指定した公園のベンチに夏帆は座っていた。
どこか遠くを見つめるように。
そんな夏帆が、とても綺麗に見えた。
僕は彼女に声をかける。
「久しぶり」
「うん。そうだね。君が私にあの事を問い詰めて以来だね」
そう。夏帆のもとに行く前日。
夏帆と蓮とのやり取りを聞いてしまった。
そして、夏帆に問い詰めて僕は由美のもとに向かったんだ。
「夏帆の考えが分からない」
「だろうね・・・」
夏帆は髪を耳にかけてくすりと意味ありげに笑った。
その表情が妖艶で魅力的だったなんて口が裂けても言えない。
ここで、また夏帆を好きになったら元通りになってしまうんだから。
「なんで蓮と付き合わせた?」
「ああ・・・由美と蓮のこと?」
「そうだ」
「・・・分からないんだ?」
少し寂しそうな目で夏帆は僕を見る。
「分からないから・・・聞いてるんだよ」
「決まってるじゃん。由美から君を離すためだよ・・・」
「・・・」
「君が大好きだから・・・」
「それでも・・・やり方がいいとは言えないだろ」
「そう・・・だね」
夏帆は俯く。
「しかも、結果は失敗。裕樹君は由美のもとに帰る。ハッピーエンドだね」
「皮肉?」
「そう。皮肉だよ」
「・・・夏帆は・・・この後どうするんだ?」
「この後って?」
「蓮と付き合うのか、隼人とよりを戻すのか・・・違う道を行くのか」
「もう関係のない君に干渉される筋合いはないよ」
夏帆はスカートに付いた砂を払って立ち上がった。
「だな・・・」
「最後に・・・キスして?」
夏帆が上目遣いで僕を見る。
僕はこの姿に当たり前のようにドキッとする。
僕は夏帆の肩に手を置く。
夏帆はそれに応じて目を閉じた。
そして、僕が唇を近づけた時・・・楓の忠告を思い出した。
『気をつけてね・・・』
もしかしたら、これのことかもしれない。
もし、僕がキスをしたらどうなるだろう?
『最後』じゃなくなるかもしれない。
また、僕の気持ちは揺らぐかもしれない。
蓮を使って僕と由美を離そうとした夏帆を好きになる?
否定はできない。
だから・・・
僕は夏帆の肩に置いていた手を離した。
夏帆はゆっくり目を開ける。
「やっぱ・・・だめ?」
夏帆の目から涙がこぼれ落ちる。
「僕の大切な人は・・・由美なんだ・・・」
「そっか・・・」
キーンコーンカーンコーン・・・。
どこからか学校のチャイムが鳴った。
その音は僕らの別れを告げる最後の鐘となった。
「ばいばい」
2人同時にその言葉を言って、背を向けた。
その後、お互いに一度も振り向くことはなかった。