ネルカ デルカ
アリオラ フィオーネ
エフェナ クラリア
ナミナ クローデ
光をもったやさしきこどもよ
あたたかな光の翼で空を舞う
アーシェ アルミア
その手の温もりで眠りにつくよ
ナーシサスの教会で聴いた歌だ。あの時と同じ澄んだ声音が木々に響き、胸の前にかざし合わせた両の掌に小鳥が舞い降りる。建物に囲まれたその場所に差し込む一筋の陽の光に照らされた彼女の姿は、≪聖女(ラ・ピュセル)≫という呼び名に相応しい。
再び聴いても思う。不思議な歌だと。そして、その歌声も。聴いていると、心の内側から温かさが全身に広がってくるような感覚を覚える。
歌が終わるのを待って「クラウ」と呼び掛けると、気付いたクラウがレイの方へと振り返った。
「レイ!」再会を喜ぶ笑顔もつかの間、すぐにクラウの頬が膨らんだ。「もぉ、勝手に1人で行っちゃうから捕まっちゃうんだよ!」
「悪ぃ、悪ぃ。アークは?」
「時間が掛かるだろうから、その間にケイネス公に会ってくるって。多分今頃はこっちに向かってると思うよ」
「そうか」レイはクラウの隣に腰を下ろした。「ところで、前にも歌ってたよな、その歌。聴いたことのない歌だが、誰から教わったんだ?」
「これはね、死んじゃったお母さんが子供の頃に教えてくれたんだ。わたしが泣くといつも歌ってくれてた。この歌を歌うとすぐ泣き止んでたんだって」昔の事を思い出し、クラウがクスクスと笑った。「ナーシサスのあの花畑でも、お母さんはいつも歌ってた」
レイはこれまでクラウの母親の話をあえて訊かずにいた。それはクラウと一定の距離を保とうとしていたからだ。自分と関わりのない人間でいさせたかったからだ。しかし、今はもう違う。クラウは十分に関わった。既にレイの中で≪あいつ≫と重ね合わされ始めている。それがクラウにとって不幸だということも分かった上でだ。
「お袋さんはどうして亡くなったんだ?」
「病気だよ。元々体の弱い人だったから」
「親父さんは?」
「お父さんのことは覚えてない。まだわたしが赤ちゃんの頃に火事で死んじゃったらしくて、その時に写真も全部燃えちゃったから、顔も分からないんだ」
父と母を失ったクラウ。レイは自分の両親の事を思い出した。自分も同じだと。すると、家族の事など普段は絶対に話さないのに、ふいに言葉にしたくなった。それがクラウだからなのか、あの歌を聴いたからなのかは分からない。それはレイにとって自然な事だった。
「……俺の親父はアネル皇国の軍人だった。お袋は普通の主婦で、別に自分が不幸だとも幸せだとも思わない、どこにでもある平凡な家庭だったよ。だが、≪あの日≫にすべてが変わっちまった」
「それって……」
「バンドールの連中が俺達の住む≪皇都グラムダート≫に侵攻してきた時、皇都防衛線についていた親父は戦死して、お袋はまだ七歳だった俺を逃がした後、瓦礫の下敷きになって死んじまった。そんで戦災孤児になった俺は、他の孤児と一緒にたまたま前のJUSTICEの隊長に拾われて、デカくなった頃、JUSTICEに入ったのさ。ま、俺にとっちゃ、その隊長が親父みたいなもんだ。どうしようもねぇ親父だけどな」レイはクラウに笑ってみせた。
しかし、エメラルドグリーンの瞳は潤んでいて、一筋の涙が頬を伝った。
「おいおい、何でお前が泣くんだよ」
「え……?」クラウが人差し指でその涙を拭い、濡れた指先を見て驚くと、「ホントだ。少ししか話してないのに、不思議だね」と笑った。「……バンドールの人達の事……恨んでる?」
「……ガキの頃は良く思ってなかったさ。いつか復讐してやるなんて考えたこともあった。でも、バンドールで生活して、そこに住む人間も俺達と何も変わらないって分かったら、なんかどうでもよくなっちまってな。だから、復讐なんて馬鹿らしい、そんなことしてる暇があったら俺のすぐ近くにある大切なもんを守ろうってさ」
「……オーディンっていう人もレイの大切な人なの?」
「なんだよ、急に」
「ソウルギアの軍艦の中で、あの人にオーディンの事を訊いていたから」
確かにレイはトリレナにオーディンについて問い掛けた。しかし、それだけで、レイとオーディンの関係がただのバウンティーハンターとソウルギア総帥の関係ではないと感じたというのか。心を揺らす歌と歌声、無意識で流れた涙、人の心を感じる力――それはクラウ自身によるものか、それとも≪ラ・ピュセル≫であるからなのか。
「オーディンは――」
つづく
