2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
※214〜257話までオリジナル妖怪たちが登場します※
ひとを絶望に追い込む「夢しぼり」の話
「もう人生に夢はありませんさようなら」という手紙を残し、
高校の屋上からついに3人目の生徒が飛び降りたと聞いて、ようやく事の次第に気づいたかっぱは、再びハルトくんのアパートに急いだ。
ハルトくんの隣の紳士はすでに姿を消し、部屋はもぬけの殻だった…。
バンド仲間だったハルトくんは、高校を卒業したばかり。
僕はプロのミュージシャンになる、と瞳を輝かせながら夢を語る姿に、周囲のみんなが応援していた。
ところがある日、ハルトくんは全くの別人になって現れた。
「ただアルバイトして自分が食べられればそれでいいんです」と暗い目をしてかっぱに言う。
かっぱがあわてて、音楽の夢はどうしたの?と訊くと、
「音楽?夢?腹の足しにもなりませんよ」とクチビルをゆがめ鼻で笑った。
かっぱはびっくり、期待していた周囲の人々もがっかりだ。
突然、何があったのか。
話を聞いてみようと翌日、ハルトくんの住むアパートを訪ねてみた。
扉を叩くが返答はない。
すると隣の部屋から恰幅のいい紳士が顔を出した。肌はつやつやで、栄養は十二分に足りているといった感じ。
「留守ですよハルトくんは」とむっちり紳士が声を掛けてきた。
かっぱは違和感を持ちながら帰った。
そんなある日、ハルトくんのアパート近くにある高校の学園祭に妖怪バンドが呼ばれた。
どんな学校でも学園祭はかなり盛り上がるのだが、ここは音楽を楽しもうという気配がみじんもなく、かっぱ達は心底がっかりだった。
生徒はみんな、暗い表情で足下を見ながら歩いている。
高校生ってこんなだっけ?
キャーキャー騒ぎながら楽しそうに生きていなかった?
片付けた荷物をワゴンに積み込んでいると、見覚えのある紳士が教員室に入って行く姿を目にした。いや、以前よりも格段に太っている。
あの、ハルトくんの隣の部屋の住人はこの学校の先生だったのか…。
…ハルトくんの異変、高校生の暗い表情、
あの紳士が『夢しぼり』だともっと早く気づくべきだった。
空っぽの部屋を前に、かっぱは悔やんだ。
『夢しぼり』は妖怪ではない、悪魔の手先だ。
自分では夢を持てないから、ひとから搾り取った夢を糧に生きながらえている哀しい存在なのだ。
夢を取られたひとは生きる意味さえわからなくなり、絶望し、ときには自ら命を絶つ。
でも大丈夫、『夢しぼり』が姿を消せば、ハルトくんや高校生たちにはまた新しい夢や希望が芽生え始めるだろう。
ひとはただごはんが食べられればいい訳ではなく、たとえ一握りでも夢や希望があってこそ生きて行けるのだと、かっぱはこの一件で思い知った。
ここ十数年、『夢しぼり』が日本のあちらこちらで暗躍するようになった。
無理、無駄、無意味、お金にならない、、、こんな言葉に気をつけて。
こんな言葉を連発していることに気づいたら、自分の心を見つめ直して欲しい。





