幻想交響世界エクスマキナ Ep.5-4 権謀の渦 City of Light⇔Darkness | 幽玲の妄想ふぁんたじあ

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Part.4/4


 レイは自分の事を見捨てたということなのか。嘘をつかれたことにショックを受けていないわけではないが、そもそもは無理を言ってナーシサスやノワールから連れ出してもらったのだ。ここまで一緒にいてくれたことをもっと感謝しなければならないのかもしれない。それに、レイがこの方が安全だと判断したのならそれが正しいのかもしれない。ただ、これから自分はどうなるのだろう。どうしていけばいいのだろう。すっかりと日が落ちた頃、クラウはまだアンバースのいる署長室で1人考えていた。

 軽く扉をノックする音が聞こえ、アンバースが「どうぞ」と返事をすると、最初に現れたのはアンバースの美人秘書であった。「お客様です」と言って通されたのは、1人の若い少女と2人の屈強な男達。少女は帽子を目深に被り、男達はサングラスを掛けていたが、いずれも地味な色目の服を着ていた。どう見てもこの署長室に似つかわしくない服装の3人だった。また、男の1人は重たそうなアタッシュケースをぶら下げている。

 秘書が軽く一礼をして部屋を後にすると、アンバースは「まさかこんな小娘をよこすとはな」と言った。先程までの温和な口調とは裏腹に出された「小娘」という単語にクラウは違和感を覚えた。

 しかし、小娘呼ばわりされた少女は見た目の幼さと異なる凛とした態度でアンバースの前に立っていた。

「私はソウルギア軍少尉、ミーア・クーラだ。そこの女が≪ラ・ピュセル≫か?」ミーアと名乗った固い口調の少女がクラウを一瞥した。

 見覚えがある。ナーシサスでソウルギアの士官と一緒にいた少女だ。

「あぁ、そうだ」

「確かなのだろうな?」

 アンバースは執務机の引出しから葉巻を取り出し、火を点けたマッチに当てて煙をくゆらせた。

「お前達が捜しているのは、銀髪鬼が連れていた女だろ? この女はその銀髪鬼から預かったんだよ。間違えようがない。それよりも金だ」

 アンバースの言葉を受け、ミーアがアタッシュケースを持った男に対して目で合図を送った。彼らもまたソウルギアの兵士であろうことは間違いない。男はケースをアンバースの前に置き、ミーアの後ろへと再び下がった。それを見計らい、アンバースがケースを開けようと手を掛ける。すると、ミーアがこれを制止した。

「待て。中身を確認するのは我々がこの場を去った後だ。警察署の中にまで来てやったのだ。それくらいは条件とさせてもらう」

「入念なことだ。ソウルギアがこの街を占拠した後は私が市長になるという件も忘れちゃいないだろうな?」

「我々は共和国政府とは違う。一度結んだ約束を違うことはない」

 騙された。これがアンバースの本性なのだ。市民を守るという警察官としての使命を忘れ、権力と金に目が眩んだ男。

「わたし達を騙したのね!」

「悪く思わんでくれ。この街は金と名誉が全てなんだよ」

 欲に溺れた男が映る視界の隅で、ミーアがずっと扉の前に立っていたもう一人の男に対し合図をしたことに気付いた。瞬間、その男に後ろから羽交い絞めにされ、ハンカチのような布を口に当てられた。息ができない。むせるような薬品臭が鼻を通じて全身に広がっていくのを感じる。やがて目がぼんやりと霞んでいき、意識が遠のいていく。残り微かな意識の中で、1人の顔だけが浮かんだ。

 助けて――レイ――。

   ※

 IBCMブラン支部のホール――手配書がびっしりと貼られた掲示板の前で、レイは次のウォンテッドを見定めていた。だが、止まることのない思考の渦に飲み込まれ、実際にはただ壁に目を向けているだけだ。

 簡単に割り切ることさえできれば楽だった。バウンティーハンターの仕事は当然ながら大きな危険を伴う。ジェレミー・ダービーのような小物だけでなく、ガウリィ・ラトキエのような連続殺人犯も捕まえなければ食べていけない。そのような仕事にクラウのような女を連れ回すわけにはいかないし、何より足手まといだ。それだけではない。自分の名は知られ過ぎている。クラウはここにいますよと大声で宣伝して歩いているようなものだ。だから、クラウをアンバースに預けることは正解だった。

 しかし、心のどこかから問い掛けてくるのだ。本当は怖いだけなのではないか。五年前、≪あいつ≫を守ることができなかった。そしてまた、≪あいつ≫に似たクラウを守ることができないのではないか。この5年間ずっと仕事のパートナーを作らなかったことも、自分に深く関わった人間が不幸になることを恐れているだけなのではないか――と。

 これ以上考えても仕方がない。クラウは既にアンバースに預けたのだ。それに、元々自分とは何も関係のない女なのだから。

「レイさんっ!」

 その名を呼ぶ声が広いホールに響き、四散した。その方向に向くと、背中を丸めて大きく息を乱したアークの姿があった。

「やっぱりここでしたか! クラウさんは一緒じゃないんですか!?」

「クラウなら警察に預けたが……どうしたんだ?」

「ソウルギアの戦艦がすぐ近くに――」

 次の瞬間、大きな爆発音がその場の空気を切り裂いた。外からだ。そう遠くない。レイはアークと一瞬顔を見合わせると、共に外へと走った。

 夜を昼に変える程のネオンに照らされた空が、一部紅く染まっている。その空の下で、不気味な煙がみるみる大きくなっていく。煙は見覚えのある建物の窓から噴き出していた。

「あれは確か警察署では……」

 道行く人々は皆立ち止り、建物の中からもぞくぞくと人が出てくる。すべての人々が一様に同じ方向を見ていた。轟々と燃え盛る炎。クラウを預けたその場所から出る炎を見て、レイは足を止めた。その横を1台の黒い車が通り過ぎようとしたが、刹那、車窓の向こうにクラウの顔を見た。間違いない。その瞳は瞼に閉ざされていたが、忘れようにも忘れられない顔――クラウ・エールの顔だ。

「クラウっ!」

次回  Ep.6  理由 Infiltration

※ Ep.5までを収録したPDFファイルをUPしました。