すすけて真っ黒なベニヤ板に、真っ赤なペンキで「極楽物産」と書かれた看板、分厚くて重たい鉄の扉。倉庫の入り口には、何か大きい柔らかなものをひきずったような跡がある。
「こんにちわ!!わんぱく物産の吉田です~、お手伝いにきました!」
吉田係長は大声で叫ぶと、鉄の扉を思い切り蹴りつけた。高さ3mはあろうかという扉が、ぐわんぐわんと音を立てて揺れる。
「こんにちわ!わんぱく物産の吉田ですよ~、社長、いてはるんでしょ??」
吉田課係長は手を休めずドアを蹴り続けている(この場合は足を休めず?)。
「!!!!」
「お、それ、良いアイディアじゃん!」
そういうと吉田係長は倉庫の前に停めてあった軽トラックに乗り込んだ。
「ここをこうして、、、」
「!!!」
けたたましい音を立てて軽トラックのエンジンがかかった。タイヤがものすごい音で空転したかと思うと、そのまま倉庫の扉に突っ込んでいった。
あたりまえのことだけれど、大きな鉄の塊に車がぶつかる大きな音が、静かな敷地に響き渡った。パクラ君はぶつかって凹んだ扉の隙間に鉄パイプを差し込んで、梃の原理で隙間を広げていく。吉田係長は衝突寸前にトラックから飛び降りたらしく、ズボンが破れたことを気にしている。
「っちぇ、せっかくの新しいスーツだったのに・・・」
そういってポケットからライターを取り出し、軽トラックから漏れ出したガソリンにハンカチを浸して火を付けた。燃え盛るハンカチは、軽トラックの運転席を一瞬にして溶かした。炎はどんどん燃え広がる。
「おかしいなぁ。今日は社長、いないのかな?」
「!!!」
「おーい、待たせたなぁ。」
振り向くと、身長2メートルはあろうかという白髪の男がこっちに手を振りながらやってきた。
「社長!お待ちしてましたよ。あんまり遅いから、ドア、燃やしちゃいました!」
「まったく、吉田はいつまでたってもせっかちだなぁ、、、とりあえず、まぁ中に入れよ」
そういうとその白髪の男は倉庫の裏手に廻り、手招きした。
「何回も言うけど、入り口はこっちだから」
「あ、そうでしたっけ・・・?すみません。さ、いこうか」
裏手に回るといっても、燃え盛るトラックの横を通り過ぎるのは緊張する。ガソリンタンクに火が回ったら爆発もしかねない。おれは慎重に、なるべくトラックから距離を保ちながら裏手に回った。
「なんだか面食らっちゃったよ、こんな挨拶もあるんだね・・・?」
声をかけようと振り向くと、パクラ君はいなくなっていた。