2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
山の守り神「狗賓(ぐひん)」の話
『木の子』と過ごした吉野の森を後にして、かっぱは帰路に着いた。
途中、長野県飯田の山中でたくさんのキノコを発見し、夢中になって採取していると後ろから「採っちゃだめですよ!」という声がする。
振り向くと、天狗のような犬がいた。
かっぱは初めて見たのだが、これは天狗の一種で『狗賓(ぐひん)』と言うらしい。天狗の中でも下っ端で、大天狗の手伝いや、山の保全と管理を担当している。
「山を荒らさないで!」とワンワン鼻息も荒い。
少しうるさいので、拾った木の棒を遠くに投げてみる。案の定、『狗賓(ぐひん)』は棒を追いかけて猛烈な勢いで走って行った。
かっぱがたき火を起こして採取したキノコを焼いていると、棒をくわえて戻ってきた『狗賓(ぐひん)』は、香ばしい匂いにダラダラよだれを垂らしている。
キノコパーティの始まりだ。
美味しいキノコだけでなく、笑いタケ、踊りタケも焼いて食べさせると、『狗賓(ぐひん)』は笑いながら山肌を転がりふざけ始めた。
あちこちに穴を掘り、そこらへんの木々におしっこを掛け回る様子に、ちょっとやりすぎだなと思ったがかっぱは笑って見ていた。
すると突然、空が真っ暗になり、かっぱと『狗賓(ぐひん)』はつむじ風にすっ飛ばされた。
大天狗のお出ましだ。
「山を荒らしてどうする!お前の好きな五平餅もしばらくお預けだ」
山が揺れるほどの声で大天狗が怒鳴ると、しっぽをお腹に隠してぶるぶる震えていた『狗賓(ぐひん)』は、ヒーンと哀しそうに啼いた。
かっぱはうなだれる『狗賓(ぐひん)』の肩をポンと叩き、そっとその場を去った。
きっと今頃は大天狗の許しをもらい、好物の五平餅を頬張っているだろう。そう思いたい。