,いわば「頭痛持ち人生」の間に片頭痛と緊張型頭痛が連続しているような状態です.このような片頭痛は変容性片頭痛と呼ばれ,国際頭痛分類とは別の概念ですが,日常臨床では広く受け入れられています.
おわりに
国際頭痛分類は,日常診療でも,頭痛学をサイエンスにするためにも,必要不可欠なものです.しかし,頭痛の研究が進めば進むほど新しい知見が増え,頭痛に興味を持つ人が増えれば増えるほど多くの意見が生まれます.もともと同じ仲間と考えられた片頭痛と緊張型頭痛が,頭痛研究の進歩により別の疾患に分けられ,さらなる進歩により,いま再び同じ疾患と考えられつつあります.こう考えると,日常診療のヒントになるかもしれません.
以上のように「国際頭痛分類」を絶対的な判断基準とされます。
なぜ、こうした論議の中心に「国際頭痛分類」を据えるのかが全く理解できないところです。
これまで、片頭痛は、”ミトコンドリアのエネルギー代謝異常あるいはマグネシウム低下によって引き起こされる脳の代謝機能異常疾患”であるとされてきました。
(Welch KMA, Ramadan NM Review article; Mitochondria, magnesium and migraine. J Neurol
Sciences 134 ,9-14 ,1995)
片頭痛の大半は”多因子遺伝”とされ、この「ミトコンドリアの働きの悪さ」という遺伝素因に、環境因子が加わって、始めて片頭痛を発症させます。ということは、遺伝素因があっても、必ずしも片頭痛を発症してこないということです。
(古和久典、竹島多賀夫、中島健二:片頭痛に関連する神経伝達物質遺伝子、頭痛診療ハンドブック(鈴木則宏編集)中外医学社、東京、2009、95-113 )
このミトコンドリアの働きの悪さがあるために、当然「セロトニン神経」の働きも悪くなり、結果的に「脳内セロトニンの低下」を来すことになります。この「ミトコンドリアの働きの悪さ」と「脳内セロトニンの低下」があれば、当然、「体の歪み(ストレートネック)」を併発して来ます。そして、日常の食生活の問題から、「ミトコンドリアの働き」と「脳内セロトニンの低下」が増悪されることになります。
このように考える限り、緊張型頭痛と片頭痛は同一の疾患と考えるべきです。
しかし、緊張型頭痛は、”純然たる緊張型頭痛”として、これら一連のものとは区別して考えるべき疾患として考えるべきものが存在するということです。
これは、「脳内セロトニン低下」のよるもので、精神科・心療内科領域の疾患と考えるべきです。これは、単純に、頸椎X線検査では、ストレートネックが確認できないもので、当医院の成績では、緊張型頭痛全体の中で15%前後存在します。
こうした緊張型頭痛は「脳内セロトニン低下」によるもので、精神科・心療内科領域の疾患と考えるべき”緊張型頭痛”は、「片頭痛と一連の緊張型頭痛」とは「厳然」と区別されるべきと思っております。
こういったことから、片頭痛と緊張型頭痛は同一疾患と思われると考えています。
私は、先達の業績を根拠として、ある仮説を打ち立てて、慢性頭痛を解き明かしていく、といった方法論があって然るべきと考えております。
先達の業績を総合的に踏まえて、ある仮説に基づいた考え方を構築する手法を駆使するしか、現状打破はあり得ないものと考えております。
「国際頭痛分類」が改訂されるたびに、考え方がその都度変わるというのでは、いつまでも「慢性頭痛」の本質には迫ることは不可能と思われますが、如何でしょうか。
冒頭で紹介させて頂いた”是”を唱えておられる先生も「国際頭痛分類」にある意味で違和感を感じておられるように解釈しております。一人でもこのような頭痛専門医の出現を期待するものであり、これが頭痛研究を進展させていく原動力になるものと私自身思っております。