新入社員!パクラ君!その5 | やわらかな光 ~ヤングパーソンクラブの部屋~

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ヤングパーソンクラブ a.k.a. ヤンパクラ

吉村社長に連れられて、僕らは極楽物産の事務室に入った。
正面から見た工場の印象とは違い、事務室はこざっぱりと洒落ており、いや、正確に言うと「ナチュラル系和風モダン」の部屋にまとめられていた。
裏手の壁面はコンクリートの打ちっぱなしだけど、不思議と無機質な感じはしなかった。雨による染みも、この建物の歴史と個性を物語っているようたった。
錆びたドアを開けると(開閉は極めてスムーズだった)、12畳ほどの受付。床は地元の山で採れた天然の無垢材を使用し、防水処理としてこげ茶の塗料が塗ってある。受付カウンターも無垢材、天板はかつて近所に会った時計屋さんが作業台として使っていた真鍮製の天板を再利用したもの。受付台の奥には30畳程度の事務室があり、デスクが整然と並んでいる。奥には応接室があるよう。働く人たちはみんなオーガニックコットンで作った手触りのよさそうな生成りのシャツと手染めのジーンズをはいており、言ってしまえば制服なのだが不思議とにっぺらぼうなな感じはしなかった。おそらく、それぞれの仕事、プライベートに対する意識がそれぞれの個性を際立たせえていたように思う。

「どうや、吉田。わんぱく物産は。うちは今年は年商20億は手堅いぞ」

「社長、さすがです。うちは、零細企業ですから、社長のとこみたいにはいきませんよ。でもまぁなんとか新入社員も二人入りましたし、社用車もBMWにできましたよ」

「失礼します。」

そう言って事務の女の子がコーヒーを持ってきた。グアテマラの契約農場で採れる豆のうちわずか数パーセントしかないプレミアムビーンズを使用した深煎りコーヒー。口当たりは柔らかく、喉を通るとすっと香りが鼻に抜ける。町のコーヒーショップだってなかなかこれだけのものは飲めない。カップもよく見れば地元窯元の銘が刻まれている。

「どうや、うちのコーヒーはうまいやろ、ガッハッハ」

「はい、とってもおいしいです。口当たりもすごくいいし。。。いい豆使われてますよね!」

「いやぁ、前の方がおいしかったですね。出がらしみたいだ。」

「せやろ、今回のは売りものにならない豆の屑で作った出がらしコーヒーなんや。若いもんはまだまだ舌が肥えとらんのう」

「えっ・・・(照)」

俺は恥ずかしくてうつむき、顔を挙げられなかった。突然のことで心臓がドキドキしている。トイレに行くと言って席を立ち、気持ちを落ち着けるおまじないをしよう。

廊下でさっきの女性とすれ違った。

「ごめんなさいね、社長、いっつも新人さんにはこういうことするのよ。」

「えっ、あっ、いえ、大丈夫です。いや、、、大丈夫ですよ。びっくりはしましたけど。」

「そういえばさっき入り口のところに小学生くらいの子が来てたのよ。うちに用事があったみたいなんだけど。わんぱく物産って言ってたからあなたの会社の・・・誰かの子供さん?」

パクラ君だ。

「あ、うちの、、、私の同期ですね、、、ちょっと言って声かけてきます」

あいつ、何してるんだろう。気ままな奴だなぁ。まぁ、でも、席を離れるいい口実にはなるかな。

そう思って応接に戻ると、応接室のソファにパクラ君がいた。口の周りにケーキをつけて、係長と社長と車座になって話している。

「!!!!」

「ありがとう!ありがとうございます!」

「!!!」

「うんわかたったよ、パクラ君、おいしそうだね、ありがとう。社長、ありがとうございます。」

そう言ってパクラ君がケーキを頬張った。どうやら手で食べるのがここの決まりらしい。