由紀は入ったことのないクラスへ足を踏み入れる。
そして、クラスを一望した。見覚えのある彼の顔を探す。
(いないなぁ・・・)
直樹の姿はそこにはなかった。
もうすぐ五時間目が始まるというのに、どこにいるのだろうか?
「佐藤君・・・いますか?」
由紀は見知らぬ可愛らしい女の子に聞いた。すると彼女は、今日は来てませんよ。と予想もしてなかった答えを口にする。
「来てない・・・お休みってことですか?」
「はい。風邪をひいたとかで」
佐藤君、昨日傘忘れたと言って雨の中走って帰ってましたから、きっとそれだと思います。そう彼女は続けた。
「え・・・」
由紀は返す言葉を失う。
傘を忘れた・・・?
そんなことはあり得ない。昨日、直樹は由紀に傘を貸して、もう一本傘があるから。そう言った。
だから、安心してその傘を受け取ったのに・・・。
もしかして、あれは嘘だった?
一度疑えば、その疑惑は真実へと加速していく。
そうだ。直樹の行動はおかしい。もう一本あるから。そうは言ったが、実際に傘を由紀に見せたわけじゃない。
カバンを叩いただけ。ただそれだけだ。
一度頭の中を空にして、今知った事実をパズルを作るように一つずつはめていく。
・・・そっか。そんな優しい人もいるんだな。
すべてを悟り、由紀は薄く笑って、ありがとうございます。
そう軽く会釈をして教室を出る。
その後すぐに、由紀は誰もいない屋上へと上がり、彼に電話をかけた。
行動の一連すべて、頭が考えるより先に体が発した反射的なもの。
『ごめんね』と『ありがとう』
矛盾してそうでしていない、その二つの言葉を言いたかった。
初めてかける番号。かけた後に少し震える。
最初になにを言えばいいのだろうか。そんな不安から出る震え。
彼は出るだろうか。1コール。2コール。3コール。
出る気配はない。
(だよね・・・)
病気で寝ている彼はきっと電話になんか出る余裕なんてない。
10コール目くらいだろうか。由紀は、諦めて、ケイタイを閉じた。
空を見上げる。悠然と大きく厚い雲が広がっている。
上に屋根があるこの場所以外はすべて濡れている。昨日と同じくらいの雨はまるでシャワーのようで傘なしではあるけない。
ありがとう。
心の中でそう呟く。
声に出さないお礼。彼に届いただろうか。
・・・なんて。
その時だった。閉じたケイタイが着信音を鳴らした。
ビクッと由紀の体がその音に反応する。由紀はケイタイを手にとり、画面を開く。
あ・・・。そこには『佐藤直樹』と表示されていた。
彼からの電話だった。
「ふぅ・・・」
ため息を一つはく。
第一声、なんていえばいいだろうか。
ごめんね?それともありがとう?
・・・どちらでも大丈夫な気がした。だってどちらも正しいから。
そこに間違いはないから。
由紀は通話ボタンを押す。
『もしもし』
彼の声が聞こえた。風邪をひいてるせいなのか、少し声に詰まりを感じる。
「もしもし。山口です」
名前で自分を名乗るのはおかしいと思い、由紀は苗字を使った。
「うん。知ってる。つか、俺からかけたんだし」
「あ、そうだったね」
「で、どうしたの?」
彼は聞く。
「ごめん・・・って謝りたかったんだ」
由紀が選んだのは「ごめん」という謝りの言葉。
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恋人になって気になるのは先に進むペース。
だけど、本当に好きなら、一つ一つの段階を急がすに、2人、そばにいることが大切なんだ。
おはようございます。
気付けば8話ですね。もうすぐ10話です。
週に三回しか話は進んでいませんが・・・読んでくださっている方々にはホント感謝でいっぱいです。
これからも読んでいただけると嬉しいです><
次回は日曜日の7時です!