2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
縁切り効果絶大「橋姫」の話
修学旅行は京都だった。
河童類が多く通う学校だったので、自由行動の時間には皆んな近くの川に入って遊び始めた。
かっぱと友達は小魚を捕まえたり、尻こだま抜きゴッコをして遊んでいたが、中にはおませな仲良しカップルもいて、水かきの付きの手をつないでイチャイチャしていた。
そこへ突然、錆びた鉄輪が飛んできた。鉄輪はカップルの男子河童のお皿を直撃し、大きな音を立てて川に沈んだ。
男子河童はお皿を両手で押さえたまま川面にぷかぷか浮いている。
見ると少し先の橋の下から、全身に炎の上がる松明をくくりつけた女性が憎しみに満ちた目で、こちらをグッと睨んでいるじゃないか。
騒然とする河童たちに向かい、
「イチャイチャするな、あやめてしまうぞ」と叫ぶ女性。
いつもなら真っ先に逃げ出すかっぱだったが、距離もあったし仲間もいたしでつい、なんだこのやろーと叫び返した。
すると女性は角のように逆立てた髪をカクカク振りながら、川の中を猛スピードで走って来たのである。
怖い。
かっぱたちはクモの子を散らすように逃げた。
宿に戻ってから仲間が、あれは宇治橋の『橋姫』らしいと情報を仕入れてきた。
男に振られたお姫さまが嫉妬で鬼になったらしく、もう何百年ものあいだ、ああやってカップルを攻撃したり、仲良しの縁を切ったりしているそうだ。
気の毒だが他人に八つ当たりするのはお門違いというもの。
あちらが鬼ならこちらはお化け、黙って引き下がれないと血気盛んな河童たちは立ち上がり、『橋姫』の尻こだまを抜いてやれ、と叫んだ者もいたが、誰が行くかという話になるとみんな黙り込む。
“じいや”と言うあだ名で呼ばれていた男子が、「障らぬ神に祟りなし」と一言、それで河童たちはおとなしくなり、『橋姫』の一件を忘れることにした。
さて、この修学旅行からの帰り道、鉄輪を投げつけられたカップルはすっかり他人顔になっていた。
お皿を負傷した男子がフラれたのである。
『橋姫』の祟りかそれとも失神した様子がブザマだったせいかと噂されたが、実はカップルの女子河童が『橋姫』に縁切りのお願いをしに出かけるのを見たという噂話も出て、旅行から戻ってもしばらくこのカップルと『橋姫』の話題で学校は盛り上がった。
今でも『橋姫』は宇治橋のたもとで松明の炎を上げているだろう。
姫を祀る神社も近くにあるとのこと、腐れ縁で悩むなら一度、訪ねてみたらいいが、姫の気性はかなり荒いのでそこのところは気をつけて。





