2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
※214〜257話までオリジナル妖怪たちが登場します※
毛の悩みを深める「毛深怪」(もうしんかい)の話
昭和も初めの頃の話。
その子は嫁入りが決まった。
相手は夏祭りで知り合った隣町のイケメンだ。
今も昔も変わらないが、お嫁さんになる前に多少でもきれいになっておきたいのが女心。
ちょうどそこへ小間物の行商人がやってきた。
へちま水や椿油、おしろいを求めると、行商人は結婚のお祝いにと言って一枚のクシを置いて行った。
そのクシを使うと髪は豊かに輝き、肌まで美しくなり、鏡の中の自分は日を追うごとにきれいになる。
喜んで朝に夕べにと髪をといたのだが、生来、面倒臭がりなその子は、クシに絡んだ抜け毛をそのままにしていた。
いよいよ花嫁になるその朝のこと、いつものように髪をときながら鏡をのぞいたその子は悲鳴をあげた。
まるで男性のように顔中、ふさふさと毛が生えていたのだ。
その不思議なクシは大陸から渡って来たという話だが詳しいところは知らない。
大切に扱えば必ず美しくなれるこのクシを巡り、江戸の遊郭では殺傷事件まで起きたそうだ。
ただ、扱い方を間違えるととんでもない目に遭うことが次第に明らかになり、『毛深怪』(もうしんかい)と呼ばれたこのクシは表舞台から消え、一部の行商人の間で密かに取引されるようになった。
美しくなれるか、毛で苦しむか、それは使うひと次第のようだ。
この話をしたところ、とある仲間から『毛深怪』をどうにか手に入れたいと頼まれ、探しまわった結果、先日、横浜中華街の裏道にあるアジア系雑貨屋の店先で見つけた。
薄毛に悩むその仲間は、抜け毛をわざとクシに残せば翌朝には毛がふさふさになると想像したようだが、怒った『毛深怪』がどう出るかは実際のところわからない。
ふさふさか、パラパラか、つるつるか。
どっちに転がるか静観しようと思う。





