人類とロックの歴史に根ざした学術的且つ客観的アルバムレビューの続きでございます。
続いて盤面。
日本語圏のお客様以外にもなんとなく言わんとするところがわかるように、タイトルは意訳されて刻まれています。
近年こういうシンプルな鏡面印刷もなくなりましたね。
筆者はよく本厚木のすみややタハラで名盤の再発ものの1800円とかのやつを買ってワクワクしていたので、その気持ちを思い出します。
筆者は近所に住んでた内田くんとは違ってSDガンダムやドラゴンボールのキラカードを持っていなかったので、代わりにCDの盤面を見ては胸がいっぱいになって溜息をついておりました。
内田くんはバインダーいっぱいにキラカードを持っていてうらやましかったなあ。
しかしこの盤面、何かが足りないんです。
そう、これが音楽CDであることを示すディスクマークが入っていない。
これは鏡なのです。
盤面を覗き込むとあなたの顔が映るのです。
そう、デザインはアルバムを手にとったあなたの表情なのです。
「わたくしとは世界の鏡像であり、世界とはわたくしの鏡像である」
というメッセージがこのアルバムには込められています。
だからあなたの世界はあなたによって変えることができる。
だから、決してデザインデータの段階では左側の空白部分にdiscマークが入っていたけど納品されたらなぜか印刷されてなかったとか、ということは色指定を間違えたとか、画像データのレイヤーの置き場所を間違えたとか、そういうことじゃないんだな、わざとなんだな、というのは見識が広い方ならすぐにわかっちゃうわけですね。
まあ帯にはdiscマーク入ってるので普通に音楽CDなんですけどね。
これは明らかに映画のエンドロールが意識されていますね。
これもよく読んでいくと案外登場人物が少ないことに気付かされますね。
メンバーと、2〜3人+1匹の友人と、そしてあなたがいれば世界は映画のように面白い、ということを表現している気がしますね。粋ですよね。
そしてディスクを取り外すとなんともおいしそうなカリフラワーの写真が出て来ます。
え!宇宙でカリフラワーがこんなに立派に生育するの?!
と思わずにはいられませんが、CDを再生してみてやっと合点がいきますね。
あ、これカリフラワーとかそういうもんじゃなくてもっとシリアスなアイロニーなんだなと。
ちなみに筆者はカリフラワーが苦手です。
給食のよくわからないスープによく入ってましたね。
食べられなくもないですが進んで食べません。
ブロッコリーは好きです。
あれはいい感じに茹でてマヨネーズ付けると激ウマですね。
ただあんまりゴリゴリしたままでも嫌だし、ホロホロになってるとカリフラワーを思い出すので茹で具合が難しいですよね。
実はキャベツとは交配まで可能な近縁種です。
続いて歌詞カード。
決してこう、予算削減の為にブックレットのページ数を最低限で済まそうと字を極力小さくしてギチギチに詰めたら右上が余ったので「はやと!なんでもいいからボンちゃんの写真くれ!」と言ってLINEで送られてきたものをとりあえず入れといたとかそういうわけではなく、なかなか血生臭いワードや表現がところどころにあるもんで、聴く人が癒されて気分が悪くならないように配慮されているわけですね。
ここまでが装丁の話ですが、スペース少ない割にテキスト量は案外あって。
というか製品としてではなく作品としてのテキストが入っていて、ルーペでも老眼鏡でも使って隅々まで読むと、クスッときたりドキッとしたりすることが書いてあるかもしれませんね。
やっと!中身!
①It's a small world 's end
オープニングSE的なトラックですが、これバレると本気でオモテ歩けないくらい不謹慎な内容、というか不謹慎な意味ではないんだけど誤解されると命に関わるので、決して逆再生したり深読みしたりしないでね。気付いても誰にも言わないでね。マジで。
一小市民として国家の安全と子供たちが羽ばたける未来を願っています。
②ウワサ
一曲目にしてアルバム内で最もBPMが高い曲です。
もともと「ひみつ」の姉妹曲というか、ひみつに入らなかったパートを再構築してできた曲ですが、大昔にサウンドクラウドに上がってたバージョンとは尺やアレンジが大幅に違っておりまして、最後の転調とかもすごくテンアゲな感じしますね。
内容はインターネット批判です。
③ヴィルヘイムに告ぐ
シングル三部作の第2弾として出ていたダークめなディスコチューンの再録ですね。
イントロのギターの音使いもだいぶ変わっているし、ベースラインもシングルやライブのものと違っています。
唄もシングルのときよりエヘラエヘラした感じで狂気じみていてかわいいですね。
内容はなんかでっかいもんに対するアンチテーゼと見せかけて本当は俺が世界を支配したいのかもしれない。
支配されたい片はお気軽にお申し出ください。
④オモイデ
もともとは抹殺レコーズの「殺すコンピ」(https://massatsu.bandcamp.com/album/--3)参加用に『思い出を殺す』として作った曲ですが、メンバーが気に入ってくれたのでノストラ的なメロディックパンクチューンにリアレンジにしたら非常にかっこいい感じになった曲です。
最も広い範囲に刺さりそうだなあと思ったのでPVにしてありますが、ミックスはアルバム内のバランスを考えて調整されてます。
アルバムの中心となる曲です。
今までがどうであれ、今どこに向かってなにをしているかが重要だろと、大きな世界の中でぽつんと揉まれて色々忘れがちな自分に言い聞かせております。
⑤Skygazer
最初のep『大予言』に収録されていた、貞子ちゃんの憂鬱と一念発起を描いた歌。
アレンジは大予言の頃とはキーも含めて割と大きく変わっていて、特に新しく加わったギターのリフが印象的ですね。
ノストラダムスがただパンクロック一辺倒のバンドではなくて、シューゲ的な要素もあるんですねというのが解る仕上がりです。
まばゆい水面を見つめながら音の洪水に窒息して死んでいく様が見事に再現されています。
アウトロではドイツ語で数を数える声が入ってますが、リングシリーズに出てくるリングウイルスの増殖が始まったことと、ループがコンピュータ上の世界であることを表しています。
⑥世界と真実
こちらも『大予言』収録で、ノストラダムスの結成にあたって名刺がわりとなったパンクロックナンバー。
言いたいことの7割は集約されてしまっているので後続の曲を書こうとすると内容が被りがちなので困る歌です。
大予言を製作してる頃は何気にギタリストがエンドウさんともう1人いたので、今回収録のバージョンが現ノストラダムスの純正という感じ。
⑦震えてる
こちらも大予言の再録。
ロックバラードというか、夜空に突き抜ける感じの曲にしたかったんですね。
コレのPVはスマホの縦画面で真価を発揮するようにああなってるんだけど気付いてもらえてるんだろうか。
これ歌も特に歌として気に入っているというか、早くカラオケに入ってほしいですね。
この歌の主人公は多分自分をサイコパスだと思ってるんだけどそんなことはなくて、感情を合理的に整理しようとしてるんだけど、人としての優しさというかそういうのを手放せなくて一線を越えられないのです。
だから歌うしかないじゃないか。
⑧Zombie world keeps singing
シングル3部作の一発目の再録。
リフは自殺で有名なカートコベイン先輩率いるニルヴァーナのブリードをパロッてますね。
Cメロはロイツマののlevan Polkkaをパロッてますね。
死より生にこそ価値があるのは、生きているあいだは死んだあとよりキツイからなんじゃなかろうか。
こんな筈じゃなかったた我々の人生でも、こうして作品を遺すことで歌を歌い続けたいですね。
遺作とはグロテスクでポップなゾンビなのです。
⑨ほころびて
メロはエンドウさん作曲のシングル3部作ラストのシューゲバラード。
聴いていて「俺はなんていい曲を考えついたんだろう」としみじみしていたらこれは俺じゃなかった事件の元凶。
歌唱力がこう、微妙に向上しておりますね。
エンドウさんがメインをとるパートも聴きどころです。
子供の頃、ひと夏の友達ができたこととかありませんか?
どこか遊びに行って、そこで出会った子と仲良くなって日暮れまで遊んだんだけど、それからもう一生会うことはないみたいな。
それって事実上死別じゃないですか。
そいつが本当に人間だったのかどうかすら確認しようがないという。
近いのが『学校の怪談』の実写映画シリーズ一作目に出てくる広瀬アリス的なルックスの、美人な女の子に恋心を抱いていたら実は…みたいな感覚。
あとウルトラマンパワードに出てくるダダは消えるときにシリコンの砂を残していくんだけど、そういう異質な恐怖と甘酸っぱいエモーションが詰まった歌ですね。
きっとそうですね。
⑩ひみつ
ライブではほぼ毎回やるノストラダムスが最も得意とするカノンコードばりばりの、というかパッヘルベルのカノンがそのまま引用されてすらいるパンクロックアンセム。
歌っている内容はバラバラ殺人と死姦なんだけど、『震えてる』の主人公とは違ってこっちはホントに頭おかしいです。
他者への共感を著しく欠いた、殺すことでしか性欲を満たせない人間の、モンスターの心情吐露。
本人も自分が人と違うのとは解ってるし、罪を犯してることも解ってるんだけど、あくまで道徳的もしくは倫理的な罪の意識ではなく、単に法的な罪の意識。逮捕リスクだけ考えてる。
こっち側の理論が本質から通用しない相手への恐怖なんだけど、本人の中ではこの曲くらいポップで美旋律な行動なんだと思います。
ちなみにアルバムトレーラーのこの曲のシーンはこれのモチーフのひとつになった有名な殺人事件の現場です。
11.さよならロックスター
SOPHIAの『黒いブーツ』やイエモンの『プライマル。』あたりを彷彿とさせる表打ちの、ノストラダムスとしてはレトロなノリの曲。
ともあって、夢は叶わずに魔法は解けてしまっても、まだそいつのロックスターはロックスターであり続けてくれているし、そうである限り大なり小なり夢は生きてるんじゃないかな、ということを日本のロックの名曲たちの歌詞やタイトルをふんだんに引用して歌っています。
元ネタを全部当てられたらジュース買ってあげるので電話ください。
12.Rolling on
アルバムのラストを爽やかに仕上げるメロディックパンクアンセム。
筆者はこのトラックが収録順も込みで最も気に入っています。
大予言に収録されていたものの再録ですが、スケール感がグーンと広がりましたね。
アルバム通して、生きること、死ぬこと、歌うこと、そして夢や思い出について色々と歌ってきたんだけど、きっと本当のところは誰にも届かないんだろうなっていう。
でも、自分が見てる世界を表現せずにはいられないし、作品を作らずにはいられないから、誰にも伝わらなかったとしても、笑われても、それでも聴いてほしいんですね。
人生という時間は限られてるから。
タイトルはrolling on the floor laughingという言葉から来ていますが、読んで字の如く 床を転げ回るほどに大笑いする の意味です。
人生にも時勢にも何も考えずに無神経に流されて転がっていく先にどんなオチが待っているのか。
つまり、ドリフで最後に家のセットがパッカーンとひらいてみんな大笑い、みたいな、そんな「ダメだこりゃ」を勢いよく演奏しておるわけてす。
パートの繋ぎ目の印象的なリズムはTHE CLASHのトミーガンの引用です。
また一曲目に戻って聴きたくなりますね。
【総評】
とにかく内容が濃く、全部シングルカットできるようなベスト的一作になってます。
濃いけど何度も聴きたくなり、気づくと風呂やトイレで口ずさんでしまいますね。
晴天のドライブにも夜のお散歩にも案外合って心地よいし、歌詞を見ながらじっくり聴いてもまた味わい深い。
もちろん90年代の香りや懐かしい雰囲気もありつつ、しっかりとパンクやシューゲイザーを文脈として踏まえていて且つ古くさくない無時代性があります。
東日本大震災を経験し、シンゴジラと君の名はがヒットしたあと、北朝鮮情勢で図らずもまた終末感が漂う今の日本に生きるうえでのBGMとして最高にマッチする一枚です。
オススメです!