「キスして・・・大丈夫だった?」
莉乃が聞いてくる。
「・・・する前にその質問をしてくれよ」
「・・・忘れさせてあげたかったんだもん・・・」
「紗希のことを?」
「うん・・・」
莉乃は俯く。
「そんなんで・・・紗希のこと忘れられない・・・」
「じゃあ・・・どうすればいいの?」
「僕が紗希のことを忘れることなんてない」
「もう一年経つんだよ?」
「僕と紗希は小さいころからずっと一緒にいたんだ。その積み重ねがこの一年ごときで消えるはずがない」
「紗希ちゃんは?」
「え?」
「紗希ちゃんは忘れてるかもしれないよ」
嫌なことを言う。
ただ、その通りだった。
いくら僕が紗希のことを想っていたところで、紗希が想っていなければ恋は成立しない。
意味がない。
紗希は・・・どう想っているのだろう?
不安が募った。
もしかしたら、もう他の男と・・・。
その男は大介かもしれない。
あの夢のように・・・。
正夢・・・。
その単語が頭の中をめぐった。
・・・柄にもない。
そんな非科学的なこと・・・。
僕は苦笑した。
紗希・・・。
大好きな妹は今、誰が好きなんだろう?
まだ、僕のことを好きでいてくれてる?
前に聞いたことがある。
障害があるほど、そのせいで会えなくなるほど。
2人の気持ちは強くなっていく。
赤い糸は太くなっていく。
って・・・。
それが本当なら、僕らは前より愛し合ってることになる。
だけど、確認できる方法もない。
連絡なんて取れない。
その状況で信じられる?
妹が僕のことを好きだって言える?
・・・僕は最低な人間。
相手に確認しなくちゃ不安で仕方ない。
心が通じ合っているから・・・。
そんなことは綺麗事だって思ってる。
『人の心はうつろい・・・変わるものなんだ』
恋心も例外でない。
人が人生で好きになる人数は様々。
10人の人もいれば1人の人もいる。
紗希が他の人を好きにならない保証なんてどこにもない。
・・・なんて。
紗希が僕のことを好きで、僕が紗希のことを好きで。
もし、1年前のままお互いの気持ちがあったとして・・・。
いや、そうであってほしいんだけど。
でも・・・でも。
そうであったとしても、その先になにがある?
報われない恋。
会えない恋。
想ってても、2人は会うことすら許されてない。
そんな2人が想いあうことほど無意味なことはないんじゃないか・・・。
だったら、いっそ・・・。
僕はなにも言わず、ただじっと僕を見る莉乃の方に視線を動かした。
罵倒してほしい。
こんなことを考えている僕を。
『最低だ』って。
莉乃・・・君にも・・・。
そんなことを願う僕だけど、莉乃は。
何もかもを見透かしたような、澄んだ瞳で
「人間なんてさ、自分のいいように人を利用するもんなんだよ。だから翔君は正しい」
「僕・・・何も言ってない・・・よ?」
「わかるよ。全部」
ニコッと莉乃は笑った。
その微笑みの裏に・・・何が隠れてる?
「全部?・・・なんでだよ?」
「好きな人だから・・・」
ずるい言葉。
それを、簡単に、素直に言う莉乃もずるい。
紗希と僕はその言葉を言うのにどれほど悩み。
苦悩して。
想いを告げたのか。
計り知れないほど大変だった。
これがきっと、兄妹と他人の差なんだろうなぁ。
他人と付き合えば、どれほど楽に恋をできるんだろう?
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