「ボクは一つ、告白することがあって…」「急に何? ビックリするじゃない」
JRガード下の焼き鳥店で二人の会社員がおしゃべり。
「大した事じゃないんだけど。営業部のエムさんが…」
「あの、口うるさいベテラン女史か。キミがよく怒られてる」
「そう。年末に納会しただろ。あの後、ボクはデスクに戻ったんだ、忘れ物取りに」
「じゃ、9時前だね」
「うん。みんな帰って誰もいない。ふと、エムさんのデスクを見ると…彼女専用の電気ヒーターが、コンセントにつないだまま」
「いけないね。年末年始、そのままになっちゃう」
「だよね? ボクは前に彼女に怒られた。電気ポットをコンセントにつないだまま帰って」
「で、どうした?」
「ヒーターのコードを抜いておいた」
「賢明だね」
「それで終わりなら、ボクはこの事をキミに話したりしない」
「ということは…?」
「年が明けて仕事始めの日、ボクはいつもより20分早く出社。まだ誰も来ていない」
「それで?」
「エムさんの電気ヒーターを、またコンセントにつないだ」
へーと同僚。
「9時前、彼女が出社。すぐに電気ヒーターのコードに気づいて…うろたえてた。辺りをキョロキョロして」
「ワハハ! よくやった。アイツ、心配しただろな。最悪、火事になってた」
「ボクもそう思う。あんな気性の人に、『キミ、コード抜いてなかった』なんて言ったら」
「絶対、逆ギレ」
「でしょ? この件は内密に」
二人はハイボールのお替りを注文しました。
人生劇場ディレクター 高野 晴夫