~side綾音~
二月はもうすぐ終わりを向かえて、三月になろうとしている。
それを象徴するかのように少しずつではあるが、寒さが和らいでいるのを感じた。
「来年は受験生だね」
嫌だなぁ、麻衣はあからさまに不機嫌そうな顔をしてそう言った。
「受験・・・か」
とても嫌な響きだ。
「綾音はどこに行くか決めてるの?」
「全く。何にも決めてないよ」
麻衣は?そう聞くと、私もなんも決めてない。麻衣はそう言った。
小鳥のさえずりと、燦々と照らす太陽と。
朝は憂鬱な気分になる。
一歩一歩、アスファルトを歩くその足並みは歩を進めるごとに少しずつ重くなっていくのを感じる。
「受験なんてなくなればいいのにね」
そんなあり得ないことを口にして見る。
嫌なことから逃げ出したい。そんな人間が思いつく『もしも』は低俗で馬鹿げている。
「間違いなく、私たちの目の前に大きな壁として現れるけどね」
綾音はなにか夢とかある?麻衣は続けて聞いた。
「ん~・・・とりあえず、安定した職につければいいかな。麻衣は?」
夢がない。答えた自分にそんなことを思ってしまう。
「堅実だね。まあ、私は結婚して養ってもらえる人を見つけることかな。可愛らしく言えば、夢はお嫁さんです。みたいな」
小芝居を入れ、笑いながら麻衣は言った。
「お嫁さんかぁ・・・。自分には想像できないかも」
綾音は苦笑しながら天を仰ぐ。
雲ひとつない青空が少しだけ不快な気分にさせる。
「結婚願望とかないの?」
「だって、まだ高2だよ?」
綾音は視線を麻衣に戻す。
「もう、結婚できる年齢だけど」
「そうだけど・・・。結婚したいって思える人ができるまではそんなことすら考えないと思うよ」
そんなことを言いながら、悠太の顔が頭によぎる。
悠太が相手なら・・・。
そんなことを考えながら、内心肩をすくめて苦笑した。
引きずり過ぎだ。
もう、あの恋愛は終わったんだ。
咲いた花は満開を迎えて、絶頂期になり、そしていつか散っていく。
散ってしまった今、また新たな蕾を作らなければならない。
同じ蕾は・・・もう二度と作られることはないんだ。
初めての彼氏。
最初にかわしたキス。
抱きしめ合って寝たあの日。
君は奥手で、セックスは一度もすることはなかったけど・・・。
初めては君がよかった。君しか考えられなかった。
それは、あの時も今も・・・変わらない。
記憶を巡らせれば思い出せる。
キスをした時の感触。
唇が触れて、胸が高鳴って。これがキスなんだなって。すごく幸せな気持ちになった。
抱きしめ合った時の温もり。すごく安心できた。
そんなすべてを自分から手放した自分は・・・馬鹿だ。
暗い夜道。
君から全然してくれなくて、不満だった。
だから、こっちからしたへたくそなキス。
そんなキスに君は顔を赤らめながら、ありがとう。そう言って極上のキスをしてくれた。
『好きだよ』
その後に言ってくれたその言葉も表情も。
散った花びらの中で忘れられない記憶として今も残り続けているんだ。
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