2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
今後、随時こちらに引っ越して参りますので、ご愛読のほどよろしくお願いします。
しばらくの間、オリジナル妖怪たちが登場します。
恋に恋してヒステリー爆発『りんごおかめ』の話
今日は東北に棲む妖怪の話をしよう。
青森の美味しいりんごが無事に収穫されるまでには大変な苦労がある。
雨が多くても少なくても困るし、暑くても寒くても困る。虫や病気が大発生してもやっぱり困る。
でも一番困るのは『りんごおかめ』の大暴走だろう。
『りんごおかめ』は津軽地方に強風を吹かせる妖怪で、収穫を目前に控えたりんごを叩き落としてしまうために土地の人からそう呼ばれている。りんご農家にとっては何より頭の痛い存在だ。
もう何百年以上も独身で恋人が欲しくてたまらない『りんごおかめ』は、毎年、初夏になると恋人を求めて東北の国々を歩き回る。
山形のさくらんぼ果樹園で素敵なチェリーボーイを見つけたり、秋田のじゅんさい畑でつかみどころのないプレイボーイと一夏の恋に落ちることもあるが、運悪くお相手に巡り会えないまま秋に突入なんてことになったらさあ大変!
エネルギーを持て余した『りんごおかめ』はヒステリーになって暴れだす。その被害に遭うのは青森の農家だけでなく、近隣の村はもちろん、そこに棲む妖怪もとばっちりをくう。河童仲間もおかめの暴雨風に巻き込まれて大量に川流れしていった。
これではたまらないということで、岩手の河童たちと青森のりんご農家が手を組み、りんごおかめのヒステリーの矛先をかわそうと様々な対策を打ち始めた。
妖怪バンドが岩手に呼ばれたのもそのひとつで、歌って踊ればおかめのヒステリーもおさまるんじゃないかという計算があったのだ。
もくろみはうまくいき、その秋は美味しいりんごがたくさん穫れた。
それ以来、岩手の河童たちがバンドを結成しておかめ対策に乗り出しているが、先日、激しいハードロックを演奏したところおかめがより興奮して例年以上に大暴れしたそうだ。
ああ誰か、『りんごおかめ』を幸せにしてやってもらえませんか。