慢性頭痛患者さんへの頸椎X線検査は必要ないのか 2014/08/04 | 頭痛 あれこれ

頭痛 あれこれ

 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 先程は「現代人になぜストレートネックが日常茶飯事にみられるのか」について述べました。そして、「頭痛とストレートネック」に関して、ちょっと触れました。

 現在、頭痛専門医の先生方は口を揃えて「頭痛とストレートネック」はエビデンスなしと一蹴されます。その根拠として、「ストレートネックは頭痛に限らず、日常茶飯事に見られる所見であり、取り立てて述べるまでもない」とされます。
 果たして、これが真実なのでしょうか???


 これまで慢性頭痛のなかの緊張型頭痛とストレートネックに関する考え方が多くの先生によって述べられて参りました。その代表的なものは東京脳神経センターの松井孝嘉先生の東京大学脳神経外科の時代の研究です。
 1978年に松井孝嘉先生は、”首こり”からさまざまな自律神経失調症状が引き起こされ、この病態を「頚性神経筋症候群」と名付け、その後、試行錯誤の上で2005年に「頚筋症候群の治療法」が確立されました。
この「頚性神経筋症候群」の病態として、緊張型頭痛、片頭痛、めまい、自律神経失調症、うつ、パニック障害、ムチウチ、更年期障害、慢性疲労症候群、ドライアイ、多汗症、不眠症、機能性胃腸症、過敏性腸症候群、機能性食道嚥下障害、血圧不安定症、VDT症候群、ドライマウス が挙げられております。
 そして、頚筋症候群、すなわち、首の筋肉に疲労が貯まってしまうパターンとして

1.長時間、うつむき姿勢をとる習慣がある人
2.ムチウチなど、過去に首や頭部を痛めた経験のある人

に出現してくると述べ、その結果として、頸椎X線検査上、ストレートネックを示すとされます。すなわち、ストレートネックが長期間持続したための結果であるとされています。 松井先生によれば、緊張型頭痛は、デスクワーク、特にパソコンを使って仕事をすることにより、うつむき姿勢を長時間とると、首の後ろ側の頭半棘筋が緊張し、その筋肉を貫くように走っている「大後頭神経」が圧迫され頭痛が起きると述べ、緊張型頭痛は明らかに首疲労からもたらされる病気で、これを「頚性頭痛」と名付け、首疲労を治療することによって、痛みがきれいに消えてしまうと述べておられます。


 こうした同様の考え方は、寺本純先生、作田学先生、竹島多賀夫先生らによって述べられ、頸椎X線検査の重要性については、


 間中信也:痛みと臨床 vol.3 no3 2002 の 272頁の「緊張型頭痛の検査」
 喜多村孝幸:頭痛診断における頸椎X線の有用性。頭痛診療のコツと落とし穴。2003。63
 寺本純:慢性頭痛とつきあう法。24-25。2001

のなかで明確に示されておりました。


 ところが、2004年に「国際頭痛分類 初版」が「国際頭痛分類 第2版」へと改訂された途端に、松井先生以外はすべて手のひらを返すが如く、「頭痛と首」の関与については否定的な見解を示されるようになりました。
昨年の「国際頭痛分類 第2版」から、さらに「国際頭痛分類 第3版β版」へと改訂されましたが、今回の改訂でも


ムチウチによるものが、ムチウチ後7日以内のままです。
  首に関連する項目も全く同様です。


 ということは、やはり同様に否定的な見解が覆されるとは思えません。
 このように「国際頭痛分類」を絶対的な基準とされるようです。

 こうした基準によって「頭痛と首」の関与は全くエビデンスなし、というのが現在の頭痛専門医の考え方です。先程も述べましたように、この点に疑問を持っています。

 それは、松井先生も指摘されますように緊張型頭痛の原因は首こりによって起きる頭痛です。これがストレートネックを形成してくる以前の段階から生じてきます。早い段階であれば、しばらくすれば頭痛は軽快しますが、ストレートネックを形成した段階では、「頚性神経筋症候群」に対する治療を根気強く行わない限り頭痛は改善できません。
 そして、岩田先生が指摘されますように、片頭痛に「頚性神経筋症候群」が併発する場合のことが述べられていました。このように慢性頭痛の場合、緊張型頭痛であれ片頭痛であれ「頚性神経筋症候群」が関与して発症するということを意味しています。
 こうしたことから、慢性頭痛のスタート(出発点)は”首こり”にあると考えるべきであり、これを放置することによってストレートネックが形成され片頭痛にまで進展するものがあることを示しています。すなわち、ストレートネックは慢性頭痛の根底にあるものと考えるのが妥当なはずです。このように考える限りは、頸椎X線検査上でみられるストレートネックの所見の有無は重要な位置を占めているはずです。
 問題は、こうしたストレートネックは、頭痛専門医が指摘されますように、日常茶飯事にみられるものです。こうした所見が頭痛と関係があるかどうかの判断の基準があるはずです。以前にもブログでも述べたはずですが、その診断の基準として、頸椎X線検査上でみられるストレートネックの所見は、前屈位での前屈の不十分な所見と正面像での右か左かへの傾きの有無を確認した上で、必ず、頸部の触診において後頸部の筋肉の圧痛点の有無を確認しなくてはなりません。(この”後頸部の筋肉の圧痛点の有無”に関しては、坂井文彦先生の”頭痛体操”の部分で指摘されておられます)。

 このようなストレートネックの診断基準を早急に確立すべきです。こうした基準がないために、とくに整形外科領域では、極めて曖昧な所見の取り方がなされています。
 そして、緊張型頭痛の随伴症状とされる”ふらつき、めまい感”で一般内科及び耳鼻科を受診される方々の診断が極めて曖昧な形になっています。さらに”首こり”に伴う不定愁訴や自律神経症状を訴えて受診される方々も、極めていい加減な診断を受けている現実があります。こうした頭痛患者さん以外にも関係しており、こうした診断基準を示されない限り問題解決には至らないと思われます。最も悲惨な対応を強いられているのはムチウチの患者さんと思われます。こうした周辺の方々がどのような状態に置かれているのかを反省すべきです。頭痛患者だけに止まらないはずです。
 少なくとも、頭痛学会が早急に「頭痛と首」の問題に関して独自の見解を示し、その上で「ストレートネックの診断基準」を明確にすべきと考えます。
 こうした診断基準を確立した上で、慢性頭痛患者(緊張型頭痛・片頭痛・群発頭痛)すべてにおいて頸椎X線検査を行うことにより、それぞれの病型でのストレートネックの合併率を比較すれば、あるものが見えてくるはずです。さらに、閃輝暗点のような前兆のある片頭痛でストレートネックを呈した方々を、このストレートネックを改善させることによって、どのようになっていくのか確認することです。(この点は、以前記事にしました) 「国際頭痛分類」を度外視して、このような検討をすべきです。こうした簡単な、従来から重要性が指摘されていた検査法を1つ加えることによって、慢性頭痛の”姿”が明らかになるはずです。このような基本的な方法を無視して、ただ単に「国際頭痛分類」ではどうこう・・といった論理では、何も解決することはないはずです。
 得られた結果をどのように評価するかは、あとは”頭の善し悪し”です。
 こういった単純な作業で解決されるはずなものを、いつまで「国際頭痛分類」のみに拘るのでしょうか? これが頭痛専門医のあり方と考えれば、まさにこんなものなのでしょうか?


 先日の「Headache Master School Japan (HMSJ) -Osaka」では、埼玉医科大学 東洋医学センターの山口智先生が「東洋医学と頭痛(漢方、鍼灸)」について述べられ、さらに東京女子医科大学 名誉教授 メディカルクリニック柿の木坂  院長 岩田誠 先生が「頭痛と肩こりに悩んだ人々」の演題で講演されました。これが何を意味するのでしょうか?


 ここで誤解があってはいけませんので、確認しておきます。これまで頸椎X線検査上でみられるストレートネックの所見について述べました。しかし、ストレートネックは単なる首だけの問題ではありません。脊柱はすべて繋がったものです。ストレートネックが見られるということは、「全身の体の歪み」を意味しています。
 先程も申し上げましたが、「体の歪み(ストレートネック)」は、ミトコンドリア、セロトニンの問題から起因して、これに
1.前かがみの姿勢やうつむきの姿勢などを長時間続けるような生活習慣
2.「ムチウチなどの外傷」を負ったりして、首の筋肉組織を痛めたりする
が加わって、形成されてくるものです。
 こうした事実をもとに、ストレートネックは評価されるべきものです。


 いつまでも「国際頭痛分類」のみに拘った考えでは何ら解決しないはずです。
 これに「頸椎X線検査」を追加するだけで、今までとは別の世界が見えてきて、慢性頭痛解明への手がかりが得られるはずです。先達の先生方は決して、間違ったことを言っていなかったはずです。
 最も反省すべきは、「国際頭痛分類」のみに執着することではないでしょうか?
 ただ、問題とすべきは頭痛専門医の先生方は、余程特殊な施設を併設されていない限り、こうした「首こり」やストレートネック、「頚性神経筋症候群」に対する治療手段を持ち合わせていないがために、「国際頭痛分類」のみに執着され、薬物療法のみに終始されるのかもしれませんが・・

 先日の7月20日大阪でのHMSJ-Osakaの講習を受けて、頭痛専門医が「国際頭痛分類」でしか診断していないことを知ることによって、このような考えがある限り「頭痛とストレートネック」はエビデンスなし、とされることは必定と思われたため、再度、「頸椎X線検査」の重要性を訴えたく、これまでのブログの記事と繰り返しに過ぎませんが敢えて述べさせて頂きました。