やわらかな光 ~ヤングパーソンクラブの部屋~ -3ページ目

やわらかな光 ~ヤングパーソンクラブの部屋~

ヤングパーソンクラブ a.k.a. ヤンパクラ

すすけて真っ黒なベニヤ板に、真っ赤なペンキで「極楽物産」と書かれた看板、分厚くて重たい鉄の扉。倉庫の入り口には、何か大きい柔らかなものをひきずったような跡がある。

「こんにちわ!!わんぱく物産の吉田です~、お手伝いにきました!」

吉田係長は大声で叫ぶと、鉄の扉を思い切り蹴りつけた。高さ3mはあろうかという扉が、ぐわんぐわんと音を立てて揺れる。

「こんにちわ!わんぱく物産の吉田ですよ~、社長、いてはるんでしょ??」

吉田課係長は手を休めずドアを蹴り続けている(この場合は足を休めず?)。

「!!!!」

「お、それ、良いアイディアじゃん!」

そういうと吉田係長は倉庫の前に停めてあった軽トラックに乗り込んだ。

「ここをこうして、、、」

「!!!」

けたたましい音を立てて軽トラックのエンジンがかかった。タイヤがものすごい音で空転したかと思うと、そのまま倉庫の扉に突っ込んでいった。

あたりまえのことだけれど、大きな鉄の塊に車がぶつかる大きな音が、静かな敷地に響き渡った。パクラ君はぶつかって凹んだ扉の隙間に鉄パイプを差し込んで、梃の原理で隙間を広げていく。吉田係長は衝突寸前にトラックから飛び降りたらしく、ズボンが破れたことを気にしている。

「っちぇ、せっかくの新しいスーツだったのに・・・」

そういってポケットからライターを取り出し、軽トラックから漏れ出したガソリンにハンカチを浸して火を付けた。燃え盛るハンカチは、軽トラックの運転席を一瞬にして溶かした。炎はどんどん燃え広がる。

「おかしいなぁ。今日は社長、いないのかな?」

「!!!」

「おーい、待たせたなぁ。」

振り向くと、身長2メートルはあろうかという白髪の男がこっちに手を振りながらやってきた。

「社長!お待ちしてましたよ。あんまり遅いから、ドア、燃やしちゃいました!」

「まったく、吉田はいつまでたってもせっかちだなぁ、、、とりあえず、まぁ中に入れよ」

そういうとその白髪の男は倉庫の裏手に廻り、手招きした。

「何回も言うけど、入り口はこっちだから」

「あ、そうでしたっけ・・・?すみません。さ、いこうか」

裏手に回るといっても、燃え盛るトラックの横を通り過ぎるのは緊張する。ガソリンタンクに火が回ったら爆発もしかねない。おれは慎重に、なるべくトラックから距離を保ちながら裏手に回った。

「なんだか面食らっちゃったよ、こんな挨拶もあるんだね・・・?」

声をかけようと振り向くと、パクラ君はいなくなっていた。
力の限りに君を抱きしめた これからも二人ずっと一緒だよ
繋いだ手を 離さない 離さない これからもきっと・・・

誰もいない海岸で 夕日に染まる海を見てた
魚釣れない日があるなら 君に会えない時だってあるよ

girlfriend つまり君のこと いつもいつも眺めてた
パン屋に本屋、パチンコ屋で、夢の中でも I miss you だよ

うつむいてばかりで泣いているんならこっちにおいでよ(こっちにおいでよ!)
魚釣れなくて君に会えなくて 涙流した満月の夜に

力の限りに君を抱きしめた これからも二人ずっと一緒だよ
繋いだ手を 離さない 離さない これからもいっと・・・

(ラララ、ラララ、ラララ・・・)



「ところで君たちは何でうちに入ろうと思ったの?」


運ばれてきたカツ丼をかきこみながら、吉田係長はそう言った。

「いや、もともと興味があった分野の仕事ですし、鶏口となるも牛後となることなかれっていうか、、、大きい組織だと自分がやりたいこともできないかなって思ったん・・・」

「!!!!!!」

「そうか、実家が駄菓子やさんだったんだ!?へぇ、どこの??西沢4丁目の交差点の??もしかして『はんだ屋』?」

「!!!!!!!」

「えええ、そうなんだ!?俺も小さいとき、お小遣いもらったら行ってたよ!!あそこのおばさん優しかったなぁ、、、え、じゃああのおばさんがパクラ君のおばあちゃん?」

「!!!!!」

「そうなんだぁ。あれから大体20年くらい経つけど、、、おばあちゃんは元気?」

「!!!」

「そりゃたまげた、102歳で現役バリバリとはすごいや、恐れ入ったよ。また今度お店に行ってみるよ。」

伝票を持って席を立とうとすると

「これは新人研修だから」

と言って吉田係長がおごってくれた。ありがたい。

「午前中は会社の説明ばっかりだったけど午後は何をするんだろうね」

「!!!」

「はは、それだといいね。」

「いやいや、吉田係長、それは困りますって」

そんな軽口をたたきながら、俺たちはボロボロのハイエースで午後の研修場所兼取引先である極楽物産(有)貝塚西倉庫に向かった。

研修前に辞職してしまった子の名前は結局わからないままだったけど、楽しい同期に楽しい上司、思った以上にいい社会人デビューになんじゃないかな。

「え~っと、これから午後の研修先でありうちの重要な取引先でもある極楽物産さんの倉庫で簡単な作業をしてもらう。作業って言っても、箱をトラックに積んでいくだけだから安心して。丁度人手が足りなくて困ってるんだ、この時期忙しいから。あとこれは一つ忠告。絶対に、箱の中身の話はしないこと。それだけ守ればとってもいい人達だし、楽な仕事だから。」

「は~い」

箱の中身を聞かない、それだけ注意すればいい。なんて簡単な仕事なんだ!
先日は初めてヤングパーソンクラブのライブを見ました。
今まではライブをする側であった訳ですから、自分がやっていたバンドを初めて見たことになります。すごくはずかしかったです。子を見守る親の気持ちのような気分でした。
新体制後、初のライブということで、Fがかなり緊張している様子でした。新メンバーのヒャクモト君も少し緊張気味。マツダとサポートメンバーのヤマガミ君は楽しそうにしている様子でした。客観的に自分のバンドを見るのは楽しかったです。新曲もよかったです。
豚丼を作りました。

現在時刻は8時55分。もうすぐオリエンテーションが始まる。
今この部屋にいるのは2人。俺と、後ろの席に一人。部屋に入ってくるときに軽く挨拶をしただけ。
ということは、新入社員と思われるのはさっきの少年を合わせて3人か。

思ったより新入社員が少ないけれど、中小の会社ってこんなもんなのかな。顔と名前が一致しない同期が100人いるより、公私ともに分かり合える同期が数人いた方が、社会人生活は充実する、そう思う。

!!!

「みんな、おはよう!」

紺色のスーツの人に続いて、パクラ君が部屋に入ってきた。Tシャツが汗ばんでいる(入社式にTシャツ?)。思い切り遊んで満足したようだ。

「昨日はよく眠れた?通学の電車と間違えなかったかな?今日から、君たちはこのわんぱく物産の社員になりました。僕は採用担当兼研修係りの係長の吉田っていいます。よろしくね。係長っていっても僕一人しかいないけどね。」

よく通る元気な声で挨拶した吉田係長は、手に持ったプリントを配りながら話を続けた。

「出社途中で気づいたと思うけど、隣のカタコトビルディングに入ってるのがうちの業界最大手、悪戯物産だよ。確か今年は新入社員が100人っていってたかな?まぁうちみたいな会社とは比べものにはならないけど、うちにはうちの良さもあるし、せっかく入社したんだから楽しんでいってね。顔と名前が一致しない同期が100人いるより楽しいよ!」

思わぬ挨拶に面食らった僕の机の上に置かれたプリントには、「社歌」と「社訓」が書かれていた。

「社歌」
you never know , what you want...
you never know , what you want...
oh , We could find what you want!

This is a song of WANPAKU BUSSANN
just a pretty little company in JAPAN!


「社訓」
・わ わ~、すごいですね!
・ん ん~、前向きに検討します
・ぱ ぱ~っと行きましょうよ!
・く くらい顔しないでさ!


社歌はメロディも聞いたことがないし、ひょっとしたらいい歌かもしれない。社訓だって前向きと言えなくもない。いい会社なのかもしれないな、と思うように努めた。同意を求めようと後ろの席の同期を振り返ると、扉を開けて退出するところだった。

机の上にはクシャクシャに丸めた社歌と、社訓があった。今この部屋に顔と名前が分かる同期は、一人しかいなくなった。