『かっぱの妖怪べりまっち』181話「木ノ子」 | おばけのブログだってね、

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2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

 

吉野の森を走り回る妖精「木の子」の話

かっぱはキノコが好きだ。

キノコに心を奪われだした頃、『木の子』という妖怪の話を聞いた。

きっとキノコの形をしているに違いない。

 

かっぱは『木の子』が棲むという奈良県吉野の山を訪ねた。

ヒノキの森は心地よい香りに満ちて、かっぱはうっとりしながら登って行く。

途中でお昼にしようと腰をおろしたところ、後ろでカサカサと何者かの気配がする。食べかけのお弁当を足下に置いて、音のする方に行ってみたが何も見つからない。

ところが戻ると、お弁当がない。

お手製のカッパ巻きはまだ半分以上あったのに。

どこからか、クスクスと笑い声が聴こえる。『木の子』だろうか。

歩き疲れたかっぱはその場所で横になり、少し昼寝をすることにした。

うとうとすると、すぐ近くで笑い声や歩き回る音がする。

かっぱの皿を軽く叩いたり、引っ張ったりしている。

気がつくと、かっぱはたくさんの『木の子』に囲まれていた。

残念ながらキノコ型ではなく、森の妖精といった格好の小さな子供たちだった。代わるがわる、かっぱの顔をのぞきこんでは笑っている。

かっぱがびょんと飛び起きると、『木の子』たちは笑い声を上げながら周囲に逃げて行く。かっぱが走ると『木の子』も後ろから走る。

あっという間に仲良しになった。

かっぱがキノコの話をすると、『木の子』たちはキノコがたくさん生えている場所に連れて行ってくれた。

これは美味しいキノコ、これは笑いたくなるキノコ、これは踊りが止まらないキノコ、これは死んじゃうキノコ、と、さすがによく知っている。

かっぱと『木の子』たちはそれから、踊ったり歌ったりして遊んだ。夜や昼が何回来たかも覚えていない。

かっぱもここに棲めばいいのにと『木の子』たちは言う。都会育ちだからコンビニが近くにないとダメなんだよね、とかっぱが笑うと『木の子』たちは寂しそうな顔をした。

するとひとりの『木の子』が、これを食べてごらんと小さなキノコを差し出した。口にしたとたん、かっぱは気を失った。

 

気がつくと、かっぱはヒノキの森のなかで横たわっていた。それはここを訪ねたときに昼寝をした場所だった。

傍らには空っぽのお弁当箱と、そしてかっぱの片手にはかじりかけのキノコがあった。