~side裕哉~
数日間にわたる1人旅は思ったよりも早く感じた。
地元に戻ると、虚無感が僕を襲ってくる。
愛知に行って、岐阜に行って、京都に行って。
そして、新幹線で帰ってきて。
・・・僕はこの旅でなにを見つけただろうか?
自分を見つめ直す・・・。
自分を変えられることはできただろうか?
いや・・・。
できてないな。
だって、今週の日曜日、山口綾香とのデートが予定されている。
その時点で意味のない旅だったと自覚できる。
結局この旅は、ただの現実から少しの間離れるだけの旅に過ぎなかった。
「ただいま」
僕は何日ぶりだろうか?
それほど記憶にない家の扉を開けた。
高級マンション。
僕には不釣り合いなそのドアを。
「おかえり」
お母さんは何事もなかったかのように返事をした。
何日も無言で家に帰ってこなかったのに・・・。
「やっぱり、息子を心配することはないんだな」
僕は嫌みのように彼女の背中に投げかけた。
彼女はこちらを向かず、読んでいた新聞を畳んだ。
「心配してほしいの?」
彼女は苦笑しながら返事を返した。
新聞が、折り目とは反対に折られて、少し不格好な形になる。
「いや・・・。ただ、親なら心配するもんじゃないのか?」
「親・・・ねぇ。別に私はあなたを育てたわけでもないし・・・・」
彼女はマニキュアを高そうな机から取り出して、爪に塗り始める。
見る見るうちに彼女の爪の色が赤に変わっていく。
「そうだな。あんたは金目当てで結婚したんだろ?」
「否定はしないわ」
「彼氏・・・いたんだろ?」
「いたわ」
「最悪だな」
「利口と言ってほしいわね。私には彼氏よりお金がほしかったのよ」
「愛より・・・金か」
「理解できない?」
彼女は、すべての足の爪を赤色にした後、立ちあがって、台所へ向かう。
「ああ・・・理解できないな」
「その歳で理解する必要はないんじゃない?あなたはまだ高校生なんだから」
「あんたの歳になると考え方が変わるのか?」
「そうね。社会人になると現実を見るようになるのよ」
彼女は無意味に、冷蔵庫を開けて・・・閉める。
「嫌な世界だな」
「後々わかることよ。私だってあなたの歳ぐらいは恋を優先してたもの」
「・・・ずいぶん過去みたいな言い方をするんだな」
「なんか違ったかしら?」
「ああ。あんたまだ24歳だろ?」
「よくご存じで」
彼女は嫌な笑みを浮かべながら僕を見る。
「それくらい知ってるさ。あんたは、僕の憎い母親だからな」
「憎い・・・か。別にそう言われるくらい予想通りだわ」
「金は何にも勝るのか?」
「そうね。現に・・・」
彼女は、食器洗い機から一個数万はするというマグカップを取り出した。
そして、それを僕の見える位置に持ってくる。
なにをするんだ?
次の瞬間。
ガシャン!!
大きな音がしてマグカップが割れた。
彼女が落としたんだ・・・。
「な・・・なにを・・・」
「こうやって、あなたの父親と結婚するまでは手にすら入らなかった高いマグカップを簡単に、躊躇なく割れる」
破片が転がってきて、コツンと僕の足に当たった。
「理解・・・できないな。やっぱ」
「まだ、しなくていいわ。存分に恋愛というものを楽しんでおきなさいよ」
彼女は、マグカップの破片をよけながら僕の方へ近づいてきて頭を撫でた。
「触るな」
僕は彼女の手をどけた。
「私とあなたはずっと打ち明けられなそうね。裕哉」
「なにをいまさら・・・」
「お父さんはころっと落ちたから、あなたも似てると思ったんだけど・・・」
「僕は、あんな父親には似てない。お母さんからの遺伝子を受け継いだんだ」
「あはは。そうだったわね」
彼女は踵を返して、自室へと消えていった。
金と愛。
僕にはどっちが必要かなんて実際は分からない。
本当の愛、恋をしないで、適当に付き合っている僕に・・・。
本当の愛を知らない僕に・・・。
理解しようと、得ようとしない僕に・・・。
金と愛は比べられない。
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主人公の家庭を少しだけして見ました。
お母さんは24歳。
なんでだか・・・。
明日は、山口綾香とのデートです!
ちなみに、本編というくくりは今日からです。