Sくんシリーズ最終回です。


実はS君は、

誰からの人望もない悪名高きMの、直属の部下。

この騒動の何日か前に少し話をする機会があり

Mに対する愚痴を聞いたばかりだった。


この日の朝、ファックスが送られてくるちょっと前

すれ違った時に、SくんはMのことを

「きついっす」

と私に愚痴ってきた。


営業マンとしてまだ未熟で

そういう意味でもうまくいっていなかったSくん。


今回被害者とは言え、

自分の過失でみんなに迷惑をかけてしまったし

自分自身もこの仕事に見切りをつけてたようなところがあったから

このままやめてしまうのかなあとなんとなく予想していた。




Sくんが休んで2週間ぐらい経った時、

やはりSくんはその月いっぱいで退職すると言うことを聞いた。


有給休暇を使い切ってしまったので、

退職の前に何日か会社に顔を出すと言う。


ただ、あれだけみんなに迷惑をかけた手前

なかなか事務所に顔を出すのか

申し訳なくて足が重いと言うことを聞いて、

真面目で優しいS君らしいなぁと思っていた。









しかし、事実は全く違ったのです。



退職の書類処理をするのは事務の私の仕事なので、人事からメールで私のところにも書類が届く。


その書類の中に、

上司が退職するに至った経緯を本人から聞き取ったものを

人事に申し送る書類がついてくる。


本来は、白紙で送られてくるんだけど

今回人事が先に本人と面談したので、

その書類に、Sくんがなぜ辞めたのかということが

詳細に記されていた。



それを見て、

私は自分の認識の甘さを思い知らされた。



調書によると、

Sくんは問題の日当日に人事に呼ばれ

そこでは当初、

カバンを無くして騙されたと、

私たちにしていた説明と同じことを話してたらしい。


しかしその後、日を変えて話を聞いたら、


実はSくんは大学時代から借金を繰り返し、消費者ローンはもちろん、最近になって闇金まで手を出してしまったということを告白したという。



つまり、Sくんは、騙されてなどいなかったのだ。


Sくんは、いわゆるそういうヤバい組織からお金を借りて

返せず、逃げ回ってたのだ。

山田の言うとおりだった。疑ってごめん、山田(イヤ違法だけど)




Sくんはどういう理由でそんなに借金をしたのか

それはわからない。

Sくんは新卒2年目だけど、

年齢は26歳。

大学時代、2回留年してる。


どこの大学かは知らないけど

文系の普通の大学の普通の学部で

2回も留年するというのは、なかなかにルーズな気がする。


大学を奨学金で行っていて、そのお金が膨らんだのかもしれない。


でも卒業してからは

正社員として

決して高くはないけど普通に生活できるくらいのお給料をもらってたはずで

奨学金は、贅沢しなければ返していけたのではないか?

ましてSくんは、実家暮らしだった。



借金を、学生時代から繰り返してたということは

手元にお金があれば使ってしまうような

ルーズさがあったのだろう。


理由はギャンブルなのか

なんなのか

わからないけれど。



私はその手の世界には疎いのでよくわからないけれど

闇金しか頼れなくなるというのは

相当追い込まれた状態なのではなかったか。

ウシジマくんにはそんなこと書いてるし!




なにより、

あんな人の良さそうな笑顔とぺこぺこした態度の裏で、

みんなに嘘をついていたことが一番ショックだった。



しかしこれで何もかもはっきりした。



なぜ情報が漏れたのが彼と仲の良い同僚5人だけだったのか。

そのうちの一名は、以前使用していた古い会社携帯番号だった理由、

なぜ名前が間違えてたのか。


やばいとこからお金借りるとき

家族や同僚

会社、お客さんの情報まで

詳細に書かされたのだろう。

友人を5人書けと言われて書いたのが会社の同僚だったのか。



字がとても汚かったSくん、

怪文書を作成した闇金の中の人が

「コ」を「ユ」と読み間違えたのだろう。



そしてお客さんがなぜ自分の担当ではなかったのか。

それはまさかこんなことになるとは思わず

その時、適当なウソをついたのだろう。



ただ、カバンを無くしただけで

こんな大きな詐欺に巻き込まれるのかと

怖かったけど

詐欺ではなく

本人が、お金を借りたというのは

紛れもない事実だったのだ。




かくしてSくんは保身のため

家族を裏切り

会社を裏切り

支店長を裏切り

仲良くしていた同僚を裏切った。



私は

こんなにしっかりと人に嘘をつかれたのは初めてのことで

とてもショックだった。






Sくんは、辞める日の数日前に事務所に来て

まずは迷惑をかけた同僚5人と顔を合わせ

一人ひとりに迷惑をかけたことを謝ったらしい。



その後、退職手続きをしているとき

私に退職理由を

「会社都合でいいんですか」と聞いてきた。


本人どうやら辞めたくなかったらしいけど

人事に詰められて辞めさせられるのだと思ってたらしい。

「人事部長、ちょー怖かったっす」

と言ってたけど

自分がやったこと考えたら

会社にこれ以上迷惑かけないように

自己都合で退職していくのが一番じゃないかと

むしろ懲戒免職に近い形なのではと思った。

言わなかったけど。



会社都合退職すると

次の再就職先で響くこともあるから

未来ある若者に対しての

せめてもの親心でもあるようにも思ったけど。


しかし自己都合よりも早く長く失業手当がもらえる会社都合にならなかったことが

不満そうだった。



会社周辺に怪文書をばら撒かれ

かなりたくさんの人に迷惑かけたはずだけど

彼の頭には

当面の金繰りのことしかないように思えた。



しかしSくん、

細かいお金の手続きがすぐめんどくさくなるタイプで

最後の経費処理のときもちょっと手間がかかるとすぐ

「あー、もういいっす」

と言う。

そういうとこがこういう大惨事に繋がったんじゃんと思いきっちりと清算させました。





この話、少し前の話です。



なぜ今ごろ書いたのかというと


「一平さん」の事件を見て

思い出したからです。



私は、彼らの情報を追いかけているファンではないので

一平さんはずっとオータニに寄り添っている感じが良くて仕事ができる人、

くらいのイメージしかなかった。



だからとても驚いたけど

まさか、あの人がこんなことするわけがない、

オータニが疑われたりしつつあるとき


Sくんの件が頭に思い浮かび


保身のために簡単に嘘をつき

嘘を嘘で固めていく人はいるものだ、


ということを感じたのです。

特に、お金が絡むとね。


一平さんの事件は想像以上に悪質だったけど

やっぱりなあ、とは思った。


その後出廷したとき

項垂れるでもなく

いつも通り、普通に

シレッとした態度だったとどこかで読んで

退職前のSくんの態度を思い出した。



しかし、数ヶ月一緒に働いてた同僚の裏切りに

これだけショックだったのに

オータニさんの動揺はいかほどだったか。

結婚してて良かったな。

そして精神力オバケだなー。






その後

Sくんが再就職できたのか

なにより山田から逃げられたのかなど

何も知りません。


会社の中でも、ほんとのことを知ってるのはごく一部じゃないかと思います。




なんとか心を入れ替えて

本来の優しい真面目なSくんとして

どこかで活躍してくれてることを願うばかりです。


おわり



ところでぼくちんトリミングしました!